第440話 ゾンビだらけのベイルート空港
ヨルダンのアンマンをセーフティーゾーンにした俺達は、アンマン空港に向かっていた。イスラエルからヨルダンまでの道中で軍隊の影を見る事は無く、ゾンビが蔓延している状態では、軍隊が機能しないのだろうと判断したのだった。
「見事にゾンビが転がってるな」
「本当は残骸も掃除してやりてえけど、そいつはそのうち国連がやるだろ」
「とにかくセーフティーゾーンを作らないと、生存者が逃げ込むところが無いからな」
俺達の車が空港に到着する。もちろん正面からではなく、俺がフェンスを斬り倒してそこからバスとトラックを侵入させた。
クキが言う。
「さてと飛ぶ奴があるかどうか」
空港内には航空機が置いてあるようだが、飛ぶかどうかはこれから見なければならない。すると俺の気配感知に、旅客機の中で蠢くゾンビがひっかかる。
「航空機の中にゾンビがいるぞ」
アビゲイルが言った。
「飛行機は気密性が高いので、薬品が中に入り込まなかったのでしょう」
「そうか。安心しきって航空機に入り込んでしまうと危険だな」
「とはいえ市内にも気密性の高い場所はあるでしょうし、全てというのは難しいですね」
「仕方あるまい。いずれは浸透してゾンビも死ぬだろう」
「そう言う事です」
そして車を止めてクキが言う。
「うーん、ヘリが見事にねえなあ。プロペラ機を探してくれ」
「「「「「はーい」」」」」
皆が空港内に散らばって行き俺はジョーイを見張っていた。オオモリも残ってパソコンを触っている。
「自由にしてくれませんかねえ」
「この世からか?」
「い、いや。聞かなかったことにしてください」
「そうしておこう」
空港にはあちこちにゾンビが転がっており、アビゲイルの薬がきちんと効いている事が分かる。この薬を日本に持って帰れば、恐らく全域が完全開放されるだろう。
しばらく待っていると、奥でエンジンがかかる音が聞こえる。
「見つかったようだな」
「そうみたいですね」
クキが戻って来て言う。
「荷物と薬を飛行機に詰め替えるぞ! ヒカルはそいつを見張っててくれ」
「了解だ」
トラックとバスを飛行機の側に持って行き、タケルがその飛行機を見て言う。
「けっこうデけえんだな。何人乗りだ?」
「四十人くらいは乗れそうだ」
「九鬼さん飛ばせるのかい?」
「プロペラ機ならな」
皆が全ての荷物を積み込み終わったところで、俺がジョーイを担いで入り口から入っていく。
「結構広いんだな」
「おかげで荷物が全部積みこめた」
「ああ」
するとジョーイが言う。
「自衛隊ってな何でもできるんですね」
だがタケルが半笑で言う。
「ゴマすっても無理だって、諦めな」
「本当に思ったんです」
「あの人はそう言う人なんだよ」
「そうですか」
そして間もなく飛行機は動き出した。ジョーイはタケル達に任せて、俺は操縦席へと向かう。クキの隣りが空いていたので、俺はそこに座って外を見た。
「ゾンビを片付けた方が良かったか?」
「滑走路は大丈夫そうだ」
飛行機はスピードを増し空に浮かんでいく。ヘリコプターとはまた違う飛び方に興味がわいた。
「ヘリコプターとは違うな。どのくらいで着きそうだ?」
「イスラエル上空を周って、レバノンのベイルートに飛ぶ。大森と愛菜が空港の位置を確認してくれたからな。まあ二時間もかからんだろう」
「そうか。おかしな話だが、こちらに軍隊がいないと良いな」
「いた場合はヒカルが何とかしてくれ。そのまま退散する」
「わかった」
俺達の心配は杞憂に終わり、飛行機は何事もなくベイルートの上空に到着した。クキが空港の上まで降りていくと、空港内にゾンビが侵入しているのが見える。
「くそ。邪魔だな、スリップするかもしれん」
「わかった。ドアを開けても良いか?」
「低空なら開くだろう。まあ気圧の問題があっても、ヒカルなら開けてしまうだろうがな」
「なら、すれすれを飛んでくれ」
「了解」
するとクキが機内に連絡を入れる。
「ヒカルが先に降りる。機体が揺れるぞ」
その言葉を聞いてから俺は扉を開いた。すると外から暴風が吹き込み、飛行機の中の物がびゅうびゅうと飛び回った。滑走路までは三十メートル前後、俺はそのまま仕込み杖を持って扉から飛び出す。
着地してすぐに剣技を発動した。
「強推撃」
ビッシャァ! 空港に居るゾンビが吹き飛ばされて滑走路が開いた。
「飛空円斬」
視界に入ったゾンビが全て倒れ、再び滑走路に侵入して来た飛行機に向かって手を振る。飛行機は車輪を出し、無事に着陸する事が出来たのだった。
ドアから出て来たアビゲイルがゾンビ破壊薬の瓶を持っていたが、動くゾンビがいないのを確認してポケットにしまっていた。再び飛行機に乗り込むと、皆が荷物を運び出すところだった。俺は先にジョーイを掴んで、そのまま外に出る。
「俺達はこれからこの都市のゾンビを駆除しなければならん。お前はそれをどう思う?」
「どうって…」
「命がけでゾンビを駆除して、生存者を救おうとする仲間をどう思うんだ」
「そ、それはもちろん! 素晴らしいと思っていますよ! 私には到底まねできない」
「……そうか。お前には家族はいないのか?」
「昔はいましたが家族は捨てました。私は殺し屋ですよ? もう死んだものと思われているでしょう」
「この破壊が、いつかお前の家族にも及ぶのだぞ?」
「……まあ…もう関係ないですね」
「そうか、分かった。お前にはもう守るものは無いのだな」
「い、いえ! あります! それは家族が生き延びてくれることを祈っています!」
「いや、もういい。忘れてくれ」
皆が荷物を持って下りてきたので、俺はジョーイを掴み上げて連れて行くのだった。コイツと話をしてみて良く分かったが、恐らくはもう心が壊れているのだろう。既に自分の事しか考えられなくなっていて、未だに逃げる事を考えているようだった。
クキが皆に号令を出す。
「よし! 車を探すぞ」
「「「「了解」」」」
タケルを先頭にして、皆が空港の建物に進んで行く。すると空港の内部にゾンビが大量にウロウロしているのが見えた。それを見てアビゲイルが言う。
「ドアの所で、薬を撒いてください! 中のゾンビを殺さないといけません」
アビゲイルの言葉を聞いて、タケルが先に行き空港の中に入って薬の瓶を投げ入れた。そのままドアを閉めて見ていると、空港の中のゾンビ達がバタバタと倒れていくのが見える。
密閉空間だと薬品はすぐ充満していくらしい。ゾンビが倒れたのを確認し、皆が新型ゾンビ破壊薬を空港中に撒いて行った。一階部分は完全に静まり返り、アビゲイルが言う。
「上階には勝手に上がって行きます。空港を抜けて車を入手してきてください」
「あいよ」
タケルとクロサキ、ミオとツバサ、ミナミとマナが空港の正面玄関を抜けて行った。俺達が空港内でしばらく待っていると、スマートフォンに連絡が入りフェンスを壊してくれという。
「クキ。コイツを頼む」
「了解だ」
俺はジョーイをクキに預けて、ロビーを抜けてフェンスの場所に出る。
「真空乱斬」
フェンスがパラバラと落ちて行き、そこからマイクロバスが二台入り込んで来た。タケルが窓を開けて手を振っている。車が飛行機の方に向かって行ったので、俺がクキ達の所へ戻ると四人が話し合っていた。
「どうした?」
クキが答える。
「ん。いや…コイツをここに置いていったらどうだ、という話だ」
「そうするか?」
だがジョーイが言う。
「ま、まってくれ! まだ私には利用価値がある! 私の後ろには組織が付いているんだ! 彼らがファーマー社に敵対するかもしれない! いやむしろファーマー社の悪い奴を暗殺する事だって出来るはずだ!」
それを聞いてオオモリが言う。
「僕らが依頼を出すって事?」
「そうだ。ファーマー社の幹部を殺す依頼を出せばいい」
俺達が顔を見合わせていると、オオモリが言った。
「無くは…ないですよね。でもそんな事が本当に可能なんですか?」
「も、もちろんだ! 金次第だがな」
だがクキが怪訝な顔をして言う。
「組織がそんな危ない橋を渡るのか?」
「い、いや。現に私がサルバトーレに呼ばれている。それに組織は私があなた方を売ろうとしたことは知らないし、円満に仕事が終わったと思っているでしょう」
エイブラハムが首を傾げた。
「そうじゃろうか?」
「そうです! まだ利用価値はある!」
俺達が顔を見合わせて言う。そしてアビゲイルがぽつりと言った。
「毒には毒を…ですか…」
するとクキが言った。
「ふん。まだ生かしといてやろう。だが何かおかしなことがあれば終わりだ」
「も、もちろん金が必要ですが」
するとオオモリが言う。
「それは何とでもなります。まあベイルートの処理が終わったら、じっくり聞くとしましょう」
「頼む…」
俺達はジョーイをまだ連れていく事にした。そして俺達はまた車に荷物を積み込んで、ベイルートの掃除を始めるのだった。




