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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編

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第436話 テルアビブの薬品工場にて

 エルサレムに近づけば近づくほど、ゾンビの数は増え続け生存者の可能性は少なくなって行った。まだ国連が動いている様子はなく、イスラエル軍の戦闘車両の残骸があちこちに放置してある。


「酷いありさまですね」


「ゾンビにやられるって言うのは、こういう事だよ」


 ジョーイが呆然としているが、俺達が日本でよく見た光景だった。生きる者はほとんどおらずに、ただゾンビが徘徊する世界。こうなってしまうと、確かにファーマー社がやるように核でしか始末出来ないかもしれない。だがそうしてしまえば、避難している生存者ごと全てを焼き尽くしてしまうだろう。


 ミオが言う。


「ゾンビ破壊薬を日本から大量輸送出来ればいいのに…」


 クキが答える。


「日本から飛行機が飛んでしまえば、周辺にいる軍隊から撃墜されてしまう」


「それが悔しいわ。手立てがあるというのに、それを行使できないというのは辛い」


 だが、それを聞いていたアビゲイルが言う。


「まだ手持ちの薬品はありますか?」


「あるわ」


 それを聞いたアビゲイルは、オオモリにスマホを見せてくれと言った。


「どうぞ」


「ミスター大森。ネットを繋げられる?」


「愛菜さん。衛星につなげてください」


「はい」


 そしてスマホを衛星の電波でつないでアビゲイルが見始める。スルスルと画面を流し、どうやら目当てのものを見つけたらしかった。


「ではエルサレムを通過して、テルアビブに行けるかしら?」


「どうして?」


「そこにファーマー社の大型薬品工場があるはず。もしかすると物資が残っているかもしれないわ。それがあれば破壊薬は作れる」


「そうなの?」


「ええ。しかもジュネーブの研究所で、オリジナルと最初のゾンビ株を手に入れている。それがあれば、もっと確実な破壊薬が作れると思うわ」


 皆が顔を合わせた。


 そしてタケルが言う。


「んじゃ、やるしかねえじゃん」


 ミオも頷いて答える。


「そうね。行きましょう」


 すると殺し屋のジョーイが目を丸くして言った。


「お…そんな簡単に行動を決めてしまうのですか?」


 すると、タケルとミオが顔を見合わせてジョーイに言う。


「だって、一刻を争うじゃねえか」


「そうね。しかもアビゲイル博士は、もっと強いのを作れると言ったわ」


「物資が無いかもしれませんよ?」


「だから行ってみんだよ。見ねえと分らねえじゃねえか」


「この…ゾンビの中を?」


「それはなんとかなるって、それより今は数少ない生存者を救えるかどうかだろ?」


「人が生きているか分からないのですよ?」


「生きてたら孤立して、今にも死にそうな目に合ってるんだぜ。今やらないでいつやる?」


「……」


 クキがジョーイに言う。


「あんたは慎重だ。だからこそ生きて来れた。だけど命がけでやらないと達成できない事もある、僅かな望みでも俺達はそれにかけて生き延びて来た」


「命がけで…生き延びるですか…」


「そう言う事だ」


 そして俺がオオモリに聞いた。


「エルサレムからテルアビブまでどのくらいの距離があるんだ?」


「えーっと、六十五キロですね。一時間くらいで行くんじゃないですか?」


「直ぐじゃないか。ならばさっさと見に行こう」


 それを聞いてタケルがジョーイに言う。


「ってこった」


「分かりました。その判断の速さには脱帽します」


 ミナミがジョーイに言った。


「私達は散々経験して来たからよ。それに打開策や未来が見えているから、その時よりずっとマシなの。全く希望もなく、手探りでやっていた頃より凄く楽だわ」


「楽…。この状況が?」


「そうね。楽ね」


「本当に面白い人達だ。ではテルアビブまでの道は分かっています。ドン・サルバトーレが私を名指ししたのはこのあたりに詳しいからです。一時間かからずにお連れしますよ」


「よろしく頼む」


 そして俺達の乗っているマイクロバスは、幅の広い街道をひた走る。日本とは違って、あまり建物は無くゾンビの数は格段に減った。そのおかげでマイクロバスは、それなりの速度を出せるようだった。


 ジョーイの言うとおりに、目的地まで四十分ほどで到着してしまう。だがテルアビブに入ったあたりから、またゾンビがわさわさと増えだしたのだった。


「やはりイスラエルは日本と同じ状況だ」


 クキが言うと、アビゲイルが申し訳なさそうに言う。


「ファーマー社が政府を通じて薬品をばら撒いた地域ですから、多くの人がゾンビ因子を体内に取り込んでいたでしょう。この状況を見ても、日本がどれだけ悲惨だったのかは想像できます」


「だが、生存者がいるからな。彼らがいる限り、日本は滅びないさ」


 それを聞いていたオオモリが言う。


「イスラエルにも携帯の基地局ありますよね? それらをどうにか出来ないですかね?」


「携帯の基地局で何が出来るんですか?」


 ジョーイが聞いて来る。だがそれをクキが制した。


「まあ、こっちの話だ。そしてオオモリ、それは今は考えなくていい」


「わかりました」


 それを聞いていたマナが言う。


「発電所も動いてないでしょうし」


 その話はそれで終わった。何故かクキは話を中断させ、オオモリももう話す事は無い。そして俺達は目的の、ファーマー社薬品工場へと到着した。


「どうやら建物は無事なようだぜ」


「そのようね」


「その前に、この大量のゾンビを始末する。ジョーイはクラクションを頼む」


「わかりました」


 プープーとクラクションを鳴らすと、またゾンビ達が集まって来た。それを剣技で始末し工場周辺を綺麗にしていく。しばらくはゾンビがやってこない程度にまでは減らした。


「よし、工場に入るぞ」


 入り口に簡単な車止めがあるが、ゾンビはそれも突破して中に入り込んでいるようだ。


「ジョーイ。入り口をマイクロバスで封鎖してくれ」


「わかりました」


 入り口をマイクロバスで塞ぎ、遅れてやってくるかもしれないゾンビを止めるようにした。


 そして俺達はバスを降り、敷地内にいるゾンビを処理し始める。そのまま工場の入り口に辿り着くと、自動ドアが締めきってあり鍵がかけてあるようだった。それをみてジョーイが聞いて来た。


「壊すのですか?」


「いや。新しいゾンビが入るとやっかいだから上から入る」


「上から?」


「こうやってだ」


 俺はジョーイとクキを掴んで、二階に見えるベランダに飛んだ。


「わわっ!」


 降りればベランダの先の窓に、ゾンビがうろついているのが見えた。俺達が現れた事で、ガラスに向かってガリガリし始める。


「ぞ、ゾンビですよ!」


 それにクキが答える。


「騒ぐな。大したことは無い」


 それを耳にしながら再び飛び降り、次々に仲間達を二階のベランダに引き上げた。全員を二階に連れてくると、ガラスの中のゾンビはだいぶ増えている。目の前の得物を食ってやろうと、ガラス窓をガリガリとやっていた。


「従業員ですね」


 アビゲイルが悲しそうに言った。そしてタケルとミナミが、窓ガラスを割って飛び込む。直ぐにゾンビを潰し始め俺達を呼んだ。


「入っていいぜ」


 アビゲイルとエイブラハムが中に入り、俺達も続いて入った。


「本当にこの建物の中に入るのですか?」


 ジョーイの問いに俺が答える


「怖いならベランダで待ってるといい。殺し屋ならそんなにビビらなくていいだろう?」


「それとこれは全く違う。死なない人間なんて銃無しじゃ、どうしようもない」


「なら黙ってついてこい」


「わかった」


 そして俺達が工場に潜入していく。アビゲイル曰く、ここは純粋に普通の人々が働く工場らしい。通路を歩いて行くと、ガラスの中に研究施設が見えて来る。部屋の中に入り、アビゲイルが電源を入れようとしたが全く動く気配は無かった。


 するとアビゲイルが言う。


「非常電源の発電装置がどこかにあります。それを動かせばなんとかなるかと」


 それにクキが答えた。


「俺はここに残る。ヒカルと翼、愛菜と大森で探してきてくれ」


 クキは何かに警戒しているようだ。


「任せておけ。ツバサ、マナ、オオモリ行くぞ」


 するとオオモリが言う。


「事務所に向かいましょう。恐らくそこで分かります」


「了解だ」


 俺達はその場所を後にして事務所を探した。すると一階にそれらしい場所が見えて来る。大森は自分の鞄からポータブル電源とやらを取り出し、そこに置いてあるパソコンにつないだ。


「恐らくこれが総務系のパソコンです」


「なんでわかる?」


「なんででしょう? レベルアップしてから、機器が手に取るように分かるんです」


「凄いものだ」


 そしてすぐにオオモリが言う。


「ありました。地下ですね。非常電源の発電室があります」


「行こう」


 地下に降りる階段を見つけると、その先は真っ暗だった。そして俺が言う。


「地下には二体。通常のゾンビだ」


「試験体が居なくて良かったわ」


「だが。真っ暗だ」


 するとオオモリがスマートフォンを取り出して言う。


「ライト有ります」


「よし、行くぞ」


 俺達が地下に降りるとやはり通路は暗い。オオモリがライトをつけると、通路の向こうからゾンビが二体やって来た。剣技で倒し、俺達はそのまま地下通路を進んで行く。


「ここです」


 その部屋に入ると、なにやら機械が置いてありそれを見てマナが言う。


「これだわ」


 パチパチと操作していくと、ブーンと音が鳴り始め館内の非常灯が付いた。赤く灯る非常灯で、辺りが見渡せるようになる。


「これでいいわ」


 そして俺達は皆がいるところに戻る。


 既にアビゲイルとエイブラハムが作業を続けており、それを皆が見ている。だがクキは少し離れたところで、俯瞰して全体を眺めていた。


「おう、戻ったか」


「ああ」


「電源はどのぐらいもつだろうな?」


 それにはマナが答えた。


「長くて四時間だけど、工場をうごかすとなると二時間もつかな? って感じ?」


「そうか」


 そしてクキが後ろからアビゲイルに言う。


「博士。機械は二時間くらいしか動かんらしい」


「充分だわ。あなた方が持って来た完成品があるのだから、後は調合をするだけ。で、次は物資の在庫を確認してきてほしいの」


 するとオオモリが言う。


「この会社のパソコンからデータ引き抜きましたよ。ノートに繋ぐんで待ってください」


「本当に凄い子」


 そしてオオモリが自分のノートパソコンを表示して、調合をしているアビゲイルの所に行って置いた。作業の手を止めて、アビゲイルがノートパソコンのデータを見る。


「あるわ。必要な物はそろっている。急いでやりましょう」


 アビゲイルは再び作業を始めるのだった。こうなれば俺達は待つ事しかできない。


「皆は少し休め」


「「「「「「「はい」」」」」」」


 だがクキが気を抜いていないようなので、俺も警戒を続ける事にする。どうやら俺達の反応を見て、クロサキも気を張っているようだった。それから一時間もしないうちにアビゲイルが言う。


「出来たわ。自分でも信じられない」


 それを聞いてミナミが言う。


「凄い頭の冴えになったんでしょう? それはゾンビ討伐でレベルが上がってるからよ」


「一緒にゾンビ討伐をしてよかった」


「老いぼれのワシですら、若返ったような気がするのじゃ」


「それは良かったわ」


 だがそこでジョーイが言う。


「私も一緒にやっていますが変化はないようです」


 それはそうだ。ジョーイにはゾンビ除去の施術を施していない。だが何故かその事を誰もジョーイに教えていないようだ。するとタケルがあいまいな事を言う。


「人それぞれなんだ」


「そうですか…」


 そしてアビゲイルが言う。


「とにかく資材の確認と運搬をします。皆さん手伝ってください」


「「「「「「はい」」」」」」


 アビゲイルの指示に従い、資材置き場からせっせと工場へと物資を運んだ。


「うーん。でも工場のラインの動かし方が分からないわ」


 アビゲイルの言葉にオオモリが答える。


「僕が分かりますよ。日本で散々見てきましたから」


「ほんとに、あなたって子は凄いのね」


「そんな事無いですよ」


 そしてオオモリが機械を動かし始め、アビゲイルとエイブラハムがあちこちで薬品を流し始めた。


 ゴウウンゴウン! と機械が動き始め、薬品のラインが稼働し始めるのだった。

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