第475話 異形の化物より怖いもの
銃声が鳴り響いているのは、この建物の先だった。
俺は建物の角から飛び出し、化物の気配がする方向を見る。するとそこには、戦車や機関銃で撃ちまくっている兵士達がいた。そしてその射線の先に、得体のしれない広がったり縮んだりする、液体か固体かも分からない何かがいる。
あれは…どうなっている?
前世で言うところのスライムだが、色が茶色と黒と赤が混ざりあっており、攻撃によって体の質を変化させているように見える。そいつが次々に戦車や兵士を包んだ後には、兵士達が消えていなくなっていた。兵士を食うほどに、体が大きくなっているようで、スライムなどよりはるかに驚異だ。
「撃て撃てぇ!」
「怯むな!」
「専用車はまだか!」
そう言っている間にも、次々に兵士達が飲まれて行った。
掃除してくれるのなら、それに越したことはないが、アイツに逃げられるのは厄介だ。
するとそこに、変わった形の車両が数台出て来た。
そいつらが砲身を怪物に向けている。
「撃て!」
ぶおおおおおおお!
その車両が、次々にその砲身から液体を噴射し始めた。するとそれが降り注いだ場所から化物が凍り始める。どうやらあの液体は、化物を凍らせるような効果があるらしい。
だんだんと動きを鈍らせていき、少しずつその動きを鎮静化させてきた。地下深くで氷漬けされていたのは、こう言う理由が合ったようだ。
「固まって来た!」
「緩めるな!」
ジャバジャバと液体がかけられて、どんどん凍りが広がる。
「いけいけいけ!!」
だが…だんだんと液体の勢いが弱まっていく。
「後続車はまだか!」
「もうすぐ!」
少しずつ弱くなっていくが、ほぼ全身が固まっていた。しかしその表面下では活動が沈静化していないのは気配で分かる。だが後続車両が着いたのが一足早く、再び放水し始める。氷は更に厚くなっていき、徹底的に放水を続けているようだった。
しかしそれも勢いがなくなって来た。
「処理班!」
防護服を着た奴らが氷に近づいて、何か器具のような物を氷に差し込み始める。それにはホースが繋がっていて、防護服を着ている奴らが言った。
「凍結剤注入!」
ゴウンゴウンと音をたてて、ホースを通り氷の中に液体が送られているようだ。かなりの被害を出しながらも、どうやらバケモノの沈静化に近づいている。
……恐らく以前はそれで沈静化出来たんだろう。だがそいつは知恵をつけているぞ。
「凍結終わりました!」
皆がその氷の山を見ている。
「なんで……出て来たんだ」
「まったくだ。こんな物が世に出たら、それこそこの世の終わりだぞ」
すると指揮官のような奴らが言った。
「急いで第二隔離施設へ運ぶんだ!」
「「「「「「「は!」」」」」」」」
無理だな。
数台の重機がやって来て、それを静かに持ち上げ始める。大型のトレーラーの荷台に乗せている時だった。
ピシ!
はっきりとここまで音がした。
「は、早くしろ!」
「「「「「「「は!」」」」」」」」
ひび割れはどんどん広がっていき、その割れ目から中の液体のバケモノが噴き出て来た。
「うがあああああ」
「逃げろぉぉお!」
「だめだー!」
既に兵士達は逃げの姿勢に入っており、防護服を着た奴らも指揮官も散り散りに逃げ出す。しかしすぐに人間が捕まり始め、化物はまた力を増してくるのだった。
奴は地下でも同じ事をやった。自分の組織を捨てて殻を作り、内部で液体部分を生き残らせたのだ。凍り付かせたと思った人間らが、それに気づかずに動かしてしまったのである。
だが、俺にはもうアイツの攻略方法が分かっていた。
恐らく究極奥義では、アイツは飛び散ってしまう可能性がある。そこで俺はスーツのポケットに手を入れた。新型ゾンビ破壊薬のアンプルは四本、充分な数があるがアイツは同じようにして自分を守るだろう。
まあ…敵を掃除してもらう分にはありがたいが、膨らみ過ぎると面倒になる。
俺は一気にそのバケモノに走り寄っていく。そいつは俺を危険分子と認識したのか、俺に向けてまた触手を槍のようにして何十本も突き刺して来た。
やはり学習しているか。
一方方向では避けられると思ったのだろう、触手はあらゆる角度から俺を襲ってきた。そこで俺はポケットに入っている、新型ゾンビ破壊薬のアンプルを空に向かって投げた。
触手にぶつかったアンプルが割れて、一気に死滅していく。だが化物は、先ほどと同じように殻を作って一か所に固まり始めた。
バシュッ!
そして俺は五十メートル上空にジャンプする。
「おまえはそこで固まっていろ。次元刀!」
バグン!
周りにいた人間やゾンビ化兵ごと、そのバケモノを一瞬にして別次元へと飛ばす。地面に大きな割れ目を作り、そこにあった空間ごと次元の扉は閉じた。俺は建物の屋根に降り立って、周囲を見渡す。まだ逃げようとしている者や、急激に居なくなった化物がいた場所を唖然と見ている奴らがいる。
「た、たすかったのか」
「居なくなった! やった! どうしたんだ!」
「消えたぞ! 消えた! 助かったんだぁ!!」
「そんな事より! 早く社に連絡しろ!」
「は!」
俺はその司令官の側に行って、後ろから聞いてみる。
「連絡するのはファーマー社でいいか?」
「当たり前だろ!」
そいつがこちらを振り向いた。
「なんだ貴様!」
「ここがファーマー社かどうかを確認しに来たんだ」
「す、スパイ!」
そいつは懐から拳銃を抜き俺に向かって撃つ。結界と金剛を施している俺には、銃など効果は無い。
そいつは唖然として言った。
「ぞ、ゾンビ化兵? 裏切者か?」
「元からお前達の仲間などではない」
「スパイだ! 撃て撃て!」
周りの奴らが俺に向けて銃を構えた。
「飛空円斬」
視界に入る人間やゾンビ化兵が、ばらばらと崩れ落ちる。
「さて。化物の代わりに俺が掃除しなくてはな」
そして俺はこの施設の、人間やゾンビ化兵を化物の代わりに始末し始めるのだった。
あるいは、あのバケモノ相手ならば生き延びれる奴は居たかもしれん。残念ながら俺は、誰一人としてこの基地から出すつもりはなかった。




