第417話 勇者の地中海クルージング
俺達が船底に行くと、薄暗い機械室に神経質そうな眼鏡のヨーロッパ人がいた。船に居た老紳士が俺達を紹介すると、その眼鏡のヨーロッパ人が言う。
「入って」
オオモリが喜んでいる。
「機械盤が入り口になってるんですね! 秘密基地だあ」
操作盤みたいなところが開いており、俺達はその神経質そうな男について中に入った。そしてハンジが尋ねる。
「お嬢様から、彼らにプレゼントがあると聞いたんです」
「聞いてる。こっちだ」
奥にちょっとした階段があり、そこを下ると不思議な空間が広がっていた。所狭しといろんな物が置いてあり、タケルが何気なく置いてある腕時計に手を触れようとする。
「あ! ダメ!」
ビクッ!
タケルはびっくりして手を引っ込める。
「睡眠ガスが出るから」
「えっ」
「えっと、お嬢様から聞いているのは、あんたがたが、どこぞのスパイだって事だ。そしてここには、あんたらの活動の役に立つような道具が並んでいる」
それを聞いて仲間達が唖然としている。男が続ける。
「えーとぉ。日本刀を使う人がいるって聞いたんだが」
俺とミナミが前に出る。
「俺とミナミだ」
「そうかそうか。これを見てくれ」
そう言って出されたのは、一本の杖と傘だった。
「杖と傘?」
「仕込み刀だよ。だが簡単に外れないんだ、持ち手の所に親指をつけるところがあるだろう?」
見れば何らかの仕掛けがあるようだ。
「そこに持ち主が親指をあててくれ」
言われたとおりにする。
ピピッ! カチ!
そしてするすると日本刀が出て来た。ミナミが渡された笠も同じように日本刀が出て来る。
「すごいわ。これなら持ち歩いても違和感がないわ」
確かにミナミの言うとおりだった。そして男が付け加えて言う。
「これで二人の指紋を覚えたから、他の人が触っても刀は出てこない。そっちの刀、なんでも村雨丸とか言う奴らしい。日本じゃ架空の物語に出てくるらしいが、実はポルトガルのほうに流れてたらしいぞ。それをお嬢様が買って来たんだ」
するとミナミが言う。
「えっ…南総里見八犬伝の? 村雨丸?」
「確かそう言う物語だったなあ。何でも妖刀とか言う奴らしい」
「実在したんだ」
「そっちの傘の奴は、村正とか言う奴だ」
「これも凄い…」
「それも、お嬢様がオークションで落として来た」
そして男は、さっきタケルが触りそうになった時計を持ち上げる。
「これは、このねじ回しを二段階で回して抜くと、催眠剤が噴射されるんだ」
「ゴツイ時計だ」
「高級時計だからね」
次に男は、ケースをテーブルの上に置いた。
「このアタッシュケースは、スナイパーライフルだ。自衛隊がいるって聞いた」
「俺だな」
クキがそれを受け取った。そして次にテーブルの上に並んでいる眼鏡を指さす。
「あとは眼鏡だ。かけてみてくれ」
皆が眼鏡をかける。すると男が電気を消した。
「暗視ゴーグルだよ。暗闇でも人の動きが浮かび上がる」
皆が暗闇の中で、光の棒で囲われたようになって動いている。
「ちなみにスマートフォンも連動できるから、動画を見ながら旅行もできるぞ」
そう言って男が電気をつけた。するとクロサキが棚を指をさして聞いた。
「これは何です?」
「ああ。それは監視ドローン」
「えっ? こんなに小さいのに?」
クロサキが持つそれは二センチに満たない大きさだった。
「そう。一度の充電で二十分は飛ぶよ。スマホに連動して画像を映すよ」
そう言いながらも、男は次の箱を取り出して中身を見せる。それを見たミオが言う。
「絆創膏?」
「に見えるよね」
それを一枚剥がして、男が自分の喉に貼る。
「あー、あー。こんな感じです」
いきなり声が変わった。さっきとは全く別人の声だった。ペリっと剥がすと、元の声に戻る。
「凄い…」
そして男は得意げに言う。
「可愛い人に、そう言ってもらえると嬉しいな」
「あと何があるの?」
「あるよ。これ」
出されたのは小さな板のようだった。
「ガム?」
「正解。でも噛んじゃダメ、取り出して二つ折りにしてみて」
マナが、そのガムの包みを剥いて二つ折にする。
「うわ。べたべたになった」
「そうそう。粘着性が増すんだ。あとは適当にどこかにくっつけて」
ペタン!
「それはGPS追跡さ。何かにつければ、スマートフォン一つで追えるよ」
最後にアビゲイルが聞いた。
「これは歯磨き粉?」
「危ない!」
「えっ! えっ!」
「ちょっと貸して」
「は、はい」
男は歯磨きチューブを取り上げ、蓋を開けて中身をテーブルに出しすぐにふたを閉める。
ボン!
少しして出したジェルが破裂した。
「爆弾なので、取扱注意」
「わ、わかりました」
「という訳だけど。役に立つかな?」
クキが笑って言う。
「充分だ。誤魔化すのに苦労しないし見た目が全部日用品ってのが良い、コイツはかなり役に立ちそうだ」
「お嬢様に言われたとおりに、日用品に溶け込むように作ったからね」
「必ず役に立つさ」
男の説明が終わると、紳士風の男が言う。
「では皆様。それぞれのお部屋にご案内いたします」
ハンジが答える。
「よろしくお願いします」
神経質そうな眼鏡の男は、ニコニコしながらミオに手を振っていた。上の階層にあがり、俺達は各自の部屋に案内される。そして通路に立った紳士風の男が言った。
「室内にある物は、全て持って行っていただいて構いません。これからランチタイムとなりますので、御着替えの上ラウンジにお集まりください」
俺が指定された部屋はクキと同部屋だった。二人で部屋に入り驚く。
「おいおい…ヒカルの趣味を知ってやがる」
そこにはル〇ヴィ〇ンのスーツと革靴がずらりと並んでいたのだ。
「これをもらっていいのか!」
「いいんじゃないか? 執事は良いって言ってたぞ」
「そうか!」
俺は、その中から気に入ったものを選んで着る。するとクキも珍しくスーツを着込み俺達は部屋を出た。すると丁度ミオが部屋から出て来たところだった。
「おお、ミオ。どうしたんだ?」
「ドレスがあったのよ。だからミナミと一緒に着てみたの」
「似合ってるな」
「そう?」
するとミオの後ろから声がかかる。
「えー! あたしはー!」
「ミナミも似合っている」
ミオが水色のドレス、ミナミが白いドレスを着ていた。その後ろの部屋から、マナとツバサとクロサキもドレスを着て出て来た。
そしてマナが言う。
「ちょっと、クロサキさんのワインレッドのマーメイドスーツが、似合いすぎなんですけど」
「そ、そうですか?」
そこに白いスーツのタケルとオオモリが出て来た。そしてタケルが言う。
「黒崎さんは鍛えているだけあって、プロポーションが良いんだろうな」
それを聞いたツバサが言った。
「ちょっとそれどういう意味? 私達がプロポーション悪いみたいじゃない」
「そ、そうは言ってねえって。皆もいいよ」
更にそこにアビゲイルとエイブラハムが着飾って出て来た。
「うわあ…アビゲイル博士も綺麗」
「そ、そうですか? 普段着は白衣ばかりだから…」
「素敵です」
老執事がやってきて言う。
「皆さんお揃いのようですね。それではランチの準備が出来ておりますので、船外にいらしてください。アビゲイル博士とドクターエイブラハムは、申し訳ないのですがサングラスの着用をお願いします」
俺達が執事について外に出ると、めちゃくちゃ天気が良かった。しかも海の色がとてもきれいで、キラキラと輝いている。
「ドレスを着て地中海クルーズなんて夢みたい」
「本当に。まさかこんなことが待っているなんて思わなかったわ」
マナとツバサの言葉にを聞いてタケルが言う。
「つうか白スーツなんて着ちまったぜ」
「でもカッコイイんじゃない? 由美がそばに居なくて残念ね」
「そっか…。おい大森! 写真撮ってくれよ! 帰ったらアイツに見せる」
「わかりましたよ!」
そしてタケルは海をバックに、ポーズをきめ出した。オオモリが一生懸命それを取っている。
「白いパラソルに白いテーブル! 地中海の青い空に青い海! 大きな船の上でランチ!」
ミナミもめちゃくちゃ気に入ったようだ。俺達が席に座ると、執事が飲み物を注ぎ料理が運ばれてくる。それから俺達は美味い料理を食べ始める。ゾンビ因子が含まれていない、非常に体にいい料理だった。そこに写真を撮り終えた、タケルとオオモリが戻って来る。
「お、もう食ってるのか」
「おいしいわよ」
「つうか、あっちにプールあったぞ」
「嘘! 入りたい」
マナが言うと執事が答える。
「お部屋に水着も用意して御座います」
「ええ! そうなの?」
そうして皆が食事を終え、タケルとオオモリと女達が部屋に戻って行った。俺とクキ、ハンジとクワタとエイブラハム、アビゲイルとクロサキが、ここに残り酒を飲み続ける。
「まさかアビゲイルと一緒に、こんな思いが出来るとはのう」
「わたしもお爺さんと、こんな時間が過ごせるなんてうれしい」
平和な家族の会話というのは良いものだ。この時ばかりは皆も戦いを忘れて、酒を味わっている。すると、そこに水着姿のマナとツバサがやって来た。
「ねえ、ヒカルも来なよ」
「いや、俺は…」
だがエイブラハムが言った。
「皆でプールサイドで酒を酌み交わすというのも、また良さそうじゃ」
それにクキが答える。
「それじゃあドクター、場所を移しますか」
「うむ」
俺達がプールサイドに行くと、皆がプールで泳いだり寝そべって日光浴をしたりしていた。するとタケルが俺に水着を渡してくる。
「お前も来いって!」
「わかった」
俺はその場で服を脱ぎパンツをはいた。
エイブラハムが言う。
「ヒカルは彫刻のようじゃのう」
ハンジもクワタも言った。
「凄い体だ…」
「マジっすね」
するとエイブラハムが、おかしなことを言い始める。
「あ、あの、うちの孫はまだ独り身でのう…よかったら…」
「お、お爺さん!!!」
するとそこに水着の、ミオ、ツバサ、マナ、ミナミがやって来て言う。
「あー、ごめんなさい。ドクター、彼には先約があるんです」
「な、なんじゃて?」
「そうです。順番を守っていただかないと」
「そうなのか?」
「競争は激しいんですよー」
「うむむむ」
「しのぎを削ってるんですから!」
「あ、アビゲイル! 水着じゃ! はよ! 水着を着るのじゃ!」
「お、お爺さん!!!!」
地中海の上で俺達は平和な一日を過ごすのだった。




