第421話 バチカン市国への潜入
ローマの町並みは、この世界の近代的な建物があるものの、どことなく前世の王都に似た雰囲気もあった。少し懐かしさを伴うその景観に、俺は前世の記憶を思い起こしている。
王都に呼ばれた勇者パーティーが、魔王討伐の命令を受けた時の事をだ。
「この世界を守るべく、魔王の討伐の任を与える! ルヒカルよ! 見事討ち取った暁には、最高の褒美を取らせよう!」
王の言葉で俺の前世の人生がすべて決まった。パーティーは何も疑う事無く、魔王ダンジョンに入って攻略を始めたのだった。そしてその結果は、世界を滅ぼしかけたという事実だけ。
ミオが言う。
「ヒカル。この先にゾンビの反応多数だわ」
「そのようだ。皆で生存者の誘導をしつつ俺がゾンビを駆逐する。今まで通りだ」
「「「「「「「「了解」」」」」」」」
あの時とは全く違うパーティーメンバー。ここにはレインもエルヴィンもエリスもおらず、日本から一緒に来たパーティーメンバーが、俺と世界を守るために戦っている。前世と同じように、今も世界を救う戦いを続けているのだ。
だが間違いなく、俺がやっている事は前世とは全く違う。前世は魔王の情報など一切無かったのに対し、この世界では敵の情報が詳細まで分かっている。
サルバトーレが青い顔をして言った。
「ぞ、ゾンビがいるのか? 本物か?」
「そうだ」
このサルバトーレが救いたいと言っている人物が、このローマにいるらしく、彼の一言で俺達はこの地に来た。助けるのは不思議な事に、王の名称がついている人間なのだ。前世では王に命ぜられて魔王討伐に向かったが、この世界ではマフィアに命ぜられて王を助けに来ている。
クキが言う。
「しかしまた首都か…やつらめ」
それにツバサが答える。
「人口が多いからね」
「だろうな…」
それを聞いてサルバトーレが言う。
「ベルリンといいローマといい、なんで人口が多い所を狙うんだ?」
それにはオオモリが得意げに答えた。
「データですよ。数百人で取れるデータと三百万人で取れるデータでは、その精度が段違いに違うからです」
「なんてこったい! データの為にそんな非道な事をするってのか?」
「そうですよ」
「なんで最初は日本だったんだい?」
「日本政府が言いなりだったのと、島国かつ人口の多い東京が狙われたみたいです」
「そう言う事かい。いろいろと事情があるようだな」
「他にどんな意図があるのかまでは分かりませんけど」
するとサルバトーレが言う。
「そいつは案外簡単な答えだと思うぜ」
皆がサルバトーレに注目した。
「どういうことですか?」
「日本はゾンビでやられてて知らねえだろうけどよ、俺が知ってる限りではドイツとイタリアは、ファーマー社のやっている事に対してのアンチが多いんだよ。デモが行われたり、著名人がファーマー社の薬物を使用しないように呼び掛けたりとかな」
「そうなんですか?」
「そうだ。恐らくローマが襲われたのも訳がある」
オオモリも気が付いたようだ。
「まさか…」
「そのまさかだよ。法王はファーマー社が世界の摂理に反していると主張しているのさ。世界の逆鱗に触れて、人類は滅亡してしまうと唱えてるんだ」
そしてクロサキが言う。
「ファーマー社を阻害する人達を片っ端から消そうとしている…。そう言う事ですか?」
「多分そうだと思うがねえ。俺りゃ、このローマ襲撃で確信したぜ。それが証拠に、日本と似たような島国で人口の多いロンドンでは何も起きてねえ」
納得だった。世界でファーマー社のやっている事に気が付いている人らを、封じ込むために都市攻撃を行っているのは間違いないだろう。するとそれにクキが言う。
「という事は、これからも世界各地でこんなことが起きるのか?」
「モンゴル・アフガニスタン、アゼルバイジャン、インドネシア、ナイジェリア、パキスタン、セルビアあたりは、完全にファーマー社の薬を危険視してるって話だ」
「後進国は影響力が低いから、まだターゲットになっていないと言う事か」
それを聞いてクロサキが言った。
「そして…法王の発言力には影響がある…」
「なるほどな」
「だから! 急いでんだよ! でもめちゃくちゃいるんだろ? ゾンビ! どうすんだ? 仲間はバズーカも持って飛んで行っちまった」
それを聞いて俺達は、法王を助ける重要性を認識したのだった。アビゲイルの発言力もしかりだが、ファーマー社は法王の発言を恐れている可能性があるという事だ。
「行くぞ」
「い、行くぞって」
俺は無造作に都市に入る橋を渡り始める。仲間がついて来てサルバトーレが慌てている。
「き、き、きたぞ! ゾンビの大群が!」
それを無視してミオが言う。
「ヒカル。生きている人はここにはいないわ」
「ああ」
俺は指紋認証で杖の鞘を抜き、鞘をベルトにさし込む。
「きたぞ! ゾンビが! きたあぁぁぁぁぁ!」
「飛空円斬」
ザン!
視界に入るゾンビが全て斬れ落ちた。
「えっ? ど、どうなってやがる?」
「斬った」
「はあ?」
「行くぞ!」
「どうなってやがる…」
そして街角を抜けると、あちこちで逃げている人らを見かけた。
「刺突閃 二十連」
追っているゾンビらを倒し、走る人らは逃げ切る事が出来たようだ。そこでマナが大声で叫ぶ。
「こらー! ゾンビ―! こっちこーい!」
ふっ! と全部のゾンビがこちらを向く。マナのヘイトスキルが発動したのである。
「うぎゃぁぁぁ! 全部こっち見たぞ! ていうか、きたぁぁぁぁぁ!」
「騒がないで! 気が散る!」
ミナミがマフィアのドンを叱りつけた。
「す、すまねえ。お嬢ちゃんたちは怖くねえのかい」
「普通のゾンビはね!」
「飛空円斬!」
再びゾンビ達が一気に崩れ落ちる。だが後ろからも数体のゾンビが近づいて来た。
「う、後ろから来たぞおお!」
シュパ! シュパ! シュパッ!
ミナミが三体を斬る。
ドゴッ! ボゴゥ! バガン!
タケルが数十体を吹き飛ばした。
「なっ、なんだあああそりゃあ!」
クキがサルバトーレに言った。
「ゾンビ対策チームだよ」
「は、はは」
それからも俺達は市民を救いつつ先に進んで行く。するとサルバトーレが言う。
「あの壁で囲まれている所だ。あれがバチカンだよ!」
「わかった」
「回って行かねえと入れねえぜ」
だが俺はサルバトーレの首根っこを掴んで、壁の上へ飛んだ。
「うひゃあぁぁぁぁぁ!」
すると次々に細いワイヤーが飛んできて、壁の上に引っかかる。これはリコが作ってくれた、人を引っ張り上げるための装置だ。しゅるしゅると皆が壁の上に上がってきて、バチカンの中を見渡した。
タケルが楽しそうに言う。
「このゴーグルは最高だねえ。まるで昼間みてえだな」
それに俺が答える。
「見えるか? ゾンビは中に入り込んできていない」
「ああ。静かなもんだ」
「サルバトーレ。法王はどこに?」
「恐らくは宮殿に避難してるはずだぜ」
「よし」
俺はサルバトーレの首根っこを掴んで壁から飛び降りた。
「おわああああ」
いちいちうるさい。
仲間たちも次々に降りて来て、暗いバチカンの中を走る。
ツバサが言った。
「入り口で銃声が鳴っているわね」
「恐らくは警察でしょうね」
「どうするのヒカル?」
「敷地内にゾンビの気配はない。皆は先に宮殿に向かってくれ。俺は入り口の様子を見て来る」
クキが答える。
「了解だ。オオモリ宮殿の地図を出してくれ」
「はい」
皆がスマートフォンでそれを見て確認した。
「俺は気配で皆の所に辿り着ける。気にせず進んでくれ」
すると皆が無言で俺に手を上げ、サルバトーレを連れて行ってしまった。俺は人間とゾンビの気配が大量にする方向に向かって走り出すのだった。




