第387話 ファーマ―社拠点、核消滅
この最深階層にはエレベータが無いため、一つ上の階に登らねばならなかった。俺達は通路を一目散に走り、カドを曲がって階段を駆け上がる。走りながら時計を確認したクキが皆に告げる。
「爆発まで、あと五十秒!」
「急げ!」
上階に来て通路に戻り、エレベーターホールへと向かった。日本で全員のレベルを、数段上げておいて良かったと思う。皆が気づいているか分からないが、その速力はもう普通の人間を超えている。
だが…このままではあきらかに間に合わない。
「エレベーターだ!」
クキがボタンを押すが全く動かない。俺が手を突っ込んでエレベーターのドアを広げると、そこには破壊されたエレベーターが落ちていた。
「落ちてる!」
「階段を昇るしか!」
皆が慌てているところでクキが言う。
「ダメだ! 間に合わん! あと三十秒しかない」
「くそ! マジかよ!」
だが俺は皆に告げる。
「エレベーターで昇る」
「何言ってんだヒカル! こんなんじゃ!」
「もう時間がない」
俺が壊れたエレベーターの隙間に入り、ひしゃげた鉄の箱をガンガン! と広げて四角にした。
「乗れ!」
「これにか?」
「そうだ! 早くしろ!」
七人は俺を信じ、何も言わずに黙ってエレベータに乗った。すれ違いざまに外に出て、俺がエレベーターの縁を掴みグイっと持ち上げる。するとその下に隙間が出来たので、俺はそこに体を滑り込ませエレベーターを支えた。
「おい、ヒカル! どうすんだ!」
上からタケルが覗いて聞いて来るので、俺がそれに答える。
「頭を引っ込めろ! 上についたらタケルが支えて、みんなを救出させたら外に出るんだ。直ぐに敷地を出て、車で出来るだけ遠くへ逃げろ!」
「なに?」
タケルの言葉を待たずに、俺はエレベータ―の底を突き上げるように殴る。
ドゴン!
その事で、七人が乗った鉄の箱が勢いよく数階上にあがる。俺は底めがけて剣技を繰り出した。
「推撃!」
ズドン!
俺の推撃により、エレベーターに加速がつき勢いよく昇って行く。そして突然機械の声が流れ始めた。
「消去まで、テン、ナイン、エイト」
俺が一階に向けて飛ぼうと、かがんだ時だった。エレベーターホールに人が飛び込んで来る。それはさっき俺から逃げたファーマ―社の女だった。女が俺に向かって叫ぶ。
「あの! ありがとう! 最後に解放してくれて! 本当に嫌だった! 人達が大勢死ぬのを見るのは、本当は凄く嫌だった! 私はどうかしてた! あなたも道連れになっちゃったけど、本当にごめんなさい!」
女は泣いていた。だが、まるで憑き物が落ちたように微笑んでいる。それでも無情にカウントダウンは続いた。
「セブン、シックス、ファイブ」
「来い!!!」
俺が手を出すが、女は首を振って走り去ってしまった。
「おい!」
「スリー、ツー」
くっ!
「身体超強化! 思考加速!」
俺が体をたわめて、体中に魔力を走り巡らせる。
「ワン」
ドシュッ!
俺は一気に飛び上がり、地上一階二階の天井を突き抜け、建物の上空百メートルに浮かんだ。ゴゴゴゴゴゴ! と地鳴りのような音がして、ファーマ―社の建物が崩壊していく。
「マズい」
俺の目に、周辺の建物で普通に生きている人間が映る。自転車で走る子供、ベビーカーで赤ん坊を連れた母親、荷物をトラックに積み込んでいる作業員がいた。すでにファーマ―社の建物の中心から炎が上がり、物凄い温度の火炎が渦巻いているのが分かる。
「これは…核か…」
バッ! と核の光が広がりだす。それは瞬間的に広範囲の人間達を大勢殺すだろう。
俺の体が落下し始めた時、体内の魔力と闘気を練り上げる。
「魔闘気!」
カッ!
まばゆい光が飛び出し始めた。俺は範囲と深度を計算しつつ剣技を放つ。
「次元断裂!」
核の爆発が広がりかけていた次の瞬間。
バクゥゥン! シュン…
俺の剣技は、ファーマ―社の敷地範囲を深く深くえぐり取った。核爆発を別次元に飛ばしてやり、直径二百メートル、深度百メートルの穴を穿ったのである。そのまま穴の縁に着地をすると、近隣の建物からぞろぞろと人が出て来たところだった。
自転車で走る子供、ベビーカーで赤ん坊を連れた母親、荷物をトラックに積み込んでいる作業員を守れたのを確認し、俺は仲間達の気配がする方向へ走り始める。
俺が皆の前に現れると、彼らは唖然とした顔で俺を見た。ミオ達が走り寄って来て叫ぶ。
「ヒカル! もうダメかと思った!」
「なんで私達だけ助けようとするのよ!」
「でも! 生きてた!」
「本当に良かった!」
そして男達三人とクロサキが走り寄ってきて、タケルが平然とした顔で言う。
「だから言ったろ。ぜってー死ぬわけねえって。だって、ヒカルだぜ! 死ぬわけねえだろ!」
だがオオモリが言う。
「いやいや、タケルさん! 僕も流石にダメだと思いましたよ!
しかしクキが冷静に言う。
「ファーマ―社支部はどうなった?」
「核で爆発したから、俺の剣技で全てを帳消しにした」
「そうか。証拠は完全に消えちまったわけだな」
だがオオモリが言う。
「九鬼さん。研究結果はデーターにありますよ。ファーマ―社の情報も、衛星を使って日本のクラウドに納めました。証拠はたっぷりあります」
「ならば、フランクフルトを出るぞ! ベルリンでゾンビ騒ぎが起きた後だからな、ドイツ軍がやって来る!」
それを聞いてタケルが言う。
「おっかねえな。んじゃ、とっととトンズラだ」
「そうしよう」
俺達はレンタカーに乗り込んで、ファーマ―社支部があった場所から遠ざかっていく。すると道の向こう側からキラキラ光る車が、やかましい音をたてて何台もやって来た。
俺が聞く。
「あれはなんだ?」
クロサキがそれに答えた。
「ドイツ警察のパトカーですね。通報があったので駆けつけて来たんでしょう」
「そうか」
「おー! きたきた! いーっぱいきたぜ!」
「素通りしましょ」
反対側から次々にやって来る緊急車両を尻目に、次の作戦に向けて俺達の車は走り去る。早くもオオモリがデータを表示する準備をしており、皆はオオモリのパソコンの画面を見つめていたのだった。




