第347話 潜入捜査官のアジトへ
クロサキが潜伏していたアジトは、東京から海を挟んだ反対側にあるという。今、俺は仲間達とハルノ三尉、自衛隊員と一緒に、ヘリコプターで目的地へと向かっていた。東京上空から海に出ていくと現地が見えてくる。すると操縦室から無線が繋がる。
「木更津の駐屯地が見えてきました」
「了解」
ハルノが操縦士に返事を返し、俺達が立ち上がって地上を見下ろすと、海の向こうの陸地が見えて来た。それを見てクキが言う。
「対岸も核の被害はあるのか?」
するとハルノが答える。
「ありますね。建物のガラスは割れており、木造屋は潰れたりしたところもあるようです。ですが、太平洋側に生存者は居たんですよ。現在は館山航空基地に隊員がいますが、今から降り立つ木更津駐屯地の整備も終わってます」
「了解だ」
俺達の乗ったヘリコプターが自衛隊基地に降りると、確かにあちこちが破損しているようだった。ヘリコプターを降りると、ハルノが俺達に向かって言う。
「自衛隊員が車を用意しています。トラックと装甲車がありますのでそれで向かいましょう」
そこでクキがハルノに尋ねる。
「周囲のバリケードが強化されているようだな」
「それはゾンビがいるからです。周辺の電子機器は核の電磁パルスで焼ききれており、大森さんの作ったゾンビプログラムが設置出来てません」
「了解だ」
そしてクロサキがハルノに聞いた。
「春乃三尉。自衛隊はいつ頃からここに?」
「数ヵ月前ですよ」
するとクロサキが苦笑いした。それを見てハルノが尋ねる。
「どうしました?」
「私はなんて間抜けなのかしら、あなた方のヘリコプターの音をファーマ―社の軍のものだと勘違いしていたわ。てっきり羽田に出入りしているものだと思っていた」
「仕方ありませんよ。こんな状況では調べようがない。黒崎さんはずっとゾンビがいる場所へ潜伏していたんですか?」
「ええ。それならファーマ―社に怪しまれないと思っていたから」
「それは本当に大変でしたね」
「でも、生き延びた甲斐がありました。皆さんが生きていてくださったから、私の情報も生きるかもしれません」
「公機捜が命がけで集めた情報です。私達が絶対にお役にたてるようにします」
「よろしくお願いいたします」
そう言ってクロサキが敬礼すると、ハルノと自衛隊員も敬礼を返した。
俺達はヘリコプターから離れ、すぐ先にあるトラックと装甲車に分かれて乗り込んだ。
そしてハルノが言う。
「ではクロサキさん。そのアジトまで誘導をお願いします」
「わかりました」
入り口の門付近に行くと、その先にゾンビの気配がしたので俺が言う。
「いったん車を停めてくれ」
クロサキが聞き返す。
「そのまま突っ切った方が良いのでは?」
「それでは、ここにいる自衛隊員達が危ない。この周辺のゾンビを片付けよう」
「銃で?」
それを聞いて仲間達がくすくすと笑った。
「あの、私なにかおかしなことを言いましたか?」
するとクキが言う。
「銃は使わない。音が出るからな」
「え、でも」
そこで俺がクロサキに言う。
「俺が行って来るから待っててくれ」
「行って来る? 一人で? 凄い数がいますよ?」
「大したことはない」
俺が車の外に出ると、クロサキと仲間数人が周囲を警戒するように外に出た。そして俺はタケルに言う。
「万が一は皆を守れ。じゃあ、ちょっと行って来る」
「任せろ」
バリケードは十メートルほどの高さだが、俺はそれを飛び越えて外に出た。一気に走り出して、ゾンビの気配がする方向へと向かう。すると路上にちらほらとゾンビが歩いているのが見えた。
「飛空円斬」
視界に入るゾンビは全て二つになった。次々にゾンビを処理して一気に走り街中を回る。俺達の進行方向のゾンビをほぼ切り倒し、俺はみんなの元へと急いで戻る。バリケードを飛び越えて、車両の近くに飛び降りるとクロサキが目を丸くしている。
「出たり…消えたり…出たり…」
「ああ。消えたんじゃない、バリケードを飛び越えて外を掃除して来ただけだ」
「掃除…」
「もう大丈夫だ。ハルノ! ゲートをあけてくれ」
「はい!」
自衛隊達が門の留め金を外し、三人で横にひくとゆっくりと扉が開いた。俺達の車がそこから出ると、また門を閉じて鍵をかける。車両が走り出し外を見てクロサキが言う。
「ゾンビが見当たらない」
「外にいるのは俺が斬った。じきに建屋から出てくる奴がいるだろうが、基地に向かう事はないだろう」
「あの半分になって倒れているゾンビをすべて?」
「そうだ」
「あの短時間で?」
「そうだ」
するとヤマザキが言う。
「黒崎さん。心配するだけ疲れますよ、この際ゾンビの事は一切気にしないで行きましょう。万が一は、武や南ちゃんも退治できるから」
「見たところ、彼は棍棒のようなものをもってますし、彼女に至っては日本刀?」
「その方が音がしないから、ゾンビを寄せ付けなくていい。ゾンビ破壊弾も装備してますから問題はないでしょう」
「なんだか、違う世界に来たみたいです」
「日本は飛躍的に進化してるんですよ」
一連の出来事を見て、クロサキは少しずつ理解を深めているようだ。そしてクロサキが俺達を連れて来た場所は、店が何軒も連なるような所だった。
そこでクキが言う。
「いい場所を潜伏地に選んだものだ。ここなら守るも逃げるもやりやすい。流石は公機捜の隊員と言う訳だ」
俺が聞く。
「ここはなんだ?」
「アウ〇レットパークという場所だ。民家ではなく、衣料品などが売っている場所だが、入り組んでいるのでかなり守りやすい」
だがクロサキが言う。
「一応ゾンビはいますので、注意してください」
「任せてくれクロサキ。あんたは情報を保管した場所まで誘導してくれればいい」
「わかりました」
住宅地にもゾンビは居たが、ここにもある程度のゾンビはうろついていた。核弾頭の被害を受けたためか、ボロボロになっている奴が多い。俺達は車を降りて次々にゾンビを処理していく。
クロサキは一緒に歩きながら、皆の一連の動きを見て感心している。
「単純作業でも繰り返すようにゾンビを処理するんですね…。全く危なげが無い」
それを聞いたクキが言った。
「そうだな。俺達は訓練に明け暮れて来たからな。ゾンビ程度におくれをとる奴はここにはいない」
「凄い…」
そして俺達はとうとう、クロサキが情報を隠しているという場所に到着したのだった。その扉は厳重に鎖がかけられており、クロサキは植え込みから何かを取り出す。
「それは?」
「鍵です。ここに隠してました」
鍵を開けて建物の奥に入ると、バッグやノートパソコンなどが置いてあった。それを見てハルノが言う。
「店のバックヤードとは考えましたね」
「ファーマ―社対策をしたつもりだけど、あまり意味は無かったみたいです」
「いえいえ。万が一がありましたから、では回収してとっとと帰りましょう」
「はい」
そこに隠していた物資を自衛隊員達が運び出そうとした時だった。マナがポツリという。
「えーっと、春乃さん」
「はい!」
「こんなことを言ったら怒られるかもしれないんですが…」
「いえ、言ってください」
「ここって服や装飾品が沢山売ってますよね」
「はあ…」
すると今度はユンが言う。
「セーフティーゾーンにならないなら、ここに人が来ることないっしょ!」
「まあ、それはそうですね」
そしてユミが言う。
「私達、年頃の女なんですよね…」
するとハルノが何かに気が付いたように慌てて言う。
「はっ! わかりました! では! 出発を一時間ほど遅らせましょう!」
「ごめんなさい。皆さんもお好きなものをお探しになったらいかが?」
ハルノと自衛隊員達が顔を合わせた。
それにヤマザキが言う。
「もちろん鏑木二佐には言いません。私達が持ち帰る分には誰も文句は言わないでしょう?」
「助かります。おい、それじゃあお言葉に甘えて」
「「「了解です! 哨戒任務に入ります!」」」
クロサキがそれを聞いて笑う。
「まるで…遠足」
そして俺がクロサキに言った。
「あんたも好きなものを探すと良い。回収は滅多に出来なくなった。いいものがあるなら持って行け」
「でも…」
タケルが笑いながら言う。
「この際、警察なんて関係ないっしょ。金だってあまり意味をなしていないんだ、やっちゃったもん勝ちだって、ゾンビは俺達が掃除しておくからよ」
「じゃ…じゃあ、私も」
そう言ってクロサキは、仲間の女達の所に駆けて行くのだった。




