第437話 ゾンビ破壊新薬の超絶効果
アビゲイルが開発した、新型ゾンビ破壊薬は次々に瓶になって出て来た。俺達はそれを次々と出荷用の箱に入れて、工場の端に並べて行く。とにかくこの工場の電源が生きている限りは、ギリギリまで製造を続けるという。
そして想定していた通りに、二時間ほどで薬品工場はストップしてしまった。
積み上がった段ボールを見てタケルが言う。
「こんなにバスに乗らねえぞ」
それにはクキが答える。
「敷地にファーマー社の薬品運搬トラックがあった。あれに積み込むとしよう」
「んじゃ。俺がトラックを回す」
するとミナミが言う。
「じゃあ私も一緒に」
そうして二人は工場を出て行った。
「じゃあ、出荷用入り口に荷物を運ぶぞ」
そこでツバサが言う。
「台車あるから、それに積んで運ぶと良いわ」
「そうしよう」
俺達は段ボールを次々に台車に乗せ、それを搬入口に運んで行った。すると搬入口の外からガンガン! と叩く音がする。
「トラック持って来たぞ!」
オオモリが入り口の脇で何かを操作して言った。
「シャッターが開かないです」
「仕方ない」
俺が巨大なシャッターの下に手をかけて、思いっきり上に投げるように開いた。
ガン! とシャッターが十メートル上の天井にめり込む。
「なっ…なんですか、その力は?」
「なんでもない。扉が邪魔だから開いただけだ」
「意味が分かりません…」
ジョーイには慣れてもらうしかないだろう。俺達はトラックの後ろのシャッターを開けて、次々に新型ゾンビ破壊薬をトラックに積み込んで行った。全てを積み終えて、クキがみんなに言う。
「トラックとマイクロバスに分かれて行こう。ヒカルは全体が見渡せるマイクロバスに乗ってくれ」
「わかった」
「それでアビゲイル博士。この薬をどうすればいいんです?」
「極端に揮発性が高く、その粒子がばら撒かれる仕組みになっています。瓶かアンプルに詰め込みましたので、それを地面に投げつけて割るか、ふたを開けて振りまいてください」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
そしてアビゲイルは付け加える。
「その前にミスターヒカルと大森さんに頼みがあります」
「なんだ?」
「はい?」
「このデータと現物をこの工場に残したくありません。万が一ファーマー社にバレたら対策を講じられます」
それを聞いてオオモリが言う。
「分かりました。データは復旧不可能な状態にしていきます」
「なら、それが終わった後で、俺が現物を工場ごと消し去ろう」
「お願いします」
そしてオオモリはアビゲイルが触っていたパソコンに、自分のパソコンを連結して何かをやっている。それが全て終わると、オオモリが俺に言って来た。
「まあヒカルさんが焼くなら必要ないんでしょうけど、念のため復元不可能な状態にしてきました」
「よし。ならトラックとバスを出せ」
俺が言うと、トラックに続いてバスが敷地から出て行った。
俺は工場の入り口に立って後ろを振り返る。
「剛龍爆雷斬」
俺の日本刀から小さな火の玉が飛んでいき、それが工場に飛びこんだ直後。
ドゥ!
工場の建屋が吹き飛び、跡地にクレーターが残った。それを確認して俺がマイクロバスに乗り込む。
するとジョーイが聞いて来た。
「爆弾を使ったのですか?」
「違う」
ジョーイの頭に疑問符が浮かんだようだが、俺は特に何も言わなかった。だが俺が工場を爆破したことによって、その音を聞きつけたゾンビ共がこちらに向かってきている。
直ぐに車を止めて俺がトラックの前に行くと、トラックの荷台からアビゲイルが降りて来た。
「ヒカルさん。やって見ますので一緒に来ていただけますか?」
「分かった」
俺が護衛につきアビゲイルがゾンビの前に行く。そして手にした瓶を俺に渡して来た。
「これをおもいっきりゾンビの足元に投げつけてください」
「よし」
俺はアビゲイルに言われた通り、その瓶を先頭のゾンビ足元に投げつける。
バリン!
音をたてて、その薬瓶が割れた。
次の瞬間。
バタ! バタバタバタバタバタ!
波が引いて行くように、薬品を中心にゾンビが倒れていく。
「ミスターヒカル。あの風のようなものを起こせますか?」
俺が日本刀をかまえる。
「推撃!」
俺は推撃を、今倒れたゾンビの方角に向けて撃ちだした。すると風が吹いた方向に向かって、ゾンビがパタパタと倒れていく。あっという間に、路上に集まっていたゾンビが倒れて行った。
「成功です」
「凄いじゃないか」
「ミスターヒカルに言われると照れますね」
そして俺がトラックの方に向かって手を振る。するとトラックとマイクロバスがこちらに進んで来た。早速、仲間達が降りて来て俺達に向かって言った。
「凄い! 凄い効果ですね!」
ミオが喜んで言う。それを見ていたマナが言った。
「じゃあさ、この薬を海側の高い建物の屋上からばら撒いたらいいんじゃない? 海風に乗って市街地に流れていくでしょ?」
アビゲイルが答える。
「それは名案です。ミス愛菜」
俺がそれに答える。
「そうと決まればすぐにやった方が良い」
皆が車に戻り、直ぐにジョーイに伝える。
「海側の高い建物を目指してくれ」
「ならばヒ〇トンホテルに向かいましょう。あそこが一番高い」
そして俺達は、海沿いにあるホテルに向かい十五分ほどして到着した。そこは十七階ほどある建物で、俺達がバスを降りると海側から強い風が吹いている。ゾンビがうろついていたので、俺が飛空円斬で全てを斬り捨てて言う。
「じゃあ薬を持って上がるぞ」
俺が言うと皆が数個の段ボールを持った。だがそこでアビゲイルが言う。
「一箱で充分ですよ」
そう言われて皆が段ボールを置いた。そこでジョーイが言う。
「なら段ボールを積んだトラックを見張る人が必要ですね。私が見張っていましょうか?」
それにクキが答える。
「いや。見張りは、タケルとミナミとツバサにお願いして良いか?」
「ああ良いぜ」
「ゾンビが来たら斬っておくわ」
「まあ私が音で分かるしね」
するとジョーイが言う。
「なら私はマイクロバスで待ちましょう」
しかしそれもクキが首を振って言う。
「いや。ジョーイ、あんたも一緒に運んでくれるか? 男手があった方が何かと助かる」
「……わかりました。その通りですね」
「タケル。万が一があったら銃を撃て。直ぐに来る」
「わかった」
そうして俺達は、タケルとミナミとツバサをそこに残していく。ホテルに入ると中もゾンビだらけだったが、アビゲイルがみんなに言う。
「室内ならアンプルが使えると思うわ」
アビゲイルはアンプルをパキッ! と割ってゾンビに向かって放り投げる。するとこちらに向かっていたゾンビがパタパタと倒れて行った。
「空調が動けばいいんだけど…」
「とにかく上に上るぞ」
するとクキが言う。
「俺が殿を務める。ヒカルは先頭でゾンビを処理してくれ」
「了解だ」
俺が先を行き、刺突閃でゾンビを仕留めながら進んだ。そしてアビゲイルが瓶のふたを開けて、ポイポイと各階層の入り口に放り投げていく。屋上につくまで十七個の瓶を使った。
屋上は海風が強く、陸の方に向かってビュービューと音をたてて吹いていた。
「いいわ。凄くいい条件! 瓶を開けて、縁から振りまいて!」
皆がアビゲイルに言われ、ホテルの端から端まで散らばり薬を振りまいて行く。そこでクロサキがアビゲイルに聞いた。
「これで本当に利くのですか? かなり微量だと思われるのですが」
「問題ありません。ナノより小さな粒子ですから、ひと瓶で数百兆の粒子が飛びます」
「凄い…」
段ボール半分くらいを撒いた時に、アビゲイルが言った。
「このくらいで十分だと思います。後は風が運ぶでしょう」
「これで?」
「初めて完成した薬品ではありますが、計算上は過剰に撒いたと思います」
「へえ…」
そして俺達は、段ボールを持って再びホテルの中へと戻る。するとホテルの中は完全に静まり返っており、俺の気配感知にも全くゾンビの気配がしなかった。
「凄いな…ゾンビの気配が全くなくなった」
「室内全域にいきわたったのです。このホテルを拠点に、これからもじわりじわりと広がると思います。この薬品は揮発性も凄いですが、物に付着すると除菌効果のようにずっと効果が続きますから」
それを聞いたオオモリが目を丸くして言う。
「薬品でセーフティーゾーンが作れるんですね! 凄い! 流石はノー〇ル賞の博士です」
「それもこれも、日本におられる高島博士のおかげ。後はヒカルさんが私の体を変えたおかげです」
「なるほどです」
それを聞いていたジョーイが言う。
「体を変えた?」
「ええ」
「言っている意味がわかりません」
それをクキが制す。
「体質改善のトレーニングみたいなもんだ。そうですよね? 博士」
「はい」
「なるほど」
そして俺達はホテルを出てタケル達の所に行く。するとタケル達は暇そうにしていた。
「なーんもおきなかったぜ」
「それが一番だろう?」
「まあな」
そして俺達は、またバスとトラックに乗り込んで都市の方に走り出すのだった。




