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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編

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第409話 細胞レベルで繋がる仲間

 今のところ敵襲の気配は無い。だがおそらくは時間の問題で、ここに軍隊が送り込まれてくるか、自爆するかの選択が取られるに違いない。アビゲイルを生け捕りにするなら軍隊、俺達ごと抹消するなら自爆だ。その状況下で俺達は静かにディスプレイを見つめ、アビゲイルの説明を聞いている。


「これは分子レベルの映像です。そして映っているのは不純物を取り除いた、純粋なミスターヒカルの分子となります。見ていて下さい」


 ぽとりと、そこに何かを落とした。


「これは犬の細胞分子です」


 全く違う形の分子が現れる。周りには俺の分子が散らばっているが、それが流れるように犬の分子に近寄った。


「うそ!」

「えっ!」

「なにこれ」


 犬の分子と俺の分子が触れあった瞬間、犬の分子が一瞬で俺の分子と全く同じになった。


 クキが尋ねる。


「これはどういうことだい?」


「消すでもない、同化するでもない、殺すわけでもないのです」


「なら犬の分子はどこに?」


「そこにあります。ですが変わったのです。ミスターヒカルの分子に」


 それを聞いてミオがアビゲイルに言う。


「日本の学者はそうは言ってなかったわ」


 アビゲイルはそれには答えずに、また違う物質を落とす。


「これがゾンビ細胞分子です」


 俺の分子の中にゾンビ細胞が落とされた。ゾンビ分子はまるで自分の意思があるかのように、俺の分子に一目散に近づいて行く。


 だが…。一瞬だった。


「また変わった。ヒカルの分子になった」


 すると機械のアームを操りながら、アビゲイルが備え付けのマイクに向かって言う。


「AIに指示。変化分子を分析。異常はあるか?」


 するとディスプレイには百パーセントという文字が表示される。それを見てアビゲイルとエイブラハムが目を丸くした。


「ミスターヒカルの分子そのもの。犬の分子でもゾンビ分子でもない、変化も確認できない」


「どう言う事です?」


 すると今度はエイブラハムが言う。


「わしらが推測しとったのは、一つにゾンビ因子や不純物をはじく、二つ目に異常タンパクを作らせる事無く無害にする、三つ目に不純分子を攻撃して消滅させると言うものじゃった。日本の研究者たちが導き出した結果は、ゾンビ細胞を攻撃して消しているというものじゃったからのう。じゃが消えているのではない、食うでもなく取り込むでもなく何事も無かったように、ミスターヒカルの分子に変わったのじゃ」


 アビゲイルがその言葉を受けて言う。


「日本の学者がゾンビ因子を破壊したと見えたのは、ヒカルの分子に変化したことで消えているように見えただけです」


 俺にも、どういう事か分からず聞いてみる。


「俺の体は、どうなるんだ?」


「もちろんまだ検査の必要があるけど、超強力な遺伝子兵器であるゾンビ因子がミスターヒカルの分子に変わった。その結果、量子コンピューターが導き出した答えがこれです」


 画像に映ったのは文字データだった。それを見ても誰もピンと来ていないので、アビゲイルが説明を始める。


「ヒカルには他の細胞やゾンビ因子が影響しないどころか、自分と同じものに変化させてしまう。全ての予測演算結果を見ても、エボラ出血熱、マールブルグ病、ラッサ熱、狂犬病や毒なんかにも同じ結果が出ているわ」


 エイブラハムが目を見開いて俺に聞いて来た。


「ミスターヒカルは、病気をした事はないのかね?」


「ない」


 アビゲイルが言う。


「先天的なものでしょうね。選ばれた人間であるとしか言いようがないです」


 そういえば俺は前世では、生まれながらにして勇者になるべく育って来た。赤子の頃から体は丈夫で、病気など一度もかかった事がない。流行り病が起きた時も、俺だけ何もなくぴんぴんしていた。


「このような細胞は今まで見たことがないのじゃ」


「おそらく、現在確認されている病原体では、ミスターヒカルは死なないという事です」


 だがタケルが言う。


「そりゃそうだろ。そんな検査しなくたって、おりゃ知ってたぜ。なあみんな!」


 クキも苦笑して言う。


「確かに、いまさら驚かん。ただ日本の学者が言ってたのは、ヒカルから輸血をしてもらってはいけないという事」


「もってのほかです。恐らく死にます」


「そう言っていましたよドクター」


 アビゲイルとエイブラハムが顔を見合わせて頷いた。何か他の事を考えているらしい。


「すみません。あまり時間は無いと思うのですが、タケルさんとミナミさんの分子を確認します」


「お願いします」


 ミナミが言う。


 タケルとミナミは、仲間の中ではレベルが高い方だ。ギルドカードがないからステータスまでは分からんが、タケルがレベル十三でミナミはレベル十に到達しているはず。レベル千を超えている俺とは比較にはならないが、この世界の人間から考えたら異常値だろう。


 同じように採取した血を分離し、機械に入れてアームで操作して確認し始めた。そして再びアビゲイルとエイブラハムが目を見張る。


「どうですか?」


 ミナミが興味津々に聞いた。


「ミスターヒカルの分子反応とは違います。ですが普通の人間の反応とも違います」


 同じように分子の映像が流れた。


「これはミスタータケルの分子です。ここにゾンビ因子を落とします」


 さっきと同じようにゾンビ因子を落とす。だが今度はさっきとは反応が違った。


「ゾンビ因子が動かない?」


「そうです。全く反応しないですね…それに」


「ゾンビ因子の色が変わって動きが止まった」


「ゾンビ因子は全く栄養が取れずに死にました。全く反応がなく病原菌として認識もされずに死にました」


 タケルが笑いながら言う。


「はははは。ゾンビ因子を無視したって事か?」


「分かりやすく言えばそうです」


 そしてアビゲイルは他の作業をし始める。また画面に映ったのは俺の分子らしい。


「これはミスターヒカルの分子。そしてこれは私の細胞の分子」

 

 アビゲイルが自分の細胞をそこに落とすと、ゾンビ因子と同じように俺の物と同じに変わった。


「変化しました。もはや私の細胞はどこにもない」


「つうことは?」


「逆にミスターヒカルは私達からの輸血を全て受け付けます。下手をすれば動物の血でも輸血が可能かもしれません」


 それには全員が驚いた。


「マジかよ…」

「本当の本当にスーパーマンもびっくりね」


「ではここに、ミスター武やミス南の分子を落としましょう」


 だが全く違う結果が出た。


「ヒカルの分子に変わらない?」

「本当だ」

「どういうこと?」


 するとエイブラハムが言った。


「いや…これが普通なんじゃよ。普通は人の分子に変わったりなぞせんのじゃ、あんたらの血はミスターヒカルの分子にはならない。言ってみれば…同じ生物と認識しているのかもしれん」


「同じ生物? 俺らとヒカルがか?」


「そう言う事じゃな。それは…まるで分子レベルで、仲間だとでも思うとるようにすら見えるのじゃ」


 それを聞いてタケルが嬉しそうに言う。


「いいね! それ! 俺達とヒカルは細胞レベルで仲間だってことかよ!」


「分かりやすく言えば、そう言う事になるじゃろうな」


 それを受けてアビゲイルが言った。


「それはどうでしょう? AIに指示。 遺伝子を比較。三種の振り分け。分類、分析」


 ディスプレイと数値を見ながら、アビゲイルが目を光らせる。何か新しい発見でもしたようだ。


「言ってみれば…ここには違う生物が三種類いる事になります。ミスターヒカルとあなた方と私達、それぞれの遺伝子は似ているようで違います」


「なんだよ。分子レベルで仲間って言われて嬉しかったのによ」


「ですが無限の可能性があります。あなた方を研究していけば…」


「研究していけば?」


「ゾンビ因子など全く受け付けず、病気にも極端にかかりずらくなる薬が作れるでしょう。遺伝子工学を駆使すれば、今の人間より遥かに強い遺伝子に代わります…ただ…。私はそれをしたくはない」


 クキが尋ねる。


「どうしてだい?」


「私は母を救いたい思いで、そんな薬品を作ろうとした。その結果副産物として、ゾンビ因子を作り出してしまったのです。もしかしたらまた同じようになる可能性があります。更に恐ろしいものを作り出してしまったらと思うと…」


 それを聞いてミオが言った。


「今はそれを考えなくてもいいのではないですか? とにかくその事実が分かっただけで良いではないですか。それを心に留めておいて、未来に向けて考えて行けば良いのでは?」


「ミス美桜…」


「アビゲイルさん。もちろん予防薬は必要だと思いますが、じっくり考えて行きましょう。幸いにもゾンビ破壊薬はあるのですから、現存するゾンビに対抗する策はあるんです」


「わかりました。とにかく私の知りたいデータは取れました。脱出しましょう」


 アビゲイルは手に記憶媒体をかざして言った。


「ええ」


 そして俺達は研究室を出た。だが俺の気配感知に新たな反応が出る。


「地上に大量のゾンビ化人間と武装した人間がいる」


 クキが驚いて行った。


「もう来やがったのか」


 だが俺は言う。


「役者はそろった」


 タケルがにやりと笑う。


「さてと、それじゃあ、いっちょやりますかぁ!」


 俺達は無人の研究所を走り、地上で待ち受けるファーマー社の兵隊の元へと向かうのだった。

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