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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編

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第455話 月の夜に歌う人魚

 まず俺達が気になったのは、住民達が見た人魚の話だ。そこで俺達は、新聞社の人間に情報を聞くために接触する。カフェにやって来たのは女性で、地域の情報を担当している人らしい。


 シャーリーンが聞いた。


「人魚の話を聞いたのはいつです?」


「ほんの一週間前です。噂になっていたので取材に行きました」


「それは、バスホール湖ですか?」


「そうです。あの湖の周辺で人魚に遭遇したと聞きました。人魚に噛まれた人間は錯乱し、中には目を開いたまま動かなくなった人もいるとか。魂が抜かれてしまったんだと、村人は噂をしておりました」


「他には?」


「なんでも、月夜に、歌に誘われて湖に行ったら噛まれたんだとか」


「そういえば記事にはそう書いてありましたね」


「はい。夜寝ている時に、何処からともなく女の子の歌声が聞こえたんだそうです。それに誘われるようにして、湖を見にいったら人魚に遭遇したと。噛まれた人は、最初は普通に話も出来たそうですが、そのうち錯乱し始め人に襲い掛かり始めるのです」


「なるほど。他には?」


「どれも明るい月が出ている日だったそうです」


「月が出ている時ですか」


「はい。曇りや雨の日は出てこないようです」


「他には何か聞けましたか?」


「いいえ。被害者が錯乱しておかしくなるので、それ以上の事はわからないそうです」


「そうですか…わかりました。それではこれを」


 そう言ってシャーリーンが封筒をテーブルに置く。すると記者は封筒を手に取り、中身を見てにっこりと笑う。


「確かに。ありがとうございます」


「いえ。何か気づいた事があったら電話をください」


「わかりました」


 そうして新聞記者がカフェを出て行く。


「どういう事だろう」


「分かりません」


「とにかく戻ろう」


 俺達はキャンピングカーに戻って、記者から聞いた話を皆に告げる。それを聞いたマナが、物思いにふけったような顔で言った。


「何か…話だけ聞くと怖いようなロマンティックなような、まるで童話のお話だわ」


「そうよね。人魚が歌って人をおびき寄せて、精を吸い尽くすなんて御伽噺みたい」


「確かにな。だけど、明らかにゾンビがらみだ。裏にはファーマー社がいんだろうよ」


「武の言うとおりだ。だがどこかの研究所を襲えば、他の研究所の奴らが逃げそうだし、どうにか一網打尽にしたいもんだが」


 診療所の娘は明らかにファーマー社から連れ去られた。それとバスホール湖の人魚騒ぎが、何処で繋がるのかが分からない。


 ミオが言う。


「どうしたものかしらね」


 そこでエイブラハムが言う。


「歌う人魚がいるのなら見てみたいものじゃがな」


「でも何処に現れるのか分からないわ」


 そこでミナミが言う。


「ツバサが音楽を奏でたら来るんじゃない?」


「私が?」


「キーボードをピアノの音にして弾くの」


「なるほど。それはあるかも」


 クキがシャーリーンに言う。


「キーボードを手に入れられるかな?」


「はい。直ぐに」


「大森。今日の夜の天気は?」


「えーっと。晴れですね」


「では急いで手配を」


「はい」


 そしてシャーリーンがどこかに電話をした。シャーリーンが場所を指定し、タケルがナビに基づいてその場所に向かう。すると普通の若者風の人間が長いバッグをぶら下げており、シャーリーンがそれを受け取ってそのままキャンピングカーを走らせた。


「本当に直ぐだ。凄いネットワークだな」


「ミスター九鬼。カリム様も本気なのです」


「了解だ」


 そして俺達はバスホール湖付近を周回し、大きな車を停められる場所を見つけた。そしてその近くにテントを張り、キーボードやスピーカーを置いて行く。電源はキャンピングカーに備え付けの発電機から引いており、俺達はそこで日が暮れるのを待った。


「だんだん暗くなってきたわね」


 するとツバサが言う。


「怖いわ」


 だがそれには俺が答えた。


「俺が水辺にいる。声をかけてくるなら俺だろう」


「う、うん」


 すっかり日が沈み、じきに月が昇って来た。それが上に来た頃に、俺とツバサがキャンピングカーを降りて準備した場所に行った。


「それじゃあツバサ。頼んだぞ」


「わかった」


 俺が水辺に座り月を見上げていると、後ろから美しいピアノの音色が流れて来る。俺はしばらくそれに耳を傾け、物思いにふけるように月を眺めていた。


 流石はツバサだ。極上の音色だ…。


 そんな事を考えていると、パシャッ! と水がなった。大きめの魚が跳ねたようだが、俺の気配感知は明らかに魚と違うものを感じ取っていた。


 来た。


 しばらく待っていると、その気配がスルスルとこちらの方に向かって来る。水面に月が写り込み、その月の側にスッと人間の女の子の顔が出て来た。だが警戒しているようで、こちらに近づいてこない。


 ちゃぷっ。


 それは俺からだいぶ離れた岸に座り、俺がしているように月を眺めはじめる。ツバサの美しい音色はまだ響いており、いつしかその女の子が歌を歌い始める。それは物悲しく、なにかを憂いたような歌声だった。俺はそのままその場に寝っ転がり、手を頭の後ろに組んで月を眺めた。


 だが次の瞬間、突然現地人のが聞こえてきた。


「夜にこんなところで何をしているんだ?」


「す、すみません!」


 ツバサと現地人の声に、女の子は慌てたように水に潜った。


「おっと」


 俺はスーツを脱ぐ暇もなく、仕込み刀を咥えて湖に飛び込み潜って女の子を追う。するとその子の足には、魚の尾ひれがついていた。泳ぎは早いが、俺ほどではないようで余裕ついていく事が出来ていた。必死で逃げているので、俺が泳いでついて来ている事に気が付いていない。


 するとその人魚は、するりと壁の隙間に入り込んでいくのだった。俺はその壁の隙間にへばりつき、中を探ってみる。人魚は更に奥に泳いでいっているようで、俺はすぐさまその壁の隙間から泳いで入っていくのだった。


 だがその奥には、明らかに自然の物ではない施設があった。


 なんだここは?


 更に進んで行くと、水中の壁の間に隙間があった。どうやら人魚はそこから中に入って行ったようだが、俺の体の大きさからするとその裂け目には入れないようだ。


「真空裂斬」


 水の中でその裂け目を切り、俺はその間をするりと抜けていく。そこは水路になっているようで、俺はその水路を泳いで行った。その先に灯りが見えて来て、俺はその隙間にへばりついて中を見る。


 なるほど…。


 そこはドバイで見た水族館のようにガラス張りの水槽になっていて、女の子はそこを泳ぎ回っていた。ガラスの向こうには仄かに灯りが灯っていて、どうやら何らかの研究施設があるらしい。人魚はそのガラスから離れた所に座り、じっとガラスの方を見た。


 するとガラスの向こうに人の気配がする。部屋の入り口が開いて、白衣を着た人間がぞろぞろと入って来た。その首にぶら下げているカードを見ると、ファーマー社のマークが見て取れた。


 こんなところに…秘密の研究所か…。


 研究者たちはガラスの向こうから、人魚を見て何かを言っている。


 思考加速と読唇で何を話しているのか分かるが、どうやらこの人魚の事についての研究成果を話しているらしかった。


「自我はある」


「そうですが、言う事を聞かないのであれば兵士にはなりません」


「だが、イルカのひれは上手く動かせているじゃないか」


「それで戦力になると?」


「諜報活動には使えるだろう」


「まだ改造が成功している個体は少ないです」


「それはお前の腕の見せどころだろう。期待しているぞ」


「しかし…」


「話は終わりだ。早々に結果を出せ」


「ちょっと待ってください」


「また今度にしろ」


 そう言って白衣の人間達が出て行った。そして残された一人が人魚を見て言う。


「おい。なんで言う事を聞かない」


 人魚がふいっと顔をそむける。


「くそ」


 すると男は水槽脇レバーを引いた。


 バババババ! と水に電気が走る。


「あがああああ」


 人魚が苦しんでいた。身体強化をした俺には効かないようだが、人魚は苦しそうだ。


 ガチンとスイッチが切られる。


「まあいい。量産がなった暁にはお前は用済みだ」


 そう言って男も部屋を出て行った。なんとか生きている人魚は、プカリと浮かんで大人しくなる。どうやらこの人魚は、ファーマー社に強制的に何かをやらされているようだった。俺はするりと水槽の中に侵入するのだった。

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