第435話 殺し屋の心境
仲間達が鈍器や刀でゾンビを倒しているのに対し、殺し屋のジョーイは銃で対応するしかなかった。その為かマナがせっかくヘイトで集めても、ジョーイの銃声にゾンビが呼ばれてしまう。更には手持ちの弾丸が無くなり、ミナミから助けてもらっている始末だった。
それを見たタケルが俺に言う。
「殺し屋っつっても、ゾンビにゃあ苦労するんだな」
「人間は生き返っては来ないからな。それに銃を百発百中で頭に撃ち込むことが出来ていない。それでは弾丸の無駄遣いになってしまう」
「なんでだよ。九鬼さんが銃でやる時は、ゾンビ一体に二発は絶対に使わねえし、徹甲弾を使って数体抜きしたりするじゃねえか」
「単純に力量の差だ。それだけクキが尋常じゃないという事だ」
「そうか…自衛隊の特殊部隊って、すげえな…」
そのクキも、今では銃剣や鉄パイプを使ってゾンビを処理している。それがパーティーでゾンビをやる時に効率がいいと分っているのだ。
「よーし。このあたりはこれで終わりだ」
クキが言うと皆が集まって来る。
そしてジョーイが皆に謝った。
「すまなかったです。私が銃を使わねば、もっとスムーズに終わってましたね」
それにはクキが答えた。
「銃は音を出すからな。直ぐにゾンビが寄って来る」
「そのようですね。得物でやるのが理にかなっているのだと知りました。ですが、よほどの大群が来たら、軍隊並みの火力が無いと守れないでしょうね」
「そうなったら、それでも足りないだろうがな」
「やはり…核ですか?」
「そうだな。だが、それはファーマー社のやり口だ」
「生きている人間もろとも証拠隠滅ですか。確かに理にかなっていますね、だが許せない行為だ」
「殺し屋でもそう思うのかい?」
「私達は、依頼を受けた対象以外は殺しません」
「だが無実の人も殺しただろう?」
「それは否定しません。マフィアの証人暗殺なども受けますから」
するとクキが考え込むような仕草をする。何かに気付いてジョーイが言う。
「まあ、大小はあれど、私もやっている事は変わりませんが…」
そこでクキが首を振った。
「俺は自衛隊を辞めて、傭兵をやっていたんだ。それこそあちこち飛び回り、最後はファーマー社から雇われていた。その前までは紛争地帯で戦っていて、局地の前線に行けば女子供も戦闘員だった。だが日本でゾンビに感染した人達は無実の人間だ。俺はそれを、もう救いの見込みがないと指示されて沢山殺した。同郷の日本人をな」
「救いがない話ですね」
「もちろん俺は救われようなんて思っていないさ。何処か酷い場所で、野良犬にでも食われて死ぬくらいが丁度いいと思っている。ただな、その罪滅ぼしなんて言ったらおこがましいかもしれんが、今は少しでも生き延びる可能性のある人らを救いたいと思っているんだ」
「共に戦いたい仲間が出来たから? ですか?」
「それもある。ゾンビ化を防ぐ方法があると知ってからは、普通の生きた人間だと思い出したんだよ。そこから、俺の生き方が決まったんだ」
「そうなんですね」
「それに…いままで殺した人間の顔が今でもちらつくんだよ。あんたはそう言う事は無いかい?」
「…そうなったら、この家業はおしまいです。なるほど、そう言う事でしたか」
「そういうことだ」
どうやら二人にしか分からない事があるらしい。だが自分の正義などいつどうなるか分からない。俺も多くのファーマー社や軍人を殺して来たが、それは俺に正義があるからだと思っている。仲間を守るためならば、俺は自分の手を汚すことをいとわない。
そこで俺が言った。
「この中では、俺が一番人を殺した。それこそ数千の単位でだ。だが俺は自分の手を汚す事をどうも思っていない、仲間を守るためならば無実の相手でも殺すかもしれない。お前達にはお前達の状況や理由があったと思うが、今なにが一番大切なのかを心に持つ事が大事だと俺は思う。クキは俺達の指揮を執り、命がけで戦っている。元は俺達の敵だったクキが、俺達の為に命を張っている。だから俺はクキに生きていてほしいと思う、恐らくここにいる人間は全員そう思っている。殺した人間を忘れろとは言わんが、未来の俺達を救う為にお前はいるんだ。だから俺が、どこか酷いところで野良犬に食われて死ぬような事が無いようにしてやるさ」
俺がそう言うと、スッとクキが背を向けて言う。
「まあ、勝手にしてくれ」
そこでタケルが言う。
「九鬼さんはよ、俺達みんなに看取られて大往生すんだよ。野良犬にゃあ、勿体ねえ御馳走だぜ。それに俺は思ってる、自分が置かれた状況が九鬼さんと一緒だったら、同じことをしていたってな。そうならずに済んでるのが、ヒカルの存在なんだよ。俺達はそうなる前にヒカルと知り合った。九鬼さんはその後に知り合った。ただそれだけの違いだろ? 死んだ人らには許してもらえるとは思えねえが、それこそジジイになるまで南無阿弥陀仏でも唱えていればいいだろ?」
エイブラハムが笑って言う。
「そう言う事じゃな、ミスター九鬼。仲間が生きろと言ってるんじゃから、彼らの為に生きる事が罪滅ぼしじゃて」
「ありがとうございます。ドクター」
するとジョーイが苦笑いをしながら言う。
「羨ましいですね。仲間…ですか。一人で殺しをやって来た私には眩しすぎる」
そこでアビゲイルが言う。
「ミスターヒカルが、一番殺したなんて言ってますがそれは違いますよ。一番人を殺したのは私です。私ももう生きていたくは無かった。だけどこの人達と巡り合って考えが変わりました。それこそ私もミスター九鬼と同じ気持ちです。生きているうちに一人でも多くの人を救いたい。それだけの想いです」
「博士もそうなのですね?」
「ええ」
「実は私は自分が不思議だったのです。何故あなた方について行こうなんて思ったんだか自分でも良く分からなかったのです。ですが、今の話でなんとなく、自分の衝動が分かって来たように思います。まだはっきりはしませんが、ここからもあなた方の戦いを見させてもらいます」
「じゃ、行こうか」
するとジョーイが言う。
「この先にあるのは、かなり大きな都市です。今までの経緯からしても、信じられない数のゾンビがいると思います。どうするのかは分かりませんが、このまま進んでいいのですね?」
「行ってくれ」
「わかりました」
そして俺達のマイクロバスは、イスラエルの中心に向かっていく。それから一時間ちょっとしたころで、街道や道沿いにぽろぽろとゾンビが歩きだしていた。
「いよいよだ」
そのままマイクロバスを進めていると、凄い数のゾンビが見えて来る。
「凄いゾンビの数です。それでも今まで通りに処理をするのですか? いや…できるのですか?」
だがマイクロバスの中の皆が落ち着き払っている。そしてタケルが代表して言った。
「こんな数はちょっとなんとも出来ねえ。そろっそろ御大の出番だな」
そしてクキが言う。
「今までの経緯を見たから、俺達のレベルというものが分かったと思う。だが本当の凄いレベルをこれから見られるぞ」
「凄いレベルですか?」
俺はジョーイに言う。
「クラクションを鳴らせ」
「えっ? ゾンビが寄ってきますよ? あんなに大量にいるのに?」
するとその横にタケルが行って勝手に鳴らした。
プ――――――――――――!
するとゾンビの群れが一斉にこっちを向く。
「ほ、本当に鳴らした…。来ますよ! 銃を使うんですか?」
「まあ見てろって」
そして俺が一人バスを降りて、眼前に集まって来る大量のゾンビに向かい合う。辺りを埋め尽くし、まるで波のように押し寄せるゾンビにジョーイの顔が引きつっていた。
俺はゾンビをギリギリまで引き寄せる。
「あ、あんた! 死ぬぞ!」
ジョーイが大きな声で叫んだ。
「飛空円斬」
視界にとらえたゾンビが全て倒れた。
「えーーーー! ど、どういうことです??」
そしてタケルが言う。
「言ったろ。格が違うって」
そして俺は振り向いて言う。
「クラクションを鳴らしながら、俺についてこい!」
ジョーイは唖然としながらも、クラクションを鳴らしてマイクロバスを進め始めるのだった。




