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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編

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第355話 黒崎捜査官の夢

 突如訪れた自分の変化に、クロサキは戸惑って動きを止めてしまう。そのため周りにいたゾンビが一斉に飛びかかった。そこで俺がクロサキに叫ぶ。


「クロサキ! 伏せろ!」


 流石の反射神経というべきか、ゾンビに囲まれながらもクロサキは地べたにべたりとふせた。


「飛空円斬!」


 見える周囲のゾンビがバタバタと倒れていく。クロサキは驚いたように顔を上げて、俺の顔を見て言う。


「今のは?」


 どちらの質問か分からないが、俺はレベルアップの方を告げる。


「レベルアップだ。クロサキはレベル二になった」


「本当ですか?」


「そうだ」


「や、やった!」


 だが半信半疑のようで、自分の体の変化に気が付かない。


「分からないだろうけどな」


「でも皆さんのおっしゃっている事がわかりました。ヒカルさんを信じろと言っていた事が」


「あの状況下で、ばったり倒れられるクロサキは大したものだ」


「信じてました」


 クロサキは全く疑わずに、俺を信じてくれているようだった。


「試しにゾンビをやってみれば分かる。乗れ」


 俺はクロサキを乗せて、ゾンビがいる場所にバイクを走らせた。少し走っていると、モタモタと歩いているゾンビを発見する。


「いた。アイツで試してみろ」


「わかりました」


 クロサキがバイクを降り、警棒を持ってゾンビに近づいて行く。


 ビュン!


 今まではゾンビの頭がボコりとへこんでいるに留まっていたが、今度は頭がきれいさっぱり吹き飛んだ。それを見てクロサキが唖然としている。


「これが…」


「そうだ。皆が実感する最初のレベルアップだ」


「信じられない…」


「今日の所は目標達成だ。基地に帰って準備をしてまた後日来るか?」


「いえ。これなら銃はいらない。やれるところまでやりたいです。ヒカルさんが許してくれるのであれば」


「もう一つレベルを上げたいという事か?」


「もしそれが出来るのであれば、それと警棒でゾンビを破壊するのに慣れておきたいんです」


「おそらくはしばらくレベルはあがらん。みんなも次のレベルにあげるには、肉食獣などを狩っていたからな。ゾンビよりも脅威度の高いものでないとだめだ」


「それでもお願いしたい。自分の身体がどれほどか知りたいんです」


 流石に仲間達とは違う。もともとプロとして鍛えていたのだろうが、その胆力が違うようだ。一人でゾンビ世界を生き抜いて来た事もあり、かなり肝が据わっている。


「なら、いったん飯を食おう。携帯食で味気ないがな」


「サバイバル生活が長いんです。問題ありません」


 俺達はバイクで立体駐車場を探し、一気に屋上まで駆け上ってバイクを降りる。そこにゾンビはいないが、もし上がって来たら斬ればいいだけだ。


「ここにしよう」


 そして俺達は携帯食を食べ始めるのだった。だが食ったのもつかの間、クロサキは何かの型を試すかのように体を動かし始める。だが、その型はあまり見たことのないものだった。


「クロサキ」


「はい」


「それは何だ?」


「合気道です」


「アイキドー?」


「相手の力に逆らわずに、むしろその力を巻き込んで相手を制圧する武術という感じです」


 なかなかに面白い動きだった。俺はそれに興味を持つ。


「教えてくれ」


「ヒカルさんを相手にですか?」


「もちろんだ」


 俺がクロサキの前に立つと、クロサキが言った。


「あの、いくら合気道でも、ヒカルさんの力は受け流せません。だから子猫を撫でるようにかかってきてください」


「わかった」


 そこで俺はあえて力を抜いて、ゆっくりとクロサキの首元に手を伸ばす。するとクロサキはするりとそこをすり抜けるかのようにして、俺の両手を掴みくるりと投げ飛ばす動作をした。ごろりと転がる俺をみて、クロサキが笑って言う。


「自分から行っちゃだめですよ」


「いや。俺の力では全てをねじ伏せてしまう。それよりも、面白いな! 俺もやってみていいか」


「はい」


 クロサキが手を伸ばしてきたので、俺は全く同じようにクロサキの力を利用しつつ転がした。するとクロサキがキョトンとした顔で俺に言う。


「えっ? まさか合気道やってないですよね?」


「今が初見だ」


「…まるで師匠とやっているみたいです」


「呼吸と円運動、相手の力に逆らわず、逆手に取りつつ、むしろ相手と一緒になる感じかな」


 クロサキが目を丸くする。


「答えです。今の一回でそれがわかったんですか?」


「そうだな。それには一つの力を使っている」


「一つの力ですか?」


「俺からも教えよう。とにかく集中力を高めていくと、思考加速や気配感知という力が使えていくんだ。相手が止まって見えたり、戦いの先を読む力になるんだがな。その集中の方法を教える」


「わかりました」


 俺は先ほど食べた時に使ったスプーンを拾い上げる。


「目をつぶれ」


「はい」


 そして俺はポイっとクロサキにスプーンを投げる。するとそれは体にあたって落ち、カランと音を立てた。


「今の感じわかったか?」


「何かがあたって落ちたら、足元にスプーンが転がっていました。ヒカルさんがスプーンを投げて、私に当たり落ちた」


「そういうことだ」


 そして今度は俺が目を閉じる。


「いつでもいい、投げ返せ」


「わかりました」


 俺は意識を集中させて、周りの音や気配を捉え始める。


 パシ!


「凄い…」


 俺は、クロサキが音もなく投げたスプーンを目の前で受けたのだ。音もなくというのは語弊があり、思考加速でいろんな情報を処理して受け取っただけだ。


「これがクロサキにも出来る」


「私が?」


「集中力を極限まで高めれば出来る」


「そんな簡単に出来ますでしょうか?」


「クロサキには尋常じゃない集中力がある。先ほどのゾンビ討伐でそれが分かった」


「わかりました」


「じゃあ目をつぶれ」


 クロサキが目をつぶったので、俺はクロサキに言う。


「いいか? 集中だ! とにかく周りの音、俺の気配、空気の流れなどを捉えるんだ」


 そう話している途中でスプーンを投げた。スプーンはクロサキにぶつかって落ちたが、俺は見逃さなかった。体にあたる直前で、ピクリとクロサキが動いたからだ。


 カランと落ちたスプーンを拾い上げてクロサキが言う。


「難しいです」


「だが、体にあたる直前気づいたな?」


「えっ? なんとなくそんな感じがしただけです」


「充分だ」


「えっ?」


「その気配を感知する感覚の延長に、思考加速や気配感知があるんだ」


「あの、もう一度やってみたいです」


「何度でもいいぞ」


 それからしばらくは、同じことの繰り返しだった。俺がわざと感覚を変え、相手の息を呼んでずらし、気の揺らぎを呼んでずらしている。クロサキに分かってはいないだろうが、その不規則な状況の中で何かに気が付いたようだ。


「もう一回お願いします」


「よし」


 そして俺が次にスプーンを投げた時だった。クロサキは手を上げてそのスプーンを掴もうとした。だが指先があたってはじいてしまい、スプーンは離れた所に落ちる。


「惜しい」


「でも…なんとなくですが」


「その感覚だ。最初はまぐれでも、完全につかめるようになる。仲間内でもミオはそれが出来て、ツバサは音を感じて似たような事をする。他の奴らも何かしらの感覚は掴んでいるんだ。それが出来るだけで、今までとは全く視界が変わって来る」


「はい…」


 そしてクロサキはしゃがみ込んだ。集中しすぎて力が抜けたらしい。


「ふう」


「ちょっとまて」


 俺はリュックから、水のペットボトルをとりだしてクロサキに渡す。


「汗をかいている」


「物凄く疲れました」


「すまん。こんなところで消費させてしまった」


「いえ。凄く面白かったです」


「それはよかった」


 クロサキがペットボトルをあけてクピリと飲んだ。


「少し休もう」


「はい」


 少し沈黙が流れ、クロサキが俺に聞いて来る。


「ヒカルさんはなぜ戦うのですか?」


「みんなと約束したんだ」


「約束?」


「そうだ。レースをしたり遊園地にいったり、旅行をしたりコンサートを聞きに行ったりするっていう約束だ」


「ふふっ」


「なんだ?」


「なんでそんなに純粋なのかなと思いました」


「純粋?」


「とても素直というか」


「それは、仲間が戦い以外の素晴らしさを教えてくれたからだ。こんなに素晴らしい事がいっぱいあるんだと気づかせてくれた」


「戦い以外の事…」


「クロサキには無いのか」


「この仕事に就いてからは忘れてましたね」


「なんだ?」


「子供の頃の夢は、漫画家になりたかったです」


「それが好きな事だったんだな?」


「ええ。そういえば、絵なんて描いてないなあ…」


 クロサキは空を見上げて言った。


「今度クロサキの絵を見せてくれ」


「うまく書けるかなあ」


「俺は見たいんだ。クロサキがどんな事が好きだったかを」


 するとクロサキがニッコリ笑いながら俯いた。何か思い出しているような表情だが、その床に自分の好きな絵を描いているのかもしれない。ふいにふわりと風が吹いて、クロサキはおでこの汗を拭うのだった。

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