第344話 謎の女の正体
謎の女は自分の事を、『モグラ』だという。俺には何の事か分からないが、自衛隊員達も良く分からない表情をしている。だがクキがポツリという。
「潜入か?」
女は一瞬どう言うか迷ったのか、少し間をおいて言った。
「そう」
俺がクキに聞く。
「クキ、潜入とはどういうことだ?」
「スパイって事だ」
「詳しく教えてくれ」
「それは、これからこいつに聞いた方がいいだろうな」
自衛隊員もクキも俺も、ただ黙って女の次の言葉を待つ。
「私はあなた達を完全に信用はしていない。だけど、他国の諜報と言う訳でもなさそうだし、何から話したらいいか迷っている」
迷う女に、カブラギとハルノが言う。
「ならまずは自己紹介をした方が良いだろう。私は自衛隊空挺団の鏑木二佐だ」
「私は自衛隊第一空挺団の春野三尉です」
順番で女の目がクキに止まったので、クキがそれに答えた。
「あー、俺は元自衛官だ。傭兵をやっていたがな」
それを聞いた女が言う。
「…傭兵…ですって?」
「そうだ。元自衛隊の特殊作戦群だったが、やめて傭兵になった」
「!」
女は一瞬、表情をこわばらせてクキをじっと睨みつける。
「なんだ? 俺の事を知っている素振りだな」
「なんで、あなたがこんなところにいる? あなたがここにいるって事は、この人達は傭兵なんじゃない?」
「いいや。俺はこの人らとは直接関係がない。彼らは現役の自衛官で、俺は元だからな」
女は更に目つきを鋭くさせて言う。
「データでは見た事あったけど、随分と表情が違うようだ」
「データってなんだ?」
「……」
「なんだかわからんが、俺はあんたを知らんぜ」
「あなた、ファーマ―社と通じているんじゃない?」
そう言われて、俺達は顔を見合わせた。恐らく、クキがファーマ―社の雇われをやっていた事を言っているのだろう。俺達は既に知っているが、この女はそこまで知らないようだ。
「ファーマ―社から仕事をもらってた事はあったさ。だが途中で奴らのやっている事に気が付き、やめさせてもらった。何の因果か、今はこのヒカルと一緒に走り回ってるって訳だ」
「それを…信じろと?」
するとカブラギが言った。
「九鬼隊長は、命を懸けて日本中の人達を救っている。もちろんファーマ―社のやっていた事を確認せずにやっていた事は、責められる事かもしれないが、今は日本の復興の為に命をかけているんだ」
「……」
女は突然口をつぐみ、俯き加減になり動かなくなった。それに対しクキが聞いた。
「あんたは何故、俺の事を知っている?」
女がまた、じっとクキの顔を見て言う。
「あなたもマルタイの一人だからよ」
「専門で言わんでくれ。どういうことだ?」
「捜査対象の一人だったという事よ」
「俺がか?」
「そう。私の管轄じゃないけど」
「どういうことだ? もしかしたら俺を追っている奴がいるって事か?」
「そうよ」
「という事は、あんたファーマ―社のスパイだったのか? ファーマ―社の仕事を打ち切って逃げた俺を、追っている奴がいるって事か?」
「そうじゃない」
「どういうことだ?」
すると女は、意を決したような表情で言う。
「まあ、あなたがまだファーマ―社に雇われていたとしたら、今ごろ私は生きていないでしょうね。アイツらは敵に容赦ないから」
「どういうことだ? あんたはファーマ―社じゃないのか?」
「私は…公安よ」
それを聞いてクキだけじゃなく、カブラギもハルノも自衛隊員達もざわついた。どうやら女は衝撃的な事実を話したらしい。
「サツだと?」
「そう、公安機動捜査隊、NBCテロ部隊の隊員よ。表立って言う事は法令違反だから、言わなかっただけ。これで、特定秘密保護法違反になるわ」
「なんだって…」
皆が驚いている。
クキが言う。
「それこそ嘘じゃないのか?」
「本当よ。私は公安機動捜査隊、NBCテロ部隊の隊員で、ファーマ―社に潜入捜査をしていたわ。ファーマ―社の社員として潜り込んでね。本来は人前に正体を晒してはいけないの、そして所属も非公開よ」
「それで…話をしなかったと?」
「ええ」
そこでカブラギが聞いた。
「どうして、ファーマ―社の社員なんかを連れて、ファーマ―社の私軍が陣取っていた羽田なんかに居たんです?」
「それは独断の作戦だけど、彼らをオトリにしてファーマ―社の軍隊に接触できないかと動いていただけ。そこにそこの、謎の教祖様が来たってわけ。ファーマ―社の手先かもしれないし、信用できなかったから何も答えなかったわ」
「俺は、教祖じゃない」
「さて? どうか知らないけど、警察は疑うのが仕事だから」
「ややこしい仕事をしているのだな」
「な、何を言っている…」
俺の答えに女が困惑している。だが話を戻すためにカブラギが言った。
「恐らくもう警察は壊滅している。あなたは独断で動いていると?」
「東京は核で焼けたし、私が見にいった福島の原発跡地は跡形もなく消えていた。この日本では、ゾンビ以外にも何か恐ろしい事が起きているわ」
…その福島の原発跡地は、俺が吹き飛ばした記憶がある…。だがここでそれを言うと、女がまた怪しみそうだ。
「確かに東京は核で焼けた。だが福島は…」
クキが言いかけた時、女が言った。
「恐らくファーマー社が証拠隠滅に、土地ごと崩壊させたんだと思う」
「まてまてまて。福島の研究所は、そこの金髪イケメンが究極の技で沈めたって聞いてるぜ」
女は深くため息をついた。
「…洗脳が深いようね」
「いや、俺は洗脳なんかされていない」
今度はカブラギが言った。
「本当の事なんです。彼は日本刀を使って、他国の軍事衛星を富士山の上から撃ち落としたんですよ」
真剣な顔で言うと、女が唐突に笑い出した。
「プッ! あーはっはっはっはっはっ! 本当に宗教ね! 一体何を言っているの? 自衛隊も毒されたと言うわけ?」
だがハルノが真剣に否定する。
「な、確かに信じられない事ですけど、このまえ大陸から日本に泳いで戻ってきたんです。そんな人なんですよ!」
女は真剣な顔になり、怒ったように言う。
「本当の事を言った私が馬鹿だった。屈強な筋肉隆々の男達が、そろいもそろって、そんなひょろっとしたイケメン優男に騙されるなんて…。まあそれだけ日本が大変な状況になっているって言う事か…」
するとカブラギが呆れたような表情をして俺に言った。
「ヒカルさん。何か…技を見せる事はできますか? こんな事に力を使わせるのは申し訳ないですが」
「日本刀は貴重だから、バットで良ければいくらでも」
「構わないと思います」
女は呆れた顔で言う。
「ホームラン競争でも見せるつもり? 頭のおかしな連中に私は真剣に答えてしまったって訳だ」
「見ればわかる!」
自衛隊員達が女の手錠を外し、後ろ手にかけ直した。そのまま俺達は再びソロゾロと、外に向かって歩いて行くと、ばったりとタケルとミナミとアオイに会う。
「ん? どうしたんです?」
「タケルいい所にいた。バットをくれ」
「わかった」
そしてタケルが金属バットを持って来てくれる。俺がバットを持って行こうとすると、タケルとミナミとアオイもついて来た。外に出て演習場に向かって歩き、周りに何もない所まで来た。
クキが俺に言う。
「そのバットを彼女の足元へ」
「わかった」
コロンと転がす。クキが女に言った。
「踏みつけて見ろ、ただのバットだと分かる」
女が踏みつけて言う。
「確かにバットね。というか馬鹿らしいわ、何をしようと言うの?」
カブラギが自衛隊員に言う。
「乗用車を持ってこい!」
「了解!」
しばらくすると、自衛隊員が乗用車で乗りつけて目の前に置いた。それを見て、女が笑う。
「はあ? 金属バットで軽自動車をボコボコにするってこと?」
だがクキが言う。
「しっかり見ておけ。一瞬だ」
「はあっ?」
女はため息をつき、まるで狂人たちに渋々付き合ってるんだというアピールをしていた。
俺は金属バットを剣のように構えて、軽自動車に向かう。
「フレイムソード」
金属バットに俺の魔力が流れ、大きな炎となって軽自動車に襲い掛かった。あっという間に火に包まれて燃え盛る。それを見たタケルが言う。
「ガソリンに引火したら危ないんじゃないか?」
確かに。
俺は燃え尽きた金属バットを捨て、日本刀を抜き去って剣技をくりだした。
「推撃!」
バゴン! という音と共に、軽自動車が演習場の中央に向かって百メートルほど吹き飛んだ時、空中でいきなり爆発した。どうやらガソリンに引火したらしい。
カブラギが女に言う。
「これでどうかね?」
「…あ、ああ…、なにが…えっ? はあ?」
女は何が起こったのか分からずに、目を白黒させて遠くで燃えている軽自動車を眺め続けるのだった。




