第352話 自分達が何と戦っているのかを知る
自衛隊が監視衛星で調査を続けていたが、次々とファーマ―社の秘密研究所が特定されてきていた。もちろん潜入捜査だけで得た情報なので、全てがそうではないらしいが七割がた間違いないそうだ。
「よかったなクロサキ。これで一歩前進だ」
するとクロサキが少し目に涙をためている。
「仲間達の努力が少しだけ実を結んだみたいです」
「少しではない。これは大きな一歩だ」
「ありがとうございます」
これによって今後の作戦が大きく動き出すだろう。だが眉間にしわを寄せてカブラギが言う。
「ですが…これを見てください」
そう言ってカブラギが映し出したのは、紛争地帯の一つだった。そこは戦争をしている地帯で、本来ならば危険で人は出歩かない場所らしい。だが見せられている映像では、ぞろぞろと人が歩いているのが見える。
クキが言う。
「…バカンスを楽しむために混みあっている訳じゃなさそうだな?」
俺はそれを見て確信する。
「ゾンビ化か…」
「恐らくはそうです。ファーマ―社は実験しながらゾンビを片付けていたようですが、片付けきれなかったのか、それともゾンビ因子をばら撒いた結果なのか…。いずれにせよゾンビが繁殖し始めているようです」
クキが言った。
「まあ戦闘地帯だからな。敵の銃弾や砲撃を避けなければならない、いずれゾンビの処理をしきれなくなるのは分かっていた事だ」
「恐れていたことが起きてしまったと言う訳か」
「そう言う事だ」
それを見て皆が思案している。そこで俺はクキに聞いてみた。
「クキ、このあと、どうなると見ている?」
「処理しきれなくなったところは、間違いなく日本の二の舞になるだろう。だが日本は島国で、あちらは陸繋がりだ。それだけでも状況の違いは分かるだろ?」
「更なる拡大か…」
「今なら何とかなりそうだがな。それに、ファーマ―社が他で実験をしないと思うか?」
「するだろうな」
「また違う地域で、新たな試験を始めるだろう」
「そんな事をしたら、瞬く間に世界全土に広がってしまう」
「そんな事を気にする奴らじゃないのは、ヒカルも分かっているだろう?」
そのとおりだ。きっとアイツらはお構いなしにやるだろう。
ヤマザキが言う。
「なぜだ! なぜこんなことを繰り返すんだ!」
クキが答えた。
「まあ…軍事利用でゾンビが有効だというデーターをとってるんだろうな。それを世界の軍事産業や、各国の政府に売り込もうとしているんだ」
「まさか、金の為だけに?」
「さあてね、その先に何があるかなんて、俺には流石にわからん」
ユリナが怒気をはらんだ声を上げる。
「こんなことをして人類が滅んだら、一体どうするつもりかしら。人類が死滅したらとは思わないの?」
それにクキは静かに答えた。
「俺は傭兵として世界を渡った。そして金の為なら、人の命などなんとも思わん連中など山ほど見て来た。紛争地帯に送る武器を作っている連中だって、全く同じことだ。民間人の居る地域にミサイルを撃ち込む、化学兵器を撃ち込む、それを見て非人道的だと思うだろうが、それらの兵器を作って儲けている奴らがいるって事だ」
「確かに人が大量に死ぬのを分かってて、核兵器も作られているのよね。しかも日本はそれを、二発も民間人の頭の上に落とされてる」
するとクキが言う。
「そう言う事だ。結局勝ってしまえば、それらの事は必要だった事とされてしまう。勝った後で『ゾンビは平和的に戦争を解決する事が出来る』とかなんとか言ってしまえば帳消しだ」
「核だって各国が乱発すれば、世界が滅びると言うのにね」
「だからいい感じの所で使うのを止める。おそらくゾンビの効果が世界に広まれば、条約か何か結ばれて使えなくなるだろうよ。そこまでは金もうけは続くのさ」
ユリナが言った。
「その話が広まるのが先か、ゾンビのパンデミックが世界に広がるのが先か…」
「日本と同じような処理をするかもな」
俺がクキに聞き返す。
「同じ処理とは?」
「核だよ。日本で証拠を消すために核を使ったろ? 次々に撃とうと思ったら、ヒカルに阻止されたみたいだけどな」
「今度は…火の海にするつもりなの?」
「だから言ったろ? 金の為なら何でもやると」
そこに集まった皆が、映像で蠢くゾンビを見ながら黙ってしまった。
「ファーマ―社だけの問題ではないと言う事だな。ファーマ―社の秘密拠点を全て潰したとしても、終わらないという事だろ?」
「戦争があって、必要とする国があるうちは、永遠に続くだろうな」
「なぜ市民はそれをおかしいと思わない?」
「知らんからというのもあるし、興味を持って見ていないという事もある。だが一番は対岸の火事だと思って、自分に関係ないと思っている人間がほとんどだからだよ。自分の国じゃあ恐ろしい事は起きない、戦争なんて危険な地域でやっている事で自分らには関係ないってな」
それを聞いてクロサキが言った。
「日本人はその最たるものだと思います。自分達にそんなことが起きるとは思っていなかった。その結果、政府や企業の言うとおりにして、アレを受け入れて壊滅してしまったんです」
クキが答える。
「俺はそれが嫌で日本を出たんだ。何も考えていないその風土がな」
それを聞いていたミオが言う。
「耳が痛いわ。ゾンビの世界になるまで私はそっち側だったから」
そしてミナミも言う。
「わたしも普通の女子大生で、自分にそんなことが起きるなんてまったく思ってなかった」
マナも頷いた。
「わたしもそうね。変わらないわ」
するとそれらを聞いていたクロサキが言った。
「情報を知っている我々が、法律を冒してでも情報を発信するべきだったのかもしれません」
だがクキが頭を振った。
「それは違うぜ黒崎さん。いくら真実を知ったものが情報を発信したところで、狂人の戯言だと言われるのがおちだ」
ユリナも賛同する。
「そうね。ネットで真実を語っている人もいたとは思うけど、全てデマで片付けられてしまう。もちろんデマを流した人もいるだろうし、何も知らずにゾンビなんて嘘って言ってた人もたくさんいた。クロサキさんが内部告発したとしても、多分無理だったでしょうね」
「一般市民には真実は降りないということか?」
「真実を見極める事が難しいって事」
「そうか…」
こんなに発達した世界だと言うのに、事の真贋を見極める事が出来ない。この世界の仕組みそのものが、あの狂ったゾンビ計画を生み出したという事だ。
カブラギが言う。
「それをひっくるめても、この狂った計画は止めねばなりません。いずれ第二第三のファーマ―社が出るとしても、最初のペンギンは叩き潰さねばなりません。幸いにも日本には、世界に無いゾンビに対抗する薬がある。まだまだやれることはありますよ」
カブラギの言葉に皆は頷くしかなかった。
今の話を聞いて、俺は気が付いた。前世では魔王と戦っているつもりが、世界の核を壊しかけていた。そしてこっちの世界では、世界そのものと戦っていたらしい。
確かに物凄く複雑ではある。だが俺にとっては単純な事だった。俺は仲間達と楽しく一緒に暮らしていける世界を取り戻すだけ。そして平和になった後に、幸せな暮らしをする。それの妨げをする奴は潰すだけ、それだけの事だ。




