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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編

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第397話 心の綺麗な親友

 エイブラハムを見るなりレイは店をクローズにし、入り口に鍵をかけて室内の電気を落とす。窓からさす日光だけが、この古びた店内を照らしていた。目の前の年季の入った木のテーブルには、湯気を立てたコーヒーが三つ並んでいる。その香りを嗅いだエイブラハムが言う。


「いい香りじゃな」


 するとレイが答える。


「ブラックアイボリーです」


「そんな貴重な豆をいいのかね?」


「特別なお客様にしか出しません」


 するとタケルが聞いた。


「おりゃ、ブルーマウンテンとかモカしか聞いた事ねえけどよ。そんなすげえものなのかい?」


「飲んでみればわかる」


「わかった」


 タケルがコーヒーを飲んで目を見開く。


「全然苦くねえ。コーヒーか? お茶? あ…コーヒーの香りはする…なんだ?」


「複雑じゃろ?」


「ふーん。こんなの飲んだことねえや。不味くはねえ」


 するとエイブラハムがレイに謝る。


「すまんな。味の分からん者にまで出してもろうて」


「いえ。人生は常に冒険です。これで彼も一つ経験が増えました」


「そうじゃな」


 俺もカップを持って飲んでみる。そもそもがあまりコーヒーの味を知らないので、これが高級なのかどうかが分からない。


「どうじゃね?」


「すまない。俺もコーヒーは分からないが、飲みやすい気はする」


「そうか。でも一つ経験になったのう」


「ああ」


 するとタケルがレイに聞いた。


「で、コイツはどっか希少な土地とかで採れたコーヒーなのか?」


「そうですね。特別な場所から取れたものです」


「へえ」


 そのコーヒーの香りを味わうように、ゆっくり飲みながらエイブラハムが言った。


「象のフンじゃ」


「へえー、そんな土地があるんだ」


「違う。象のウンコから採れたコーヒーじゃよ」


「象の?」


「うむ」


「ウンコ?」


「そうじゃ」


「おいおい! 罰ゲームじゃねえか!」


「何を言っておるんじゃ? 一杯三十五ユーロもするのじゃぞ?」


「っていくらだ?」


 そう言ってタケルがオオモリのスマホを取り出し計算する。


「五千六百円! これそんなにすんのか! うそだろ!」


「そうじゃ」

レイさん

「むしろすまない。そんな高級なものにケチつけちまって! いや、美味かったよレイさん」


 するとレイが言う。


「いやいや。初めてはそのようなものだ」


 その光景を見てエイブラハムが言う。


「どうじゃレイ? 良い若者じゃろう?」


「そのようです」


「わしゃ、タケルの心根を信じてここに連れて来たのじゃ」


「この若者ならば間違いないでしょう」


「俺か? おりゃ別に大したもんじゃねえって」


 するとエイブラハムは愛しい孫を見るような目でタケルに言う。


「人を真っすぐにみよる」


 エイブラハムが言うことは俺にも分かる。タケルには裏も表も無い、俺が真っ先に親しくなったのもタケルがそういう人間だからだ。


 レイがポツリという。


「それで…ドクター。とうとう、ファーマー社が来ましたか…」


「うむ」


「よく奴らの目をかい潜って、ルクセンブルクを脱出できましたね?」


「彼らのおかげじゃよ。彼らもあの会社には良い思いをしておらん」


 レイが目を細める。そしてタケルに言った。


「あなたは日本人ですね?」


 不意に聞かれタケルが素直に答えた。


「ああそうだ」


「大変でしたね…。世界で一番不幸な国になってしまった」


「元からそんなに幸福って訳でもねえけどな」


「ですが…国が…」


「まあな。酷いもんだ」


「そうですか…」


 レイは残念そうな表情をする。そしてエイブラハムに向かって言った。


「ここに来たという事は、博士にお会いになると言う事ですね?」


「うむ。孫は元気じゃろうか?」


「すみませんが、ここにもその情報は入りません」


「うむ」


「ですが、ここに行って下さい」


 そう言ってレイがコースターにペンで何かを書いた。それを見てエイブラハムは黙ってポケットにしまう。


「レイ…君は大丈夫かね?」


「私はこの日が来るのを待っていました。今日で店じまいです」


「そうか…寂しくなるな」


「いえ、ドクタースミス。寂しがることはありません。私はあなたが連れて来たこの二人を見て確信しましたから」


 エイブラハムがタケルと俺を見て頷いた。


「そうじゃな。きっと彼らが世界を取り戻してくれる」


「はい」


 二人とも哀愁を纏い、これまでの歴史を思い浮かべるような表情をした。ここまで大変な経験をしてきているのだろう。


 そしてレイが言った。


「特に彼は…」


 俺を見て少し沈黙する。そして続けた。


「この若さでいくつもの死地を潜り抜けてきたような、そんな雰囲気を漂わせている」


「そう思うかね?」


「はい」


「レイが言うのであれば間違いないのであろうな」


 エイブラハムが俺をじっと見つめる。話を打ち切るようにレイが言った。


「では、生きていれば、またいつかどこかでお会いできるでしょう」


 するとタケルが言う。


「なんだよ。こんないい感じのカフェを締めんのか?」


「そうですね…いつか平和な世界になったら、日本で店を開きましょうか」


「……」


「ではもう閉店ですので、お帰り下さい」


 エイブラハムが席を立ったので、俺達も一緒に立ち上がる。店のドアを抜ける時、タケルがレイに言った。


「なあ。象のウンコのコーヒー、また飲ましてくれよ。次には味が分かる男になってっからよ」


「楽しみです」


 そして俺達は店を出た。内側から鍵をかける音を聞き、エイブラハムが歩き始める。俺たちがそれについて行くと、クキ達が合流して来た。


「お孫さんには会えたのですか?」


 するとエイブラハムが首を振って言う。


「ここにはおらんようじゃ」


「なるほど。それはそうでしょうね、奴らから身を隠すなら何重にもしなければならない」


「また電車に乗らねばならんようじゃ」


「わかりました」


 するとクロサキの班も合流して来た。女達は風景を見るだけでも楽しいようで、凄く機嫌が良い。


 クロサキが聞く。


「どうなりました?」


「移動だ」


「わかりました」


 そして俺達は駅に向かっていく。風光明媚なこのあたりに未練でもあるかのように、女達がきょろきょろしていた。


 そしてオオモリがタケルに聞く。


「エイブラハムさん…何かあったんですか? なんか哀愁漂っているというか…」


「なんにもねえよ。きっと象のウンコのコーヒーでも飲んでブルーになってんだろ」


「象のウンコ! なんですそれ!」


「はっ! お子ちゃまにゃあ分からねえ話だよ。バーカ」


「馬鹿って何です! 象のウンコなんて飲む方がおかしいですよ!」


「なんだと? 俺とヒカルもおかしいつうのか!」


「い、いや…」


「こらあ!」


 タケルがオオモリの頭を掴んでグリグリした。


「いて! いてててて!」


「お前も少し大人になれって!」


 タケルの行動に、大人のかけらも無い。


「ぷっ! 武がそんなこと言わないでよ!」

「どこが大人?」


 マナとツバサに言われタケルが言い返す。


「馬鹿だな。人生は冒険なんだよ! いろんな経験して大人になるんだっつーの!」


 皆は呆れたようにタケルを見ている。ただエイブラハムだけは、本当に優しい目でタケルを見ていた。駅に着いた時、エイブラハムが全員を集めて、こっそりとポケットから出した紙をみせる。


「なるほど。また国境越えか」


 クキが言い皆が頷いた。俺達は次の行先の切符を手に入れて、駅で次の列車を待つのだった。

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