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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編

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第438話 殺し屋の裏切り

 アビゲイルが開発した、新型ゾンビ破壊薬の威力は凄まじかった。風に乗った薬が広範囲に広がって行くと、地域のゾンビが全て横たわっていくのである。それを見た俺達は、自分達が日本でやったシステムによるセーフティーゾーンの確保より、更に効率が良い事を知った。


 俺達はエルサレムに到着し、そこでも新型ゾンビ薬の散布を行った。その効果は素晴らしく、大量に蠢いていたゾンビ達が次々に静かになっていく。俺達は今、エルサレムのビルの屋上から薬を撒いていた。


「凄いですよ! 博士!」


 皆がその効果を見て興奮していた。俺達はエルサレムの高いビルに登っては、その薬を散布してきたのである。オオモリのシステムではゾンビの動きを止めるだけだったが、これは完全に息の根を止めるのでかなり有効だ。


 だが俺達が必死にその作業をやっている時、それは突然起きた。


 バキッ!


「この野郎!」


 クキがジョーイをいきなり殴ったのである。ジョーイはそれに応戦するように、クキを足で蹴り飛ばした。突然格闘が始まったので、俺とタケルがそれぞれを抑える。


「どうした?」


「コイツ…やりやがった」


 クキが怒りをむき出しにしている。


「なにをだ」


「そうですよ。私は何もしていません」


「そうか…それじゃあ、お前のスマートフォンを出して見せてみろ」


「な、なんです?」


「早く出せ!」


 ジョーイがスマートフォンをポケットから出すと、突然慌てて操作しだした。


「タケル! そいつを止めさせろ!」


 タケルがジョーイの手を押さえた。すると素直にジョーイがタケルにスマートフォンを渡してくる。


「これがどうかしましたか?」


 ジョーイは涼しい顔だ。


「貴様。履歴を消したな?」


「何の事か分かりません」


「見せてみろ」


「組織やいろんな情報がありますからダメですね」


「いいから開けろ!」


「わかりました」


 ジョーイがタケルからスマートフォンを預かり解除した。そして再びタケルに渡し返す。


「何処を見る?」


 そしてクキが言う。


「メールか電話の履歴だ」


「わかった」


 タケルが操作をして答える。


「履歴が無いな。メールも数日前に送ったものだぜ」


「だから言ったでしょう? 何もおかしい事はしていないと」


「履歴を消したんだろう…。お前はどこに電話をしていたんだ?」


「それは…本部ですね」


「殺し屋は、仕事の時、連絡しなかったんじゃなかったのか?」


「いえ。仕事は終わりましたから」


 するとクキが落ち着いて俺に言う。


「ヒカル。わかった。放してくれ」


 俺がクキを離す。


「まったく、日本の自衛隊は神経質すぎるんじゃないですか?」


「ならまずは、そのポケットに入っているゾンビ破壊薬をこちらによこせ」


 スッとジョーイがポケットからアンプルを取り出す。


「はい」


「これをどうしようとしていた?」


「もちろん。皆さんと一緒に撒こうとしていました」


「……」


 どうやらクキの思い違いだったようだ。だがクキはジョーイを睨みつけて言う。


「お前の軽率な行動が、このチームを危険に晒すんだぞ。分かっているのか?」


「私はチームじゃありませんが? 仕事を依頼されただけの案内人です。まあ今は従うしかなさそうですけどね」


「…今度、怪しいマネをしたら、どうなるか分かってるな?」


「ええ。肝に銘じます」


 と、話が終わったかのように思えた時だった。


「あー、ちょっといいですか?」


 オオモリがのんびり手を挙げる。


「なんだ?」


「履歴なんて消しても、一発で復活出来ますけど?」


 するとクキとジョーイが声を合わせて言う。


「「なに?」」


「武さん。そのスマホこっちに下さい」


 だが慌ててジョーイが奪い返そうとする。


「ちょ、ちょちょっ!」


 だが力でタケルに勝てるわけがなかった。


「ほらほら。とりあえず無実が証明されれば返すよ」


 そう言ってオオモリが、ノートパソコンを取り出してジョーイのスマートフォンにつなげた。そして直ぐに言う。


「履歴消してますね。電話ですか? メールはしていないようです。内容が残りますからね」


 そしてクキが言う。


「何処に電話している?」


「ちょっと待ってください。えっと、国際電話…」


 そしてオオモリが固まる。


「トルコのイスタンブール。かけ先は…ファーマーの支社です…」


 それを聞いて皆がピリ着いた。ジョーイが突然駆け出そうとしたが、タケルがちょいと足を引っかけて転ばせ、馬乗りになる。


「おいおい。何処に行こうってんだ」


「ま、まってくれ! 出来心だった!」


 クキがつかつかと歩いて来て、ホルダーから銃を抜きジョーイの眉間に突き付けた。


 だが俺は咄嗟にクキの手を掴み、その手を空に向けた。


 パン!


 ギリギリのところで殺すのは防げたらしい。


 だがそのままクキが言う。


「おまえ、ファーマー社か!」


「ち、違う! 俺はファーマー社じゃない!」


「ならなんで、ファーマー社に電話した!」


「ふ、普通にネットで調べれば出て来る!」


 クキがオオモリを見る。


「間違いないです。ホームページ上に電話がありました。まあ…会社の代表電話みたいですけど、会社概要の真ん中あたりに電話番号がありますね」


 皆がざわついた。


「なぜ電話した」


「……」


「答えろ。ファーマー社なら今ここで殺す」


「ち、違う。分かった…話す」


 そして俺が言う。


「タケル放してやれ。何かあれば俺が止める」


「あいよ」


 タケルが手を解くと、ジョーイが上半身を起こして言う。


「本当にファーマー社じゃない。もし俺がファーマー社なら、会社の代表電話になんか電話をかけるはずがない」


「わからんぞ」


「本当だ。まあ信じてくれと言ったところで、信じてはもらえんだろうが…」


「言え」


「俺はもう殺し屋稼業に、嫌気がさしてたんだよ」


「それとファーマー社に何の関係がある?」


「最初は本当に興味本位だった。だけど世界中でこんなことが起きている時に、あんたらについて行けば……金になると思ったんだ」


「いつそう思った?」


 するとジョーイは深くため息をついて、元の口調に戻った。


「それはあなた方が、ゾンビ破壊薬の話を始めた頃からです。間違いなくこれは金になると思いました。それを餌にして、ファーマー社をゆすれば金がとれると思ったんです」


「それで電話をしたのか?」


「咄嗟だったものですから、とにかく一番近い場所にあるファーマー社をネットで探しました。するとホームページが出て来て、会社概要にその番号があったんですよ」


 その表情と緊張などを見ても、嘘は言っていないようだった。


「クキ…どうやら嘘は言っていない」


「わかるのか?」


「ああ」


 そして俺はしゃがみ込み、ジョーイを覗き込んで言う。


「だがそれはそれだ。お前はファーマー社に何を話した?」


「……それは、ゾンビの事だが…」


「なにをだ?」


「会社の受付が出て、ゾンビについての情報を知っている。そしてそれを破壊する薬も持っている。もしその事が知りたければ、しかるべき部署から折り返し電話をかけて来いと言いました」


「相手はどう答えた?」


 ジョーイが少し苦笑して言う。


「世の中で出回っているデマでございますので、お取次ぎする事は出来ませんと言っていた」


「なんで、お前の電話がつながる?」


「組織で用意した衛星電話なんだ。どんな地域でも俺の居場所が分かるようにGPSがついている」


 するとオオモリが言う。


「それはまずいですね。愛菜さん、直ぐ衛星に繋いでもらえますか?」


「了解よ」


 オオモリがパソコンを繋ぎ操作して言う。


「これで当面の攪乱は出来ました。後はそのスマホを壊せばいい」


 だがそれにクロサキが言う。


「いえ。大森さん。こちらにはヒカルさんがいます。敵をおびき寄せましょう」


「えっ?」


 すると皆がクロサキを見る。


「デマだと思っていれば何も仕掛けてはこないでしょう。ですがファーマー社がこの情報を真実と判断すれば、必ず軍隊を送り込んで来ると思います。本拠地に攻め入るより、おびき寄せた方が倒しやすいですし、何らかの情報がつかめるかもしれません。イスラエル周辺のゾンビを除去しつつ、敵をおびき寄せて始末すればいいのではありませんか?」


 それを聞いてクキが答えた。


「来ると分かっていれば、対処しやすいか…かもしれんな」


「私はどうなります?」


 ジョーイが言うとクキが冷酷な目で言う。


「居てもらうさ。おまえはファーマー社を呼び寄せるオトリだからな。そして実際にファーマー社に接触した時は、お前をファーマー社の元へ送り込んでやろう」


「私を?」


「あわよくば、お前をゾンビ化兵にでもしてくれるだろうよ」


「ま、まってくれ! 出来心だったんんだ!」


「だが、俺が気づかなけりゃ皆を危険に晒してた」


「それは…」


「金で俺達を売ろうとしたんだろう?」


「違います! この薬さえあればいいと思っていた!」


「いやいや。この薬を渡すのも処刑には十分な理由だ」


「助けてくれ。出来心だったんだ! 殺し屋から足を洗いたかったんです!」


「しらねえよ。武! コイツを縛っとけ」


「あいよ」


 ジョーイは後ろ手に腕と肘を縛られて、完全に反抗する事が出来なくなった。


「お前が要らなくなったら、ゾンビの餌にでもしてやるよ」


「や、やめてください! すみませんでした!」


「ならば今後、俺達の神経を逆なでする事はしない事だ。それに逃げようなんて思うなよ。お前がどんなに巧妙に逃げようとしても、ヒカルから逃れる事は絶対に出来ない。たとえお前が宇宙に逃げても、お前はヒカルに殺される」


「分かりました…逃げません」


 そして俺達は屋上から地上へ戻りバスとトレーラーに分乗して、ヨルダンのアンマンに向けて出発する。ジョーイは血の気を失い、ただバスの床に座っていた。


 それに対してミオが言った。


「あなた。一番怒らせちゃダメな人を怒らせたわ。改心すればまだ見込みはあるけど、本気でゾンビの餌にされちゃうわよ」


「…いやだ…いやだ…」


 その後、誰もジョーイに話しかける事は無かった。大量に倒れているゾンビの道を、俺達の車はゆっくりと進んで行くのだった。

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― 新着の感想 ―
緑豆空先生のご作品には、世界観がシビアなものであってすら 心底なクズ描写は滅多に無いように感じております。が そのなかでもかなーり、かなーりなアカン奴!
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