第418話 用心深いイタリアンマフィア
星が輝く地中海を進む船の先に、小さな光が集まった町の灯りが見えてくる。
ミオが俺に言った。
「ロマンティックね、ヒカル」
確かにそうだが、俺の耳には他の雑音が聞こえてきている。するとツバサがミオに言う。
「ヘリコプターが飛ばなければね」
「えっ? 聞こえる?」
すると島の方から、赤いランプを点滅させたヘリコプターが飛んで来る。あっという間に俺達の船の上空に来て、旋回しながらライトで照らして来た。
それに対し船首に立っている執事が、持っているライトをチカチカと点滅させる。それを確認すると、ヘリコプターは島の方へと戻って行ってしまった。
「お出迎えです」
クキが聞いた。
「味方かどうかを確認しに来たってところか」
「とても慎重なお方ですから」
「誰なんだい?」
「お会いしてからのお楽しみという事で…」
俺達の船が港に入っていくが、俺はある事に気が付いた。
「銃を持っている奴があちこちにいるが?」
それを聞いた執事が目を丸くして言う。
「お見えになるので?」
「おおよその人数も分かる」
「お嬢様からお伺いしていた通り…という事ですか」
「何を聞いたか分からんが、あの銃を持った奴らは味方で間違いないんだな?」
「間違いございません」
岸壁に近づいて執事がロープを投げると、陸地にいる奴らがそれを受け取り係船柱にかける。船尾の方でも同じように誰かが作業をしており、いつの間にか船の縁には階段が設置されていた。鮮やかな手並みで、よく訓練されていることが分かる。
俺達が荷物を手に取り始めると、執事が俺達に挨拶をした。
「恐れ入りますが、私はここまで。皆様との船旅は楽しゅうございました。これからのご活躍を心よりお祈り申し上げます」
クキが返した。
「すまんね。俺達のような難民もどきに、いろいろしてくれて」
「いえ、あなた方が難民なものですか。この世界を救う英雄になんと名をつけていいか私には分かりませんが、世界の未来を救うチームなのだと思っております」
「英雄…ね。ありがたく受け止めとこうか」
「では。御武運を」
降りていくときにミナミが執事に言う。
「私に、素敵な傘をくれた彼にもよろしくお伝えください」
「心得ました」
俺達は、船に乗り込んだ時よりも遥かに上質な服を着こんでいた。それぞれの荷物が増えていて、一人一つの大きなトランクケースを持っている。
階段を下りて行くと、陸には数台の黒塗りの車が止まっていた。眼光鋭いオールバックの、派手目のスーツを着た男が近づいて来て言った。
「ようこそシチリアへ。客人のおもてなしはこの、ジュリオ・ロッソが承ります」
ハンジが握手をして、他の若い連中が俺達の荷物を運んでいく。最後尾の車両は大きめのワゴンになっているようで、それに荷物を積み込んでいった。若い奴らが車のドアを開けてくれたので、俺達は次々にそれに乗り込んでいく。
すると隣りに座ったクロサキが、俺の耳に小さな声でぽそりと言う。
「カタギではありません」
カタギじゃない…。…ということは反社会勢力ということだな…。クロサキはすぐにそれを見抜いたらしい。
「わかった…」
風光明媚な夜の街を抜け坂道を登っていく。するとひときわ大きな豪邸が見えて来て、門が自動で開き始める。次々にそこに車が入って行き後ろで門が閉められた。
車を降りると、今度はタケルが俺に近寄って言った。
「あれだなあ…あの若手たちの雰囲気や車のニュアンスから言って、ここはたぶんマフィアの家だぜ」
確か…用語集ではマフィアは反社会勢力の事だ。
俺達が車を降りると、ジュリオ・ロッソが言う。
「悪いが銃は入り口で預かる。あと荷物も全て終わってから渡すぜ」
ハンジが答える。
「わかった」
そして俺達は身体検査を受け銃を没収された。タケルが忍び込ませているバールもだ。
すると若手が俺に言う。
「その杖も」
「すまないな。俺は膝が悪いんだ」
「わかりました」
女達のハンドバッグ、俺の杖、そしてミナミの傘が通り抜けた。それほど厳密なものじゃないらしく、オオモリのノートパソコンも取り上げられる事は無かった。
「ではこちらへ」
歩いている時にミナミが言った。
「ねえ! 体を触られたんだけど!」
「武器を携帯していないかどうかのチェックだろう」
「だからって!」
するとジュリオが言う。
「すまんな。親父が慎重なもんで」
女らは不機嫌になっているが、周りの奴らは気にも留めていないようだった。そして二人の護衛が立っているドアを開け中に通される。
「適当に座ってくれ」
そう言ってジュリオが出ていく。すると関係のないハンジが女達に謝ってきた。
「嫌な思いをさせて、すみませんでした。そして私は恐らくここの主を知っています。まあ知っているといっても面識があるわけではなく、有名人だから知っていると言ったものですが」
ミオが聞き返す。
「有名人?」
「はい。恐らくこれから会う男は『アイスマン』です」
タケルが笑って言う。
「アメリカンヒーローか何かか?」
「違います。冷酷な男だからアイスマンと呼ばれています。本当の名前はサルバトーレ・ロッソ。ドン・サルバトーレと呼ばれる巨大なマフィアのボスですよ。先ほどジュリオ・ロッソと言ってましたね。彼は恐らくその息子です」
「やっぱマフィアか! じゃねえかと思ったんだよ!」
それを聞いて俺が言う。
「さっきクロサキも言っていた。カタギじゃないと」
「黒崎さんも分かったか!」
「ええ。商売柄、そう言う人には沢山接触してきましたから」
なんて話していると、入り口が開いてジュリオと三人のボディーガードを連れた恰幅のいい男が入って来た。だが息子のようなぎらついた感じも無く、目つきも悪くは無かった。
「これはどうも」
そう言って男はハンジに手を差し伸べてくる。
「ザ・ベールのハンジ・ヨーゼフと申します」
「サルバトーレ・ロッソだ」
モナコの金持ちからタスキを渡されたのは、イタリアの有名なマフィアだったのである。だが、ドン・サルバトーレが言う。
「ははは。面白い、この部屋にいる兄さんやお嬢ちゃんの誰一人として怯えていない。もしかしたらわしを知らんのかな?」
だがクキが言う。
「いや、今しがたその名を聞いた」
「ほう…わしの名を。ではその正体を知らんとか?」
「それも、少し前に聞いたが」
女達は、先ほど体を触られた事で怒っており睨んでいる。オオモリは全く興味がないようにパソコンを触っているし、クロサキもクキも冷静にドン・サルバトーレを見ていて、タケルなんかはニタニタしながら周りの調度品を眺めていた。
まあ…アビゲイルとエイブラハムは戦々恐々としているようだし、ハンジは緊張しておりクワタが震えているようだが、俺達の誰一人として何も脅威に思っていない。
「面白い! うちの息子にもそのぐらいの肝っ玉が欲しいところじゃ」
「お、親父!」
「そして博士! ようこそシチリアへ。良い旅を楽しめましたかな?」
「は、はい。ミスター、サルバトーレ・ロッソ。良い待遇でしたわ」
「見ましたぞ! 国連本部での映像を!」
「それはなによりです」
「ドクター、エイブラハムも鼻が高いでしょうなあ。優秀なお孫さんをお持ちで羨ましい」
「いやはや、そのように言っていただけるとは。嬉しい限りですじゃ」
「まあ、長旅でお疲れでしょう! 今日は屋敷でゆっくり休まれると良い! 美味いシチリア料理でも食いながら酒でも飲みましょうや!」
「お心遣い痛み入るのじゃ」
そして俺達は、反社勢力の屋敷で一夜を過ごす事になったのだった。




