第420話 イタリア沿岸でステルス艦のミサイル攻撃
シチリア島を飛び出した十機のヘリコプターは、編隊を組んで海上を飛び続けていた。ローマまでは約一時間ほどで到着するらしいが、それまでにドン・サルバトーレが救いたい人間が生きているとは限らない。俺はヘリコプターのドアから体を乗り出して、進行方向を警戒していた。
ドン・サルバトーレが俺に言う。
「兄ちゃん。そんなところで見ていても、どうしようもねえぜ?」
だがそれにクキが答える。
「いや。ヒカルの目は下手なレーダーよりずっといいんだ」
「人の目がか?」
「そうだ」
そんな事を言っている間に、俺の視界にあるものが見えて来た。俺がヘリコプターの中に叫ぶ。
「何艘かの船がいるぞ?」
「おい! 船が見えるか?」
サルバトーレが聞き、ヘリコプターの操縦士が答える。
「いえ! 全く見せません! 航海灯を灯していませんし、色別信号もあがっていませんが?」
俺が聞く。
「どういうことだ?」
「いや、夜の船ってのは衝突を避けるために、灯りを灯さなきゃならねえんだ」
それを聞いてクキが叫ぶ。
「ドン・サルバトーレ! すぐにヘリコプターの編隊を迂回させろ! 直進してはダメだ!」
「なっ?」
「ステルス軍艦か潜水艦だよ! 早く!」
「わ、わかった! マイクをよこせ!」
ドン・サルバトーレがマイク付きのヘッドセットをつけた。
「全隊戻れ! 一度編成を立て直して迂回しろ!」
バシュッ! という音が聞こえて来る。すると尻から火を噴いた筒がこちらに飛んで来た。
操縦士が叫ぶ。
「ミサイルだ!」
「サルバトーレ! このヘリコプターを横に向けろ!」
「ミサイルにやられっちまう!」
「いいから!」
俺はヘリコプターの足に足をひっかけて蝙蝠のようにぶら下がり、村雨丸の指紋認証を押して鞘を外した。他のヘリコプターは既に逃げており、真っすぐにこのヘリコプターへミサイルが飛んで来る。
「閃光孔鱗突」
俺が剣技を振るうとミサイルが爆発した。上からクキが俺を覗いて言う。
「どうだ?」
「撃墜したが、一発では終わらんだろう」
ドン・サルバトーレが騒いでいる。
「み、ミサイルが自爆したぞ!」
クキが叫ぶ。
「自爆じゃない!」
するとドン・サルバトーレが慌てて操縦士に言った。
「に、逃げろ! 次が来る!」
俺が叫ぶ!
「ダメだ! 更に近づけ!」
だがドン・サルバトーレが叫んで答える。
「ダメだ! 俺が死んだらファミリーが路頭に迷う!」
「良いから!」
「良くないわい!」
するとクキがドン・サルバトーレのこめかみに銃を突き付けて言う。
「悪いがヒカルの指示通りにしてもらおう」
「き、貴様!」
「早くしろ!」
「くっ!」
ドン・サルバトーレは半ば開き直りのように怒鳴る。
「ヘリコプターを真っすぐすすめろ!」
「し、しかし!」
「つべこべ抜かすな! 俺のどたまに穴が開く! こいつ本気だ!」
「は、はい!」
俺達が乗ったヘリコプターが先に進むと、更に数本のミサイルを射出して来た。
「ほ、ほれ! 言わんこっちゃねえ! 死ぬ! 死ぬ! 死ぬ! 死ぬ!」
「死なない!」
クキとサルバトーレの喧嘩は放っておいて、俺が再び剣技を繰り出す。
「閃光孔鱗突。五連!」
次の瞬間、ミサイルは暗い海の上で全て爆発した。
「ど、どうなっとるんじゃ?」
サルバトーレが慌てているが、俺は更に指示を出した。
「直進する先に、二隻の黒い船がいる! ミサイルの出所はそいつらだ!」
「そ、それじゃあ! 早く逃げんと!」
「それでは味方が撃ち落とされる! このまま船の元に飛べ!」
「くっ! 訳が分からん! もうこうなったらヤケじゃ! 行け行け!」
ヘリコプターはすぐに二隻の黒い艦艇の上空に来た。
「俺が合図をしたらすぐにここを飛び去れ!」
「わかった!」
「奥義! 天空流星斬!」
ゴゴゴゴゴ!
「行け!」
ヘリコプターが飛び去った後、天空から超巨大な岩が落ちて来る。すると眼下に巨大な水柱が上がり、一隻を直撃、もう一隻は大波に飲み込まれて沈んでいった。
「どどどど、どうなっておる!」
「ヘリコプターの編隊を戻しローマに直進しろ!」
「ふ、船は?」
「沈めた」
「…沈めたぁ??」
「行け!」
ドン・サルバトーレは慌ててヘッドセットを戻し、他のヘリコプターに伝える。
「戻れ! このままローマに直進だ!」
「「「「「「「「「は!」」」」」」」」」
俺が体を起こして、最初の時のようにヘリコプターの脇に立つ。それを見たクキが銃を引っ込めて座席に座った。
「ドン・サルバトーレ。銃を突き付けてすまなかった。そうしないと他のヘリが落とされていた。緊急の為、致し方なかった」
「わ、わかった。いや、良く分かってねえけど、俺達が助かったのは事実だ」
「すまんが、ヒカルの指示は絶対に守ってもらいたい」
「だが…」
「恩人を助けたいのならば絶対だ」
「わかった」
ようやくドン・サルバトーレが納得してくれたらしい。だがポツリと聞き返す。
「あんた…本気で俺の頭を弾くつもりだっただろ?」
「全滅するくらいならやってた」
「…マフィア顔負けの冷徹さだな」
「仕事だ」
「そうか…わかった」
そんな会話をしているうちに夜景が見え始め、ヘリコプターの編隊がそちらに向かって進む。すると、あちこちから煙が上がっているのが分かった。
「ひでえな…」
「確かに…生存者がいるかどうか」
「さっきの船はファーマー社だろうか?」
「多分な」
ローマ周辺で火災が起きており、俺の気配感知に逃げ惑う人とゾンビの気配が伝わって来る。
「どこか安全な所でヘリコプターを下ろせ!」
「わかった!」
「サルバトーレ! あんたらの仲間は降ろすな。安全な場所で待機していてくれ」
「どういうことだ! 俺達は法王を助けに来たんだぞ!」
「無駄死にする事はない」
「はあっ??」
するとまたクキが言う。
「とにかく言う事を聞いてくれ。俺達が行く」
「な、なら! 俺を! 俺だけでも連れて行ってくれ!」
「どうする? 大将」
「かまわん。連れて行こう」
「あんちゃん! 恩に着るぜ」
「行くぞ」
ヘリコプターが次々に広い場所に下りて仲間が降りて来る。アビゲイルとエイブラハムも降りようとしていたが、俺はヘリコプターで待機するように伝えた。
タケルがジュリオに言った。
「ジュリオさんよ。わりいけど、博士達をよろしく頼むわ!」
「分かった。俺からも頼むよ。親父を死なせねえでくれ」
「分かってる」
「親父! 死ぬんじゃねえぞ」
「おめえもしっかり博士を守ってろや」
「もちろんだ」
俺達とドン・サルバトーレを降ろして、次々にヘリコプターが飛び去って行った。俺の周りにみんなが集まってきて、例の眼鏡を取り出して装着する。
「おお、はっきり見えるぜ」
「ゾンビは全て駆逐するぞ」
「「「「「「「了解!」」」」」」」
そしてクキが言う。
「イタリア警察とイタリア軍が態勢を整えるまでの時間だ。それまでに出来るだけの市民を逃がすようにするぞ」
「「「「「「「了解!」」」」」」」
するとドン・サルバトーレが目を丸くして言う。
「あんたら…素人…なんだよなあ?」
「女子大生やOLやエンジニアですよ」
「本当に大丈夫なんだよなあ?」
「自衛隊の特殊部隊である、特殊作戦群だった俺から言わせてもらえれば、このチーム以上にゾンビに対抗できるチームはいない」
「は、はあ…わかった。とにかく邪魔にならないようにする」
「そうしてくれ」
そして俺達は、炎が燃え盛る都市に向かって走り出すのだった。




