第407話 ジュネーブの研究施設へ強制突入
俺達が観光客に紛れて歩いていると、巨大なガラス張りの建物が見えて来た。あの中にアビゲイルが言う研究設備があるらしい。駐車場には車が何百台も停めてあり、全てが研究者たちのだという。建物周辺は車通りも多く、一般人も多く歩いているようだ。
そしてエイブラハムが俺に聞いて来る。
「ヒカルや、厳重な警備じゃ。ザ・ベールの力を借りずに、どうやって入るつもりじゃ?」
「こうだ」
俺はするりと日本刀を抜いて構える。
更に魔力を最小限にとどめ、被害範囲を計算する。
「剛龍爆雷斬」
俺の日本刀からほんの小さな火の玉が、駐車場の奥へと飛んでいく。そして俺が皆に告げた。
「逃げろ!」
俺が言うとタケルがアビゲイルを、クキがエイブラハムを掴んで走り出す。仲間達も慌ててそれについて行き俺が殿を務める。
ゴバアッ!
「なんじゃぁ!!」
「きゃぁぁ!」
エイブラハムとアビゲイルが叫んだ。研究施設の入り口から何台かの車が転がり出し、上からも車が降って来た。
「推撃」
ゴドッ!
車の直撃を避ける。
ジリリリリリリリリリ!
研究施設内からベルが鳴り響き、ビルから次々に人が飛び出して来た。
「ど…どうなっとるんじゃ」
「しばらく身を隠そう」
すると遠くでウーウーとサイレンが鳴り響き始めた。クキが言う。
「緊急車両が来てるな」
タケルが施設を見て言う。
「おーおー。研究員がパニックになって走り出して来たぜ。周りの人間達も慌てて避難し始めた」
「あれに紛れて入るぞ」
俺は目の前の鉄の柵を斬る。
「ど、どうなっとるのじゃ…」
柵を乗り越えてはいると、爆炎が立ち上っておりその周囲に消火器を持った男らがいる。逃げ惑う人達の間を抜けて、割れたガラス窓から建物内部に侵入した。
するとようやく落ち着きを取り戻したアビゲイルが言う。
「こっちよ」
まだ逃げ遅れた人らとすれ違いながら奥に進むと、警備服を着たやつがこちらに近づいて来た。どうやら銃を持っていて、俺達を異分子だと判断しているようだ。
「銃を持っておるのじゃ!」
だが、タケルが易々と近づいた。
ガゴン!
銃を撃つ暇もなく、殴られた警備員が吹き飛んで静かになる。
「行こうぜ」
更にアビゲイルが中に進み、地下に続く階段に差し掛かる。
「下ります」
下に降りておくと既に研究者たちは避難したらしく、赤いランプがクルクルと点滅していた。アビゲイルを守りつつ地下三階まで降り、廊下に出て左右を見る。するとクキが銃を出して撃った。
パスパス!
どうやら監視カメラが二台あり、それを正確に撃ちぬいたようだ。サイレンサーが付いているので音は出ない。
俺達が進んでいるとミオが言う。
「人間以外の気配がするわ」
すると突如廊下の先に、三匹の犬が現れた。
「ど、ド―ベルマンじゃ」
アビゲイルが言う。
「扉が開いて、実験動物が逃げたんだわ」
「き、危険じゃ」
だがするりとミナミが先に進み、ド―ベルマンがミナミに飛びかかって来た。
シュパン! シュパン! シュパン!
ドサァ!
犬の首が飛び、廊下にその骸が飛び散る。
「いきましょ」
「お姉さんがたは、し、素人なんじゃよな?」
「そうよ。女子大生よ」
「どうなっとる?」
だがアビゲイルが気を取り直して言う。
「こっちよ」
その先にすすみ、突き当りにガラス張りの自動ドアがある。入り口に認証用の機械が付いており、それを見たアビゲイルが言う。
「どうしましょう。ここは個人認証が無いと入れない。このガラスは防弾でバズーカも利かないわ」
「どいてくれ」
俺が日本刀をかまえる。
「真空乱斬」
ジュパッ! パラパラパラパラパラ!
ガラス窓がバラバラになり床に落ちる。
「うそ…」
「どうなっとる…」
「行くぞ」
通路を先に進みながら、エイブラハムが言う。
「なんかこう。特殊な通路を見つけるとか、鍵を開ける技師がいるとか、通気口を潜るとかそう言う事はせんのか?」
タケルが言う。
「んなもん、したことねえよ」
「ほへぇ…」
エイブラハムが呆けているが、それを無視して俺達は奥に進んだ。その先に進み、鉄の扉を斬って入った時それが出て来た。
ふしゅるっ! ギギッ! ガアキ!
「きゃあ!」
「なんじゃ! あれは!」
俺たちの前に出てきたのはゾンビでも特大、異形の試験体だった。
「ほら、俺達のデータで見たろ。あれだよ」
「こんなところで作っていたのね…。恐ろしい」
「あ、アビゲイルよ! そんな事を言っとる場合じゃない! 逃げんと!」
「でもミスター九鬼は言ったわ。ヒカルの側が世界一安全なんだと」
それを聞いたクキが言う。
「おっ、学習したようだな博士」
だがエイブラハムが慌てて言った。
「そ、そんな余裕をぶっこいてる場合かの! こ、殺されてしまうがな!」
俺は無造作に試験体の前に歩いて行く。その試験体はデカいネズミの上に人間の首が乗っており、二本の手がウロコの生えた触手になっていた。その触手が一斉に俺めがけて、突き下ろされてくる。
「あぶないのじゃ!」
「ヘルフレイムフラッシュ」
黒い炎が日本刀から発せられネズミが包まれる。それが次第に小さくなっていき跡形も無くなった。
「行くぞ」
「行くぞって、そんな冷静に…どうなっとるのじゃぁぁぁぁ!」
「いいから爺さん。いちいち驚いてたら身が持たねえぞ」
「わ、分かったのじゃ…」
そうしてアビゲイルが言っていた研究室に到着した。俺が入り口を破って入ると、今まで見た事の無いような風景が広がる。それを見てマナが言った。
「すっごい近代的…ロボットアーム?」
とにかく広く天井が高い。所狭しと機械が並んでおり、いろんなものが研究されていたようだ。
「こっちよ」
アビゲイルについて行くと、再び自動ドアがあった。だがアビゲイルが言う。
「これは壊さないで」
俺達は黙って従い様子を見る。
「えっと、ヒカルさんとタケルさんとミナミさん。私と一緒に入ってもらえるかしら」
三人は頷いた。自動ドアの脇の暗証番号を押すと、問題なくドアが開く。どうやらこの番号は共通らしい。そして中に入るとおかしな服が並んでいる。
「それを着て欲しいの」
「なんだあ? こりゃ? 潜水服みてえだな?」
「防護服よ。この先にはありとあらゆる病原菌があるわ」
「おっかねえ」
俺達がそれを着ると、アビゲイルがテープで袖や足首を留めてくれた。アビゲイルも着たので、ミナミが袖口と足首をテープで縛る。
「ありがとう。では入ります」
プシュー!
奥のドアが開くと、冷気がこちらに入って来る。
「中はマイナス三十度の世界よ。防護服を着ていないと数分もいれないの」
「わかった」
まあ。別に俺はマイナス百度でも大丈夫だが…。
中に入ると様々なガラスケースがあった。アビゲイルは迷わず奥に進み、奥にあるガラスケースの前に立つ。
「これを静かに破ってほしいの」
アビゲイルが言う。
「分かった」
俺が剣を構えて、スッと下ろした。
キンと鍵が切れる。するとアビゲイルがそれを開き中からケースを取り出した。
「これが…オリジナルよ。私が見つけた最初の因子」
アビゲイルがその下の引き出しを引くと、それを入れるケースが出て来た。それにしまい込み蓋をして鍵をかける。
「ミスタータケルはこれを持ってて」
それをタケルに渡した。そしてアビゲイルはまた違う場所に移り、違うケースを見て言う。
「ミスターヒカル。ここもお願い」
俺がケースを切ると、アビゲイルは同じように手を入れて物を取り出す。
「これは副産物で出た、ゾンビ因子の核」
それを抜き出してケースに入れミナミに渡す。
「丁寧に」
「はい」
そしてアビゲイルはもう一か所を周り、同じようにケースを斬らせた。中に入ってるものを取り出して言う。
「これがゾンビ因子に命を与える物質」
そう言ってケースを取り出して入れる。
「これでいいわ。まずはここを出ましょう」
そうして俺達が外に出ようと防護服を脱いだ時…。
外から銃声が聞こえた! 俺が日本刀で入り口を切ろうとするが、アビゲイルが言う。
「まって開けるから!」
表のドアが開くのが異様に長かった。人が一人通り抜けられるようになったので、俺はすり抜けて外に飛び出したのだった。




