第459話 インドのファーマー社拠点大爆破
調査の結果、インドで行われている実験の全容が分かった。それをアビゲイルが説明し始める。
「ファーマー社の狙いは、抗体を持つ者や特別体質の人間を探し出して、試験体の完成版である実用体を作る事です。このインドの人口はそういった体質を探すうえでは、この上なく条件が良いのです」
「人間の意識を保ったままの、怪物を作り出したいという事だな」
「そう言う事です」
それを聞いていたミナミが言う。
「知恵のある試験体なんて、悪夢以外の何物でもないわ」
マナも頷いた。
「今まで試験体は、運搬や運用が難しくて実戦投入が出来ていなかったから、運用しやすい化物を作るって事か…。ファーマー社って、やんなっちゃうわね。反吐が出る」
「もう歯止めが効かないんでしょうね」
「そうね」
「どうしてデリーやムンバイじゃなかったのかしら?」
それにはシャーリーンが答える。
「デリーは内陸なので船が使えない。ムンバイではその反対側にあるソマリア海賊が邪魔だったのです。海賊に道理は通用しませんので、下手をするとファーマー社の船が沈められてしまう。そうすればファーマー社でやっている秘密が、漏えいする恐れもあったのです。そこで一番利便性のあるチェンナイが選ばれました」
「試験体のようなバケモノが、世界中にばらまかれたらもうどうにもならない。どうやったところで、その拡大を止める事が出来なくなるだろう。各国の軍隊では、知恵ある試験体を止める事は出来ない」
クキの言うとおりだった。試験体は脳をやっても生きているため、この世界の兵器では倒す事は無理だろう。世界のあちこちにあんなものがばら撒かれたら、ゾンビの拡大は絶望的になる。
そしてクキが皆に聞いた。
「カリムが用意した、爆弾を使って一気に各拠点をやるという事でいいな?」
皆が頷いた。
そこでシャーリーンが言う。
「本来なら不可能な作戦でした。ですがあなた方の潜伏能力の高さに、この作戦を思いついたのです。既に物資は届けられています。港で回収をしてすぐに取り掛かりましょう」
俺達が港に行くと、大型のコンテナを積んだトラックが用意されていた。秘密裏に運ばれたそれは全てが爆薬で、拠点を破壊する十分な量が積まれていた。
タケルとクキがコンテナを運転し、キャンピングカーの後ろをついて来る。これをカリムの関係者が所有する秘密の倉庫に運び込み、爆弾を準備して各拠点へと運び込むことになる。俺達のトラックが巨大な郊外の倉庫に運び込まれると、そこには十台の二トントラックが用意されていた。これから夜にかけて、爆弾を分配して行くのである。
そしてクキが言う。
「ここからは慎重に行わねばならん。指揮は俺が取る! 作業は慎重に行ってくれ」
「「「「「「はい!」」」」」」
爆発物の取り扱いは、クキとシャーリーンしかわからない。特にクキは爆破作戦を行った事があり、これについては隅々まで知り尽くしているのだとか。だから俺達は二人の指示をよく聞いて、爆弾を各トラックに取り分けて行った。
「決行は、社員が帰った後。それまでに準備を終わらすぞ」
「「「「「「はい!」」」」」」
事故なく夜までに全てのトラックが準備できた。
そして俺達の前にクキが立って話を始める。
「どうやらファーマー社は、湖の研究所がやられた事で、一般の社員を全て自宅待機させているようだ。研究施設と思わしき二つの拠点には、私兵が配備されたようだが、そこはヒカルが制圧する事になっている。その二つの拠点を制圧している間に、一気に全ての拠点へと爆弾を運ぶ」
「「「「「「はい!」」」」」」
「だが捕まるわけにはイカン。無理だと判断したら爆弾は設置せずに逃げてくれ」
「「「「「「はい!」」」」」」
「全ての配置が終わったら作戦を敢行するぞ」
「「「「「「はい!」」」」」」
「では健闘を祈る!」
そうして各自がトラックに乗り込んで言った。
そしてクキがアビゲイルとエイブラハムに言った。
「すみません。博士とドクターの手まで借りてしまって」
「いいんですよ。私はミスター九鬼と一緒ですね?」
「そうです」
「わしゃ。黒崎嬢とじゃな」
「はい。くれぐれも無理はしないように。そしてシャーリーンさんも」
「私は特殊な訓練を受けています」
「わかりました」
そしてそれぞれが拠点に向かって出発していった。俺はバイクを用意してもらったので、それに乗って研究施設へと走る。十五分もかからずに到着し、俺はすぐにそのビルの屋上へと飛んだ。屋上にいた銃を構える私兵を、一瞬で斬り捨てて入り口から侵入する。
前世のダンジョンよりもはるかに簡単な作業だった。脅威となるものはゾンビ化兵と試験体しかおらず、最深の地下迄一時間もかからずに一棟の処理を終えた。
「よし」
俺は一気に地上に上がり、ミオのトラックとすれ違いで次の研究所へと向かった。バイクを止めて同じように屋上に飛び、同じように私兵を斬り捨てていく。どちらのビルにもゾンビ化兵がいたが、敵にはならず一気に最深部へと降りていった。
地上に戻ると今度はマナのトラックがやって来た。それを一階付近に置いて、俺はマナをバイクに乗せてその場を去る。全ての工程を二時間以内に終わらせて、倉庫に戻ると既にみんながトラックを置いて戻ってきていた。既に大型コンテナも無くなっており、証拠になるようなものは消え去っていた。
「俺が一番最後か」
クキが笑って言う。
「珍しい事だ。ヒカルが最後だ」
そしてクキがシャーリーンに言った。
「あなたとカリムのおかげで、今日ファーマー社のチェンナイ拠点は消える」
「いえ。優秀過ぎるスパイの皆さんのおかげです」
「僕らがスパイですかあ?」
「「「「「「ははは」」」」」」」
そしてクキがオオモリに言う。
「さて。時間だ大森。花火を打ち上げてくれ」
「分かりました」
オオモリがパソコンを操作した次の瞬間だった。
ドゥ! ドゥ! ドゥ! ドゥ!
各地から爆発音が聞こえて来た。拠点の玄関口に密接して置いて来た、二トンのTNT火薬がビルを爆破したのである。そして俺達はキャンピングカーに乗って、チェンナイ空港へ移動するのだった。




