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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編

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第458話 父と子の再開

 助けた子供達をバスに乗せているうちに、空が薄っすらと明るくなってきた。子供らは自分達が助かったのかどうかの確証が取れずに、おっかなびっくりの表情でバスに乗り込んでいるようだ。


 そこでミオが言う。


「あなた達を、お父さんお母さんの元へ連れて行くわ。その前に一度、立ち寄りたい所があるの。だからもう少しの間、我慢してほしいの」


 とにかく頷くしかない子供らは、ただミオの言う事を聞いていた。俺達のバスは真っすぐに、あの村の診療所へと走り出す。村に到着したころには、太陽が浮かび上がって来ていた。


 人魚のシャンティを抱き、俺とミオとアビゲイルが診療所の扉を叩いた。早朝ではあるが、周りの住人達も何事かと顔を出して来る。


「おはようございます」


 ミオが扉に向かって言うと、身だしなみを整えつつ医者が玄関から顔を出して目を見開く。


「シャ! シャンティ!」


「お父さん!」


 足が魚になった子供を見て、医者が打ち震えている。


「な、なんという姿に…」


「話がある」


「わかった。入ってくれ」


 シャンティをベッドに寝かせるが、シャンティは不安そうな顔で俺達を見比べている。だがミオがシャンティに微笑みかけた事で、少しは落ち着きを取り戻したようだ。


 そしてアビゲイルが言う。


「お父さん。場所を変えましょう」


「どうしてですか?」


「お父さんとだけ話をしたいのです」


「わかりました」


 ミオがシャンティのそばに座り、俺とアビゲイルは医者と一緒に廊下に出るとアビゲイルが医者に言った。


「お医者さんであれば、あの姿が異常である事は分かると思います」


「はい。人間が自分の意志で、魚のひれなど動かす事は出来ない。神経を繋ぐ事が出来ているとでも言うのでしょうか?」


「いいえ。あれはファーマー社の新しい実験です」


「……ファーマー社の」


 ギリッと歯を食いしばり、睨むような表情でアビゲイルを見た。


「はい。今までも試験として動物との連結は試して来たようです。それらは試験体と呼ばれ、バケモノの力を持った人間の頭を持つゾンビでした。今まで確認して来た試験体は、全く自我を持っておらず、本能のままに暴れ回るものでした」


「それとあの子に……何の関係が? あの子は私を認識していた」


「はい…。実はそれらとは違う、ゾンビ化人間というのがいるのです」


「それは?」


「見た目は人間そのものですが、ゾンビ化によって体を強化されています。多少の凶暴化はするものの、人間としての自我がしっかり残るのです」


「それが?」


 アビゲイルは悲しそうな顔で、目の前の医者に真実を告げる。


「残念ながら……娘さんはゾンビ化されています。しかも試験体のように他の動物との連結に成功しているようです」


「あ! あの子がゾンビだと! そんな馬鹿な!」


「申し訳ありません」


「嘘だ! そんな訳がない! さっき私をお父さんと呼んだ!」


 アビゲイルが言葉を無くしてしまったので、俺が代わりに話す事にする。


「あの子は特殊な手術を施されている。触れれば肌から小さな針を出して刺すんだ。自分の自我に関係なく、勝手にやってしまうらしい。だから彼女は、人をバケモノにしたく無くて人を遠ざけている」


「そんな……そんな……嘘だ」


 そう言って頭を抱えてうずくまってしまった。だがふと何かに気が付く。


「まってくれ! あんたらはあの子を抱いて来たじゃないか!」


「それは、俺達がゾンビにならない体質だからだ」


「そ、そんな馬鹿な」


「本当だ」


 医者は表情を無くし、スッと立って俺達をまじまじと見る。


「嘘をついているんじゃないのか?」


「嘘ではない」


 医者は虚ろな目で、するりと部屋に戻っていく。入って来た父親を見てシャンティが言う。


「お父さん。ごめんなさい、私はこんな姿になってしまったの」


「可哀想なシャンティ…」


「お父さんを独りぼっちにしてしまった」


「いいんだよ。お前のせいじゃない」


 もうシャンティも父親もボロボロと涙を流していた。そしてシャンティが父親に言う。


「お父さんは私に触れちゃダメなんだ。私に触れるとお父さんは怪物になっちゃうの」


 もう父親はきっと、涙でシャンティの姿が見えていないだろう。シャンティもそんな父親に触れる事が出来ずに、ただただ涙を流していた。


 だが次の瞬間、父親がシャンティに飛びつくようにして抱き上げた。


「あっ! お父さん!」


「いいんだよシャンティ! 娘が心を痛めて泣いているのに、それを慰めてやれないようならもう親じゃない! お父さんはバケモノになったっていい! シャンティ! だからもう泣かないでおくれ!」


「う…ううう…うわああああああ!」


 シャンティは父親にしがみついて泣き叫ぶ。


「お父さん! お父さん! 会いたかった! お父さん!」


「シャンティ! こんな小さな体でよく頑張った! 良く帰ってきてくれた!」


 アビゲイルとミオも涙を流していた。そのあまりにも悲しい光景に、どうする事も出来ないでいる。


「お父さん。私ね、お父さんに会いたいと思って、研究所を抜け出してバスホール湖にきていたんだ! 会えると思って、明るい夜はいつも来てたんだ!」


「そうか! そうだったのか……気づいてあげれなくてごめんなあ。ごめんなあ」


「最初は、私に触れるとバケモノになるって知らなかったんだ! だから沢山の人をバケモノにしちゃった!」


「言うな! それは誰にも言っちゃいけない! お前は悪いことをしていない!」


「でも! でも!」


 シャンティはその小さな心に、そんな思いを抱いて会いに来ていた。最初に俺に遭遇した時も近づいてこなかったのは、俺をゾンビにしたくないという気持ちからだったのだ。


 しかし…そうしている間にも、父親はじりじりとゾンビ因子に犯されつつあった。


「ご、ゴホゴホ!」


 父親に軽い症状が出始める。


「お父さん…」


「良かった。こうして最後にお前を抱く事が出来たから。父親として、お前の気持ちに応える事が出来たから…。先にあちらに行ってお母さんと待っているよ。お前は後からゆっくり来なさい」


「イヤだ! 私も一緒に行く! おとうさん! 置いて行かないで! いやだよ!」


 けれど父親は俺達に向かい、ニッコリ笑って言う。


「私がゾンビになる前に、この子から離してほしい。私がゾンビになるところを、この子に見せないでやってほしい。この子は私をゾンビになどしていない、どうかこの子を湖に逃がしてくれないだろうか? 後生だ! たのむ! この子を見逃してくれ!」


 もうミオもアビゲイルも崩れ落ちてしまい、それを聞いているのは俺だけだった。


 だが俺は父親に言う。


「お前はゾンビにならん。そしてこれからは、思う存分娘と触れ合っていい」


「な、何を言っている? 私は…」


「ミオ。シャンティを抱いていて離れてくれ」


「うん……」


 ミオがシャンティを抱いた。


「ゴホゴホゴホ!」


 俺は咳込む父親に手を触れて、ゾンビ因子除去施術を行った。父親はあっという間に真っ白になって、ゾンビ因子の死骸を皮膚から排出し始める。すると咳込んでいた父親は、スッと立ち上がり信じられないような顔で自分の手を見ている。それに対して俺が言う。


「もう大丈夫だぞ」


「そ、そうなのか?」


「俺達と同じになった」


「……娘に触れても?」


「いい」


 そこでミオが父親にシャンティを戻してやる。もうゾンビ因子を受け付けない体になっていて、浸食される事は無かった。


 そして俺はミオに言う。


「シャーリーンを呼んできてくれ」


「分かった」


 ミオが外に出てシャーリーンを連れて来ると、シャーリーンは医者に告げた。


「あなた方はもうこの土地では生きていけません。このまま湖に戻ったら、シャンティちゃんは間違ってゾンビを生み出すかもしれない」


「そ、そうですが…何処に?」


「あなた方にはドバイに行ってもらいます。ドバイにあなた方を保護する海があります。私のご主人様が既にその準備をしています。環境の良い水槽もありますので、安心して生活をすることが出来ます」


「ほ、本当ですか?」


「はい」


 するとシャンティと父親がしっかりと抱き合って、今度は泣き笑いを浮べる。


 加えてミオが言う。


「ただ、行く前に仕事があるのです。捕らえられていた子供達がいるのですが、彼らを親元に届けてあげたい。ですが私達は土地勘が無く、彼らを送ってあげる事が難しい。だから全員を送るお手伝いをしていただけませんか?」


「やはりあなたは正義の女帝なんですね。それはぜひ私にやらせてください!」


「お願いいたします」


 そして俺達はバスに乗り込み、この子達を親元に帰すためにチェンナイの町を走り始める。それぞれを家の近くで降ろしては、名乗りはせずに走り去った。全ての子供を降ろした時には、シャンティも父親も笑顔であふれていた。


「ではシャーリーン」


「わかりました」


 シャーリーンがどこかに連絡をすると、車が到着して中から車いすを持った看護師が出て来た。俺達に毛布を渡して来たので、ミオとアビゲイルがシャンティの下半身を優しく包む。更にシャーリーンが上の服を持って来て、みんなで着せていく。


 それを見たマナが言う。


「お人形さんみたいね」


「うふふ」


 着飾ったシャンティは車いすに乗せられ、父親に押されながらカリムの工作員と共に歩いて行く。俺達が足を止めて見送っていると、父親とシャンティが踵を返して俺達の元に来た。


「あの! あんたらの事は一生忘れないよ! そして博士! いつかこの子を治す研究をしてほしい! きっとあなたならそれが可能だと信じている! 全ての事が終わったら、私達を訪ねて欲しい!」


「わかりました。全てが終わったらいつかまた」


 そしてシャンティも言う。


「金髪のおじさん!」


 俺が車いすの前にしゃがみ込んだ。


「なんだ?」


「ありがと!」


 チュッ! 


 シャンティは俺の額にキスをした。なんとも恥ずかしいが、仲間達は微笑ましく見ている。


「いいか。祈れ! 希望を捨てるな! 必ず叶うと信じろ!」


「うん!」


 そうして車いすを押した二人は、ワゴン車に乗せられて行ってしまった。


「アビゲイル」


「なんでしょうミスターヒカル」


「必ず叶えてやろう」


「最善を尽くします」


「そしてみんな。ファーマー社はぶっ潰す」


「「「「「「おう!」」」」」」


 そうして俺達は再びキャンピングカーに戻り、チェンナイでの後始末について話し合うのだった。

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