第457話 囚われの子供達を開放
俺の腕には人魚の女の子が居て、彼女が場所を誘導してくれた。この階層はどうやら、実験段階前の子供達が囚われている場所らしい。俺は次々に部屋に入りファーマー社の警備を殺し、そして子供達を助けていく。そのおかげで俺の後ろには、ぞろぞろと百人ぐらいの子供がついて来ていた。
この階層にはもう部屋は無さそうで、ファーマー社の警備も研究員も居なくなる。俺は階段を上り、次の階層を確認するがもう人の気配はない。
だが…他の気配がする。
「人間は逃げたか…しかも子供達を置いて……」
もちろん俺にはそれらの正体が分かる。まず大きさからして間違いなく試験体で、得物を探して徘徊しているらしい。ファーマー社は自分達が逃げて、子供達を試験体の餌食にしようとしていたのだ。
俺は子供達が襲われないように、後ろをついて来るよう念を押す。
オオモリのスマートフォンを首にぶら下げているので、子供達の言葉も良く分かる。
「走ったりするな。俺より前に出るんじゃない」
皆が頷く。そして俺は上階に上がり、試験体に向かっていく事にした。後ろから子供をやられてしまうのを防ぐために、始末しておかなければならないからだ。
ガラン!
子供が何かを蹴飛ばしてしまったらしい。音に反応した試験体がこちらに向かって来る。
左手に抱える人魚に言った。
「俺にしがみついていろ」
「いいの?」
「ああ」
俺の首に腕を回してしがみつく。
ガガン!
壁を突き破った正面に、人間の顔をしたデカいサルが三体現れた。
「ゴリラだ!」
「でも! 人間?」
「なんで?」
子供達が狼狽えていた。だがそのゴリラたちは真っすぐに、子供達に飛びかかって来る。
「屍人斬 炎蛇鬼走り!」
俺の剣から火の蛇が走り、目の前の通路のゴリラを焼き払った。
「すごーい。火が出た!」
「日本のアニメみたいだね」
「おじさんは侍なの?」
「勇者だ」
すると首に絡まっている人魚が言う。
「勇者って凄いね」
「そうか?」
「うん!」
なるほど。先ほどファーマー社の研究員が、失敗作と言う理由が分かった。今まで遭遇したゾンビ化人間のように攻撃性が無く、どこからどうとっても普通の人間の子供だからだ。普通の子供が軍隊の言う事をきくとは思えないし、無理やりやらせようとしてもゾンビ化しているから、ちょっとやそっとじゃ死なないし怪我をしない。言って見れば、怖いものしらずの子供なのだ。
もうこの階層に試験体はいないようだが、あちこちに不思議な反応があった。その反応は今までの経験からして、何なのかは分かっていた。この階層は実験エリアなのである。
ゾンビ化の途中段階の人体実験か…。成功例が無いと言っていたから、焦って実験を進めていたんだろう。ガラス張りの壁の向こうに研究室があるが、半分に切れた人間や吊るされ配線が通った人もいる。
「みんな! 手を繋げ! そして俺に捕まって繋がるんだ! 下を向いて歩いてこい! 決して周りを見るんじゃないぞ! 恐ろしい化物が飛び出して来たら、目をくりぬかれる!」
もちろん嘘だ。もうこの階層に試験体はいない。だが子供達に、こんな残忍な研究を見せるわけにはいかなかった。そのまま後戻りするようにして階段に戻り、上の階層を目指す。
後はもぬけの殻。新しい情報はありそうだが俺では分かりそうにない。
「いいか? このまま階段を上るぞ! 皆で手を繋いで一人もおいて来るんじゃないぞ!」
「「「「「「「「「「うん!」」」」」」」」」」」
既に人の気配がないので、俺はただひたすら上階を目指した。最後の階層は真っ暗だが、どうやらそこに鉄のドアがあるらしい。取っ手を回すが開かないので、日本刀で鍵を切って足でグイっと押してやる。
「みんな! 外だぞ」
子供達がワーワー言いながら外に出て行く。だがどうやらここは正面ではないらしく、仲間達が何処にもいない。俺はすぐに首にかけたスマートフォンに話しかける。
「ヘイオオモリ」
「ヒカルさん! ご無事ですか?」
「子供達を連れて地上に出たが、皆が見当たらない」
「すみません。僕らが正面玄関で待ちかまえていたら、社員や研究員がぞろぞろ出て来たので応戦しました。今はシャーリーンさんが頼んだ工作員が持って来た、手錠やら縄で縛っているところです」
「そうか」
「そっちには美桜さんと翼さん。アビゲイル博士、あとエイブラハム医師が向かってます」
すると向こう側から、四人が歩いて来るのが見えた。周辺には灯りが無く、こちらを探しているようなので声を上げる。
「ミオ! ツバサ!」
すると四人の気配が一気に近づいて来た。
「ヒカル!」
「子供達を助けて来た」
するとツバサが、俺が抱いている人魚を見て言う。
「本当に人魚がいたのね…」
だが人魚の女の子は俺に顔をうずめている。
「仲間だ。大丈夫だ」
「でも! バケモノにしちゃう!」
「彼女らは大丈夫なんだ。俺と同じなんだよ」
「そうなの?」
するとミオが俺に聞いて来る。
「どうしたの?」
「どうやら…彼女に触れるとゾンビ因子が流れる。普通の人間は触れる事は出来ない」
「ゾンビ因子に…」
すると人魚の女の子が言う。
「だから触れないで」
ミオはニッコリ笑って言う。
「いいのよ。おいで」
「えっ?」
「おいで」
ミオがするりと人魚の女の子を抱きかかえて言った。
「私は美桜よ、そしてこちらが翼よろしくね」
「よろしく…」
「よろしく!」
ツバサが人魚の女の子に聞いた。
「あなたのお名前は?」
「シャンティ」
「「「……」」」
なんと…あの診療所の医師の娘と同じ名前だった。
「シャンティ。可愛らしいお名前ね」
「えへへ」
「私達は敵じゃないわ。怯えないで」
「本当にバケモノにならないの?」
「ならない。私達はバケモノを寄せ付けないの」
「勇者の仲間だから?」
「そうよ。私達は勇者の仲間。だからあなたの事を傷つけない」
女の子の人魚は、ポロポロと涙をこぼし始めるのだった。
するとアビゲイルが言う。
「さあ。皆が待ってる。あなた達もお父さんお母さんの所に帰れるわよ」
その言葉を聞いて子供達が、わっと歓声を上げた。親元から連れ去られて実験されるところだったが、すんでのところで救う事が出来たらしい。そして俺達が皆の所に戻ると、ファーマー社の死体と縛られた奴らが転がされている。
クキが俺に言った。
「大将。お手柄だったな、一人で解決したようなもんだ」
「いや…運が良かった。それはこの子のおかげだ」
ミオが抱いている人魚を指さす。
「おっ! お嬢ちゃんが皆を助けてくれたのか! こりゃ英雄様だな!」
「わたしが英雄?」
「そうだ! 皆を助けてくれた勇者だ」
人魚は泣き顔を止めてニッコリと微笑んだ。するとそこに次々に車が走り込んで来る。
「なんだ!」
俺が警戒するとシャーリーンが言った。
「カリム様の私兵部隊です。こちらの研究施設を調査するのに皆様の手を煩わせません。データ収集のプロもおりますので、入手したデータは全てお渡しします」
「そうか」
そして、その後に大型バスが二台乗り込んでくるのだった。




