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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第一章 違う世界

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第36話 生き抜くために

 俺は追跡を終えて学校の一階部分に到着したので、皆が待つ三階のベランダに一気に跳躍した。


 トン!


「おうわぁぁぁぁぁ!」

「きゃああああああ!」

「うひゃぁぁぁぁぁ!」


 俺がベランダに降りると、待っていた仲間達がめちゃくちゃ絶叫した。ゾンビが現れた時以上に驚いている。今の絶叫で遠くのゾンビが反応したんじゃないかと思うほどだ。


「すまん。だが余り大声を出すのは得策じゃない」


「いや、こちらこそすまなかった! 突然現れたもんだから!」


 すると皆が俺を見てため息をついた。


「ふうっ、いきなり飛び降りちゃうんだもん。死んじゃったかと思ったじゃない!」

「本当にそうだよ! ここ三階だよ?」

「心臓が止まりそう」


「本当にすまん」


 そんなに驚く事も無いと思うが、俺は数百メートルの奈落に飛び降りた事もあるのだがな…。このくらいなら軽い身体強化で全く衝撃無く降りれるが…。身体強化しなくても差し支えないくらいだ。


「あの車は?」


「通り過ぎていった。恐らくここは見つかっていないだろう」


「奴らだったか?」


「すまんが、そこまでは確認していない。気づかれる前に戻って来たからな」


「まあ…その方が良いだろうな」


 そして俺達は学校の中へ入り窓を閉めた。


「でもさあ」


 ユミが話し出す。


「なんだ?」


「もしかしたらだけど、あの車って戸倉さん達の可能性も無い?」


「はっ!」

「あるかも!」


 それぞれにハッとした顔をしてお互いの顔を見る。そう言われてみれば別れた仲間がいた。さっきの車が別れた奴らじゃないという確証はない。するとタケルが話し出す。


「だけどよう。俺達の食料を全部持って行った奴らだぜ。俺にゃ、あいつらを心配する気持ちはこれっぽっちも無いけどな。いってみればそれで戸部が死んだようなもんだし、翼だって危なかった。生死を共にした仲間を裏切るような真似をされて許せるほど心は広くねえよ」


「まあ、そうだな。俺もタケルの意見に賛成だ」


 ヤマザキが同意して、マナとユミもウンウンと頷いている。ツバサとミナミはそれには関わっていないからか黙っている。だがミオがポツリと言う。


「まあ…そうかもしれないけど、小さいヤマト君は自分で判断できない年頃なのよね」


 それに対しユリナが言う。


「そうよね。まだ小さいし、貴子さんに着いていったようなもんだけど判断は出来ないわね」


 それに対しタケルが言う。


「まあわからんでもねえけどよ。だけどあのばあさんに懐いていたし、仕方ないと俺は思うけどな」


 するとミオが悲しそうな顔で言う。


「そうね…。でも彼らはあの愚連隊の事を知らないから、鉢合わせする可能性はあるわよね」


 それにヤマザキが答える。


「いや。ミオ、いま通って行った車が愚連隊の奴らかもしれないぞ。それを追って行ったからといって藪蛇になりかねん」


「確かに…」


 ふと静かになって皆が俺の顔を見る。意見をせずに黙っていた俺の言葉を待っているのかもしれない。だが冒険者パーティーの裏切者を救うようなお人よしは、前世には一人もいなかった。それをどういう理由でやったか分からないが、食糧を持って行かれる事で死ぬかもしれないのだ。そんな奴らを許す事は出来ないと思う。


 だが…


「俺がまだ完全に言葉を覚えていない時だから、記憶があやふやだがいいか?」


 俺がそう言い、皆が次の言葉を待っていた。


「もちろんあの時は、話の流れからして別れる方向になっていたと思う。そして再び合流する話はしていなかったと思うが、もしかするともう俺達が戻らないんじゃないかと思って、食料を持って行ったんじゃないだろうか?」 


 ‥‥‥‥


 皆が黙って考え込んでいる。そしてヤマザキが口を開いた。


「ヒカル。確かに合流するとは言っていなかった。だが食糧は俺の車に積んであったんだ。その窓を割ってまで取って行くとは思っていなかった」


「そうだな。やはり空港で人を救出する可能性を考えれば、少しは食料を残しておくのが筋だろう。彼らはそんな冷静な判断が出来る人らだったか?」


 するとまた皆が考え始めた。そして今度は擁護に回っていたミオが言う。


「たぶん…戸倉さんなら冷静な判断は出来たと思う。そして他の車に乗せ換えて少し残すとか、室内に残しておくとかは出来たかもしれない」


 ならばやはり裏切り行為だな。更に高い塔の街で回収して来た物資以外にも、あそこにあったであろう食料の箱が持ち出されていた。ヤマザキ達が戻って来た場合を全く考えていない行為だ。


「ならば、贔屓目に見ても彼らに救いの手を差し伸べる必要はないかもしれない。更に彼らはあそこにあったであろう食料品まで、洗いざらい運び出していた。残念ながら危険を冒して探し出し、合流などする必要はないだろう」


「…仕方ないのかな?」


「そしてもう一つは。俺に武器が無い状態で全員を守りきれる自信がない。ゾンビだけならどうにかなるが、盗賊のような不確定要因があると生存率が下がる。その状況で不用意に彼らとの合流を考えない方がいいだろう」


「…わかった…」


「すまん。感情的な部分では俺も分かる。実は俺も駆け出しの頃にそんな経験をした事があるんだ。そして…その結果…、いやいい…」


 俺は苦い思い出を思い出し言葉を止めた。だが彼らはそれを聞きたいのか、まだ俺をじっと見つめているのだった。だがミオが俺に声をかけてくれる。


「ヒカルが言いたくないなら言わなくていい。そしてなんとなく言わんとしている事は分かる」


「すまんな」


「ううん」


 そう俺が冒険者登録をしたての本当に駆け出しの頃、パーティーメンバーに裏切られ別れた事があった。そしてその後に俺は別のパーティーに入り、ダンジョンに潜る日々を送った。しかしある日、その元のパーティーがダンジョンの奥に取り残されたと知った。絶望が支配する空気の中で、俺だけが立ち上がり彼らを救う為にダンジョンに行くと言ったのだ。だが一人で行かせることは出来ないと、無謀にも俺のパーティーが一緒に行く事になった。


 だが…その結果生き残ったのは俺だけだった。俺は瀕死の重傷でダンジョン内で一人倒れているのを発見され、他の連中は全滅し元のパーティーも全滅していた。


 俺は、あんな事をもう二度と経験したくない。仲間を全て失った失墜の中で死を考えていた時、レイン達に声を掛けられなければ俺は死んでいたかもしれない。


「ヤマザキ。まずは我々が余裕で生き延びれる状態になっていないんだ。現状はここにいる面子が生き残る事に対し、最善を尽くすべきだと思う」


「もちろんそのつもりだ。ヒカルが冷静でいてくれると助かるよ」


「俺は…皆に死んでほしくないだけだ」


「わかったよ」


 すると皆が口々にお礼を言ってくれた。


「ヒカル、ありがとう」

「俺達はホント助けられてるよな」

「本当だね。ヒカルはいろんな経験をしているんだね…」

「なんか、あたしもヒカルを勘違いしてたかも。凄いねヒカルは」


「いや。俺は俺の経験に合わせて話をしているだけだ。もちろん皆が各自判断してくれてかまわない。まあ、俺の言葉は参考程度に聞いてくれ」


「頼りにしてるよ」


 皆の気持ちがだいぶ落ち着いてきたようだ。話が終わり気配感知で、周囲にゾンビが居ない事を確認してそれを皆に伝える。


 するとタケルが言った。


「で、皆の安全も確保できた事だし、そろそろ食糧探しに行った方が良いんじゃねえか?」


「そうだな。当初の目的通りだ。そしてもう一つ、皆はカイチューデントーは使うな。万が一盗賊が来たりゾンビがうろついた時、灯りが動けばそれに誘われてやって来る」


「わかった」


「あと、夜は車が目立つことがわかった。動けばアイツらに見つかる可能性がある、車で動くとすれば日中の方が良い。そして食糧探しは俺とタケルで行う。申し訳ないが、タケル一人の方が護衛しやすいんだ」 


 皆が頷いた。恐らく今まで、このパーティーは暗黙の了解でなんとなく動いて来たのだろう。状況を見ながらでも、徐々に決めごとをしていった方が良いだろう。


「じゃあヒカル! 行こうぜ」


 そう言ってタケルが入口の方へ歩いて行く。


「タケル。何処へ行く?」


「どこって? 食糧探しだろ?」


「ならこっちだ」


 そして俺はベランダの方を指した。


「へっ?」


「大丈夫だ」


「いやいやいやいやいや!」


「大丈夫だって言ってるだろ!」


「無理無理無理無理!」


「いいから来い!」


「そんなぁ…」


 そして俺とタケルがベランダに出て、タケルがベランダの手すりから下を覗き込んだ。


「真っ暗で下が見えねえぞ!」


「だからこそ動きやすい」


「えっと。ロープとか探さないと!」


「タケル! 声を出すなよ」


 俺はタケルの胴体に腕を回してグイっと持ち上げ、ベランダの手摺の上にったった。


「嘘…だろ…」


「じゃあ行って来る」


 そして俺はタケルを抱いたまま、そこから飛び降りたのだった。そのまま柔軟に膝を使ってそっと地面に降りる。タケルはお姫様のように俺の首にしっかりと一本の手を回していた。


「降りろ」


 ガチガチガチガチ


 タケルは震えていた。そして若干涙目になっているようだ。


「大丈夫か?」


「…はぁはぁ…」


「大丈夫か?」


「ぜんっっぜん大丈夫じゃねえよ! あんなところから飛び降りて大丈夫なはずねえだろ!」


「大丈夫そうだが?」


「大丈夫なわけがない!」


「それよりもそんなに震えて、良く小便を垂れ流さなかったな。褒めてやる」


 俺が言うとタケルがサッと自分の股間に手を伸ばした。


「本当だ…、よかったよ…。俺みんなの元に戻れなくなっちまうところだった」


「無駄話は終わりだ。行くぞ」


「分かったよ! 行くよ! 行きますよ!」


 そして俺とタケルはゾンビの気配のする集落の方へと歩き出すのだった。既にタケルは俺の後を歩く癖がついており、動きも身について来ている。他の連中は勘が悪いのか、もたもたしていて危なっかしいのだ。とにかくタケルには少しでも慣れてもらって、これから皆の為に活躍できるようになってもらわなければならない。


 タケルの教育も兼ね、俺達は夜のゾンビ集落へと進んでいくのだった。

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