第309話 俺がこの世界に転生した意味
前世で魔王だと思われていた世界の意思とは、一体どんな存在だったのだろう?
前世界の意思は世界を滅ぼさない代わりに、俺をゾンビだらけの世界に飛ばした。この世界では日本という国だけが滅びかけていたが、世界全体が滅ぶ直前に送り込まれたのだと思う。このまま行けば間違いなくこの世界は滅んでしまうからだ。
だが全世界がまだそれに気が付いておらず、日本を隔離さえすれば助かると思い込んでいるようだ。間違いなくこれで終わるはずがなく、ファーマ―社は第二の実験場を必ずどこかに見つける。質が悪い事に、ファーマ―社は意のままに操る私兵を作ろうとしているからだ。
そこで俺は気づいた。この世界の状況は前世と似た状況ではないかと。前世では王や高貴な貴族が、世界の意思を魔王だと決めつけていた。それを討伐すれば、世界から魔獣は消え失せるだろうと信じきっていた。だから俺達勇者パーティーは、魔王ダンジョンへと送られたのだ。
だが違った。
魔王だと思っていた世界の意思を滅ぼしかけて世界を滅ぼすところだった。そしてそれは、この世界の今の現状と酷似していると感じている。いまこの世界は、日本を封じ込めてしまえば世界は平和になると信じこんでいる。それは全くの間違いであり、俺達が今やっている行動こそがこの狂った状況を終わらせるカギだ。今の俺はそう思えた。
ゾンビに支配された日本は、前世で言うところの魔王ダンジョンであり、俺達がそれを守ろうとしている魔獣だ。前世の世界の意思は、まるで自分がした事の過ちを気づけと言わんばかりに、俺をこの世界に送り込んだのだ。王に命ぜられるままに魔王を討伐しようとした俺に、気づいて欲しかったのかもしれない。
世界はこれをファーマ―社が仕組んでいる事だと知らず、正義を振りかざして日本を狙っている。それに対し、俺や仲間や自衛隊そして一般市民は、魔王ダンジョンの魔獣のようにただ生きるために戦っている。非力な俺達を目の敵にして、世界は日本を滅ぼさんと躍起になっているのだ。
敵国の兵隊と接触したことで、俺だけではなく全員がそれに気付いた。日本の生存者は自分らに一切の過失がないのに、世界の憎しみを一手に引き受けているのだ。この日本の貴族とも言える大臣らが、諸外国の言いなりになってこの事態を招いただけなのだ。
俺達がそれを世界に知らしめなければ、恐らく日本だけじゃなくこの世界が終わる。ファーマ―社とて、自分らが持つ恐ろしいタネをコントロールできなくなるだろう。この化物が一人歩きしてしまったら、もう誰も手を付ける事は出来なくなる。ファーマ―社自体がそれを分かっておらず、そこと取引する国々も滅びの刃を握っている事に気づいていない。
滅ぼされるくらいならば、俺達は手段を選ばずやるしかないのだ。前の世界の意思の様に、ダンジョンの奥底で勇者が来るのを待つような愚行はしない。世界が敵にまわっている事が分かっているのに、ずっとダンジョンで待つなど愚の骨頂である。
だから俺は仲間を連れて世界に出る事を決めた。もちろん正攻法ではいかないが、それでもやれることはやる。日本を魔王ダンジョンの二の舞にはしない。
唐突に俺に声がかかった。
「ヒカル。難しい顔してどうしたの? ヒカルがそうだと皆が不安になるわ」
「すまんミオ。ちょっと考え事をしていた」
「一人で抱え込まないでね。私達はパーティーなんだから」
「分かっている」
そこにタカシマとミシェルが来た。
「ヒカル君! 新薬の試験が終わったよ」
「新薬か!」
「そうだ。これは試験体にも効く破壊薬だよ。だけど如何せん量が作れない、だから吉高さんと相談して弾丸に込められるようにしたんだ」
「銃の弾で撃ち出すという事か?」
「そうだ。弾が当たれば、内部で増殖し新型ゾンビ因子を変換する」
「これで一般市民も戦いに参加できる」
「間違いなく普通のゾンビにも効くから、戦いの幅が広がると思うよ」
「よくやってくれた」
「それと万が一、新型のゾンビ因子に感染してしまった場合はこれだ。ヒカル君がいれば除去できるだろうが、もしそばにいないときはこの除去薬を注射するんだ」
「試験体の細胞にも効くのか?」
「間違いない。何度も実験している」
「わかった。緊急時はこれを使う事にしよう。量産を急ぎ、俺達が世界に出る前までに全国内に配備できるようにしてほしい」
「もちろんそのつもりだよ。当面は自衛隊に行き届くように生産を急ぐつもりさ」
俺は本当に運が良かった。俺の周りは、書き換えにより思考加速が使えるようになった天才が揃っている。前世との知識レベルが段違いに違うのだ。そのおかげで、この世界中でただ一つのゾンビ対策に特化した国になるだろう。世界がまだ眠っている間に、日本の技術は格段に進んでしまったのである。
そして、タカシマと一緒に来たオオモリとマナが言う。
「ゾンビコントロールも第二段階に入りました」
「ゾンビが単純作業を出来るようになったそうだな」
「はい。下手をすれば労働力として利用できます」
「まああまりお勧めはしないがな」
「ですが。我々が敵国に侵入するうえでは、国防に必要不可欠だと思いますよ。ヒカルさんが居ない日本を、自衛隊と一般市民だけじゃ守り切れないです。これでも日本は広いですから」
「わかった」
ファーマ―社より先に、この天才はゾンビを兵士化する事に成功してしまったのだ。小型の発信器をドローンに乗せて飛ばし、離れた所からゾンビを動かす事が出来る。オオモリとマナ、この二人の天才の知恵が合わさった事で実現したのである。
俺達の国外での戦いの準備は着々と進んでいた。
すると部屋に、ユンが駆け込んできた。
「ファーマ―社の試験体が、神奈川に上陸したみたい! エマージェンシーコードヒカルよ!」
「了解だ。討伐に向かう」
俺達はすぐに装備を整え、ファーマ―社が落として行った怪物を討伐しに向かうのだった。




