第46話 家電量販店
日の出とともに俺が自動販売機を全て破壊し、飲み物を全て回収した。飲み物はトラックとワゴンの席にも詰め込み、走りながらでも飲めるようにする。残りは全てトラックの荷台に入れた。転がらないように、コメ袋で囲いを作りそこに並べたのだ。
朝日に照らされながらタケルが言う。
「じゃ電気屋目指してゴー!」
「「「「「「おー!」」」」」」
皆が元気になって良かった。
手摺が朝露に濡れていたので昨日の夜は少し冷え込んだらしい。日が昇って暖かくなっては来たが俺は皆に告げる。
「あと、皆の服を入手したほうが良い。ホームセンターにはそれらしき物があったぞ」
すると女達がちょっと微妙な空気になった。俺はなにか悪い事を言ったのだろうか? タケルが俺の所に来て言う。
「ヒカル。女ってのは、どんな状況でも少しはおしゃれに気を使うんだよ」
「そうか。すまん」
俺が謝ると女達は笑いながらこっちを見ている。そしてユミが言った。
「そんなにおしゃれ意識してないけど?」
タケルがそれに返す。
「だって、今朝はみんな化粧してるじゃねえか」
「「「「「それは…」」」」」
女達の言葉が重なる。どうやら図星だったようだ。
「いや、俺は女がおしゃれするのは悪いと思ってねえよ。昨日皆で体を洗ってたからな、化粧の一つでもしたくなったんだろうなって思っただけだよ」
「なんていうか、あなたは少しデリカシーって物をね!」
「わあlったよユミ! いろいろ言うなって」
すると今度はミオがチラリと俺を見て言う。
「皆が、そんなにおしゃれにこだわってる訳じゃないわ。だけど私達はヒカルを見習って、少しはおしゃれがしたいねって話になったの」
「俺がおしゃれ?」
すると皆が頷いた。俺が最初に入った店で借りた服がおしゃれな物らしい。たまたま入手したものがおしゃれなもので良かった。
するとヤマザキが言う。
「おしゃれはともかく、寒さをしのげる物は入手すべきだな」
するとミオが返事をした。
「はーい」
皆もそれには賛同のようだ。
早速、俺達は車に乗り込んで出発する。昨日ヤマザキは西に向かうと言っていた。いま太陽とは逆の方向に進んでいるので、恐らく前世と同じで朝日は東から昇るのだろう。こういった事をここ数日で何度も確認して来た。だいぶ言葉も分かるようになり、皆との意思の疎通が楽になってきている。
元気になったツバサが俺の隣りに座って聞いて来る。
「ヒカルは何飲む?」
「何があるのか良く分からん」
するとツバサは何本かを膝に乗せて説明してくれた。
「これが水分補給。これがコーヒーって言って目が覚めるやつ。これとこれは果物の飲み物。そしてこれらがシュワーってする炭酸飲料かな」
「ならばコーヒーをくれ」
「やっぱ朝はコーヒーよね!」
そう言ってツバサが缶の蓋を開けて渡してくれた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
そして俺は渡されたコーヒーを一口飲んでみる。苦みがあるが香ばしい香りが口いっぱいに広がった。
「美味いな」
「ヒカルはコーヒー好き?」
「好きだな」
「また一つ、ヒカルの好み覚えたね」
すると後ろの席からミオが話に混ざって来た。
「なんかさあ? 翼、ヒカルと良い雰囲気になってなぁいー?」
するとツバサが慌てて言った。
「なってない! なってない! 別に普通に説明してただけだし!」
「そう?」
「そうそう! ね、南! 私これが普通だよね?」
「まあ、そうかな…。でも確かに雰囲気は良かったような気がする」
「南までー!」
「冗談だって」
昨日までとは打って変わって、車内が明るくにぎやかになった。運転しているマナとユリナが笑っている。この平和なこの空間は俺にとっては安らぎだった。死と隣り合わせのダンジョンとは違い、狭い空間ではあるがここには安らぎがあった。
そしてユリナが聞いて来る。
「ヒカルのいた世界って、こことは全く違うんだよね?」
「ああ。まったくな」
「コーヒーとか無かったの?」
「いや、似た味の物はあった。と言うか食べ物に関しては、ある程度類似するものがある」
「例えば?」
「あの缶詰に入っているのは、魚や肉だな?」
「そうそう」
「缶詰のような保存方法は無いが、ああいった煮魚や焼肉はあったぞ」
「そうなんだ」
「だが塩や胡椒は貴重でな、高値で取引されたものだ」
「塩や胡椒が?」
「そうだ。それがこちらでは簡単に手に入る」
「まあスーパーにあるからね。でも流通が止まったから、じきにこの世界でもなくなるんじゃないかな? ゾンビの世界になって使わなくなっただけで、人が戻ってきたらあっという間に無くなりそう」
と言う事は、いずれこの進んだ文明も前世のような世界になってしまうって事かもしれない。国家が崩壊し流通が止まっているのだから時間の問題だ。
「ならば今のうちに出来るだけ確保したほうが良いだろう。東京に行くまでにそれらしき場所があったら、ひとつひとつ探索したほうが良いと思う。荒らされていても床に散乱していたりするからな」
「そうだね。次の休憩の時にみんなで話そうよ」
「ああ」
するとマナが言う。
「少し広い道路に入ったみたい」
それにユリナが答えた。
「えっと、標識には県道56号ってある」
「これをずっと西に行くと四号線に出るのかな?」
「分かんない。山崎さんはきっとそうだろうと言っていたけど」
「なんかすっごい田舎道だよね? 電気屋さんとかあるのかな?」
「なさそうー」
だがその予想は外れた。他の道に移りながら車を西へと向かわせている途中で、前のトラックがハザードをつけて止まったのだ。それほど時間はかからずに電気屋に到着した。
そしてユリナが言う。
「あるんだね」
「本当だね」
どうやら赤い看板のデカい建物が電気屋らしい。そしてトラックはその駐車場へと入りワゴンが後ろをついて行く。
「そこそこ周りに民家もあるみたいだけど大丈夫かな?」
ユリナが言うので俺が答える。
「ゾンビはいる。だから皆はそのまま車中で待機だ」
「わかった」
俺はすぐさまトラックのヤマザキにそれを伝えた。そして俺はバールと鉈を装備して周辺のゾンビを広範囲に消していく。大きな音を立てているわけでもなく、討伐速度は武器によって格段に上がったためにゾンビに気づかれる事も無い。一通りゾンビを始末した後で、今までと同じようにトラックの背後を入口にめり込ませるようにしてガラスを割る。
「ヤマザキ! 中に五体いるから少し待て!」
「分かった」
すぐさま俺は電気店の中に入ってゾンビを全て討伐した。すぐに表に出て行って皆に安全であることを伝える。
「電気屋なんて久しぶりだぜ!」
タケルが嬉しそうに言う。するとヤマザキがユリナとマナに言った。
「俺は必要な物を探したい。悪いが二人でゾンビを見張ってくれるか?」
「わかった」
「はい」
そして今度はヤマザキも中に入るとこになる。皆が入るとトラックが入り口をふさぎゾンビの侵入を防いだ。電気屋に入るとタケルが中を見て言った。
「山崎さん、電気屋はそんなに荒らされてないみたいだぜ」
「そのようだ。まあ電気が通っていないのだからな、普通は持って行かんだろ」
「食料や衣類は酷いのにな」
「まあ、みな命を優先にしているんだ」
「ま、そうか」
そして俺はタケルから、ある場所に連れていかれた。
「ヒカル! みてくれよ! これがテレビだ」
目の前には黒い板が並んでいた。これが一体なんだと言うのか?
「これで映画を見るんだよ。だけどそんなにおっきいのは持っていけねえな」
「トラックには乗せられると思うが」
「…じゃあ持って行っちゃおうか?」
「何だか分からんが、良いんじゃないか?」
「ならあとはDVDプレーヤーだな」
そう言ってタケルが連れて行った先には、黒くて薄っぺらい箱のような物が置いてあった。この店も俺が見たことの無いものばかりで面白かった。
「じゃあこれ持ってこう」
「タケルがそれを選んだ理由を聞いて良いか?」
「一番値段が高いからだけどな」
「なるほど」
そして俺達がヤマザキの所にテレビとDVDを持って戻ると、ヤマザキがあれやこれやと床に置いて確認作業をしていた。
「おおタケル。トランシーバーがあったからニ十箱持って行く。それと散乱してたが乾電池もあったぞ、それとラジオを二台な」
「すげえじゃん!」
そこに向こう側からツバサが何かを持ってきた。
「ヤマザキさーん。これはどうかな?」
「電力の問題で使えるか分からんが持って行こう」
俺はツバサが持ってきた物が気になって聞いてみる。
「ツバサ。それはなんだ?」
「これはね、電気でゴハンを焚く機械だよ」
「火がいらんのか?」
「そう! これで焚いたらすっごく美味しいんだよ」
するとタケルが聞いた。
「見るからに高そうだもんな」
「十一万四千円だったよ」
「すっげえな」
金銭感覚が分からんので、それがどれほどか分からないが良いものらしい。
「山崎さーん」
ミオとミナミが何かを持ってきた。だが俺はその形に見覚えがある。前世でも似たようなものがあったが…
「ランタンあったよ。LEDだから長持ちしそう、乾電池で動くみたい」
「ならそれをあるだけ持って行こう」
「はーい」
そして最後にユミが来た。
「あのー山崎さん、これダメかな?」
ヤマザキが言う。
「別に俺に聞かなくても持って行けばいい。使えるかどうかは電力次第だからな」
「わかった」
そしてユミがそれらを床に置いた。俺はそれにも興味を示して聞く。
「それはなんだ?」
「髪を乾かすものと、あと君達が使うだろうと思って髭剃り」
「こんなもので髭がそれるのか?」
「そうだよー。てかヒカルは髭生えないね」
「俺は体毛が薄いんだ」
「なんてか…意外」
「そうか?」
するとツバサが言った。
「ヒカルはつるっとしてるよね。男の人にしては珍しいかも」
ミオもそれに同意する。
「本当にそうだよね。すべすべって感じ」
そう言ってミオが俺の腕をサラサラとさすって来た。肌の感覚を確かめているかのように。だが何故かその行為に俺は恥ずかしさを覚える。何故か分からないが、少し心拍数が上がったようだ。女に触られた事で少し動揺したらしい。悪い感覚ではなく、とても気分が良かった。
ダンジョンとは違った充実感を感じるのだった。




