第416話 力を持った協力者
俺達が上階の部屋に行くと、そこにはザ・ベールの仮面をつけた人らがいた。ドレスを着た女が一人ソファーに座っており、スーツを着た四人の男達がその後ろに立っている。
「お待たせしました」
「ご苦労様。ハンジさんも桑田さんも」
「わざわざご足労ありがとうございます」
その仮面をかぶった女は、とても冷静に受け答えをしている。周りに立っている男達は、恐らく訓練された人達のようで隙が無い。
そしてハンジが言う。
「では早速、ご紹介します」
「ええ」
「こちらの九名が日本から来た人達で、こちらが…」
「そちらは分かっているわ。アビゲイル博士とおじいさまのエイブラハム医師でしょう」
「そのとおりです」
すると仮面の女は席を立って、なぜか俺に手を差し伸べて来た。よくわからずに俺はその手を握る。
「素敵な人ね。お話の通りだわ」
「……」
何の事か分からないが、女は俺の事を知っているようだ。
「あら、ごめんなさいね。一方的に」
「いや」
「訳あって正体をお知らせする事は出来ないの」
よくわからないので俺はハンジを見る。
「ああ。ミスターヒカル。彼女がここから逃がしてくれる人だよ」
「そうか…よろしく頼む」
「ええ。あなた方は日本からの旅人。危険を顧みずやって来た勇敢な人達だわ。お会い出来て本当に光栄です」
そして女は俺から手を離して座った。
「まずは皆さん。おかけになって」
そう言われたので、皆がソファーやその辺りにある椅子に腰かける。なんだか言う事を聞いてしまいたくなるオーラを纏った女だった。
そしてクキが言う。
「どちら様かは存じ上げませんが、我々はアビゲイル博士を守る使命を持っています。彼女に危害を加える一切の者から守り、この地を脱出しなければなりません」
「ええもちろんですわ。ですが私が公に行動できるのは、このモナコ内までとなります。そこで一緒に来てほしい所があるのです」
「どこへ?」
すると仮面の女がクキに言う。
「ここを出発してからお教えしますわ。まずは急ぐのでしょう?」
そこでハンジが言った。
「あと一週間以内には、アビゲイル博士に国際指名手配がかかると思います。その前にヨーロッパから抜け出したいのです」
「ではすぐに」
「わかりました」
すると女がまた俺に耳打ちする。
「あなたとお会いできたのは本当に光栄です」
「そうか。それはよかった」
何の事か分からないが、喜んでいるのなら何も言う事は無い。休む暇もなく俺達は荷物をまとめてアジトを出る。外に出ると既に夜が明けており朝日が昇っていた。全員が車に分乗して乗り込み、十分もしないうちに降ろされる。
クキが言う。
「港か。船ですか?」
仮面の女が言う。
「ええ。あちらです」
女が指をさしたが、俺達はよくわからずにクキがもう一度尋ねる。
「あちら…とは?」
「あら、小さすぎて見えませんでしたか?」
「見る限りは、白い客船しかありませんが?」
「あら、それですわ」
皆が絶句する。それもそのはずで全長百メートルはあろうかという、純白の三階建ての建物のような船が停泊していて、女はそれを指さしていたのだ。
「……」
仲間の女達が色めき立つ。
「えっ! えっ! あれに乗るの!」
「うっそ! 豪華客船?」
「地中海であんな立派な船に!」
「うわあ…」
すると仮面の女が言う。
「あら。女性達は気に入っているようですわ」
「い、いや。気に入らないとかじゃないんだ。予想外過ぎたんでちょっと驚いた」
「そうですか。これしか用意できなかったものですから」
「逆に目立たないのかもしれませんね…」
そうして俺達は、その大きな船の前に立つ。すると仮面の女が言った。
「博士。お会い出来て光栄でしたわ、そして日本の皆さんも。私はあなた方を支援します。ですが立場上はここまでしかご協力できませんのよ」
するとエイブラハムが帽子を脱いでお辞儀をする。
「どこぞのお嬢様かは知りませんが、孫の為にご尽力いただいてありがとうございます。あなたのような裕福な方にも、正義の心のある人がいるとは心強いのじゃ。心より感謝します」
「いいえドクター。我々のような力のある者が出来る事はもっとあったはず。しかし社会というのは複雑なもので、表立って支援できないのも事実です。ですが世界には、似た考えを持つ仲間が沢山おります。ですから決してあなた方だけではない事を知ってください。私達は人類の存続の為に戦っているのだと。ザ・ヴェールの仲間は世界中にいます」
「わかったのじゃ。心強い言葉をかけていただけてありがたい」
すると仮面の女は俺達の方を見る。
「そして日本の方々に謝罪したい、私達の力が足りなかったばかりに酷い思いをさせてしまった。だが世界は決して日本を見捨ててはいない、だから最後まで諦めずに抗ってください。私達は陰ながら支援できるように、世界にネットワークを広げています。それこそ光と闇の戦いのように。私達は、あなた方に光がさしこむ事をお祈りいたします」
それにミオが答えた。
「ありがとうございます。その言葉を聞けただけで、我々はまだまだ戦えると思えました。そして日本は必ず復活します。世界に見捨てられていないのだという事は、日本の皆の励みになるでしょう。世界の闇が払拭出来た暁には、その仮面を外したお顔が見れる事を楽しみにしています」
「ええ。日本のお嬢さん。平和な世界を取り戻した暁には、もう一度会いに来てください。もうちょっと、まともなおもてなしが出来るようにいたしますわ」
そして船に乗り込み俺達が振り向くと、仮面をかぶった人たちは居なくなっていた。
アビゲイルがハンジに聞く。
「あれは…ザ・ベールのスポンサーの一人かしら?」
「まあ、そんなところです。もちろん正体は明かせませんが、間違いなく味方になってくださる一人ですね」
「仲間が世界にいると聞いたわ」
「そう言う事です。でなければ、このような活動を継続する事は出来ませんよ」
そうして俺達が船の中に入ると、女達のテンションが滅茶苦茶上がる。
「高級ホテルじゃないの!」
「凄いわ!」
「これが…貸し切り?」
「夢みたいだわ…」
そして乗る船は地中海へと出ていく。
俺達が奥の部屋に入ると、大きなディスプレイが突然ついた。すると先ほどの仮面の女が映しだされ話を始める。
「地中海クルーズへようこそ。この船はこれからイタリアのシチリアに向かいます。既にもう一人の協力者には話が付いておりますので、それまでは優雅な旅をお楽しみください。皆さんのこれからの活躍と復活を願っております。なお食事やお酒は自由になさってください。一流のシェフ達を乗船させておりますので、思う存分わがままをおっしゃってください。また船底の格納庫にプレゼントがありますので、どうぞご覧になってみてください」
それを見たみんなが顔を合わせる。そしてマナがクキに言う。
「なにかな? プレゼントだって!」
「さてな」
すると品の良い年配の男が出て来る。
「ようこそ。それではどちらにご案内いたしましょう?」
そこでクキが言った。
「まずはプレゼントを見せてもらいたいものだ」
「かしこまりました」
そうして俺達は、大きな客船の船底へ向かって降りていくのだった。




