第450話 不法侵入と偽装工作
深夜のビルに既に人はいないが、周辺には人がうろついているようだ。
「深夜なのに人がいるんですね」
「確かに…進入するのを見られたらマズいですよね」
「裏にまわろう」
裏路地に入り、俺が剣技でビルを囲む柵を斬り周辺を確認しつつ中に侵入した。
「あれが社員通用口のようです」
クロサキに言われた場所に行くと、鉄製のドアがありその脇に機械が取り付けてある。オオモリが自分のタブレットにつなげたカードを、その機械にかざして操作をし始める。
「警報を解除してます」
何事もなく鍵が解除された。カチャリと開いたドアの中を覗くが人の気配はない。俺が先に入り皆が後ろからついてくる。暗い会社の通路に入ってオオモリが言った。
「ちょっと怖いっすね」
「大丈夫だ。何もいない」
「わかりました」
オオモリがタブレットをつけると、シャーリーンがくれたビルのフロアマップが表示される。それを見てクロサキが言った。
「総務は三階のようですね」
「いこう」
「まってください」
クロサキが廊下の上を指さす。
「監視カメラがあります」
「大丈夫ですよ黒崎さん。全て機能停止してます」
「そう…大森君…あなた怖いわ」
「え…」
「行くぞ」
暗い通路を進み、階段を上って三階の事務所に到着する。俺達が中に入ると、テーブルの上にノートパソコンが並んでいた。全て閉じられているが、オオモリは迷いなく奥へと進んで行った。
「よしっと」
一つのノートパソコンを開くと、アビゲイルがオオモリに言う。
「パソコンのパスワードが」
「問題ないっす」
オオモリがノートパソコンにタブレットを繋ぎ、そのまま起動すると問題なく開いた。
「凄い」
「筐体のパスなんて大したこと無いっす」
「大森君を相手にしていると、セキュリティーって何なのかな? って思っちゃいますね」
「既に世界中に、僕のAIウイルスが回っているんです。どうやら既にインドにも入っているようで、それほど労さずに全てのOA機器はクリアできますね」
「「ははは…」」
黒崎とアビゲイルが力なく笑う。
そしてアビゲイルが言った。
「とにかくファーマー社の最新情報を収集しましょう。もちろん研究や最新の情報が取れるとは思えませんが、管理者の端末からならインド支社の情報にアクセスできるかもしれません」
「わかりました」
オオモリがパソコンを操作し、直ぐに何かを見つけたようだ。
「インドの状況を確認できそうです」
「はい」
しばらくオオモリを操作に集中させ、俺達が周辺を歩いてみまわる。
クロサキが言う。
「裏ではあんな事をしているのに、普通に営業活動をしているなんて変ですね」
それにアビゲイルが答えた。
「世界に何万という社員がいるのですが、その人達が全部を知っているわけではありません」
「そう言えば日本にもそういう社員はいました。捜査の過程で知り合いました」
「大きく儲けた利益は、少なからず社員に還元されてます。ゾンビ因子で軍事関係の売上が上がれば、更に資金力は上がって社員にお金が回ります」
「そうでした。末端の人達も薄々は感づいているようですが、会社の待遇が良いので見て見ぬふりをしています。甘い汁を吸ってしまって、辞められずにいるようでしたね」
「同じお金でも、カリムさんやドン・サルバトーレさんのお金と、ファーマー社のお金は違うんです。七十億の人間を人質にとっているような、命を使ってお金を生むやり方は認められません」
「博士の言う通りかと思います」
そうしてオオモリが言う。
「おっと…」
俺が聞く。
「どうした?」
「ファーマー社が罠を仕掛けてましたね。データは抜きましたが侵入した事がバレました」
「出るぞ」
「はい」
俺達はすぐに裏から外に出て、柵にあけた穴を通り道路に戻る。すると大通りの方を何台かの車が過ぎ去っていった。
「ファーマー社は動きが早いですね…」
そこでアビゲイルが言う。
「でも、これを手に入れました」
それはカードとケースだった。
「それは?」
「支社のキーと管理職のICカードです。これがあればミスター大森ならなんとか出来るでしょう?」
「おお。そんなものが!」
「ファーマー社の規定で、収納場所が決まっているんです」
「さすがは元ファーマ―社です!」
「とにかく行きましょう」
どうやら入り口の方から、ぞろぞろとファーマー社の人間が入り込んできているようだ。俺達は逆方向に向かい、クロサキがスマートフォンを確認する。
「みんなは、ここから一キロほど先にいるようです」
「よし」
俺達は足早に戻る。すぐに皆の元に到着し車はすぐに出発した。
「ファーマー社はどうでしたか?」
クロサキがそれに答える。
「私達の事は、普通の泥棒だと思ってるかもしれません」
「なぜ?」
「これです」
それを見て俺達も驚いた。クロサキが持って来たのはなんと金だった。
「いつのまに?」
「出てくるときにちょっと侵入して」
「なるほど」
「データだけだと疑われますから」
そこでデータを解析したオオモリた、次の行先を告げる。
「次の行き先が分かりましたよ」
「どこだ? デリーか?」
「いいえ、チェンナイです」
オオモリがデータを見せると、チェンナイという場所にファーマー社の工場が集中している。
「この中のどれかですね」
「なるほどな」
運転しているタケルがオオモリに聞いた。
「大森。車でどれぐらいだ?」
「二十四時間ほどです」
するとシャーリーンが言う。
「中間地点の数か所に補給部隊を回します」
「あ、ああ」
そしてシャーリーンは、すぐにどこかに連絡した。
クキが言う。
「助かる。それなら俺達の足取りを追う事は出来ない」
タケルが苦笑いして言う。
「しかし。金があるって言うのは凄いな。至れり尽くせりの冒険じゃねえか」
「ミスター武。私達が出来る事は、それぐらいしかないのです。あなた方のサポートをすることで、世界を救うしかできない」
「まあ、ありがたいばっかりだけどよ」
そして俺達が乗るキャンピングカーは、チェンナイに向けて走り続けるのだった。




