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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編

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第431話 アテネのバーで殺し屋と接触

 俺とクキが黒いスーツに身を包み、ギリシャの首都アテネの繁華街を歩いていた。ドイツやスイスとは違って暖かな気候の為、人々は軽装で歩いている。


「Tシャツ姿が多いな。夜の繁華街ではスーツの方が珍しいようだ」


「俺はいつもと変わりない」


「ヒカルは戦闘の時もスーツだからな」


「皆楽しそうにしているな」


「恐らくは観光客だ。まさに世界有数の観光地だからな」


 そして俺達の目の前に、十三番目の客の看板が見える。周りは楽しそうに浮かれた会話をしてるのに、物騒な殺し屋がいるというのだから不思議なものだ。そしてクキが上を見上げて言う。


「二階が入り口らしい」


「わかった」


 一階には雑貨屋のような店があるが、買い物客で賑わっているようだ。俺達はするりと狭い通路に入りこみ、狭い階段を上っていく。入り口のドアを開けると、店員がやって来て俺達に席を聞いて来る。


「カウンターは空いてるかい?」


「どうぞ。こちらへ」


 店員に言われ、俺達がカウンターに座ると俺達の前にメニューが置かれた。


 だがクキは、店員に言う。


「マスターに頼みたい」


「あ、はい分かりました」


 すると店員はカウンターの中に声をかける。


「マスター。お客様です」


 すると奥からベストを着た、バーテンがやってきて俺達に語りかけて来る。


「御用でしょうか?」


 クキが答える。


「酒を頼みたい」


「どのような」


「朱の糸が結ぶ約束の地へ。という酒はあるかい?」


 すると一瞬マスターの目の色が変わったが、また普通の表情になって言う。


「今宵は夜風が心地いい。屋上にも席があるのですが、東の角の席などいかがでしょう」


「いいな。今日は気分が良いんだ」


「では」


 そしてマスターが店員に言う。


「私はお客様を屋上へと連れて行く。少しのあいだここを頼む」


「はい」


 俺達はマスターについて階段をあがり屋上へと上った。すると美しい夜景が眼前に広がり、遠くにはパルテノン神殿がライトアップされているのが見えた。その美しい街並みは、この世界に来てから一番美しい情景のように思える。


 屋上の一番角の席に座らされるが、パルテノン神殿が良く見える特等席だった。周りの客はスマートフォンを使って、パシャパシャと写真を撮っている。


「それではごゆっくり」


 俺達二人はその席に座り、周りを警戒しつつ客のふりをしてメニューを見ている。


「見られてるなあ…」


「クキ。気配感知が使えたのか?」


「そう言うものじゃないよ。全ての状況から違和感が分かるんだ」


「それはそれで特殊能力だ。だが間違いなくこちらを見ている奴がいるな」


「んじゃ、合図を送るか」


「ああ」


 クキが煙草を加えて、シュッとマッチを擦り火をつけた。クキは本来、煙草を吸わないがそれを吸い込んで煙を出す。


「来たな…」


「ああ」


 すると眼鏡をかけた、好青年が声をかけて来る。ひょろりとしているように見えるが、恐らくは鍛えた体をしていると分る身のこなしだ。髪はきちんと切りそろえられており、きちんとセットされているようだ。薄い茶色の麻のスーツを着て、涼しげな表情をしている。


「こちら禁煙ですよ」


「それは気が付かなかった、失礼」


「ご旅行ですか?」


「ああ。ギリシャは初めてでね」


「そうですか。ここで知り合ったのも何かの縁、席をご一緒してもよろしいかな」


「座ると良い。マナーを教えてもらったお礼に酒を奢らせてもらおう」


「それはそれは」


 そしてそいつが座ると、頼んでもないのに酒が三つ運ばれてくる。それぞれの席にグラスが置かれて、その好青年風の男が言った。


「出会いに乾杯」


「「乾杯」」


 俺が先に酒を飲んだが、毒のようなものは含まれていない。俺がクキに目配せをすると、クキもそのまま酒を飲んだ。それを眼鏡の奥からじっと見つめるように見ていた男は、自分のグラスに口をつけた。


「良い日になりそうです」


「ああ。しかし美しい街だ」


「本当です。アテネは美しい。だけどそれは国民の努力のたまものだ。一時期は破綻寸前でしたが、今ではこのように街も盛況ですよ」


「そのようだ。ところで、我々はある街に行きたいと思ってるんだよ」


「ほう。それはどのような?」


「約束の地。聖地に行こうと思っているんだ」


「何をしに?」


「自由の為にさ。だがそこに行くには導き手がいる」


「なるほど」


 そこでクキが、にやりとして言う。


「それはさておき。その物騒なものを机の下から引っ込めてくれるか? 怖すぎてろくに話も出来ん」


「それは失礼をしました。ですが…怖すぎて? この状況でお二人とも、まったく感情が揺れていない」


「話をするのに余計な事を考えたくないだけだよ」


「恐れ入りました。では仕事のお話を」


「さっき言った通りだ。約十名を約束の地に連れて行ってくれ」


「それ以外にする事は?」


「ない」


「わかりました。では明日の朝七時までにピレウス港の、リップスというカフェまでいらっしゃってください」


「わかった」


「ご馳走様でした。美味しいお酒をありがとう」


「ああ」


 そう言って男は店を出て行った。


「俺達もいくか」


「そうだな」


 あっさりしたものだった。俺達が会計を頼むと、お代はいらないと言われる。そのまま俺達はBARを出て、夜のアテネを歩きだした。観光客がぞろぞろいて、俺達はその間を抜けるようにして歩いて行くが、クキが何かに気が付いたように言う。


「なるほどな…」


 クキが言う。


「なんだ?」


「ヒカルじゃダメだと思って、俺に取り付けたんだろう」


 そう言って、クキが襟の間からチップのような物を取り出す。


「それはなんだ?」


「発信機だ。奴はよほど用心深いようだな」


 そう言ってクキは、その発信機をすれ違う爺さんのポケットに滑り込ませる。


 そのまま何食わぬ顔で進んで行くが、クキも俺もニヤリと笑う。


「随分用心深いな」


「わざわざつけてくるか」


 俺達はそのまま細い路地に入り込み、俺がクキを掴んで一気にそのビルの屋上にジャンプした。屋上に降り立って下を覗いていると、さっきの男が路地に入ってきてきょろきょろしている。


「寝首をかかれてもたまらん。このまま撒こう」


「了解だ」


 そして俺はクキを掴み、次々にビルの屋上を飛んで移っていく。ギリシャの美しい夜景を見ながら屋上を飛び回っていくと、仲間達が泊っているホテルが見えて来る。


 クキが呆れたような顔で言う。


「殺し屋でも、ヒカルを捉えるのは不可能って事か」


「つけられたところで、どうという事は無いが、仕事の相手を失うのはサルバトーレに申し訳ない」


「殺すな。ガイドが居なくなると困る」


「分かっている。だがクキに銃を突きつけたのは許さん」


「ははは。あれぐらいどうとでも処理出来たさ。つうか、俺の身を案じてくれるとはね。そんなのは死んだおふくろくらいだな」


「余計なお世話だったようだな」


「そんな事は無い。さてと、アイツらが待っている。行こう」


「ああ」


 俺は自分らが宿泊するホテルの屋上まで、クキを掴んで飛ぶのだった。

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