第469話 跡形もなく消し去る証拠隠滅
朝の十時、キンシャサ植物園。
オオモリがAI音声を使い、ポエナを装って電話をかける。だが一回目では繋がらず、十時を過ぎてもまだ対象の人物は現れなかった。しかしそれは皆が想定していて、時間通りに来るとは限らない事と、相手はじっくりと様子を探って来るだろうと予想していた。
皆はスマートフォンを取る事はしないで、バイブレーション機能とやらで意思疎通をすることにしている。五分後にオオモリがまた電話をかけて、いよいよポールと呼ばれる対象に連絡がついたようだ。
それぞれが組になり、一般人を装いつつ周辺を警戒する。
ポエナには猿轡をかませた上からマスクをさせて、ベンチに座らせている。逃げたら殺すと脅しているので、黙ってそこに座っているようだ。するとオオモリがそばに来て、他人のふりをしながら言う。
「ヒカルさん。敵は場所を移すと言ってきました」
「場所は分かるか?」
「ピカソビーチと言う所です」
「なら、俺がポエナに接触する。皆は近寄らずにピカソビーチに向かってくれ」
「わかりました。ヒカルさんはスマートフォンで確認してください」
「わかった」
俺はポエナが座っているベンチの後ろに行き、スマートフォンの翻訳を使う。
「いいか? タクシーを使ってピカソビーチに向かう」
「んぐ」
「喋らなくていい。妙な真似をしたら殺す」
俺はサングラスとマスクをしており、見ても顔は分からないようになっている。俺はポエナを立たせ、街道に出てタクシーを拾った。このタクシーは誘拐するような意図はないらしく、真っすぐにピカソビーチへと到着した。
ポエナを引きずり降ろし、ピカソビーチへ連れて行く。すると俺のスマートフォンが震え画面を見ると、オオモリからの連絡だった。
ー 敵が一緒に居るのは誰だと聞いてきました。間違いなく近くで見ています ー
そこまで分かれば、俺にとってはもう捕らえたも同然だった。その場でポエナの意識を刈り取り、急いでピカソビーチを走り去ろうとしている気配を捕らえる。身体強化ですぐにそのそばに現れ、俺がそいつに声をかけた。
「ポール」
ビクッとして、後ろを振り向いた瞬間に俺はそいつを失神させる。倒れる前に抱きつき縮地で離れた場所に出た。するとそこにクキとクロサキが待っていて、車に押し込み連れて行った。
そのまま急いでポエナの所に向かうと、タケルが背負って走り去っているところだった。
よし。
後は約束の場所に行くだけ。俺は速度を上げ、ピカソビーチを出て所定の場所へ行く。少し待っていると、クキとクロサキの車がやってきて俺はそれに乗った。
「ふう。今のところ他に仲間がいる気配はないが、遠距離から見ている可能性はある」
「それはコイツに吐かせるしかない」
そして俺はポールと呼ばれる奴と、ポエナを担ぎホテルから離れた場所から十階のベランダに飛ぶ。待機組が俺から二人を受け取り、縛り上げてまたホテルの袋をかぶせた。ポエナを他の部屋に連れて行き、ポールを床に転がす。
それを見てミオがいう。
「増えちゃったね」
「仕方がない」
「皆を待とうか」
「そうだな」
そうしてクキ達が部屋に戻ってたところで、クキがポールの尋問を始める。
「起きろ」
「う…うう…」
「正直に言え、お前は何者だ」
「あ。あう、う恨みはない! 俺は商売をしたいだけだ! ンジンジ・ファミリーだろ?」
皆が顔を合わせる。
「聞かれた事に答えろお前は何者だ?」
「うう! 俺は金が欲しいだけだ!」
パニックを起こしていて会話にならない。そこでクキは違う話をした。
「…そうか。お前からもらった薬は酷いもんだったぞ」
「そんな。敵のボスをやったんだろう?」
「そうじゃない。そのせいで刑務所の仲間が死んだ」
「あ。それは…手段を選ばないと言ったから! 頼む! 金は要らないし、残りの薬は全部やるから見逃してくれ!」
「お前はファーマー社の研究員だな」
「な。なんでそれを……」
「ファーマー社の薬を使っていた」
「あれを見てなんで分かるんだ?」
「知り合いに聞いた」
「いや。あれだけでは分からないはずだ」
「いや分かる」
「……」
恐らくコイツは疑い始めている。俺達がンジンジ・ファミリーじゃないんじゃないかと。
「正直に言わないと殺す」
脅しをかけるとハッとしたようだ。
「わかった! 殺さないでくれ!」
「あの薬の出所を吐け」
「研究所だ。コートジボワールのファーマー社から持ち出した!」
「幾つ持ち出した?」
「厳重だからそんなに多くは持ちだせない! 五個だ」
「あと四つは?」
「一つはここに! あと三つは泊っているホテルにある!」
「何処に止まっている?」
「グランドホテルだ! 二〇一号室だ!」
オオモリがグランドホテルの位置を、スマートフォンで表示してみせて来る。
「嘘じゃないな」
「本当だ!」
俺はクキに耳打ちした。
「ここから三キロ。十秒で行く」
「見て来てくれ」
そして俺は直ぐにベランダから飛び降りた。ビルを幾度か飛び越えると目的のホテルが見えてくる。俺はそのホテルに侵入し、二階の通路を走ると二〇一が見えた。そのまま腕力で鍵を壊し、部屋に侵入してベッドのところに行った時だった。
カチ! ボグン!
何かが爆発したので、俺は瞬間的に窓を突き破って外に出る。振り向けば俺がいた部屋から炎が上がり、壁に穴が開くほどの爆発を起こしている。
俺はスマートフォンを取り出して言う。
「ヘイオオモリ」
「どうしました?」
「部屋が爆発した」
「マジですか!」
俺がそのホテルの入り口を見ていると、銃を持っている奴らが次々に突入していることころだった。恐らくポールが罠にかかったと思って確認しに行ったのだろう。俺も入り口から入り、そいつらの後ろを追いかけていく。すると二階の爆発した部屋の前で、そいつらが中を伺っているようだ
合計五人。俺がそっと近寄り声をかける。
「ファーマー社か?」
そいつらは咄嗟に銃をこちらに向けてくる。
「乱波斬」
五人は細切れになって血が壁に飛び散った。すると一階や他の部屋から騒ぎを聞いて、人が出てきたので、俺は窓を抜けて外に出る。
十秒後、皆のいる部屋に戻って言った。
「ファーマー社が来た」
「なに」
「全て片付けたが、コイツは狙われている」
それをクキがポールに言う。
「お仲間が殺しに来たぞ」
「あ…もう…そんな」
「まあいい。薬はそれで全部だな」
ポールが項垂れて言う。
「……そうだ」
「なら、もう用済みだ」
「殺さないでくれ!」
そこにタケルがポエナを連れて来る。
「こいつがそいつに何か言いたいそうだ」
ポエナはファーマー社の奴に言った。
「てめえ! てめえのせいで、俺までこんな目にあったじゃねえか! 殺してやる!」
「ひっ! あんたが買うって言ったんだろ!」
「ぶっ殺してやる」
「あんたがゾンビになればよかったんだ」
二人がののしり合いをしている間に、クキが俺を別の部屋に連れて行く。
「どうするよ? 殺してコンゴ川に沈めるか」
「いや。アイツらは多分もう助からん。アジトに置いてこよう」
「そうか…そうだな。わかった」
「下に車を用意してくれ」
「了解だ」
クキが出て行き、俺は罵り合っている二人の所に行く。
「正直に教えてくれた褒美に帰してやる」
するとポエナが言った。
「ほ、本当か!」
「本当だ。そしてポールの身柄はお前に任せる」
「わかった。コイツは只では殺さねえ」
「好きにしろ」
そして俺は二人の首根っこを掴み、十階のベランダから外の道路に飛び降りる。するとそこにジャストでクキの車がやってきて、俺は縛られたそいつらを車に押し込んだ。車は真っすぐにンジンジ・ファミリーのアジトに到着し、俺達は入り口にそいつらを捨てた。
クキがスマートフォンを取り出す。
「大森。入り口に置いて来た。ンジンジ・ファミリーに連絡をしてくれ」
「わかりました」
今ごろオオモリは、ポエナのスマートフォンで連絡をしている頃だろう。すると俺達の車の後ろで、ンジンジ・ファミリーの正面玄関が開き、二人は中に引きずり込まれて行った。
「入ったな」
「のようだ」
「行くか」
「どうなるかね」
「さあな」
俺とクキが車を出そうとした時だった。
ドォゥ!!!! とンジンジ・ファミリーのアジトが大爆発を起こした。それは周辺の建物を破壊し、あっという間に火の手が広がる。
「ファーマー社も必死だ。情報が漏えいするのを恐れているんだろう。テロが各地のファーマー社拠点で起きている今、株価も下がっている状況だからな、こんな不祥事は何が何でも避けたいわけだ」
「勝手にあんな薬を作っておきながらか…」
「自分達のコントロール外で使われるのはアイツらも困るのさ」
「なら俺達がアイツらをコントロールして滅ぼしてやろう」
「ふっ。だな」
俺達の車は、消防のサイレンが鳴るキンシャサの町を走り抜けるのだった。




