第405話 ジュネーブ秘密の拠点にて
俺達がフェリーを降りジュネーブの町に入ると、直ぐにザ・ベールの人間がハンジに接触して来た。そのまま組織の人間と共に、フェリーターミナルから歩いて七分ほどの大きな建物に来る。
都市部にあるその建物の内部を見て、エイブラハムが目を丸くした。
「ハンジさん。こんな立派な所に拠点があるのかの?」
「ええ。むしろ都会のど真ん中で、人も多いからこそ都合がいいのです」
「見つからんもんか?」
「むしろ目立たないのです」
「まあ…確かに…チューリッヒでも、都会のど真ん中にあったか」
「そう言う事です」
なるほど、木を隠すには森ということだ。また、その室内を見ていた女達もざわついていた。
「これって、めっちゃお金持ちの家よね?」
「本当、会社にもなりそうなくらい大きいし」
「アジトって言うから、安アパートみたいなものを想像してた」
「それとは真逆ね…」
するとハンジが言う。
「事実は小説より奇なりです。気に入っていただけましたかな? お嬢さんがた」
「はい。素敵です」
そしてハンジが通路の途中で止まり、エイブラハムとアビゲイルに告げる。
「ここには、いろんな感情を持った人間がいます。恐れ入りますが、お二方はこちらの部屋で待機を」
「わかったのじゃ」
「分かりました」
それを受けてクロサキが言う。
「では私もご一緒に、お二人のボディーガードをいたします」
するとミナミとツバサも手を挙げた。
「私達も一緒に居るわ」
「任せて」
「分かった黒崎、そうしてくれ。ハンジさん、そう言う事でいいかな?」
「かまいません」
五人を置いて通路を行きハンジが両開きの扉を開くと、そこは広い会議室のような場所だった。その中に三十人くらいが座っていて、ハンジが入ると席を立って整列をする。ハンジが手を上げて挨拶をした。
「紹介しよう、日本からのお客さんだよ」
すると中の人らがざわつくので、クキが代表していった。
「我々は日本からきた」
すると待っていた人らの一人が言う。
「本当に日本から?」
「そうだ」
「日本人は死滅したんじゃないのか?」
「まあ…それに近い。だが生存者も少なからずいる、九割は死んだがな」
「九割…ほぼ…壊滅という事か…」
「そう言う事になる」
「本当にゾンビが蔓延しているのか?」
「そうだ。国内のほとんどの人間がゾンビにされちまった。ファーマー社によってな」
そこでオオモリが言った。
「あー、すみません皆さん。ネットでは盗聴されるといけないので、情報をお渡ししてませんでしたが、僕らが持っているデータを直接お見せします。それを見ればおおよその事が分かると思います」
それを聞いてハンジが言う。
「という訳だ。我々も見たが想像を絶するものだったよ。だがこれで決心が固まったと言えるだろう。これから皆にも見てもらうので、覚悟して見るといい」
「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」
オオモリとマナがセッティングをして、アルプスの時と同じように皆に情報を見せ始めた。通訳にミオ、動画の係にオオモリとマナを残し、俺達は別室でハンジから作戦の内容を聞く事にする。
ハンジに見せられたのは、ジュネーブの地図と施設の位置関係だ。
「博士がいう研究施設はここです。ここから約四キロ、徒歩で一時間ほどの所にあります」
「都市部を通っていく訳だな」
「そうなります。我々の部隊は先に潜伏をして、安全なルートを選んでお知らせします」
「わかった。ファーマー社がいるという情報は?」
「目下、ファーマー社が拠点にしていると目されているところは三カ所です。我々がアビゲイル博士を連れてくると想定して、網を張っているのでしょう」
「なるほどな…」
タケルがパン! と拳を手のひらに叩きつけて言う。
「俺らが、ぶっちめてやんよ」
「威勢がいいですね。ですが敵も諜報機関並みの能力を持った奴らです。むやみに突進するのは危険かと思います」
クキがハンジに聞く。
「組織の人間は、さっきので全部ではないね?」
「ええ。既に計画は始まっていますので、百名ほどがジュネーブの都市に潜伏しています」
「百名か…」
「足りないと?」
「いや。敵が人ならそれもいいんだ。だが万が一、データで見せた試験体やゾンビ化人間が出てきたら退かせた方がいい」
「ああ…あれですね。あなた方は対応できると?」
「ヒカルがな。まあ俺達もそれに対しての弾丸は持っているが、自分らの分だけだ。百人に渡せるほどの数は無い」
「なら我々はオトリでもなんでも…」
俺は少し気になる事があったので、ハンジの言葉を遮って言う。
「ここはなんだ?」
「そこは国連ですね」
分からなかったので、俺はもう一度詳細を求める。
「国連とは?」
すると代わりにクキが答えてくれた。
「ヒカルは知らんだろうが、国際機関だ。百九十三ヶ国が集まった、平和に対する脅威を解決する機関だな。国際紛争の解決や平和と安全を維持しているんだ」
「平和と安全の維持? 出来ていないようだが? なぜ日本やベルリンのような現象が起きる?」
「まあヒカルがそう言うのも分かる。確かな情報という訳ではないが、国家間のしがらみもあるし、主要国のお偉いさんも、そして金も絡んでいる。戦争抑止など実質は出来ていない。世界各地で紛争は無くならんし、今回のようなゾンビパンデミックには完全に無力だな」
「なるほど…」
それを聞いていたタケルが言う。
「まったくよ。世の中どうなってんのかねえ…ぜーんぶ、ぶっ壊してやりてえよ」
国が集まった機関か…。俺は更にクキに聞いた。
「もし…だが。そこで大きな事件があったら世界はどうなる?」
「そりゃ、注目されるだろうな。世界中でニュースになるのは間違いない」
「ほう…。そして、丁度そのそばに研究施設があると?」
「そういうこったな」
そこでハンジが何かを察したように言う。
「ちょ、ちょっと待ってくださいヒカルさん。まさか国連で騒ぎを起こそうとしていますか?」
「注目を浴びるのなら好都合ではないか?」
「好都合って…下手をすれば消されますよ」
タケルが何かに気が付いたように言う。
「いやいやハンジさんよう、ヒカルを消せる国があるなら見てみたいけどな。それよりヒカル! おもしれえじゃねえか! ようは犯罪者にならなきゃ良いってこったろ? そう言う事だよな?」
「そう言う事だ」
それから俺が考えていた事を、ハンジ、クキ、タケルに打ち明けた。三人は目を丸くしていたが、クキが笑い出す。
「ハンジさん。荒唐無稽だと思うか?」
「そう思いますね」
「いや。間違いなく出来る。大将ならそれをやってのけるだろうし、俺達の隊にはオオモリがいる」
「どういう意味でしょう?」
するとクキが言う。
「ハンジさん。メディアを集める事は出来るかい?」
「あえて騒ぎを起こすと?」
「まずは綿密に計画を立てるとしようじゃないか」
「わかりました」
そして俺達は、対ファーマー社の計画を立てるのだった。隣りの部屋ではミオが、構成員たちに説明をしている頃だろう。
それから三時間後。隣の部屋からオオモリたちがやって来た。俺たちは大まかな作戦を立案し、入れ替わりで構成員が集まる部屋へと入っていくのだった。




