第236話 未来への基盤
俺が戦闘でまき散らしたオオモリのAIウイルスが、あちこちの軍事基地に潜り込み始めたようで、衛星を通して情報を収集し始めた。局所的ではあるが、世界のあちこちの情報が分かり始める。
まずは日本周辺で紛争が活発化してきた事が伝わって来る。更にそこから飛び火して、関係国家を巻き込み始めているようだった。西側国家と東側国家に分かれているだけではなく、各地の輸送ラインで戦闘が起きている。ここまではクキの読み通りに世界が動いていた。
だが、その状況を見ていた、クキとカブラギ達がある事を懸念し始めた。
クキが言う。
「想定してはいたが、日本への影響がどれほどあるのかと言ったところだ」
「そうですね…」
よくわからないので俺がクキに聞いた。
「日本にどういった影響があると推測しているんだ?」
「周辺国家で核が使用された場合の日本への影響だ。特に半島で使われた場合、風向きによっては日本にも影響が出て来る。既にこっちは東京周辺が核で壊滅しているからな、これ以上住めない土地が出てくるのは問題なんだ」
「核が使われるのか?」
すると今度はカブラギが答えた。
「十中八九、使用するでしょうね。今は通常の軍備で戦ってはいますが、小国はじり貧になりますからね。先に使用するのは核を持った小さな国からでしょう」
「するとどうなる?」
「報復ですね。状況によっては大規模な核戦争が起きます」
「それで出る影響とは、東京でユリナ達が言っていた放射線という奴だな」
「そうです」
「であれば、書き換わった人らなら、それほど重大な問題にはならん」
「えっ!」
「既に仲間達が身をもって体験済みだ」
「それは…本当ですか? という事は我々も?」
「そうだ。特に魔法が使える子供達に、治癒魔法が使える人間などが生まれて来れば、ほとんど影響を考えなくても良くなるだろう」
「なんと…」
カブラギだけでなく、他の自衛隊やそこにいたタカシマやミシェルまで唖然としていた。もちろん核弾頭の強烈な爆発の直撃を受ければ、俺以外で耐えられるやつはいまいが、その後しばらくしてからの放射線は考慮する必要もなくなるだろう。
だがクキが言った。
「いや。ヒカルよ。体が大丈夫でもな、農作物や家畜に影響が出てしまう。それが育たなくなってしまったら、食いもんが無くなるって事だよ。ましてや世界核戦争なんか起きようもんなら、核の冬が来て地上の生き物は絶滅するかもしれないって事だ」
「なんだと? それはお前達だけが知っている秘密なのか?」
「いやいや。小学生でも学ぶ事だよ」
「それが分かっていて、世界の軍隊は核弾頭を使うのか?」
「はっきりとは言えんが、追い詰められたら使う可能性は高い」
「窮鼠猫を嚙むというやつか」
「そうだ」
確かに、そうなれば核を使う国家も出てくるだろう。
「それを止めるすべはないのか?」
するとオオモリが手を挙げた。
「あのー」
「なんだ?」
「撃ちそうな国家の核基地に忍び込めれば、先制攻撃を止めれるんじゃないですかね?」
するとクキが言う。
「いやいや。核の施設はハッキリしてないし、巡航ミサイルは移動するタイプのトラックや潜水艦に積んでるんだ。そう簡単にはいかないだろ」
「まあそうですか…。なら僕は、ちょっと仕組みを考えてみます」
そう言ってブツブツ言いながら、オオモリは部屋を出て行ってしまった。ああなると甘い炭酸水が大量に必要になる。
そしてカブラギが言った。
「いずれにせよ。周辺国家の監視は続けねばなりませんね。今のところ世界は、日本にかかわっている暇が無くなったと思うので、我々自衛隊は更に生存者の捜索と保護した人達の自立支援をしていきます」
「今は、それぞれがそれぞれの出来る事をやるしかないだろうな」
「ええ」
ひとまず話し合いを終えて部屋を出た。そして俺が向かった先は、ユリナの所だ。
「ユリナ」
「話は終わった?」
「ああ。今は皆がやるべき事をやる時だという事になった」
「それしかないわね」
ここにはユリナの他にアオイ、ミオ、ツバサ、ユミ、ユンが居た。更に親を亡くしてしまった孤児が集められている。ユリナが何をやっているのかというと、小さい子供に現れ始めた魔法の調査だった。
「それでどんな感じだ?」
するとユリナが子供達に声をかける。
「みんな! おいで!」
子供らがワーッと集まってきて、ユリナ達の前に座る。
「今日はおにいちゃんに力を見てもらおうね」
「「「「「「はーい」」」」」」
そしてユリナが一人の男の子に声をかける。
「ケンちゃんおいで」
「うん」
男の子は俺の前に来た。親を亡くし悲惨な状況を生きて来た子らではあるが、生存者達の懸命な世話でここまで明るくなってきた。
俺が男の子に言う。
「何が出来るのかな?」
すると少年は俺の手を握って来た。少しすると手のひらから、凍る感覚が伝わって来る。どうやら氷を操れるらしい。
「冷たいな」
「あ、ごめん」
男の子は俺から手を放す。そしてユリナが言う。
「ヒカル。どうかな?」
「そうだな。今はこれくらいで良いと思う。お前は何歳だ?」
「七歳」
「ならこれぐらいでいい」
するとユンが聞いて来る。
「もっと強くした方がいいんじゃん?」
「いや。これ以上は周りを怪我させるだけではなく、自分も傷つけてしまう可能性がある。残念ながら俺は魔法の制御を教える事が出来ないからな、制御の方法を見つけるまではこのままだ」
「そっか」
そして俺は男の子の頭を撫でて言う。
「将来この力は人を救える力となる。必ず、人を守るために使うんだ。決して自分の欲の為に相手を傷つけてはイカン」
「うん!」
ここに聖女エリスでもいれば、もっと的確なアドバイスが出来たかもしれない。だが今の俺に言えるのはこんな事くらいだった。すると少年が引っ込んで、今度は女の子が前に出て来る。
「もっとちっさいな」
「五さい!」
「そうか。お前は何が出来るんだ」
「うんと…よくわかんない」
ん? 俺はユリナを見た。するとユリナが俺に説明する。
「多分なんだけど、ヒカルが言っている治癒魔法じゃないかな?」
「本当か?」
「多分」
俺は腰から短刀を抜いて、自分の手のひらに傷をつけた。すると少しずつぷくりと血がにじみ出て来る。
「やってみてくれ」
「うん」
女の子は俺の手の傷を撫で始める。
「いたいのいたいのとんでけ! いたいのいたいのとんでけ!」
血が出ていて、なすりつけるようになっており、俺の手のひらと女の子の手のひらが赤く染まった。
だが…。
俺は女の子に言う。
「ありがとう」
「うん!」
「ちょっと濡れたタオルを」
「わかった」
部屋に置いてある水差しから水を垂らして、ミオが俺に濡れタオルを渡して来た。それを貰って俺が手のひらの血を丹念に拭く。
「治ってる…」
「間違いなく治癒魔法だ」
「この子は優しくて、怪我をしている子の足をさすっていたりしたの。そしたらその子供の痛みが無くなってね、もしかしたらと思っていたけど」
そして俺は女の子の頭を撫でて言う。
「君は大勢の命を救うかもしれない。その優しい心を大切にな」
「うん!」
ようやく回復魔法を使える人間が現れ始めた。
それを見て俺はユリナに言った。
「さっきの氷魔法は、応急処置に使えるんだ。裂傷が出来て出血した場合、応急処置で止血する事が出来る。その間にこの子の治癒魔法で治せば、より迅速に人を救えるぞ」
「なるほど…そう言う連携が出来る訳ね」
「これからの時代を生き抜くには、魔法を攻撃に使うのではなく守るために使う事を教えるんだ。その教え方が確立できれば、かなり役に立つぞ」
「わかったわ」
それにはユリナだけでなく、アオイ、ミオ、ツバサ、ユミ、ユンも深く頷いているそしてユンが言った。
「あたし、こんなんだけどぉ、保育士を目指してたんだ。何か教えられたらいいな」
するとミオも言う。
「私も先生に憧れてた!」
それにユリナが言う。
「学校の制度は崩壊しちゃったけど、私達が小さな子達に生きるすべを教えていかなきゃね」
「そうだね!」
「それが課題だな。この考え方を日本中に広めないといかん」
それを聞いてユミが言う。
「愛菜に相談だわ。通信網の回復に走ってるから、通信でそれを全国に伝えられるようにしたいわね」
「名案!」
そう。
すべてが変わってしまった世界で、やり直さなければならない。世界が血迷っている間に、この国は進まねばならないのだ。それには未来を生きる子供達をどう導くかが鍵だった。途方に暮れそうになるくらい、やる事は山積みだが、俺達は一歩一歩進む事を始めたのだった。




