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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編

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第395話 ゾンビが生まれた真実

 エイブラハム・スミスは申し訳なさそうに泣いている。他の客が何事かとチラチラ見ているが、俺達は何をする事も出来ずに待つしかなかった。しばらく肩を震わせていたエイブラハムが、ようやく言葉を発したが、その絞り出すかのような声に俺はエイブラハムの苦しみを感じる。


「申し訳ない事をした…」


 それに対してクロサキが言う。


「ドクタースミス、ここではその話をしない方が良さそうです」


「申し訳ない…。罪のない…大勢の…人々が…」


 クロサキとマナが困った顔をする。どうやらエイブラハムの耳に言葉が届いていないようだ。


「悪魔が利用した…。神は…神は…どこにもいない…うう」


 そんな爺さんを見ながら、タケルだけが美味そうにハンバーガーを食い、日本で訓練してきたドイツ語で話す。


「爺さん。温かいうちに食った方が美味いぜ。ポテトなんか冷たくなったら固くなるしよ。孫との楽しかった思い出を台無しにしちゃいけねえぜ」


「うう。取り返しのつかない事を…」


「ほら。コーヒーも冷めちまうしよ、孫…まだ生きてんだろ? コーヒーしょっぱくなんぜ。ここはよ、明るく飯を食う場所なんだぜ。なあ爺さん」


「わ、わかった。食う…」


 震える手でハンバーガーをおさえて、口に入れた。


「どうだい?」


「美味いのじゃ」


 それを見てクロサキとマナはホッとしているが、俺もそのタケルの心根に感動を覚えた。コイツは根っからに優しく、目の前の爺さんの心境を考えて普通に振舞ったのだ。エイブラハムもそれ以上は話をしないようで涙もおさまり、しばらくは黙ってハンバーガーを食っていた。


 そこで静かにクロサキが話す。


「とにかく都市を脱出します。ついて来ていただけますね?」


「分かった」


「お孫さんも救出が必要ですか?」


「いや。既に逃げて隠れておる」


「わかりました。ではまず、ゆっくり食べましょう」


「うむ」


 エイブラハムが食べ終わるのを待ち、クロサキが袋から黒い帽子とサングラスを取り出した。


「こちらを着用してください」


「わかった」


 爺さんはスーツと帽子とサングラスで、さっきとは全く違う人物に見える。既に集合場所は決まっており、ハンバーガ屋を出てエイブラハムを連れていくと、そこにトラックが停まっていた。コンテナの後ろ扉を開けて、周りを確認しつつ中に乗り込むと仲間達が待っていた。


 ミオがエイブラハムに言う。


「すみません。ちょっと居心地が悪いんですけど」


「敵を欺くカモフラージュじゃな。よく考えたもんじゃ」


「バスやワゴン車だとバレますし、トラックの方が何かと都合がいいんです」


「うむ」


 出発したようで、コンテナが揺れる。


「あんたらは全員日本人なのか?」


「彼を除いてはね」


 ミオが俺を指さして言った。


「うむ」


「日本での事は知っていますか?」


「もちろんじゃ。ファーマー社によりゾンビに汚染させられた国じゃ。罪もない人々が…全て死んでしまったのだと、インターネットなどでは情報が流れておる」


「そうです。そして、それは事実です」


「あんたらは、いままで海外に居たのかの?」


「いえ。日本から来ました」


「なんじゃと! 日本に生存者がおるのか!」


「はい。ファーマー社は全滅したと考えているようですが、生存者は確かにいます」


「ど、どのくらい?」


「残念ながら、九割以上は死滅しています」


「…そうじゃったか…」


「海外にも日本人はいると思うのですが、その人らの安否も分かっていません」


「日本人は人としての扱いを受けていないと聞く、受け入れ先が何処も無いのだと。だからてっきりあんたらの事は、海外在住の日本人かと思っておった」


 それを聞いて仲間達が顔を見合わせる。そして今度はクロサキが聞いた。


「もしかしたら、そのような情報を聞いた事があるのですか?」


「うむ。海外で生き残った日本人達は、どうにか繋がりを持って、ネットワークを形成しているという話をアビゲイルから聞いた」


「そうなんですね…」


「その中には、中東やヨーロッパのテロ組織に入り込んだものもいるようじゃ」


「そう…なりますよね…」


「とにかく反抗の手段を模索しているとも聞くが、あんたらがその組織だと思っていた」


「違います。我々は日本から旅人に紛れてここにたどり着きました」


 するとエイブラハムは目を丸くして言った。


「プロじゃないのか? どう考えても一流の諜報部隊じゃろ」


「もちろん自衛隊や公安の人間もいます。ですがほとんど一般人です。女子大生や会社員、プロレーサー、エンジニアなどですね」


「一般の人が、そんな事をせざるを得ない状況になっている。と言う事じゃな」


「はい」


「良くここまでたどり着いたのじゃ」


「必死でした」


「そうじゃったか…」


「私達はファーマー社を止めるためにここに来ました。彼らは世界を滅ぼすであろう危険な事をしています」


「重々承知している。あれは…あの物質は、わしの孫が作ったのじゃからな」


「存じ上げております」


「世界的に有名じゃものな」


「はい」


 暗いコンテナのオレンジの光に照らされていても、エイブラハムその悲しみは俺達に伝わって来る。


「わしの孫は…いずれ世界を滅ぼした人物として、世界中から呪われるのであろうな」


「詳しくお聞かせ願えますでしょうか?」


 しばらく沈黙し俺達は静かに待った。エイブラハムの心中は俺には計りかねるが、呵責に襲われているようだった。


「アビゲイルは…とても優しい子なんじゃ。わしの息子…アビゲイルの父親は、アビゲイルが小さい頃に病気で死んでしもうた。それからは優しい母親が、アビゲイルを育てて来たのじゃ。わしが医者ということもあり、アビゲイルは父親のように病気で死ぬ人を無くしたいと願うようになったんじゃ。それで医療の道を目指したのじゃな。じゃがアビゲイルが大学に入った頃に、今度は母親が病にかかってしまった。わしの力も及ばず、弱っていく母親を見てアビゲイルはどうにかしようと思った…」


 エイブラハムは悲しみでつっかえながらも、思い出すようにして話を紡いでいく。俺は物語を聞くように、その話に集中し耳を傾けていた。


 ミオが言う。


「お孫さん。よく腐らずに、頑張っていましたね」


「うむ。本当に優しい子で、母親を助ける事で他の人も助かるような研究がしたいと言い出したのじゃ。そこでのめり込んでいったのが遺伝子工学だったんじゃな」


「遺伝子工学ですか」


「病気にならない遺伝子、病気になりそうな遺伝子を鎮静化する治療法、死にかけた細胞の代わりに増殖して新たな細胞を生み出す技術。アビゲイルが傾倒していったのは、そういう研究じゃな」


「最先端の研究だったわけですね」


「そうじゃ。それで開発されたのが、あの物質じゃった。非公式ながら何度も治験をして、癌の治癒に始まり、白血病の治癒、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、重症筋無力症(MG)、進行性核上性麻痺などの治癒の可能性が出来たのじゃ。脊椎損傷を治し、動けなかった人間が歩きだしたこともあった。その夢のような物質を開発し、それに目をつけたのがファーマー社だった。母親の難病を治したい一心で、アビゲイルはファーマー社の研究員となったのじゃ」


「そうだったのですね…」


「じゃがわしは反対じゃった。それは、治験者に一定の副作用がでたからじゃ」


「副作用?」


「そうじゃ」


「どんな?」


「人が凶暴性を見せる。ぴたりと止まったままになる、又は震えっぱなしになる。突然指先や足が壊死してしまう。持病の進行が早まってしまう。突然心臓が溶けて破裂するなんて言う事もあった。とりわけ脳と心臓と生殖器官に影響が出る事があったのじゃ」


「そんな事が」


「うむ…。そこでアビゲイルはようやく研究を辞めるように考え始めたのじゃ。母親の事はわしに…通常医療に任せようと言う事になった」


「そこで辞めたのですか?」


 するとエイブラハムは黙って首を横に振った。


「ファーマー社が…母親を連れて行ってしまったのじゃ」


「えっ?」


「会社に特に貢献した者として特別な医療機関に、まるで監禁のように入院させられた。特別に医療費などは全て免除で、ファーマー社が責任を持って治すと言ってな」


「どうなったのです?」


「それ以来…アビゲイルもわしも、母親には会えておらぬ」


 酷い話だ。そんな胸糞の悪い話があって良いのだろうか? と俺が思っていると、タケルがドン! と床を叩いて言う。


「クソが! 母親が人質かよ。ファーマー社のやりそうなこった」


「それで研究を続けざるを得なくなってしまったのね?」


「その通りじゃ」


 揺れるトラックの中で、俺達は衝撃の真実を知る。それを聞いてマナが言った。


「そして…ファーマー社があのような事を」


「そうじゃ。アビゲイルの純粋な研究心を利用し、恐ろしい研究と開発をしたのじゃ。会社だけではなく国家がらみでな」


 それを聞いていたオオモリが言う。


「まるでアインシュタインのようですね。核爆弾を作ろうなんて思っていなかったのに、国はそれを軍事利用して大量破壊兵器を作り、それを日本に投下してしまった。それも二発も」


 それを聞いてエイブラハムが言う。


「まさにアインシュタインのような心境じゃ」


 ミナミがため息をつきながら言う。


「なんで、いつも初めての被害は日本なんだろうね」


 オオモリが答える。


「かの国を敵にしても味方にしても、結局は餌食になってしまうと言う事でしょうね…」


「「「「「……」」」」」


 皆が沈黙した。そこでクロサキがエイブラハムに聞いた。


「私達はそれでも国を取り戻したいのです。ですから私達はアビゲイルさんにお会いする必要がある。彼女は今どちらにいらっしゃるのです?」


「人里離れた場所に隠れてもらった。じゃがアビゲイルも、ファーマー社に恨みを持っている。じゃから、地下日本人組織に接触すると言っておった」


「日本人組織に…」


「うむ」


「私達を、アビゲイルさんの所に連れて行っては下さいませんか?」


「…わかったのじゃ。じゃがファーマー社には気づかれたくない」


「細心の注意を払います」


 そうしてエイブラハムは、俺達をアビゲイルの所に連れて行く決心をしてくれた。ようやく作戦の第一目標に、大きく近づく事が出来たのだった。

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