第427話 大いなる父の子
俺は屋根の上に立ち、オオモリが言った西の夜空を見る。身体強化で視覚強化をすると、確かにこちらに向かって何かが飛んできているようだった。
「あれか。こんな素晴らしい街並みに、なんという無粋な真似をするんだ」
俺はするりと村雨丸を抜いた。この日本刀は伝説の妖刀と言うだけあって、俺の魔力と相性が良いようだった。なぜか魔力も闘気も非常に馴染む性質を持っているらしい。なぜこのような武器がこの世界にあるのか分からんが、今までの剣よりも扱いやすかった。
なんと言うか…武器が俺に語りかけて来るような気がする。俺はぽつりとつぶやく。
「空接瞬斬では…空中で爆発してしまうだろうな」
皆の話では核には放射線という厄介な物があり、それが降り注ぐと人体に影響するらしい。空接瞬斬では空で爆発を起こしてしまい、放射線をまき散らしてしまうだろう。
そこで俺はタイミングを見計らった。
来た。
それは空中で数個に分かれ、それがこちらに落下して来る。そして内包した、破壊力の高い何かに引火したのを確認する。
「次元断裂」
一瞬光を放つかと思った数発のそれは、次の瞬間消え失せた。空間ごと消したので、周りには全く影響がない。しばらく西の空を見ているが、うち漏らしは無いようだった。
だが俺のスマートフォンが鳴り響く。操作は知っているので、俺はそれを取り出して耳につける。
「ヒカルさん! また撃たれました!」
「わかった」
星空を眺めながら待っていると、また西の空にミサイルが見えた。それがまた数発に分かれて、花開く前に俺は剣技を振るう。
「次元断裂」
同じように全ての弾頭が消えた。だがまたスマートフォンが鳴り響く。
「今度は二発です!」
「しつこい奴らだな」
二発のミサイルが花開き、弾頭が降り注いで来たのでそれも同じように処理をする。
またスマートフォンが鳴るので出ると、今度はクキが言って来る。
「大将。潜水艦にゃあ八基から十六基のミサイルが積んである。しばらく様子を見てくれや」
「わかった。イタリア軍の様子はどうだ?」
「未だ攻撃してくる気配はない」
「了解だ」
そしてクキの言うとおりに、またミサイルが二発飛んで来たので同じように処理をした。そしてスマートフォンに言う。
「合計六発処理した」
「恐らく敵は不良を起こしていると思っているだろう。突然レーダーからミサイルが消えるんだからな。あと二発で終わるか、それ以上なら十六発まで見るしかない」
「任せておけ」
その場で待っていると、あと二発が撃たれた。それも同じように処理する。
「どうだい? 大将」
「星が美しい」
「「「「「あーはっはっはっ!」」」」」
スマートフォンの向こうで仲間達の笑い声が聞こえる。
「ならいいんだ! しばらく見張っててくれ」
「こんな星空の日は、琥珀色の酒が合うんだがな」
「ドン・サルバトーレがいくらでも用意してくれる。だから核を排除してくれ! だそうだ」
「そんな事で良いなら、いくらでも排除してやる。酒は約束しろ」
「分かったってさ」
それからしばらく待って、結局ミサイルは八基で終わった。クキからスマホに連絡が来る。
「恐らくは小型の潜水艦なんだろう。米の大型原潜なら十六発はあった」
「朝日が昇って来た。この町は…美しいな…核で焼かれなくてよかった」
「こっちからも朗報だ。イタリア軍は歩兵を進軍させた。どうやらイタリア政府は、都市に隠れた市民を救出する方向にむかったようだ」
「そうか…無実の軍隊を殺さずに済んでよかったよ」
「おまっ! まさかイタリア軍を殺るつもりだったのか!」
「市民より死者の数は少なくて済む」
「コラテラルダメージなら軍隊をってか…。それはそれで…」
「今降りる」
そうして俺は、皆の待つバチカンテレビのスタジオに降りる。俺が窓から入っていくと、突然拍手が起きた。
パチパチパチ!
「なんだ?」
ドン・サルバトーレが言う。
「ど、どうやったか分からねえが、核弾頭を無効にしたんだってな」
「大したことじゃない」
それを聞いて、呆れたようにジュリオが言う。
「大したこと無いって…、発射された核弾頭を無効にするのが大したこと無いなんて言ったら、なんなら大したことあるんだよ?」
「そうだな…世界から酒が無くなればそりゃひどい」
マフィアたちもざわついているようだが、仲間達はいつもの事なので次の話をしている。
すると法王と枢機卿らが俺に歩み寄って来た。
「なんだ」
だが法王らと枢機卿は、俺の周りを囲んで跪いて頭を下げる。
「と、突然どうしたのだ」
「魂の導き手たる光の子よ! 贖いの剣となり、敬虔なる信徒をお救いに来てくださったのでございますね。真理の灯台に降り注ぐ厄災の炎を払う為に、その身を私たちの前に具現化してくださった」
「い、いや。違う、千里眼と次元断裂で消しただけだ」
「大いなる父よ! あなた様のお子は闇を払い、光をもたらすために人々をお救い下さいました。私達はあなたの忠実なる僕でございます! 祈りを聞き届けて下さり感謝します」
「だ、誰に言ってるんだ? 俺は自分の父親の事はよく覚えていない」
物心ついた頃には、勇者として訓練所に居たからな…。
「それが証拠にございます。神子には父親はいないのです」
「いや…それは」
居たと思うけど。
「私共はあなた様の忠実な僕でございます。わが身を、あなたにお捧げします」
「いや。いいって、あんたらはあんたらのやる事をやってくれ」
「御心のままに」
気づけばドン・サルバトーレとジュリオ、マフィアたちもその周りに跪いて祈りを捧げている。よく見ればアビゲイルとエイブラハムとハンジまで、その後ろに跪いて祈りを捧げていた。
「お、俺は聖女じゃないぞ」
するとクワタが言う。
「あんな力を見せておいて? ここはバチカンですよ?」
そう言われ、そそくさとその場所を離れると、クロサキが俺にぽそりという。
「宗教の違いです。ヨーロッパ、特にこのあたりは信心深い人が多い場所です。ヒカルさんが神の子だと信じて疑わないみたいです」
「俺は…神の子じゃない」
「そうは言っても、どう考えても神の所業ですよ」
「だから違うって。次元断裂だって言っているだろ」
だがクキが、凄く小さい声で言う。
「俺も特に信仰はないが、勘違いさせておいていいんじゃないか? 彼らが信じる者になってやればいいだろう。このような悲惨な状況では、信じる者がいるというのは力になるものだ」
「何か問題は無いだろうか?」
クキが皆がいない所に連れて行って、もっと小さい声で言う。
「いずれ日本に帰るんだし、日本に神の子がいるって思ったら大事にしてもらえるだろ。平穏な世になったら、神の子がいる国をないがしろにすると思うか?」
よく見ればクキが悪い顔をしている。
「お前…タケルに影響受けてるぞ」
「なっ! お俺がかぁ?」
「ああ」
するとタケルと仲間達が不思議そうな顔で、俺達二人を見ていた。
「どうしたの?」
「何でもない。とにかくイタリア軍がバチカンに入る前に、俺達は去った方が良いだろう」
そしてクキはサルバトーレに大きな声で言った。
「さて! 俺達はそろそろ退散しないとマズいだろう!」
「そ、そうだな。マフィアと法王が繋がってたなんて知れたら大変だ」
「サルバトーレ。そのような些事、神子の前では無意味ですよ」
「た、確かに」
だがそれに俺が言う。
「だが約束は約束だ。サルバトーレ。高級な琥珀色の酒を飲ませてくれると言った」
「わ、分かりました! では行きましょう! 法王よ! 何かあれば俺らが必ず救う!」
「ええ。全ては御心のままに」
そして俺達は、イタリア軍がバチカンに辿り着く前に、ヘリコプターに乗り込んでローマを脱出していくのだった。




