第383話 フランクフルトに到着する
ファーマ―社の女が言うには、これから向かう拠点はドイツのフランクフルトらしかった。自衛隊達が衛星で突き止めた場所と、ファーマ―社の拠点が一致したことになる。ポツダムから車に乗って、フランクフルトまでは六時間ほど。俺達は車を盗むことなく、きちんと金を払ってレンタカーを借りた。
車に乗ったオオモリが言う。
「車内が結構広いですね」
「えーっとぉ? こいつはフォードのトランジットって奴だな」
「結構乗り心地もいいです」
「まあな。それより借りれて良かったぜ」
ミオが言う。
「ベルリンから脱出しようとする人たちが来れば、全部借りてしまわれそうだけど」
「早く来てよかったかもな」
ポツダムできちんと食料も買い込み、それを皆で食べていた。一応ファーマ―社の女にも同じものを与え水分も与えている。足は縛っているが手を解いてやったのだ。何かあれば自分の身が危ないと理解しているようで、暴れる事も無く大人しく従っていた。
女は俺達がレンタカーで移動する事には疑問を抱いているようだ。何らかの組織なら、それなりの迎えが来ると思っていたらしい。だが俺達にそれ以上詮索する事はせず、黙ってパンをかじっていた。それから二時間半ほど進んだところで、運転していたミオが皆に伝える。
「なんか検問やってるわ」
クキが前を見て言う。
「ベルリンで暴動があったからな。恐らくその関連だろう。助手席の大森とヒカルが代われ。ヨーロッパ人風の方が怪しまれないかもしれん」
「はい」
「ああ」
走行中の車の中で助手席のオオモリと俺が代わり、クキがファーマ―社の女に言った。
「言っておくが、騒いだらどうなるか分かるな? お前はファーマ―社の社員だから身元がはっきりしている。どちらかと言えば俺達の方が怪しいが、お前が何かすれば殺すし、そもそも俺達は地元の警察など恐れてはいない」
「もちろん分かっています」
隣に乗っているミナミが女をおさえ、反対側に乗っているタケルが足の綱を切った。すると検問所の制服が、脇に入れと棒を振っている。俺達の車はそのまま、指示通りに道を逸れて行った。すると車の列が出来ており、俺達はその最後尾に並ぶ事になる。
「みんな聞かれてるな?」
タケルが言うとクキが答えた。
「不穏分子を探しているのさ。暴動が起きた原因を探っているのかもしれん」
「なるほどね」
そして俺達の車の番が回ってきて、窓を開けたミオに警官が尋ねて来た。ミオが上手く話をしているが、もう一人の警官が窓の外から後座席を見て何かを言った。ミオが振り向いて後部座席に言う。
「奥の駐車場に車を回せと言ってるわ」
「しかたあるまい」
そのまま警官の誘導に従って、奥の駐車場へと回された。すると二人の警官が近づいて来て、俺達に何かを言う。
「降りろって」
その事で俺達に緊張が走る。ドアが開けられて俺達がぞろぞろと下りた。
「パスポートを出せと言っているわ」
皆がポケットからパスポートを出して見せる。一人一人見て回るが、ファーマ―社の女はパスポートなど持っていなかった。それでポケットに入っていた社員証を見せている。
皆がこめかみに汗を垂らしながら、その緊迫した状況を見守っていた。警察がしばらくそれを見て、もう一度ミオに話を聞いている。すると全員車に戻って良いという判断になった。ファーマ―社の女も何もせずに、ゆっくりと車に乗り込みドアを閉める。
警察が手を振っており、ミオはゆっくりと車を発進させた。再び高速道路に乗った時に皆が一斉にため息を吐く。
「はあー」
「ふいぃー!」
「ほっ!」
「はあああ…」
そしてツバサがミオに聞いた。
「なんて言ったの?」
「私達はファーマ―社の工場見学に来た研究員だって。それぞれのパスポートを見た警察はそれで納得したみたい」
「なるほど。敵の威を借りたわけか」
「そう言う事。ファーマ―社の彼女が乗っていたことが功を奏したわ」
「そうか…」
それからもかなり時間がある為、俺達はファーマ―社の女からいろんな事情を聞く事が出来た。俺達が気にしたのは、世界各国の日本人の事だった。まずは各国にある領事館だが、実は全てこっそり消されているらしい。ファーマ―社の巨大な財力を利用し、黒幕たちがそのすべてを口封じしたのだとか。また日本人の一般市民にしても同様で、生きているとしても貧困層に紛れて生活をしているらしい。
「本当に日本は世界から消えたんだな…」
ミオがポツリという。
「国ごと消されるとは…恐ろしい話だわ」
ファーマ―社の女が言うには、やはり国家の重要人物が関わっているらしかった。一つの国すら消す事の出来る巨大組織に、皆が恐怖し、これから戦うべき相手の強大さを知る。そして何故ファーマ―社の社員はそれに加担するのかを聞いたら、莫大な金をもらっているかららしい。だがそれだけではなく、ファーマ―社内でも内部告発したり会社を攻撃する人はことごとく消えているのだとか。その話を知った上で金を貰って生きるか、黙って知らずに働き続けるか、会社と戦って消されるかを選ぶしかないのだという。
タケルがファーマ―社の女に言う。
「あんたさ。自分の国が消えるかもしれないとは考えないのか?」
「実際は自国のアメリカでも実験しています。テロとニュースされている事の一部は、ファーマ―社の試験であると知っているのです」
「あんたの親兄弟が死ぬかもしれねえんだぞ」
「でも…」
「なんだよ」
「止められません。止めようとすれば、ゾンビより早く私や家族は消されると思います」
「けっ」
どうやら会社に仇名す者は、本人だけではなく家族まで殺されてしまうらしい。狂った人間ばかりだと思っていたが、それしか選択肢が無い奴らがいると言う事だ。するとそれを聞いたマナが言った。
「カルト集団ではよくある事。熱狂的に信じる信者は生き延びられるけど、抜け出ようとすると大変なことになる。ほとんどがそんな事を知らずに信じてついていってるのに。それにお金が加われば本来の自分を無くすことだってありそうね」
「じゃないと、自分の心を守れない…か」
それを聞いたクキが言う。
「洗脳ってやつだな。奴らはさらに怪しい薬を使うだろ? まさに究極のカルト集団なのかもしれん」
「確かに…」
車に乗っている時間は、情報を聞き出すには有益だった。ファーマ―社の女も全てを知っている訳じゃないが、それでも俺達の知らない有益な情報を掴んでいた。
運転しているミオが言う。
「そろそろフランクフルトに着くわ。高速を下りたら彼女に道案内させて」
タケルが女の首根っこを掴んで、運転席の後座席に連れて来た。高速道路を下りて、女が誘導し俺達はファーマ―社の工場へと到着したのだった。まずは前を素通りし、俺が気配感知で探った結果を言う。
「兵隊がいる。そして…恐らく地下にゾンビ因子の反応」
「やれやれ。こんな大っぴらに研究してやがるのかよ!」
そう。ファーマ―社の工場の周りには普通に民家や会社の建物があり、日常を送る市民が行き来しているのだった。車の通りも多く、自転車に乗った子供が通り過ぎていく。その狂気の日常に俺達は驚愕するのだった。




