第456話 人魚と囚われの子供達
プカリと浮かんで、活動を停止してしまった女の子の人魚に向かって泳いでいく。
これは…。
接触してすぐにわかったのは、ゾンビ化人間である事。そして魚の尻尾は本物だという事だ。本来は人間だったのだろうが、水中でも生きられるようにゾンビ化手術を施されたのだろう。
俺はそのままゾンビ化人魚を抱き、目の前のガラスに向かって剣技を放った。
「真空裂斬」
ピシィ! と割れたガラスから水があふれ出し、俺は流れに逆らわずにその隙間から研究所内に侵入した。ビービービービー! 警報が鳴り響き、通路の向こう側から何かが走ってくる。周りを見渡すが他に出る場所は無さそうだった。俺は上を見上げて、天井に向かい剣技を放つ。
「乱波斬」
ビシィ! 天井全体に亀裂が入ってガラガラと崩れ、俺は瓦礫を避けつつ飛び上がり抜ける。どうやら上の階は便所らしく、俺は人魚を抱えながら便所の入り口を出た。
この研究所が何なのかを、確認する必要がある。自分に隠形と認識阻害を施し、敵の気配を避けつつ内部を見て回る。すると折れ曲がった通路の先から、多数の気配を感じ脇の部屋に滑り込んだ。
奥に何かいるか…。
その部屋の先に多数の気配を感じたので、俺はそのまま部屋の奥へと進んだ。すると奥にまた自動ドアが出てきたが、その前に立っても開かない。ドアの横を見ると、プッシュ式のパネルがありそれで解錠するようだ。
キン! 俺は普通にドアを切って、開いて中に入る。
俺が入っていくと、そこにはガラスの小さな檻が置いてある。それは幾つもあって、その中には人間の子供がいた。生きているようだが、何かで眠らされているようだった。
「捕らえられたのか…」
俺は全てのガラス檻を、中の人間が傷つく事の無いように切り裂いていく。するとガラス檻の中からふわりと何かが出てきた。
「薬か?」
どうしたものか? ここにいる子供を放っておけば、実験に使われてしまうだろう。
「あの…おじさんはだれ?」
気づけば一人の子供が目覚めたようだ。だけどその言葉が良く分からない。
そうだ。俺は懐からオオモリのスマートフォンを取り出す。水に入ったというのに電源は入るようだった。俺はスマートフォンに話しかける。
「ヘイ、オオモリ」
するとスマホからオオモリの声が響いた。
「ヒカルさん! 繋がった!」
「悪いなオオモリ。水中に潜ったらファーマー社の研究所に来てしまった」
「ファーマー社の研究所?」
「このスマートフォンが繋がって良かったよ」
「完全防水なんで問題ないです。それでこちらには戻ってこないんですか?」
「それがな。囚われた人らを発見して身動きが取れない」
「そうなんですね」
「それに言葉も分からない」
「あ、それならスマートフォンを介して話せます。アプリ設定しますんで、相手と自分の間に置いて話してください」
「わかった」
そして俺はスマートフォンを子供の前に差し出す。
「助けに来た。だが大勢を連れていく事が出来ない」
「助けに来たの!」
「そうだ」
「もっといっぱい居るんだよ」
「この部屋の他にか?」
「うん。見たもん」
すると、次々に子供達が目を覚まし始める。どうやらガラスの中に充満していた薬品が流れて、覚醒し始めたらしい。
「みんな、動けるかい?」
「うん」
皆が薄い布一枚の服を着ており、それぞれに番号が振られているようだった。そして俺が抱えている人魚を見て言う。
「その子どうしたの? 足がお魚みたいになってる」
「……この子も捕まったらしい」
「そうなのね」
子供達がぞろぞろと俺の所に来た。そして一人の男の子が言った。
「でも…おじさん銃を持ってないの? 奴らに殺されるよ」
「おじさんは銃を使わないんだよ」
「あいつら銃を持ってるんだよ! 直ぐに撃たれちゃうよ!」
「撃つまえにやるさ」
「そうなんだ」
俺は再びスマートフォンに語りかける。
「ヘイ、オオモリ」
「はい」
「かなりの数が捕らえられているらしい」
だがオオモリが言った。
「既に僕らは向かってます。スマートフォンを無くさないようにだけしてください。ヒカルさんの位置を確定していますので、じきにその研究所を突き止めます」
「了解だ。それならば皆を迎え入れる準備をしておく」
するとタケルが言った。
「ぶっちめてやれ。子供を捕らえて何をしようとしているか知らんが、絶対にゆるせねえからな」
「了解だ。ならここで待つ、念のためゾンビ破壊弾を装備してこい」
「わかった」
そして俺が子供らにスマートフォンを向けて、再び話しかけた。
「俺達が何とかする」
「うん…」
すると足元に寝かせていた人魚が、ピクリと動き始めた。これに噛まれれば、彼らはゾンビになってしまうだろう。俺はその人魚にも、スマートフォンを向けて話しかけてみる。
「起きたか?」
人魚が薄っすらと目を開けて俺を見ると、ビチビチと暴れはじめた。だが水中じゃないので、上手く身動きが取れないようだった。
「なんだ! なんだ!」
「暴れるな。お前は喋れるんだな?」
だが収まる事は無かった。手を使って進み始め、そこから逃げようとし始める。
すると周りの子供達が言う。
「助けに来たんだって! 暴れちゃダメだよ」
「ほら! 怖くないでしょ」
「だから静かに」
そんな事をしているうちに、通路側からぞろぞろと人が入ってきた。俺が子供を庇うように前に立ち構えていると、銃を持った人間が雪崩れ込んで来る。
「貴様は何者だ!」
どうやら英語らしく、言っている事が分かる。
「湖を泳いでいたらここについたもんでな」
「はあ?」
「あんたらは、子供をつかまえて何をしているんだい?」
「こ、コイツ……潜入捜査官か?」
「だったらどうする?」
すると全員が俺に向かって銃を構える。
「飛空円斬」
全員の首が飛ぶ。ドサドサと倒れる男達を見て子供が叫んだ。
「きゃあああああああ!」
「しっ! 敵が駆けつけて来る」
その光景に驚いてしまったのか、子供達が怯えてしまった。だが子供の一人が言う。
「や、やっつけてくれた!」
「本当だ!」
「ここから出れるの?」
俺はスマートフォンをかざして子供らに言う。
「そうだ。一緒に出よう」
「「「「「「「うん!」」」」」」」」
そして俺は人魚の女の子に言う。
「お前も出るか?」
「ううん」
「どうしてだ?」
「あなたも、私に触れたからバケモノになるよ」
俺は人魚の言っていることが分かった。皮膚から小さなとげのようなものが出て俺を刺し、そこからゾンビ因子が入り込んで来たからだ。だが俺はゾンビにはならない。
「俺はならん。お前も来い」
「えっ…」
そして俺はそいつを抱え込んだ。
「だめだよ、バケモノになっちゃうよ!」
「気にするな」
「ば、バケモノってなに?」
「なんでもない! 皆もついてこい!」
子供達は、銃を持った死体を乗り越えてついて来る。通路に出ると同じようなドアが隣にもあったので、俺がその部屋に侵入していくと、やはりそこにも子供達が捕らえられていたのだった。
全てのガラスの檻を斬り、皆が目覚めるのを待つ。
子供達はアイツらが来ないかきょろきょろしているが、まだ奴らが来る気配はなかった。そしてこの部屋の子供達も覚醒したので、皆を連れてまた次の部屋へと向かうのだった。




