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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第一章 違う世界

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第45話 世界を取り戻すには

 俺達がコントロールセンターの前に着くと、タケルが入り口で待つ二人に戻って来た事を伝えに行った。タケルがヤマザキとミオを連れてこちらに戻って来ると、二人が立ち止まって呆然とする。


「えっ!」

「はっ?」


 どうやら積み重ねた自動販売機を持っているのを見て、二人が唖然としているようだ。俺は自動販売機を地面に置いてよじ登り、上の物から降ろしていく。全てを並べてからヤマザキに伝えた。


「恐らく中身は入っている。しばらくは飲み物に困らないんじゃないか?」


「‥‥‥」


「どうした?」


 ヤマザキもミオも何も話さない。何かあっただろうか?


 するとタケルが半笑いで言う。


「やっぱな! 普通はこういう反応になるんだよ! たぶんこんなのインド象でも無理だと思うぜ」


「だが、タケルが言うスーパーヒーローなら出来るのだろう?」


「だから、そんなん映画でしか見た事ねえって」


 俺がミオを見て尋ねる。


「見たことないのか?」


「う、うん…映画でしか…」


「ほらな! それがさ! ちょっと飲み物をゲットして来たよ! みたいに軽く言ったら、そりゃ山崎さんや美桜ちゃんみたいになるよ」


 するとヤマザキが腰に手を当ててため息をつく。


「ふうっ。まったく、ヒカルには驚かされっぱなしだ。そんな人間はこの世界に一人もいないんじゃないかな?」


「まあ、俺は頑張って修行したからな」


 すると三人が顔を見合わせた瞬間、大笑いするのだった。


「ぷっ、あははははは!」

「ふふふ」

「あーはっはっはっ!」


「どうした?」


「だからよ! ヒカル! 修行したら出来るつー問題でもねえんだわ! 修行してそんな事出来るんなら、世界のアスリートは物凄い事になるぞ」


「アスリート?」


「まあ、運動を仕事にする奴って事かな」


「そいつらは修行をしているのか?」


 すると今度はヤマザキが言った。


「もちろん。それは血のにじむような努力をして、日々その事ばかりを考えている人達だよ。だけど彼らがどれほど修練を積んだところで、絶対にヒカルの真似は出来んよ」


「ならばきっと、修行のやり方が悪いか限界を超えた事が無いのだろう」


「「「いやいやいやいやいや!!」」」


「なんだ?」


 するとタケルが笑って言う。


「限界を超えたら出来るって言うのは限度があるぜ。ヒカルは限界を超えすぎてるって言うか、そんなんホントに映画か漫画の世界なんだって」


「だが、その映画とやらでは見た事あるのだろう?」


 するとミオが言った。


「タケル。きっと映画を見せれば分かるんじゃないかな? 映画を見た事無いから何を言ってるか分からないんだよ」


「なるほどね。じゃあ発電機も手に入れたしよ、次は電気屋に行こうぜ! 東京に行く前によ、ヒカルの為にテレビとDVDを手に入れようぜ!」


「そうね。きっと見たら分かるかも」


「どうだろう山崎さん?」


「そうだな。これだけ貢献してくれているヒカルの為だ。明日は電気屋を探してみよう」


「おー! 良かったな! ヒカル!」


「あ、ああ」


 何が良いのかよく分からないが、俺の為に何かをしてくれるらしい。それならば俺はそれに最大限の協力をするだけだ。彼らの好意を無にするわけにはいかないからな。


 そしてタケルが一台の自動販売機の前に立って言う。


「これ一台開けようぜ。流石に同じものばっか飲んで飽きてきたし」


「わかった」


 俺がバールを持ち自動販売機の前に立って武技を使った。


 シュッ! ガキン!


 鉄の切れる音がしたので、俺は表面の端に手をかけて剥がす。


「「「おおー!」」」


 今の作業だけで三人が感嘆の声をあげた。別に大した事はしていないのだが、皆が喜んでくれるのは俺も嬉しかった。


「全部取り出して、飲み物は入り口付近に置いておこう」


 俺が言うと、ヤマザキ達が自動販売機から飲み物を取り出していく。俺も加わり、四人で手分けして運び込んでコントロールセンターに入り鍵をかけた。


「こんなにたくさんあるなんて! きっと皆、喜ぶわ!」


「じゃあ俺、呼んでくるよ」


「ああ」


 そしてタケルが四階にいる皆を呼びに行った。しばらくすると皆が下りて来て、飲み物を見て喜んでいる。するとユミが言った。


「あの…山崎さん。水なんだけどさ。何本か顔を洗ったり体を拭く為に使っちゃダメかな?」


 この状況では飲み水は貴重だが、そこはリーダーであるヤマザキの判断となる。俺達は黙ってヤマザキを見た。だがヤマザキは俺を見て言って来る。


「ヒカルが持ってきたんだから、ヒカルが決めるべきだろう」


 するとユミがこちらに向かって、願いを乞うような顔をする。なので俺が答えた。


「数本ならいいんじゃないか?」


「やったあ! みんな! よかったね!」


 女達が全員笑顔になった。確かに皆しばらく風呂にも入っていない。ここに聖女が居たら浄化魔法で体はおろか服まで綺麗になるんだが。ささやかではあるが、少しでも身を清められる事が嬉しいのだろう。


「えっとぉ、そうと決まったらさ。男達はとっとと、上に上がってくんない?」


 ヤマザキが申し訳なさそうに言う。


「そうだな。じゃあ俺達は上で待つか」


 するとタケルがおどけて言った。


「ここはガラス張りだから、外から丸見えだぞ」


「いや誰も居ないし。てか、タケルが見たいんでしょ! 早く行ってよ!」


「へいへい」


「じゃあヒカルも飲みたいのを取ったらいい」


「ああ」


 そして俺はそこに置かれている飲み物を見るが、どれがどんなものか分からない。するとタケルが俺に言った。


「じゃあ栄養ドリンクとお茶で良いんじゃねえか?」


「ならそれを貰おう」


 黒に何かの爪痕のような物が描かれている缶と、透明な容器に入った茶色い飲み物をタケルから渡される。


「じゃあねー」


 ユミが手をひらひらさせて俺達を追い払った。階段をのぼりながらヤマザキが言う。


「確かに風呂に入ってないからな」


「学校のタンクに水は入ってなかったみたいだしな」


「なら電気屋の他にも風呂を探すってのはどうだ?」


「それいいな!」


 そして二人が俺を振り向く。俺の意見を求めているらしい。


「もちろん憩いは必要だ。それがある事で、生きようという気持ちが湧きでるからな」


「決まりだな」


 どうやら俺達にはもう一つの目的が出来たようだ。下の階からは女達の楽しそうな声が聞こえて来て、俺の心は何故か安らいでいく。この世界に来て初めて、殺伐とした雰囲気から解放された気がするのだった。


「さてと、飲もうぜ」


 上の階についてタケルが言う。


「じゃあ乾杯だな」


 ヤマザキがそう言って自分の飲み物の蓋を開けて、俺にも目配せしてくる。俺も自分の缶を開けようとバールを取り出す。


「ちょ、ちょっとまて」


「なんだ?」


「貸してみろ」


「ああ」


「これはこうやって開けるんだよ」


 プシュッ!


 おお! 簡単に開いた。


「そう言えば、女達でも簡単に缶詰を開けていたな」


「そういう風に出来ているんだ」


「わかった」


 俺はその缶を受け取りそして皆と乾杯をした。俺が飲んだ飲み物は、コーラと似ていたがまた味が違っていた。


「美味いな」


「元気が出るやつだ」


「そうなのか?」


「まあヒカルにとっちゃ気休めみたいなもんかもしれんがな」


 これを飲んだからといって、魔力が回復するわけではなさそうだが、そう言われると元気が出るような気もしてくる


 タケルがヤマザキに聞いた。


「で、明日はどっちへ?」


「日の出とともに、西へ移動する。しばらく進めば国道4号に出るはずだ」


「なるほどな。四号を通って東京に入るのか?」


「状況次第だがな」


 二人の会話を聞いていても全く分からないので、俺は気になった事を聞いた。


「コクドーヨンゴーとはなんだ?」


 するとヤマザキが答えてくれた。


「国の道と書いて国道っていうんだよ。そのまま南へ進めば東京にたどり着く道だ」


「ヨンゴーというのは?」


「道の名前だよ」


「この世界は凄く道が張り巡らされているようだが、それぞれに名前があるのか?」


「もちろんだ。名前もあるし四号と言うのは番号だ。道に番号がふられているんだ」


「凄いな」


「そうか?」


「しかも道は全て石畳になっている」


「ありゃ、コンクリートっていうんだ。敷き詰めると固まる奴だ」


「凄まじい文明だ。そしてそのジュウという武器、それも凄いものだ」


 床に置いてあるジュウを見て二人が言った。


「ヒカルの世界には無いのか?」


「無い」


「銃なんて平和な世界には無い方がいいんだ。だがこのゾンビの世界では心強いかもしれん」


「銃は簡単に手に入るのか?」


「いいや。この国では簡単には手に入らない」


「貴重なのか?」


「いや。国の決まりで普通の人は持ってはいけないんだよ」


「だがアイツらはみんな持っていたぞ」


 するとヤマザキとタケルが目を合わせて言う。


「もしかするとだが、警察や自衛隊とか米軍とかかもしれん」


「ケーサツ、ジエータイ、ベーグン?」


「この国を守る組織だな。もしかしたらそいつらそのものが、ああなったのかもしれないし、そういう施設から盗んで来た連中かもしれない」


「兵士がそうなったって事か?」


「わからんがな」


 兵士が民を見捨てる? そんな事があるのだろうか? それでは無力な民はひとたまりもない。当然あんな奴らが牙をむいて来れば、世界は崩壊するかもしれん。

 

 俺は懸念したことを二人に告げる。


「もしそれが本当だとしたら、これから俺達が平和に暮らすために立ち向かう敵はそいつらだ。ゾンビなんかじゃない」


「どういうことだ?」


「いくら守りを固くしても、そんな奴らがいたんじゃ防衛が難しい。お前達の空港がやられたように、何処にいてもあいつらのような奴が襲って来るだろう」


 するとヤマザキが言った。


「まさか、俺達のコロニーが襲われるとは思っていなかったんだ」


「すまんが、それは甘いと言わざるを得ん」


「…まあ今となってはその通りだ。俺達の甘さが招いた悲劇だ」


「ならば、奴らに対抗する手段を持つべきだ」


「俺達も武装すると言う事か?」


「そうだ。それか、奴らに対抗する組織を作るべきだと思う」


 ギルドのようなものを。


「組織…か…」


「まあ、今は数も少なく非力ではあるが、対抗手段を持たなければ狩られるだけだ。それだけは皆で考えていかねばならない」


「…わかった」


「タケルもそれでいいか?」


「その通りだな。弱者は殺されるだけだ。敵はゾンビだけじゃねえって、嫌と言うほど分かったしな」


「その為には拠点を堅牢なものにする事から始めよう」


 するとヤマザキが深く頷いた。


「それが、高層ビルって事か?」


「そうだ。あれは要塞になる。あれほどの物があるならば利用しない手はない」


「俺には全く想像がついてないが、ヒカルには案があるのか?」


「もちろんだ。ああいう塔や、地下に潜るダンジョンという場所を攻略し続けてきたんだ。ならば今度は、その攻略される側の立場ってわけだ」


「これから俺達に教えてくれるか?」


「当然だ」


 そんな話をしていると、そこに女達が上がって来た。


「終わったよー」


 ユミが言った。女達が近づいてくると仄かにいい香りがする。


「薬局でシャンプーとボディソープを回収したでしょ? 皆で使いたいって言ってたのよ」


「なるほどな」


「タケル達も綺麗にしてきたらいいよ」


「ん? 俺達は別に」


 するとユミがスンスンとタケルに鼻を近づけて臭いを嗅いだ。


「自分たちが綺麗になったから言うのもなんだけどさ、あなた達臭いわよ」


 俺もか? 俺は自分の体の匂いを嗅ぐと、タケルもヤマザキも同じ仕草をしていた。


「わかったよ! じゃあ山崎さんもヒカルも行こうか?」


「そうだな」

「ああ」


 俺達三人は女達と入れ替わりで、下の階に降りて行くのだった。

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