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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編

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第432話 殺し屋の運びプラン

 まだ薄暗い早朝にホテルをチェックアウトし、再びピレウス港にやって来た。


「なるほどなあ」


 念のため現場には俺とクキだけで現れる。その指定された現場を見てクキが感心しているのだ。


「クキ。ここは四方からはっきり見えるようだ」


「全く抜け目がない奴だ」


 そこは屋根のある店舗ではなく、カウンターだけがあり広場に椅子とテーブルが並んでいるところだった。何処からでも狙う事が出来て、隠れる場所など無い場所だ。


「奴は何をそんなに疑ってるんだ?」


「バックに組織がついてるって言っていたが、敵対組織や警察なんかも警戒してるんだろうな」


「俺達が、奴を殺したり捕まえる為に来たと思っているのか?」


「まあ。殺し屋に道案内なんておかしな話だからな」


「だからって、なぜ俺に狙いを定めているんだ?」


「なに?」


「クキが持っているようなライフルで俺を狙ってる。クキより俺の方が危険だと睨んでいるらしい」


「勘だけは鋭い奴だ」


「どうする?」


「手を振ってやれ」


 クキに言われて、俺は狙っている殺し屋に向かって手を振る。


「振ったぞ」


「ならそのうち来るだろう」


 クキの言うとおりだった。そいつはアタッシュケースを持って俺達の前に現れた。


 クキが言う。


「時間通りだな」


「なぜわかったんです?」


 そこで俺が聞いた。


「どれの事を言っている?」


 昨日の夜の事を言っているのか、今の事を言っているのか分からないから聞いた。


「なんだ…昨日も今日も分かっていたんですか。何らかの組織が後ろについているのですね?」


「いや。俺達は俺達だけだ」


「あなた達は何者なのです? なぜ世界一のマフィアのボスが道案内を依頼してくるのです?」


 そこでクキが代わって言う。


「守秘義務って言いたいところだが、包み隠さず言うとだな。俺達とマフィアのボスは縁もゆかりもない。だが俺達の事を気に入ってくれたみたいで、わざわざ助け舟を出してくれたという訳だ。あんたの事は誰にも言わないし、俺達は純粋にイスラエルに行きたいんだよ」


「なぜイスラエルに?」


「あの町が壊滅寸前だからだ」


「そんな危ないところに、何故行くんですか?」


「生きている奴がいたら救うし、生存者がいないなら掃除をする為だ」


「……」


 値踏みをする様な目で俺達を見る。そこで俺が言った。


「どうすれば信じてもらえる? 俺達は敵対組織でもないし、あんたらをつかまえに来た警察でもない。もしあんたの手助け無しでイスラエルに行けるなら、俺達はあんたに頼むことは無い。だがサルバトーレがあんたを指定して頼んだんだ。ならば、出来るだけ安全である方法を選ぼうと思ってここにいる。もしあんたが断るなら、サルバトーレに金を返してくれ」


「それを信じろと?」


 するとクキが立ち上がって言う。


「もういいかヒカル。だんだん面倒になって来た。俺達は俺達だけで陸路でイスラエル入りすればいいだけだ」


「そうするか…」


 そうして俺も立ち上がる。そこでクキが言う。


「だが、あんた。前金はサルバトーレに返しておいた方が良いぜ。きちんと返さねえと、恐らく地の底まで追われる事になる。ロッシファミリーとはそう言う組織だ」


「……そうか。どっちみち戻れないようですね」


「知らん。俺達はただイスラエルに行くだけだ」


 だが殺し屋が言う。


「まあ座ってください。そしてお仲間達も呼んでいただいて良いですよ」


「集まったところでズドンじゃないのか?」


「いえ。私一人です。組織はへまをしたり裏切らない限り、コマを盤上から外さないです」


 俺達がそのまま椅子に座ると、そいつも同じテーブルに腰かけた。


「でも…どうして私の監視が分かったのです?」


 俺とクキが目を合わせる。


「そのまま言ってやったらいい」


 俺は殺し屋に言う。


「感じたからだ」


「…からかっているのですか?」


「からかってなどいない。本当に感じたからだ」


 少しの沈黙が流れる。


「ぷっ! あはははははは! 良いでしょう。きっとその通りなのでしょう! ではお仲間を呼んでください」


 クキがスマートフォンを取り出して電話をかける。


「来ていいぞ」


 すると仲間達が車に乗ってやってきた。車はもちろん、タケルがアテネで盗んだワゴン車である。広場の近くに来ると、皆がぞろぞろと車を降りて来た。


 それを見て殺し屋が言う。


「なんと! 本当に旅行者か何かですか? 少女を誘拐して来たわけではありませんよね?」


 するとツバサが笑って言った。


「ねえ! 私達の事を少女だって! そんな若く見えちゃうのかな」


「そうじゃない?」


 アビゲイルとエイブラハムは、サングラスとマスクをかけているので分からないようだ。だが殺し屋はピクリと反応する。


「訳ありちゅうの訳ありですか。ようやく私に依頼して来た理由が分かりましたよ」


「そうなのかい?」


「私は仲間内では運び屋と呼ばれていますからね。やっと納得しました」


「なら仕事を受けるんだな」


「いいでしょう。私のプライドにかけて、あなた方を必ずイスラエルに運びます」


「よろしく頼むわ」


「まずはレディー達にコーヒーでもご馳走させてください」


 そう言って男がカウンターにいく、だがそれにタケルとミナミがついて行った。


「手伝うわ」

「俺も!」


 まあ毒などは入れないだろうが、何か細工をしないようにという事だ。コーヒーを買って来てテーブルに並べられ、俺達がそれを飲んでいると観光客や、港で働く人らが出て来た。


「それではそろそろお時間です」


「分かった」


 俺達がついていくと、殺し屋が用意した船は今までの船とはまた違うものだった。その船を見てクキが驚いている。


「あれは…湾岸警備隊か?」


「その通りです。まずはあれに乗ります」


 なんと殺し屋はその船の乗組員に目配せをして、船に乗り込んでいく。俺達にも乗るように言ったので、ぞろぞろと乗った。すると、すぐにその船は港を出ていくのだった。


 殺し屋が言う。


「聞かないのですか?」


「俺達は運んでもらえば問題ない。いらん詮索はしないさ」


「なるほど、ルールは分かっているようですね」


 俺達はとりあえず、後ろに座り様子を伺っていた。そこでクロサキが言う。


「警備艇ならば…誰も追跡はしないですね」


「これ、本物かなあ」


「恐らくは本物です。偽装していたらこんなに手が込んだ作りをしていないはず」


「そうか」


 沖合に出ると、なんと別の船と待ち合わせをしていたようだ。


「移ってください」


 俺達は殺し屋に従い船を移る。そちらの船はどうやら漁船のようで、漁師風の男達が乗っていた。全員がその船に映ると、警備艇と離れてまた進んで行く。


「すみませんが、ここで一日過ごしてもらいます。夕方には陸に付きますので、それまでは積んである水と食料でしのいでもらいます」


「了解だ」


 漁船には一日中乗っていた。殺し屋は無駄口をたたく事は無かったが、漁師たちが気さくに声をかけて来て、ミオやクロサキが他愛もない話をしていた。彼女らもすっかり慣れたもので、まるで本当に旅行者のようだ。夕方になりようやく陸地が見えて来て、クキが殺し屋に聞いた。


「あれは?」


「クレタ島です。あそこで乗り換えます」


「そうか」


 漁船がクレタ島に乗り入れ、俺達が降りると殺し屋が駐車場に行ってバスを取って来た。


「乗ってください」


 俺達が乗り込むと直ぐにバスは走り出し、十五分もしないうちに空港に到着する。


「降りてください」


 やたらと細切れに乗り継ぎさせられる。そして俺達が空港に入ると、殺し屋はすぐにカウンターに行く。そして俺達の所に戻ってきて言う。


「漁船の旅はきつかったでしょう。ここからは快適ですよ」


 乗り心地が良いとは言えない漁船で九時間も揺られていたのだが、全員がレベルアップしているので船酔いなど皆無だった。ただアビゲイルとエイブラハムだけが具合悪そうにしている。


「あの二人はかなり疲れたようだ」


「それはすみませんでした。ではどうぞ」


 俺達は客が沢山いる場所ではなく、違う通路を通って空港に出た。すると小さな飛行機があり、俺達はそれに乗せられる。マナが嬉しそうに言う。


「えっ、プライベートジェット?」


「どうぞどうぞ!」


 俺達が乗り込むと、中は冷房が効いていて快適だった。そして飛行機が飛び立つ。


「みて! 夕日がきれいだわ」


 丁度陽が沈む時間帯で、飛行機の外に真っ赤な夕日が見えていた。皆がそれを見ている時、男が冷たいタオルと飲み物を皆に配った。アビゲイルとエイブラハムが、サングラスを取り冷えたタオルを目に乗せている。


 だが殺し屋はそれを見逃さなかったようだ。


「やはり…」


 だが俺達は何も言わない。


 ペットボトルの水を飲みながら、クキが男に言った。


「恐れ入った。あんたはプロだ」


「当然ですよ」


 そしてオオモリが無邪気に聞いた。


「失敗したことはあるんですか?」


「ふふっ。単刀直入に聞いてきますね。そうですね、運びという事であれば失敗は無いです」


「カッコイイ」


「あなたは…少年じゃないですよね?」


 それにはマナが言う。


「いい年こいた、お兄さんですよ」


「純粋な目をしているから、ついそう思ったんです。というか皆さん…私の正体を知っているのでしょう?」


「そうですね」


「怖くはないのですか?」


 すると全員が首を振った。


「そうなのですね?」


 そしてタケルが言う。


「いま世界中で、ここが一番安全な場所さ。この飛行機にミサイルが撃ち込まれても生き延びれるだろうよ」


「えらい自信だ。あなた方は…いや。聞くのはルール違反ですね」


「みんなは、あんたがどーのこーのより、外の風景にご執心のようだぜ」


「そのようです」


 殺し屋は不思議なようだ。ここにいる誰もが、本当に旅行気分を味わっている事が気になるらしい。


 クキがおもむろに話し出す。


「あんた。人間がどうしても抗えないものがあるって思うだろ?」


「それはそうです。私がいくら頑張っても、軍隊に勝つことは出来ないし、どんなに頑張っても世界の大富豪のようにはなれない。ミサイルで撃墜されれば飛行機は堕ちる、核弾頭が降って来れば何をしても死ぬでしょう。一個の人間が出来る事などたかが知れています。だから私は不思議でならない。あなた方たった十人がイスラエルに行ったところで、出来る事など何もないのです。それに裏情報ですが、イスラエルはとても恐ろしいことになっている。本来なら行きたくはないですが、これも仕事と割り切っての事です」


「普通はそう思うわな」


「神の御業が使えるならいざ知らず、そんな人間はいる訳がないのです。いくらあの会社が酷いことをしていても、誰もそれに逆らう事など出来ないのですよ」


 どうやらある程度は知っているようだった。だがそれにクキが答える。


「もしだ…。もしその神の御業が使えるとしたら、あんたは何をしたい?」


「到底想像もつきません。そうですね…私なら、私利私欲の為にその力を振るうかもしれませんね。そんな力があれば、莫大な金を手にする事が出来ます」


「金を持ってどうする?」


「まあ…こんな稼業とはおさらばして、南国で幸せに余生をおくるとかでしょうか?」


「それもいいだろう。だが世界の誰かがその犠牲になっている、もしくはその危険が自分達の身に迫っているとしても優雅に暮らせるかな?」


「どうでしょう? 私は…私ならずっと逃げ回るかもしれません」


「だな。普通はそうだ。だけど一生を逃げ回って終わるのを良しとしない人間がいるって事だ。世界の誰かが大量に死んでいるのを、見て見ぬ振りできない男がいるって事だ。ただ大事な人達の笑顔を守るためだけに、ひたすら命がけで戦う男が居たらあんたはどうする?」


「そんな男がいるのでしょうか?」


「さあな。でも恐らく、たった一人になってもそいつは戦うだろう。だから俺達は非力でも、そのすげえ男と一緒に戦おうと決めたんだよ。あんたは不幸にも身近に、そんな最高の男がいなかったって事だ。一生に一度、いや…普通なら絶対に巡り合えないであろう、最高に仲間思いの奴に巡り合ったら…あんたも俺達の気持ちが分かる日が来るかもな」


「はは…まるで御伽噺のようですね」


「そうだ。御伽噺だよ。御伽噺の騎士と共に世界を駆け巡る。こんな最高な人生があるか? 俺は本当にこの時代に生まれて良かったと思ってるんだ。少なくともこの十人は俺と同じ気持ちだと思う」


 そう言うと、皆の口角が上がっていた。風景を見ながら、パソコンを触りながら、クキの話す事を聞いてニヤリと笑っているのだ。


「そんな事が現実にあるのなら見てみたいものです」


「まあ…もしかしたら見れるかもな」


 そうして話は終わった。それから四時間ほど飛行機に乗り、夜間の空港に降り立つ。俺達はそこで降ろされ、また車に乗せられてついた先は、お世辞にも豪華とは言えないホテルだった。


「今日はここで宿泊してもらいます」


 皆がそれを見て唖然としている。


 そしてオオモリが言った。


「きったな! 僕ここに泊まるのヤダよ!」


 流石にそれにはクキが言う。


「むしろ、敵を完全に撒くにはこれが良いってこった。プロが用意したんだぞ?」


「無理です」


「お前なあ…」


 そして殺し屋も言う。


「今日は我慢してください」


 するとオオモリは勝手にパソコンを開いて、マナに言う。


「繋いでください」


「え、ええ」


 パチパチとパソコンを操作して言う。


「すみませんが予約が取れました。宿泊先に連れて行ってください」


「な、何を言っているのです? ふざけるにも程がありますよ!」


「あなたの分も取りましたから!」


「はあ?」


 するとクキが殺し屋に言う。


「あー。大丈夫だ。出来ればそこに移動してくれ」


「私の計画が狂います!」


「んじゃ…ここで終わりで良いや、あんたも迷惑だろうしな。サルバトーレの前金分は働いたろ」


「ま、まってください! わかりましたよ! では場所を言ってください!」


 オオモリが答えた。


「えーっとマリオットなんちゃらってところです」


「ブッ! あ、一人五万ポンドもする超高級ホテルですよ!」


「大丈夫です。あなたの分も予約しました」


「知りませんよ!」


 そして俺達はエジプトで最も高級なホテルへと向かうのだった。

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