第376話 封鎖されたベルリンへの侵入
バリケードの向こう側では、あちこちで煙が立ち昇り、ただならぬ雰囲気が伝わってくる。しかし俺達が中に進入する事は叶わず、近づけば撃たれてしまうようだ。空にはヘリコプターが飛び交っており、夜の都市を照らし続けている。物々しい雰囲気に包まれており、一触即発の状態である事がわかる。
その状況にオオモリが焦って言う。
「早く行かないと、取り返しがつかなくなりますよ!」
「ばーか、落ち着けって」
「でも武さん。この騒ぎを押さえられる人がここにいるんですよ!」
「んなこたあ、分かってるよ。でもここを強行突破なんかしたらマズいだろうが」
それを聞いたクロサキが頷いた。
「そうです大森さん。そんな事をしたら、私達は犯罪者として国際手配を受けてしまいます」
クキも言う。
「だなあ。こんなとこを突破したら、間違いなくテロリスト集団として認識されるだろう。そうしたら今後の俺達の活動がやりにくくなる」
「そうか…」
皆は、そんなことは全く気にしていないようだ。
「つーこった! みんな車に乗った、乗った!」
タケルに言われて皆が車に乗り込み、バリケードからUターンして距離を取っていく。
そしてマナが言う。
「顔がバレたら、偽装しているどこかの国の本人にも迷惑がかかるだろうし、私達のパスポートの偽装がバレてしまうからさ」
「そうでした。すみません。彼らが頭ごなしに撃つとか言って来るからカッとなりました」
「あれが普通の対応だ。暴動が外に広がらないようにしているのと、中に入れば危険だから戻るように言ったのもある。それだけだ」
「はい、すみません」
「で、何処から入るかだな。大森、地図を出してくれ」
「はい」
離れた場所で車内の灯りをつけて、皆がオオモリのパソコンを見る。そこにはベルリン周辺の地図が表示され、道路の様子が網羅されている。
クキが地図をなぞりながら言う。
「主要な幹線道路はダメだろうな。だがまだ暴動が起きたばかりで、閉鎖されている区画は限定的だろう」
それを聞いてクロサキが言う。
「ベルリンは大都市ですからね。一気に隔離なんて出来るわけがない、九鬼さんの見立てではどのくらいかかると思いますか?」
「さっきのは警察じゃない、軍隊だ。ドイツ軍は優秀だからな、明日の昼には完全な包囲網が出来るだろう」
「侵入するならそこまでがリミット」
「ふふ。そんなに時間をかける気はない。なあ大将」
クキが俺に言う。
「二時間以内に侵入する」
「だそうだ。それならば…」
クキが地図を指でなぞって、ある所で止めた。
「グルーネヴァルト、この森林を進んでいこう。都市部に近づいたらファーフェル川の沿岸を探す、このあたりのどこかに必ずボートがあるはずだ」
ミオが言う。
「それを奪う?」
「そう言う事だ」
話が決まって、俺たちが乗るワゴン車が渋滞の道路を横切り、住宅街を抜けると森林地帯に入る。クキの読み通りこのあたりには、まだ軍隊の手が及んでいないようだ。森林地帯の舗装されていない道路を進んでいく。
「どこか森の中に車を捨てた方が良い。見つかりづらい所に」
クキが言い、タケルが車を森の木々の中に突っ込ませた。
「行くぞ」
クキの号令で、俺達は荷物を背負い車を降りる。このあたりには人はいないが、森林地帯の為に真っ暗だった。仲間達の数人が懐中電灯を取り出し、あたりを照らして進んでいく。既にレベルが上がっているので、少しの灯りでも昼間のように進んで行けているようだ。
「川が見えたわ」
「広いな」
そしてクキが言う。
「このままベルリンに向かって歩いて行くぞ」
そのまま皆が川べりの雑木林を進んでいくと、何やら川に建物が建っている場所がある。そこに行くと川に船が浮かんでいるのが見えた。
「よし」
クキが言うとタケルが感心したように言った。
「さすが九鬼さん」
「こういう観光地にはあるもんだ。幸いにもベルリンの騒ぎがあって休業中のようだ」
「手ごろなのを探そう」
俺達は暗闇の中で、全員が乗れそうなボートを見つける。
「コイツが手ごろだ」
「動くと良いんだが…」
皆が乗り込んでいき、タケルが操舵室でいろいろといじり出した。するとエンジンがかかりボートが振動し始める。
クキが言う。
「まったく、車ドロだけじゃないのか」
「ユミに少し教わったんだよ。つーか九鬼さんよ、おりゃタイヤやガソリンは盗んだことあるけどよ、車やバイク本体は盗ったことねえからな」
するとクロサキが言った。
「今…聞き捨てならない事を言いませんでしたか? タイヤやガソリンは盗んだことがある?」
「やべえ。ここにポリがいたんだった。だが時効だよ、時効! 中学や高校のガキん頃の話だ。勘弁してくれよ。バイクだって解体屋からもらって組んで乗ってたんだ。涙ぐましい努力だぜ」
「冗談です」
一瞬皆が沈黙して、くすくすと笑いだす。そしてミナミがクロサキに言った。
「黒崎さんも冗談言うんですね」
「笑ってもらえてよかったです。公機捜でも堅物って言われていましたので」
クロサキが恥ずかしそうに言うと、クキがクロサキに言った。
「いや。トウシロばっかりの現場だったからな。あんたが一緒で今回の潜入も楽になった。堅物が一人居ないと締まらないんだよ。まあ冗談の一つくらいは御愛嬌だ」
「そんな事は…」
それについては俺も同じ思いを抱いていた。クロサキがパーティーに入っている事で、かなり安定感が出ている。
「俺もクキと同意見だ。クロサキがいる事でやりやすくなっている」
「ありがとうございます」
タケルがボートを動かしながら、クキに言った。
「橋の下をくぐるぜ」
「そのまま進め」
流石はクキだった。軍隊は包囲網を作りきれておらず、川は監視されていなかった。俺達が乗ったボートは橋の下をくぐり、夜闇の街を流れる川を進んでいくのだった。




