第408話 ジュネーブ研究所で撃たれた仲間
俺が自動ドアから飛び出すと、ファーマー社の軍服を着た連中が数人倒れていた。その反対側のデスクの後ろに仲間達が隠れていて、ミオが血を流して倒れているようだ。マナとツバサがミオを抱きかかえ、青い顔で俺に言ってくる。
「美桜が撃たれた!」
俺がすぐに謝まった。
「すまん。俺が気配探知をしていながら」
「違うのヒカル! 突然上から降ってきたの!」
天井を見上げると人が通れるくらいの穴が開いていて、どうやらそこから降りて来たらしい。突然現れた事で俺も感知が遅れてしまったのだ。するとクキが言った。
「すまん。すぐに撃ちこんだんだが、どうやらゾンビ化人間だったらしく反撃された。通常弾を使ってしまった俺のミスだ」
だがすぐにリカバリーしてゾンビ破壊弾を打ち込んだのだろう。流石はクキと言ったところだ。
今度はエイブラハムが青い顔をして言う。
「嬢ちゃんは、わしを庇って撃たれたんじゃ!」
俺がすぐにミオの所に行く。
「ゴメンね…ヒカル…急に現れたから感知が遅れちゃって…。ゴホッ!お爺さん守るので精一杯だった…ゴホッ!」
そこにアビゲイルとタケルとミナミが来た。
「美桜!」
「ちょっと! 美桜ちゃん!」
「痛たい…ドジしちゃったなあ…ゴホ!」
「美桜! おい! 死ぬな!」
「ダメよ! 美桜ちゃん! こんなところで!
そしてアビゲイルがすぐにその近くにあった、布と包帯を持って来て言った。
「すぐに止血を! 腕と…お腹を撃たれてるじゃない! この出血は…内臓に達しているわ! 急いで! 死んでしまう!」
ミオは腕とわき腹から血を流していた。そこで俺はアビゲイルに言う。
「大丈夫だアビゲイル。俺がやる」
「なにを?」
するとミオが俺の顔に、血まみれの手を伸ばして言った。
「ありがとう…ヒカル…ここまで…連れて来てくれて。ゴホッ! 私ね…ヒカルの事…」
「話すな」
「ヒカルの事…」
俺はこの世界に来てから、必要に駆られて治癒魔法のレベルを上げてきたのだ。俺はすぐにミオの腕とわき腹に手を当てて、治癒魔法と蘇生魔法を発動させる。
ぱああああ! と光り輝いて、流れ出た血が青白い粒子となって舞う。
腕の傷を完治。腹の傷も埋まり内臓修復。俺は手に握った二つの鉄の弾を捨てる。
「どうだ?」
「あれ? 全然痛くないわ。死ぬほど痛かったのに」
「腕の骨と、内臓の一部まで損傷していたからな。だが完全に治癒出来た」
「ありがと! 治してくれるって分かってた!」
「だが、流れた血は食い物を食わないと回復しない。貧血でふらつきが出るかもな」
それを聞いたタケルが言う。
「んじゃ。俺が背負う」
「そうしてくれ」
「だ、大丈夫よ」
「だめだ。タケルの厚意を受け入れろ」
「わかった」
そして俺がミオに聞く。
「それでミオ…俺の事をなんだったんだ?」
「えっ? はっ! 何でもないわ! 治してくれてありがとう!」
「そうか」
その一連の流れを見ていたエイブラハムとアビゲイルが、あっけに取られて言う。
「ど、どういう事じゃ…」
「なんで傷が塞がっているの? 死ぬほどの傷よ?」
クキが二人に言う。
「そう言う事なんですよドクター。この大将は御伽噺に出て来る本物のスーパーマンなんだ。正真正銘のヒーロー。ヒーローのような人、じゃなくてヒーローそのものなんですよ」
「「ヒーロー…」」
「そう」
そこでアビゲイルが、タケルに背負われてる美桜に言った。
「本物のヒーローか…。でも美桜も私のヒーローよ。私のおじいさんを救ってくれたわ」
「咄嗟だったから」
「ありがとう」
「うむ嬢ちゃんは。わしの命の恩人じゃ」
話が落ち着いてきたころ、俺の気配感知に再びひっかかったので、天井を見て言う。
「どうやら今度は天井から大量に落ちてくるようだぞ」
それを聞いてエイブラハムが慌てる。
「そ、それじゃあ! 早く逃げねば! は、早く!」
俺は首を振る。
「いや。俺の仲間を傷つけた奴らは許さない」
「ど、どうするのじゃ?」
「こうだ」
俺は天井の穴に向かって日本刀を構え、気と魔力を練る。建物を壊さぬように力を最小限に絞り込み、魔闘気が練り上がったところで剣を振るった。
「屍人炎龍鬼斬」
日本刀から炎の龍が飛び出し、天井の穴に飛び込んで行った。
「な、どうなるんじゃ?」
「こうなる」
しばらく待っていると、ずろろろろろろろろ! と穴から大量の焼死体が飛び出て来た。こいつらが穴に飛び込んだところに、俺は炎龍鬼斬を撃ち込んだのだ。
それを見ていたオオモリとタケルとミナミが言う。
「なんか、配管に詰まった泥が出て来たみたいな感じっすね」
「詰まりが無くなって、これで通りが良くなっただろ」
「だね。これで配管工事もいらないんじゃない」
アビゲイルとエイブラハムは真っ青になっているが、既にこんな光景には見慣れている仲間達が軽口を叩いた。というよりも、ミオをやられてかなり怒っているようだ。
「アビゲイル。奪取した物質を持ってどこに行く?」
「あ、ああ。そうね! そうだわ! 次はあなた方の体細胞と血液を分析したいの! 血液分離機なども使うから時間がかかるかも」
「ならば急ごう」
クキが通路の監視カメラを破壊しつつ進んでいく。
「すまなかったな美桜。監視カメラを壊すために通常弾を使っていたばかりに」
「九鬼さんのせいじゃない。あんな仕掛けがあるなんて誰も分からないもの、それに私の気配感知が甘かっただけ。上には意識がいっていなかった」
「次は気を付ける」
タケルの背中でミオがクキにニッコリ笑う。敵だったクキが、今では頼りになる隊長。その光景が俺は嬉しかった。本当の敵を前にして、一丸となっている仲間というものは良いものだ。
次の研究室に到着し、アビゲイルはすぐさま医療機器を準備した。エイブラハムもそれを手伝い、俺の腕にベルトのようなものを巻く。
「何をするんだ?」
「採血よ」
「そんなまどろっこしい事をする必要はない」
俺はガラスの管をアビゲイルに持たせる。
「持っていてくれ」
「えっ?」
スパン! と自分の手のひらを斬って、ガラス管に血をどぼどぼと注いだ。
「ちょ、ちょっとまって」
アビゲイルは慌てて管をおいて、次の新しいものを用意する。あっという間に五本の管が俺の血でいっぱいになった。
「も、もう充分よ!」
「よし」
ヒール。
俺は自分の手の傷を塞いだ。だがそれを見ていたタケルが言う。
「あのー…アビゲイルさん。俺は普通に採血してもらっていいかな?」
そしてミナミも言う。
「私も…普通がいいな」
「わ、わかったわ。そうよね…普通そうよね!」
そうしてタケルとミナミの採血がなされた。次にアビゲイルが体組織を取ると言うので、俺は腕の表面を切りとって渡す。
「か! 髪の毛とかでいいのよぉ!」
「そうなのか?」
「そうなの!」
すぐにヒールで傷を塞いだ。そんな俺を尻目に、タケルとミナミが慌てて自分の髪の毛を引っこ抜いている。
「「はい!これ!」」
「あ、ありがとう」
そしてアビゲイルはそれらを、何らかの機械に入れ込み試験を開始する。筒状の何かを覗き込み、穴に腕を突っ込んで機械の腕を操っているようだ。そして俺の体組織や血液を見ていたアビゲイルが、ガタン! と椅子を倒して立ち上がった。
「ど、どうしたのじゃ! アビゲイル!」
「おじいさん! みて! これを見て!」
「な、なんじゃ!」
エイブラハムはアビゲイルに言われ、丸い筒を覗き込む。
「……はっ?」
「変でしょ」
「へ、変どころではないじゃろ…」
「…こんな…」
クキが二人に尋ねる。
「どうされましたドクター?」
「ちょっと待て下さい! ディスプレイに投影します」
アビゲイルが何かをディスプレイに映した。
「このナノ顕微鏡は世界最小単位を見れるものなの。ここにしかない機械よ」
「これは何なんですか?」
「ミスターヒカルの体組織。分子レベルの組織の拡大図よ」
俺達にはその映像を見ただけでは詳しい事は分からない。だが俺の体組織についての謎がそこに示されているらしい。俺達はアビゲイルの更に詳しい説明を、息をのんで待つのだった。




