第446話 作戦の合間に束の間の休息
俺達はショッピングモールに到着し、ドバイで遊ぶ為の衣装を買い回っていた。
マナがウキウキして言う。
「ヴィ〇ンにシャ〇ルにエ〇メス、ディ〇ールにヴェ〇サーチ。夢のようだわ」
両手に、大量の買い物袋をぶらさげて喜んでいる。他の女達もそれぞれに好きなものを買い、手に沢山ぶら下げていた。そこで申し訳なさそうに、アビゲイルが言った。
「こんなに買っちゃって良いのかしら?」
タケルが笑って答える。
「いいんだよ博士。詫びだっつーんだから受け取っておかねえと!」
「うふふふ。そうか」
その隣でオオモリが残念そうな顔をしている。
「クエートディナールを持って行っても処理できないんで、とりあえず全部使い切らないと」
クキが苦笑いして言う。
「アタッシュケース、二ケースにびっしりのクエートディナールだぞ。どうすんだ?」
「ほとんど使えてないですよね」
それを聞いてツバサが言う。
「もう荷物は持てないよ」
するとクキが何かに気が付いたように言う。
「それなら、全員同じ腕時計を調達しよう。作戦で時間に狂いが生じるのはまずい」
「なるほど、それはいい考えじゃ」
エイブラハムが言うと、皆が頷く。
「おしゃれよりも、耐久性と防水性だ。後は文字盤の見やすさ」
「九鬼さん。さっき、ロ〇ックスとオ〇ガがあったぜ」
「そこで買おう。十一本も買えばかなり消費するだろう?」
「わしらもか?」
「ええ。ドクター・エイブラハム。正確な時間は命を助けます」
「わかったのじゃ」
「女性陣には悪いが、ナイロンベルトに変えてもらう。それだけで軽量になるし何よりも壊れにくい」
だがそれを聞いてマナが言う。
「むしろその方がいいよ九鬼さん。無骨すぎて女性陣がつけていたら目立っちゃう」
「そのとおりだな」
そして俺達は時計屋に行き、クキが見回って店の人間にオーダーを出した。在庫も全て出してもらい、俺達はその場で腕時計を付け始める。
「ミリタリーチックで、かっこいいわ」
「ナイロンベルトが選べるのが良かった。女の人がつけても違和感ないし」
「おりゃ渋めの色にしたぜ」
「わしもこんな立派な時計をつけるなんてなあ」
そこでクキが言った。
「オ〇ガといえばイギリス軍でも使ってるしな。何より俺の好きな映画の、スパイが愛用している時計なんだ。俺達のような任務をしている奴らにはもってこいの時計だ」
それを聞いて俺が時計を見ながら言う。
「多分俺達が日本を逃亡している時に、DVDで見た映画だ」
タケルが頷いた。
「あー、見てた。全編早送りでな」
ミオがびっくりしたように言う。
「えっ! ヒカル何十本も見てたよね。それでこの腕時計をつけてるのを覚えてるって事?」
「そうだ。確かスパイ映画だった」
俺は思考加速を用いてDVDを見ているので、しっかりと脳に焼き付いているのだ。
「マジかよ…確か埼玉でだったよな」
「そうだ。あの時見たDVDの中に、これをつけている男がいた」
するとクキが嬉しそうに言う。
「そうか! ヒカルも見たか!」
「危険な任務をこなしていく奴だった。見ごたえがあったな」
「俺もそれが頭にあってな、この時計が良いと思ったんだよ」
ミオが笑って言う。
「でも流石はドバイよね。十一個も高級時計を買っているのに、全く驚きもせずに淡々と準備してくれていたわ」
「言えてる。日本ならびっくりされてたわね」
荷物を持って、一度ホテルに戻り女達の準備を待つことにした。俺達が早々に着替えて一階のロビーで待っていると、マナから声がかかった。
「おまたせー」
振り向けばマナとミナミとクロサキがやって来る。それを見てタケルとオオモリが色めきだった。
「おお、美女が来たぞ!」
「ドレス姿なんて初めて見ましたよ!」
三人がドレスに身を包み、バッグを持ってこっちに来る。
ミナミが言った。
「フェ〇ディのミニワンピースに、フェラ〇モのパンプスを穿ける日が来るなんて」
クロサキも恥ずかしそうに言った。
「私も全身ディ〇ールです」
マナが寂しそうに言う。
「せめてバー〇ンだけでも日本に持って帰りたい」
「腕時計とアクセサリーはどうにか持って帰れるがな、バックはどうしてもかさばる」
「だよねえ」
そこにまた声がかかった。
「お待たせ」
ミオとツバサとアビゲイルだ。
「おお! こりゃすごい! 女優だ」
「マジっすね。女優さんだ」
「だってここでしか着られないんでしょ? お金使い切れないみたいだったし」
「持って帰れるのは、貴金属と時計だけだってよ。まあ後はサングラスか」
「まあ遊びに来ている訳じゃないからね」
だがクキが言う。
「今日ぐらいはめいっぱい遊んで良いだろう」
「「「「わーい」」」」
タケルが嬉しそうに言った。
「まずはヒカルが登ったと言った、ブルジュハリファのレストランだ。予約取ってるから早く行くぞ」
そうして俺達は運転手付きのリムジンに乗り込み、ブルジュ・ハリファに向かう。クキと俺とエイブラハムがリムジンの中で酒を飲み始め、女達がはしゃぎまくっているうちに到着した。俺は一度来ているので、皆を案内してエレベーターに向かう。
突然、ミナミが男に声をかけられた。
念のため俺は杖を握っているが、話している内容は平和そうだった。隣りにいるミオが笑って答えている。
「何て言っていた?」
「アジアの女優さんですかって。南は雰囲気あるから」
「そんなことないよ。むしろそれは美桜じゃない?」
「いやいや。南の方が絶対美人だよ」
「美桜ったら」
百二十二階に登りレストランに着くと、窓際に連れていかれ座らせられる。
「すっごーい! めっちゃ見晴らし良いんだけど」
「ほんとだわ! 凄く高い」
「周りのビルが小さいですね」
皆がワイワイ言いながら料理を食べ始めた時、ふとタケルが言う。
「てか、ヒカル。頂上から飛び降りたんだっけ」
すると皆が腕をさすっている。
「やめてよ武。鳥肌が立つじゃない」
「僕なんか血の気引いて失神しそうでしたよ」
「悪い悪い」
改めて皆が外を眺めはじめる。
「うわあ」
「そうやって見ると改めてヤバいね」
「そんな人、いるの? って感じ」
「もう一度やろうか?」
「「「「「「いい! いい! いい!」」」」」」
食事を終えた俺達はブルジュ・ハリファを出る。リムジンは観光用らしく、俺達を次々に観光名所に連れて行ってくれるそうだ。水族館や寺院を見回っていると日が暮れていく。するとオオモリが言う。
「最後のこれが凄いって噂です」
夜にヘリコプターに乗って空から、ドバイの町を見下ろすというものらしい。ここでリムジンとはおさらばして、そのままヘリコプターに乗ってホテルまで送迎されるのだ。
ヘリコプターの乗り場で、女達が突然じゃんけんすると言い始める。
「何をやってるんだ?」
するとマナが言う。
「三機に分割されるんだって! だからじゃんけんで決めるの!」
「なにをだ?」
「何をって、どのヘリコプターに乗るかよ! さっ! そっちはそっちでやって!」
「なんでそんな事をするんだ」
「いいから! さあ。博士も黒崎さんもやるよ!」
するとタケルが何かに気が付いたようだ。
「わかったぜ…こりゃヒカルと一緒のヘリに乗る勝負だ」
「俺と?」
「そりゃ必死にもなるわな! んじゃ俺達もじゃんけんだ、大森も九鬼さんも爺さんもやるぜ」
エイブラハムが言う。
「ど、どうやるんじゃ?」
「グーはチョキに勝ち、チョキはパーに勝ち、パーはグーに勝つって言う日本の手遊びだよ」
「わかったのじゃ」
「「「「「じゃーんけん!」」」」」
・・・・・・・・・・
その後、俺はヘリコプターに乗って夜景を眺めていた。下は物凄い光の海で、オオモリが言うように確かに素晴らしいものだった。俺の隣りにはクロサキがいて、その前にはアビゲイルとエイブラハムが座っている。お爺さんと孫が楽しそうに眺めていた。すると俺の隣りに座っているクロサキが言う。
「すみません。ヒカルさん」
「なにがだ?」
「隣が私なんかで」
「いいじゃないか」
するとアビゲイルが笑って言う。
「そうですよ。ミス黒崎、とてもきれいな女性が隣で、ミスターヒカルもまんざらじゃなさそうです」
「そ、そうですか?」
「そうです。ねえ、おじいちゃん」
「そうじゃな。姉さんがたが、恨めしそうに見ていたけどのう」
「本当に申し訳ないです」
俺はクロサキに言う。
「気にするな。それよりあの夜景を見ろ。あんな光の海を見る事なんて初めてだ」
「はい。とっても綺麗です」
ドレスのクロサキは少し恥ずかしそうにしていた。今まではスーツ姿しか見た事無かったが、引き締まった体にドレスは良く似合った。生きているうちに、こんな体験をした事の無かった俺は、とにかく深く心に残る一日となる。そして俺達が泊っているホテルの上空に来た時も驚く、上空から見ると葉っぱのような模様になっていたのである。
そこでエイブラハムが俺に言った。
「の、のう。ヒカルよ」
「なんだ?」
「もう一度言っとくが、わしの孫もお嫁さん候補に入れておくれ」
「お、おじいちゃん?」
「なんじゃ? お前は好いておるのだろう」
「ミスターヒカルは嫌いじゃないわよ。でも私は他に好きな人がいるの!」
「な、なんじゃと? 聞いとらんわい!」
「言ってないもの。人の好き嫌いを勝手に決めないで」
「す、すまんのじゃ」
何だが気まずい雰囲気になるが、クロサキがニッコリ笑って言う。
「ふふっ。私は気づいてましたよ」
「えっ?」
アビゲイルが真っ赤になった。
「ごめんなさい。これでもプロファイリングのプロなんです」
「そう言えば…そうでした。日本の秘密警察?」
「いえ。公安機動捜査隊特捜班です。なんかレベルが上がったらこの力が強くなってきたんですよね」
「そうなんだ…秘密にしてください!」
「分かってます」
そうして話は終わった。ヘリコプターから降りると皆が集まって来る。
「惜しかったなあ。なんでじゃんけんで負けちゃったんだろ」
「恨みっこなしよ愛菜」
そしてツバサが言った。
「いいなあ黒崎さんと博士は」
いや。アビゲイルは俺と一緒ではない方が良かったらしい。だがアビゲイルが内緒と言っていたので、クロサキも黙っている。俺達のご褒美の一日は幕を閉じたのだった。




