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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編

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第404話 レマン湖を経てジュネーブ入り

 アルプスの農家で一晩世話になった俺達は、研究施設があるというジュネーブに行くために山を下りる。アビゲイルが名残惜しそうに農家に別れの挨拶をし、エイブラハムが深々と礼をしていた。農家夫婦から、いつでも帰って来いと言われアビゲイルは涙を流す。


 アビゲイルは下る車の車窓から、名残惜しそうに朝日が照らすアルプスを目に焼き付けていた。何もしゃべらないアビゲイルに対し、俺達も特に声をかける事はしない。


 それから一時間ほどかけて山を降り、俺達はヘリポートへと連れて来られた。ヘリポートの建物に入り、ハンジが地図を広げて説明をする。


「組織がチャーターしたエアバスで、ローザンヌに飛んでもらいます」


 エイブラハムが聞いた。


「行くのはジュネーブじゃが?」


「ヘリでジュネーブに行けば、奴らの目に留まる可能性があります。ローザンヌに向かって、レマン湖から遊覧船で観光客に扮しジュネーブ入りします」


「な、なるほど。分かったのじゃ」


 そして今度は隊長のクキに向かって言った。


「ザ・ベールからは、私と桑田が同行します。あちらでジュネーブの仲間と接触します」


「助かる。だが…危険だと思ったら迷わず撤退してもらいたい」


「いえ、私達ザ・ベールにもプロはいます。彼らが研究所までの道を案内します」


「ヒカルが守る人間は、少ない方が良いんだがな」


「守ってもらわなくて結構です。我らは我らで何とかします」


「…了解だ」


 俺達がヘリコプターに乗り込むと直ぐに飛び立った。飛んでいるヘリコプターの窓から外を見て、ミオやツバサが嬉しそうに騒いでいる。


「ねえ! アルプスの山がずっと続いてる!」

「すっごいね。何処までも山じゃん」


 するとそれを聞いたマナとミナミも窓際に寄った。


「本当だ…荘厳ね」

「生きているうちに、こんな風景見れるなんて」


 するとミオが振り返って言う。


「黒崎さんも見てよ」


「え、ええ」


 そうしてクロサキが窓際に寄る。


「素晴らしい眺めですね…。本当にこんな光景が見れるとは、思ってもみませんでした」


「ね!」


 するとハンジが言う。


「なんだか本当の観光客のようですね。これならバレそうにない」


 クキが笑って言う。


「演技する必要はないそうだぞ」


「「「「はーい」」」」


 クワタが不思議そうな顔で言う。


「よく日本を脱出してここまで来れましたね…。こんな感じで」


 そこで俺が言う。


「日本の脱出は全面的に自衛隊が支援してくれた。大陸に来てからは列車と車を乗り継いで来たが、ファーマー社やゾンビの気配は無かったぞ」


 するとハンジが言う。


「ロシアやモンゴルや中国はファーマー社が入り込めませんでした。そのおかげで、あちらの国は安全という訳です。むしろファーマー社がある国と、友好関係を結んでいた国が標的になりました。西側諸国の被害が大きいのはそのためです」


 クキが言う。


「国家間の関係も大きく影響した訳だな」


「そう言う事になります」


「味方のツラして、友好国を餌食にするか…」


 クキの言葉を受けて、タケルが面白くなさそうに言う。


「人をいっぱい殺して金を取れるだけむしり取って、どうしようもなくなったら見捨てるか…。どんな育ち方をしたら、そんな人間になれるかね」


 それにツバサが言った。


「武…ちょっとここでそういう話は…」


 振り向いてアビゲイルを見たタケルがそっぽを向いて言う。


「アビゲイルさんのせいじゃねえよ」


「良いのですミスター武。どうあっても私の罪は消えませんから」


「だからそういうんじゃねえって。あんたのせいじゃねえよ」


 …まるで魔王討伐を必死にやって、最終的に世界を滅亡させる一歩手前まで行った俺のようだ。俺もそんなつもりはさらさらなく、世のため人の為と思って戦っていた。だから、アビゲイルの気持ちは痛いほどよくわかる。


「アビゲイル大丈夫だ。どこからでもいつでも挽回が出来るし、挽回できるチャンスが来たんだ。だから俺達に力を貸してくれ。そしてもう自分を責めるのをやめて、生き残った人を一人でも多く助ける事だけを、本当にその事だけを考え続けるんだ。世界中であんたの助けを待つ人らがごまんといるんだ」


「分かりました…ミスターヒカル。そのとおりですね、いつまでもくよくよしていたら、助けられる人も死んでしまう。なんだか…目が覚めました。昨日覚悟を決めたようで、気持ちが浮かんだり沈んだりしている。私は弱いですね」


「いや。決して弱くはない、それが証拠にあんたはファーマー社から身を隠しこの時を待っていた。とっくに逃げるか、下手をすれば死を選んでいただろう。そうしなかったのは、あんたが挽回を望んでいたからだ。その気持ちがあれば、必ず多くの人を救う事が出来る。全ての人類は、あんたが立ち上がるのをずっと待っていたんだよ」


「ミスターヒカル…不思議な人。腹の底から、やる気が出るようなそんな気分になるわ」


 そしてエイブラハムも言う。


「ありがとう。ミスターヒカル。わしらこそ、あんたらの助けを待っていたのじゃな」


 タケルも女達も、このやりとりを聞いて笑みを浮かべていた。どうやら俺達がアビゲイルを求ただけでなく、彼女らも俺達の到着を待っていたと言われた事で、自分達がやっている事が報われたような気がしたのだろう。


「間もなくローザンヌです」


「了解だ」


 そして俺達はローザンヌのヘリポートに降ろされ、車で移動しローザンヌの港に到着した。大きな客船が停泊していて、ハンジが一人一人にチケットを渡してくれる。俺達が観光客として客船に乗り込むと、既に座っている客がいた。出発の時間となり、ゆっくりと船が水辺を滑り出した。


 もちろん他の人間がいるので、俺達は一般人のようにふるまう。


「ヒカルーこっち来てー」


 そう言われ俺が行くと、ミオとツバサが並ぶように立っている。


「なんだ」


「写真撮ろ! 自撮り!」


 そしてツバサが手を伸ばし、俺達三人を収めた写真を撮る。するとそこにミナミが来た。


「ずるいよー。ヒカルこっちおいでー!」


 俺がミナミに連れられるままに船首の方に行くと、同じようにスマートフォンで写真を撮られる。すると二階から声がかけられた。


「あー、南ちゃんずるいー」


「ずるくないよー」


「ヒカルこっちに登って来てよ! 見晴らし良いんだから!」


 言われるままに上に上がると、マナが待ち構えていた。そしてマナが写真を撮ろうとした時、ぴたりと止まって俺の後ろを見る。


「ヒカル! ちょっとこっち来て!」


 マナと一緒に行くと、そこにはエイブラハムとアビゲイルが水入らずで話をしているところだった。


「迷惑だろう」


「違うの! アビゲイルさんエイブラハムさん! 記念写真撮ろう!」


「えっ!」


「ほっ?」


 二人が並んでいるところをマナが撮った。するとアビゲイルが言う。


「二人で撮ってあげます」


「ありがとー」


 俺がマナと並ぶとアビゲイルがスマホのボタンを押した。スマホを返してもらったマナが言う。


「あー、武もこっち来なよー」


「あん? ああ…」


 さっきの一件があってバツが悪そうだ。


「早く!」


「わあったよ!」


 するとマナが言う。


「ヒカルも入って!」


 俺とアビゲイル、タケル、エイブラハムが並ぶ。そしてマナがシャッターを押した。撮ったそれを俺達に見せて来る。


「みーんな良い表情!」


 するとエイブラハムがニコニコしていった。


「若い人になったみたいな気分じゃな。思い残すことはないわい」


 だがタケルが言った。


「なーに言ってんだよ爺さん。爺さんとアビゲイルさんで、平和になったら日本に来ねえか? いろんなとこ案内してやるよ」


 するとエイブラハムとアビゲイルがタケルを見てニッコリ笑う。


「是非おねがいします」


「そうじゃな。もう一人の孫が言うのじゃものな、行ってみるとするかの」


「すき焼きご馳走してやるよ」


「楽しみじゃ」


 意図せずとも、俺達は観光客のようになっていた。それから四時間後いよいよジュネーブの港が見えてくる。皆がバラバラになり一般の観光客に紛れる準備をしていた。アビゲイルとエイブラハムは、ハンジが用意した帽子とサングラスをつけて変装する。


 俺は、隣で震えているアビゲイルに言った。


「堂々としていていい。俺がいる限り誰の刃もあんたには届かん」


「は、はい」


 そうして俺達はジュネーブの地に降り立ったのだった。

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