第434話 ゾンビ散らばるイスラエルの街道
小さな村を奥に進むと、どうやら建物の中に避難して生きている人がいた。とにかくゾンビを処理しなければ、この村は間違いなく壊滅してしまうだろう。バスを停めると、見える範囲のゾンビがぞろぞろとこちらに向かって来る。
その状況でミオが言う。
「なんとか生き延びている人はいるみたいね」
それを聞いて、ジョーイが言う。
「なんで生きている人がいると分るんですか? あれはゾンビなのでしょう?」
「いや、家の中によ」
「どういうことですか? 家の中が分かるはずないです」
「えーと、分かるとしか言いようがないわ」
「そんな曖昧なもので、ゾンビと戦うのですか?」
「確定だし…」
「それに何故、皆は銃を使わないのですか?」
「弾がもったいないし、経験値も入らないから」
「もったいない…弾が?」
ミオにとって代わってクキが言う。
「ゾンビっていうのはな、それこそ何十万、何百万と増えてしまうんだよ。それを銃の玉で一発ずつ撃っていたら、直ぐに弾が切れてしまうだろう? だから銃は、いざって時にしか使わないのさ」
「意味が分かりません。それではゾンビにやられてしまいます」
そこでタケルが言った。
「とりあえず、おりゃ経験値が欲しいんだ。バスのドアを開けてくれ」
「わかりました」
バスのドアが開くと、痺れを切らしたように皆が降りていく。だがジョーイだけはバスに乗り来んだまま、その様子を眺めるつもりでいるらしい。そこで降りる前にクキがジョーイに言う。
「もし怖いなら、俺達を置いて帰ってもいいぞ」
「まあ…もしあなた達がダメなら、そうさせてもらいます」
「危ないのは、あんたの方だがな」
そう言ってクキが降り、俺が最後に続く。するとジョーイはバスのドアを閉じた。
「まったく慎重な奴だ」
クキが言うも、俺がそれに答える。
「だが生き延びるには、それが一番大事だ」
「そうだな。俺も傭兵時代は、危うきに近寄らずだったよ」
「人は変わるもんだな」
「素人が戦ってるんだ。プロが隠れてちゃ申し訳ないだろう?」
「なるほどな」
マナがヘイトでゾンビを呼び寄せ、タケルとミナミとクロサキがゾンビに単独攻撃を仕掛けていた。ミオとツバサとオオモリがゾンビを倒し、鉄パイプやナイフで頭を潰していく。いつものやり方だが、非常に効率よく経験値を稼いでいた。アビゲイルとエイブラハムは、クキが倒したゾンビの頭をボコボコと叩いている。
俺達が経験値の概念を教えたら、自分達もレベルアップしたいと始めたのである。
とにかくマナがワーワーと騒げばゾンビが寄って来るので、こちらから仕掛けなくてもいい。既にそれがパーティーの形になっており、安全にゾンビを狩る事が出来るのだ。しばらくやっているうちに、ゾンビが寄って来なくなったのでマナが言う。
「もう声が届かないわ。移動しないと」
「よし」
そうして俺達がバスに戻ると、ジョーイがドアを開けてくれた。
「逃げなかったのかい?」
クキが言うとジョーイが苦笑いする。
「危険を感じなかったのでね」
「ゾンビ狩りのやり方は分かったか?」
「とにかく頭をやればいいって事だな。全く危なげなくやっているように見えた」
するとタケルが笑って言う。
「ノーマルゾンビじゃあ経験値が入らねえ。まだまだ狩り足りねえぜ」
「その…経験値というのは何なのです?」
「あー、うーん。レベルアップの為の奴だ」
「言ってる意味が分からないですね」
するとツバサが言う。
「じゃあ、次の地点に行ったら、タケルがレベルアップした人間の力を見せてあげたら? 」
「俺が一人占めして良いのか?」
「見ればわかると思うし、いきなりヒカルじゃなにが起きたか分からないわ」
「あー、そうだな。んじゃ悪いけど俺がもらう」
バスを移動させて、またゾンビがちらほらと歩いている場所に到達した。
「んじゃ、愛菜。ゾンビ集めてくれ」
「わかったわ」
タケルがバスを降り、マナが窓から叫び始める。
「ほら! こっちよ! あつまれ!」
するとゾロゾロとゾンビ達がバスに集まって来る。それを見てジョーイが言った。
「まってください。彼一人でやるのですか?」
俺が答える。
「黙って見ていろ」
俺達が見ていると、タケルがじゃらりとリコが作ってくれたモーニングスターの鎖を垂らす。
タケルは無造作にゾンビに駆け寄り、ビュン! と音をたてて重い鉄球をゾンビの頭に振った。
ボッ! 首から上を消失させてゾンビが倒れる。
ガアアア! とゾンビが数体タケルに駆け寄るが、一瞬で四体のゾンビの頭が弾けた。するとどんどんタケルの周りに集まってきて、俺達の方から見えなくなる。
それを見てジョーイが焦って言う。
「マズいんじゃないですか?」
だが俺は笑って言う。
「あれは、ワザとだ」
ビュン! とタケルが垂直に二メートルほど飛び上がり、下に集まって来たゾンビの頭を全て飛ばした。
「す、素晴らしい…。というか…彼は人間ですか? なぜあんなに飛べるのです?」
「一番レベルが高いからだ」
「その…レベルとは何なのです?」
「強さの目安のようなものだな」
「意味が分かりません」
「ほら! 見てないとすぐに終わるぞ!」
と、俺が言うのもつかの間、タケルが走り出しビュンビュンとモーニングスターを振り回して、ゾンビの頭を片っ端から破裂させていく。全てのゾンビが倒れると、タケルはつまらなそうにビュン! とモーニングスターを振って血のりと肉を振り払った。
スタスタとこちらに戻ってきて、バスに乗り込み言う。
「ダメだ。少なすぎる。こんなんじゃ、レベルがあがりゃしねえぜ」
ジョーイが苦笑して言う。
「なるほど…もしかしたらゲームですか?」
「ゲームじゃねえよ。本当にレベルアップすんだよ」
「そうですか…。ですが分かりました。あなたがバケモノじみた強さだという事を」
「俺が? ヒカルに比べたら、蟻みたいなもんだぜ。俺なんかよ」
「アリ? どういうことです?」
「蟻。わかんねえ? 虫の蟻。それに比べたらヒカルはティラノサウルスだよ」
「そんな馬鹿な事がありますか?」
「バカも何も、そのまんまだ」
ジョーイは言われている事が分からないらしい。そこでクキが言う。
「そろそろ時間が惜しい。何箇所かでこれをやったら、あとは虱潰しにしよう」
「「「「「「了解」」」」」」」
それから俺達は何カ所かで同じことをして、外に出回っているゾンビをほとんど潰した。
「それじゃあ、各自、建物に入り込んだ奴を潰して終わらそう」
クキに言われ、皆がバスを降りて行く。クキとアビゲイルとエイブラハムは、安全に後方からやるようだ。そこでジョーイが俺に聞いて来る。
「先ほどから、あなたはやらないのですか?」
「皆の経験値を食ってしまう。それにゾンビごときは、もう彼らの敵ではない」
「信頼してるのですね?」
「彼らが俺を信頼するように、俺も彼らを信頼している。そしてもし今、彼らに危険がせまった場合、数秒で彼らの元に行くから問題は無い」
「数秒…まったくもって意味が分かりません」
「あんたの、やり方は遠くからだけか?」
「まあ白兵戦なんてやらないですかね。もちろん必要とあらばやれるよう、体は作っていますが狙撃がメインです」
「俺達のパーティーは、どちらも出来るようになっている。今はそれをしていないが、このパーティーにはあんたより気配を感じさせずに狙撃できる奴がいる。あんたでは俺に傷を負わせることも出来ないが、もしかするとうちの狙撃手はかすり傷くらいは負わせるかもしれん。そのぐらい力量が違う奴が世の中には居るって事だ」
「九鬼…さんですね。彼は…怖いです」
「あんたは微かだが、狙った時に集中力と殺気があるんだよ。クキはそれを感じさせずに撃つことが出来るんだ。人は人を殺す時に、少なからず殺気と意識が向くんだよ。それを全く感じさせずに、数秒で何発も狙撃できるんだ。彼が殺し屋なら絶対に失敗しないと断言できる」
「もしかすると、ギリシャで私の狙いが分かったのはそう言う事ですか?」
「そう言う事だ。俺達が戦っている本当のバケモノは、そのくらいの力が無いと倒せない。だから普通のゾンビなど、どうという事は無いんだ」
ジョーイは俺の話を聞いて、深くため息をついた。
「殺しのレベル…ですか。そんなこと考えてみた事も無かったです。私もそれなりに人より訓練を積んで来たんですがね、どうやら全く次元が違うようだ。という事は、このゾンビ狩りもその鍛錬のようなものですか?」
「そうだ。まあ…準備だな」
「ウォーミングアップにゾンビ狩りをするなんて、まったく世界にはおかしな人達がいるものです。ですがようやくわかってきました。やはり私はあなた方について行きましょう。なぜか私の生き様を否定された気分になってきました。このままでは悔しいですからね」
するとそこに仲間達が戻って来た。
「ゾンビはやったぜ」
「そうか」
「そのうち生存者達も気づくでしょうね」
「じゃあジョーイ。バスのクラクションを鳴らしてくれ」
「本当にゾンビはいないのかい?」
ミオが言う。
「もう一体も居ないわ」
プ―――――――!
しばらくクラクションを鳴らすと、近い建物の二階から顔を出した人がいた。窓を開けてミオが言う。
「ゾンビはもういないです! 周辺の人にもそう伝えてください!」
そう言って俺達は手を振った。するとベランダに出て来た人が、こちらに手を振り返した。
「あとはなんとかなるでしょ」
そしてクキが言う。
「ジョーイさんよ。逃げなかったのかい?」
「ええ。私はあなた方の戦いを見届けたくなった。ここから先もついて行きますよ」
そしてバスが進みだす。そしてジョーイが言った。
「この先にも小さな町があります。そこでは私も戦いに参加させてください」
皆が頷いた。そして四十分ほど走ったところで村が見えて来る。そこはさっきの村よりは小さいが、やはりゾンビが居た。今度はジョーイを参加させてゾンビ狩りを始めるのだった。




