第449話 大富豪の快適冒険バックアップ
ドバイを出たヘリコプターは何事もなく、インドのムンバイという所に到着する。小さな空港でヘリコプターを下りると、シャーリーンも一緒について来ると言った。
クキがみんなに言った。
「彼女は戦闘訓練を受けていると言っても、レベルの上がった人間じゃない。普通の人間相手ならどうにかなるかもしれないが、ゾンビとなると勝手が違って来る。インドじゃファーマー社が新しい実験をしていて、待っているのは通常ゾンビだけじゃないかもしれん。そこでみんなに聞きたいんだが、どうしたらいいだろうか?」
それにミナミが答える。
「連れて行っていいんじゃないですか?」
「どうしてだ?」
「それは…ファーマー社が共通の敵だから」
「彼女は、アビゲイル博士やエイブラハム医師とは違う。個人的な恨みがあるからと、これに巻き込んでしまうのはどうかという事だ」
そこでシャーリーンが言う。
「私は皆さんのお役に立ちたい。あの子だってそうして欲しいと思っている」
「子供の事はあんたにゃ責任は無い」
「いいえ。もっと調べるべきでした。ファーマー社の悪事について」
それを聞いてミオが言う。
「違うよシャーリーンさん。私達も知らなかった。だから皆が何もできずに家族を失ったの。でもそれは自分の責任じゃないわ、全てはファーマー社という邪悪が一方的にやった事よ」
「美桜さん…」
「ここにいる全員がその悔しさを知っている。私達はあなたの悔しさが痛いほど分かるの。だけどファーマー社が人体実験で開発したゾンビは、本当に恐ろしいの。九鬼さんはそれに対峙して、死ななくてもいいあなたが死ぬかもしれないのを危惧しているわ」
そこでツバサが言う。
「シャーリーンさん。あなたがファーマー社を恨む気持ちは強いでしょう。だからこそ無理してしまわないか心配なのよ。自暴自棄にはなっていないか、不用意に命をかけて仇討ちをしようとなどしないか。そう言う事が心配なの」
するとシャーリーンが少し考えている。俺達の言わんとしている事が分かったのだろう。
「私は自暴自棄になっていません。そしてあなた方の話を聞いて、もしかしたらあの子が日本で生き残っている可能性だって、あるんじゃないかと思っています。だからこそあなた方と戦いたい。あなた方に会った事で、日本に生存者がいると聞いた事で、その可能性を信じられるようになったのです。だからどうか私を連れて行ってください」
そこで俺が言った。
「連れて行こう」
「ヒカル…」
「大丈夫だ。俺が全てひっくるめて全部守る」
すると女達がふうっとため息をついた。
「それには負けるわ。誰も何も言えない」
そしてクキが笑って言った。
「なら決まりだな。彼女は連れて行こう」
「ありがとうございます!」
それを聞いてシャーリーンがどこかに連絡をすると、空港内に車が入って来た。
「なんだありゃ」
タケルの言葉に皆がそちらを見ると、皆が驚愕の表情を浮かべる。
「なにあれ…」
それがヘリコプターの隣りに横付けされた。
「カリム様が用意したお車です」
「うっそ」
トラックみたいなピカピカの新車が入ってきて、シャーリーンが皆にどうぞと言った。俺達が中に入って、更に目を見開く。
オオモリが言う。
「えっ? 家?」
「だよな。こりゃ家だ」
オオモリとタケルが言うとおりだ。これはまるで家、しかも立派で綺麗な家だ。
そこでミナミがクキに言う。
「九鬼さん。断らなくてよかったじゃない」
「ははは。作戦って、いったいなにかねえ」
「ねえ」
そこで俺が言う。
「とにかくヘリコプターの荷物をこちらに移そう」
「「「「おー」」」」
皆の気分が一気に高揚している。荷物を積みかえ、クキが運転席に座り俺達は空港を出た。そこでまた俺は驚きの光景を目にした。俺がポツリという。
「なんだ…この人の多さは」
それにシャーリーンが言う。
「これがインドです。ムンバイと言えば、人口が多い事で知られています」
「そうか」
ファーマー社が、この地にたくさんの拠点を作った理由が分かった。実験の対象がこんなにいるのだ。薬品の治験をするにしても、ゾンビの開発をするにしても困る事は無いだろう。
「こんなところで、ゾンビが流出したら大変なことになる」
「はい。だからカリム様は憂慮していたのです」
「なるほど」
「そしてファーマ―社の場所も分かっています。これから誘導しますので」
外を見てマナが言う。
「外は熱いのに、めっちゃ快適だわ。バケモノ相手の冒険をしているとは思えない」
それには皆が頷いた。こんな快適すぎる冒険は経験したことが無い。
そして俺達の車は、十分もしないうちにファーマー社のビルの前に来た。
「つきました」
「近いんだ。歩いても来れたね」
「カリム様は、この車を拠点にして動いていいと」
「ありがたいな」
結構立派なビルで、建物の中には普通に働いている人間がいる。それを見てアビゲイルが言う。
「ここは営業拠点。研究はしていないわ」
それにシャーリーンが答えた。
「はい。ですので、各地の拠点の情報をここで収集しては如何でしょう?」
「なるほどです」
オオモリが言う。
「なら営業時間外に侵入しましょう。夜になれば人はいなくなります」
「そうしよう」
「一度ここを離れましょう」
車が走り出す。ファーマー社から離れた広い空き地に車を止め、ツバサが言う。
「拠点を探さなくても良いし、キャンピングカー最高!」
するとシャーリーンが言う。
「料理も出来ます。さいわいインドには、あちこちに市場があるのです」
最初はどうなるかと思ったが、シャーリーンがいる事で俺達は快適にファーマー社を攻略する事が出来そうだった。その車の中で料理を作るべく、皆は市場に食料を買いだしに行く。
そして車で料理を作り、皆で食べて時間を待つことにした。
「マジで、こんな冒険あるのかなって感じだぜ」
「ですよね。めっちゃ快適なんですけど」
それを聞いてシャーリーンが笑った。
「お役に立てているようで良かったです」
「本当に断らなくてよかった」
そこでしばらく快適に過ごし、そして深夜になった。
「じゃ、行くか」
俺が言うと皆が頷く。そしてクキが言った。
「潜入は、ヒカルとクロサキ、オオモリで行こう」
するとアビゲイルが手を挙げる。
「私も連れて行ってください。もしかしたらお役に立てるかもしれない」
「わかりました」
それを聞いてシャーリーンが言った。
「こちらで調べた館内情報をお持ちください」
シャーリーンがスマートフォンを取り出すと、オオモリがスマートフォンをかざす。
「おお。フロアマップですか! 会社の情報を良く調べましたね」
「それがカリム様の力でございます」
俺はクキに言う。
「念のため一か所に留まるな。情報を入手したらこちらから合流する」
「了解だ」
そして俺達四人はキャンピングカーを下り、深夜のムンバイを歩きだす。町は静かに寝静まっているようだが人間の気配は多い。そして俺達はファーマー社のビルの前に到着したのだった。




