第340話 軍隊が去った羽田空港跡にて
俺達と自衛隊が集まり、試験体破壊薬が装填された銃を手にしている。改良に改良を加えており、軽量化を果たしたようだ。今は、ゾンビにあたってから効くまで少しの時間差がある事を、タカシマが自衛隊員達に説明しているところだ。
「というわけで、使い分けが重要ですな」
カブラギが確認の為に言う。
「高島教授の言った事を確認する! 万が一大型のゾンビや試験体に遭遇した場合は、試験体破壊薬の弾丸を撃ち込んでから通常弾で応戦する事。普通のゾンビには試験体破壊薬を使用せずに、頭を破壊するという事だ。セーフティーゾーンとはいえ地下深くは、ゾンビが動いている可能性が高い。現場に着いたら心してかかるように!」
「「「「「「「「「は!」」」」」」」」」」
自衛隊の第一空挺団の面々が気持ちを引き締めて、カブラギに返事をした。
そして俺が付け加える。
「試験体に破壊薬を撃ち込んだら、しばらく逃げてから応戦した方が良い。弱るまで待つんだ」
合わせてクキが言った。
「最初の狙撃が要になって来るぞ。狙撃班は問題ないか!」
「「「「「「問題ありません! やってみせます!」」」」」」
「地上に逃げれば、大森が作った新しいプログラムで動きを鈍らせるようだ。万が一は地上に逃げて待つのも必要だ」
「「「「「「は!」」」」」」
俺達は今、万が一、ファーマ―社の地下基地を発見した場合の対処方法を話しているのだ。俺達が羽田空港に行っている間に、自衛隊達は各地にあるファーマ―社の事務所に行く事になっている。
その後一通りの作戦会議を終えて、カブラギと各隊員達が会議室を出て行った。
俺達も準備は終わっているので、装備を整えてヘリコプターに乗り込んでいく。操縦席からクキが言った。
「さあて、さっさと終わらせて、自衛隊の応援に行くぞ」
「だな」
そしてヘリコプターは羽田空港へと飛んだ。焼け野原となった東京を見下ろし、ヤマザキがぽつりと言う。
「東京を復活させるか首都を移すのか、あれを見ると我々には山ほど課題があると思い知らされるな」
ユリナが答えた。
「遷都が現実的じゃないかしら? まだ全国的にその余裕もないだろうけど」
「なあ山崎さん。結局全国で何万人が生き延びたんだ?」
「それもまだだよ。自衛隊達が統計を取っているようだが、元の総人口の百分の一か五十分の一くらいかと言っていた。良くて三十分の一だとも言っているな。今のところ、正確な数字は確定していないようだぞ」
それを聞いてオオモリが言う。
「ネットワークが完全に回復してませんからね。あと各地の自治体が正常に稼働してくれば、もっと正確な所は分かって来ると思います」
「そうだね」
タケルが大きくため息を吐いて言う。
「そんなに…死んじまったんだ」
そう言うと皆が静かになった。やはり絶望的な数字である事に変わりはないのだ。
だが俺は違うと思った。
「タケル。百分の一も生き残ってくれたんだ。必死に逃げ回って活路を見出して、こんな悲惨な状態になっても生きていてくれたんだ。その思いや力は凄いぞ」
「…だな。この状況を生き延びた奴らだ。きっとすごい事が出来るよな」
「そうだ」
クキが無線で伝えて来る。
「見えた。羽田はそこまでボロボロじゃないようだ」
俺達が窓から先を見ると、海のそばに目的地が見えて来た。ヘリコプターは真っすぐにそこに着陸し、俺達は速やかにヘリコプターを降りる。ヘリコプターのエンジンを止め、クキも降りて来て言う。
「行くか。僅かでも手がかりをつかめるかもしれない」
そして俺達は羽田空港内に乗り捨てられた、ファーマ―社の軍用車に近づいて行く。だがそれを見てクキが言った。
「置き方が不自然だな。トラップが仕掛けてあるかもしれない」
「それはなんだ?」
「物を持ち上げたらどかん! と爆発するってやつだ」
「なんでそんなことをする?」
「証拠を持ち出されたくないからか、敵を殲滅する為の意味もある」
そこで俺が言う。
「なら俺が調べるまで動くな」
俺は金剛と結界を張り、スッと軍用車の扉を開ける。だが爆発はしなかった。そのまま中にはいり、床に置いてある箱を持ち上げた時だった。
バズン! と何かが破裂した。クキが言っていた通り罠が仕掛けてあったらしい。だが金剛と結界のおかげで全くの無傷。俺はそのままその辺に置いてあるものを動かすが、後は爆発する事は無かった。
「大丈夫なようだ!」
俺が皆に声をかけると、血相を変えてやって来る。
「大丈夫じゃねえだろ! ヒカル! 爆発したぞ!」
「大したことはない」
車内を見てクキが言った。
「どうやら手榴弾が破裂したようだ。人間を狙った罠だな」
「とりあえず見てみたが、手掛かりになりそうなものはないぞ」
「念のため俺も探そう」
クキが注意しながら調べるが、やはり手掛かりになる物は無かった。
「どうする?」
「管制塔と、ターミナルにいってみよう。同じようにトラップが仕掛けてあるかもしれないが」
「なら俺が先を行っていろいろと動かす。安全が分かったらみんなが来ると良い」
クキが笑う。
「むちゃくちゃなやり方だが、それが一番早いだろうな。てか、なんでそのスーツは破れないんだ? いくらル〇ヴィ〇ンだからって、そんな丈夫には作られてないだろ」
「結界だ。戦闘時に自分を守るためのガードだよ」
「つまり…バリヤーってことか」
俺達が話しているとヤマザキがクキに聞く。
「なあ九鬼さんよ。自衛隊達は大丈夫かな? ブービートラップがあったらまずいんじゃないか?」
「はは、馬鹿を言っちゃいけないよ山崎さん。アイツらはエキスパートだ、そんな罠に簡単にかからない。それにここには軍用の物があるが、市内の事務所にそんなものがあると思えない。それほど気にしなくても大丈夫だ」
「確かにそうだった。彼らは自衛隊でも優秀だったんだな」
「バケモノぞろいだ」
それから館内に入り、方々を探すがブービートラップは見当たらない。するとクキが面白くなさそうに言った。
「あの外の車両。あれは…いたずら半分だ。全く胸糞悪い連中だ」
そして俺達が館内を探していると、書類が散乱している部屋にたどり着いた。
「ここが司令部だな」
「探そう」
オオモリが言う。
「端末は全部破壊されてますね。まあメディアだけは引っこ抜いて行きますけどね」
「兄ちゃん。そこまでボロボロの状態から情報を引き抜けるってのか?」
「ええ」
「やっぱり大森は要注意人物だな」
「いえ、僕はそんな…」
それからあちこち家探しをして、必要であると思われる物を回収するが、めぼしい情報は見当たらなかった。そしてクキが言う。
「あとは管制塔だな」
「いこう」
俺達が管制塔に行くと、やはり荒らされたような状態になっており、端末も全て破壊されていた。皆で調べるがこれといって有効な情報は無かった。
そしてヤマザキが言う。
「あとは大森君が回収した、記憶媒体にどれだけの情報があるかだな」
「帰ったらすぐに調べます」
「よし。それじゃあ、近くにいる自衛隊の支援に向かうか」
「「「「「「了解!」」」」」」
俺達がヘリコプターに戻ろうとした時、飛行場内に気配を感じ取った。俺は建物を出ないように皆に言う。
「なんだ?」
「多分、人だ」
「なに?」
「さっきの爆発を合図にして来たのかもしれん」
だが敵の動きは緩慢で、大した人数はいないようだった。
「俺が制圧して来る。皆はここで待て」
そして俺は身体強化をかけて、一気に人が集まっている場所に走った。すると以前みんなが放射線を防ぐために来ていた服を着ている奴らが、車から降りてヘリコプターに近づくところだった。殺せば情報が取れないと思い、俺は剣を抜かずに体術で意識を刈り取って行く。
「四人か…」
他に気配はない。
俺が皆に手を振ると、みんながビルの入り口から出てこちらへ向かって来るのだった。




