第337話 天変地異が起きた跡
俺は人の気配と物音で起きる。ざくざくと何かを掘るような音がしていたが、ガンガンと何かが扉にぶつかった。どれだけ眠っていたかは分からないが、ここの空気がだいぶ薄くなっている事がわかる。
「ここだ!」
人の声が聞こえたかと思ったら、大勢が何かをかき分ける音が聞こえて来る。とても慌てているように聞こえるが、何か大変な事でもあったのだろうか?
俺が扉に手をかけようとすると、外側からがらりと開けられた。
「ヒカル!」
タケルが顔をのぞかせ、腕を突っ込んできて俺をグイっと引き上げた。
「ど、どうした? 慌てて! 試験体でも出たか!」
「違うって、お前が心配でみんな駆けつけて来たんだ!」
「俺? 俺は問題ないぞ」
他の手も入ってきて、俺はずるずると地上に出された。だが入った時と全く感覚が違う。地表まで、だいぶ遠いのだ。
「なんだ?」
俺が地表に出されると、あたりは真っ白の銀世界になっていた。
「あのあと、いきなり富士山に大雪が降ったんだよ。まだ夏が終わったばかりだと言うのに、大量に降って来やがったんだ」
「ああ、それか」
「ああ、それかって…なんだよ」
「空間支配魔法を使ったからな、恐らく周辺の気候が狂ったんだろう」
「そう言うのは先に言っとけよ! 死んだかと思ったじゃねえか!」
周りにはクキとカブラギ達、自衛隊員達もそろっている。
カブラギが言った。
「救助しに来ましたよ。ヒカルさん」
「それはスマン事をした」
「周辺を数メートルも掘り進んでやっと見つけたんです」
「自力で出れたがな」
「雪が何十トンも積み重なってるんですよ」
「問題ない」
するとタケルが言う。
「魔力切れとか言ってたからよ。万が一があったらヤベエって思ったんだ。しかもここを掘り当てるまで二日以上かかってるんだ!」
「そんなに寝ていたか」
「そうだよ! その間ずっと音沙汰がないから死んだかと思ったんだ!」
するとクキが苦笑いしていった。
「流石のヒカルもヤバいんじゃないかって話になってな。俺達は救援部隊を組織してやってきたんだ。百人からの自衛官がいるぞ」
気づけば周りには、大勢の自衛官がいた。皆が俺を見て安心したような表情をしている。そして俺は思いっきり伸びをして言う。
「良く寝た! 腹が減ったな!」
すると皆が笑って俺の肩を叩いた。そしてカブラギが言う。
「まずはスープをどうぞ」
水筒から注いだコップを受け取り、俺がそれに口をつける。
「あったかい」
「あと、今はこんな物しかありませんが」
そして俺は乾パンを差し出された。俺はそれを口にして言う。
「これでいいから、腹いっぱい食いたいな」
「下で食べられますよ。天候が荒れる前に下山します」
カブラギは隊員達の事も考えているらしい。遭難者を助けに来て、二次災害に巻き込まれる事はよくある事らしい。
「わかった」
「これを着てください」
そう言ってカブラギが俺に服をさしだして来るが、俺はそれを断った。
「すまんが動きが悪くなる。俺はこれでいい」
「いや、いくら高級ブランドだからと言っても、防寒機能はないですよ」
「既に魔力は戻っている。全く問題にならん」
「そ、そうですか。ではヘリのピックアップポイントまで行きます」
そして俺は自衛隊達と一緒に、下山し始めるのだった。下山しながらもタケルが話しかけて来る。
「しっかし凄かったぞ」
「ん?」
「富士山が光って、オーロラが輝いていた。その山頂から、レーザー光線みたいな光が数百と天に向かって登って行くんだ。そりゃすごかった」
「そう見えただけだ。あれは俺の奥義の一つだが、一晩中発動したのは初めての経験だ。思わず魔力が切れてしまったらしい」
「しかも、全く映像には移らねえんだよ」
「魔力は映らんようだな」
するとクキも言う。
「恐らく世界の連中は、なんで衛星が使えなくなったか分からんだろうな」
「それで、どうなるかな?」
「劇的に変わるさ。世界の情勢を監視できる衛星を持っているのは俺達だけになった。これがどれだけ有利に働くかは計り知れない」
「そうか。それはよかった」
するとカブラギが言う。
「衛星を破壊したのは、恐らく敵の大国だと思うでしょう。これから自国の軍用の衛星が無くなった事を、隠すか公表するかも分かりません。どの国も相手の国の衛星は生きていると考えるでしょうし、自分の国が圧倒的に不利になった事を言わないと思いますから」
「核はどうなる?」
「それも撃てなくなります。というか戦艦も航空機も機能不全になるでしょう」
「それはよかった」
「敵の状態が分からないまま、手探りで戦うしかなくなったと言ったところでしょうか? まあレーダーは生きているでしょうから、まんま目隠し状態とは言えませんけど」
「俺達は動きやすくなったと思っていいのか?」
「そう言う事です」
「じゃあやって良かったんだな」
「いいもなにも。神の所業です」
俺達がヘリコプターが来る場所にいると、空からヘリコプターが降りて来た。
「では、ヒカルさん達はヘリで降りてください! 我々は車両で降ります」
「わかった」
俺とタケルとクキがヘリコプターに乗り込むと、自衛隊員達が手を振って見送ってくれた。
タケルが言う。
「英雄の凱旋だ。みんな待ってるぜ」
「ああ」
どんどん富士山から離れて行くが、不自然に上側だけ真白になっている。どうやら雪は山の頂上付近に集中したらしかった。眼下には緑の森が広がっており、地上でやっていれば、あの氷の世界が地上に現れていただろう。思いのほか損害が少なく出来たことに、俺は満足するのだった。




