第308話 戦闘による気づきそして更なる強化
それから俺達は隠岐の島と対馬を制圧した。隠岐の島には僅かながら生存者がいたが、ほとんどがゾンビ化したり敵国の軍隊にやられてしまっていた。対馬も同様で生存者はいたものの、その数は少ない。このまま島にいるのは危険なので、鳥取に連れ帰りセーフティーゾーンの生存者と共に暮らすように言った。
訓練場にあるビルの一室でヤマザキとクキが話をしている。
「あの生存者達は良く逃げおおせたものだ」
「山中に逃げ隠れていたのが良かったのだろう」
「生きた心地はしなかったろうがな」
「だが少人数でも救えたことは、作戦の意味があったという事だ」
「そのようだな」
俺達が救出に行った時は絶望だと思っていたが、少なからず生存者がいたことで、俺達はこの作戦の意義を改めて噛み締めていた。それによってより一層、難しい離島の救出に対しての意欲が上がる。
そしてユリナが言う。
「海外遠征の演習のつもりだったけど、私達の出番はほとんど無かったわ」
「いやユリナ。一人では無理だという事が分かった。手分けしなければ生存者を見つける事は出来なかったし、敵兵の処理も一人では時間がかかりすぎる。やはりこの人数は最低必要だと痛感したよ」
そう。生存者の救出にはミオとユリナ、そしてアオイの能力が役に立ったのだ。ミオが気配を察知し、アオイが使役する栗鼠が生存者を発見した。そしてユリナが体の異常のある者の手当てをした事で、生存率が向上したのだ。
「ヒカルがそう言ってくれるならいいんだけど」
「本当だ」
そこでミオが言う。
「そうよ友理奈。あとは海外に潜伏するとなったら、言葉の壁がのしかかって来るわ。今回思ったのだけれど、全員が潜入する国の言葉を覚えた方が良さそう」
ツバサも深く頷いた。
「美桜の言うとおりだわ。更に広範囲に行動範囲を広げるなら、ヒカル一人では不十分だと思う。まあヒカルがその国を亡ぼす勢いで派手にやるなら話は別だけど」
「一般市民にはなるべく被害は出したくないものね」
「そうよ」
今回の離島奪還作戦は、それぞれが課題を見つけるいい機会だったようだ。潜入方法やタイミング、どういう動きをしたらよいのかなども見えて来たらしい。
それを聞いたクキが言う。
「一回の実戦は、百回の訓練と同じというからな。恐らく今回の件を経て、俺や鏑木二佐の言う事が頭に入りやすくなると思う」
「悔しいけど九鬼さんの言うとおり。今まで全部をヒカルに任せて来たけど、今回戦闘の現場を側で見て参加する事で気づきがいっぱいあった。研究所を襲った時は相手が無防備の状態だったけど、今回の様に武装している相手にどうすべきかというのは全く違うわね」
「本腰入れてフォーメーションやライフルの使い方をやった方が良い。葵の嬢ちゃんも例外は無しだ」
「わたしを子供だと思わなくていい。いっぱしの大人だと思って接してほしい」
「わかった。しかも葵ちゃんは、諜報能力に長けているからな。今回の作戦に参加して見えて来たものもあるんじゃないか?」
「ある。夜目の利く動物と、昼間に動く動物どちらも使役できるようにしないとダメだと思った」
「いい気づきだ」
そしてマナが言った。
「戦闘から返ってきてから、武と南はずっと戦闘訓練に明け暮れているし。付き合わされている自衛隊員が可哀想になってくるぐらい」
クキが苦笑いをして言う。
「あの二人…いよいよバケモノじみてきたな」
それを聞いたヤマザキが頷いた。
「恐らく最もレベルアップしている二人だ。今回もヒカル以外で、戦闘に参加したのは武と南と九鬼さんだ。今回の事で、もっと自分が役に立てる事に気が付いたんだろう」
「さて、そろそろ俺達も訓練に参加しないとな」
クキの言葉に皆が訓練場へと急いだ。俺達が訓練場に行くと、丁度戦闘訓練が終わったところなのか自衛隊員達があちこちに座り込んでいた。その右と左にタケルとミナミが立っており、どうやら二人が向かい合って仕合をしているらしい。
クキがハルノに声をかける。
「どうなってる?」
「どうもこうもありませんよ! 我々第一空挺団は自衛隊ではバケモノぞろいと言われたものです。それがもはや相手にもなりません。だから我々は彼らの組手をこうして見ている訳です」
「そんなにか?」
「見てくださいよ」
タケルとミナミが走り寄り、なんとミナミは真剣を振り回していた。
「真剣じゃないか!」
「我々を相手する時は木刀でしたよ。でも武君が木刀じゃ訓練にならないとか言いだして、それに南さんが答えた形となります」
「マジかよ…」
二人の手数はそれこそ、この世界の人間にあるまじきものだった。ミナミの突きがどれだけ繰り出されたかも定かではなく、それをかわすタケルの拳がどれだけミナミを襲ったかもわからない。そのギリギリの攻防は、それから三十分以上続いた。二人が尻餅をついて空を見上げたところで、俺がそこに行く。
「二人とも腕を上げたな」
「まだまだだよ! ヒカルの足元にも及びやしねえ」
「そうよ! どうやったら剣技なんて繰り出せるのかしら!」
「この世界の人間を相手にするなら十分すぎる。銃で応戦した後で白兵戦になったら、二人に敵う者はいないだろう」
そこにクキが来て言う。
「この化物に近づこうと思っているのが信じられない。おまえら本気でそんなこと考えているのか?」
「マブダチの役にたちてえからな」
「私もよ。少しでもヒカルが楽に動けるように立ち回りたいわ」
「なら、そろそろ銃の訓練に移ろうか。白兵戦も必要だが、やはり大勢と戦うには銃の腕が必要だ。今日は狙撃訓練だ」
二人が立ち上がって、クキに言う。
「よろしくたのむよ先生」
「私も一生懸命覚えるわ」
元は敵同士だったが、今では信頼関係が出来上がっていた。そこにハルノ二尉が来て言う。
「これから一時間の狙撃訓練が終わったら、休憩を挟んで降下訓練です」
「了解」
「わかったわ」
ハルノが苦笑した。
「まったく。自衛官でも音を上げるプログラムですよ。何処からそんな体力が出るのですか」
「まだまだ足りねえんだよ」
「すぐに取り掛かりましょう」
離島の戦闘から帰って早々、皆が訓練をしたいと言い始めたのである。他のメンバーは休憩を挟んでいるが、この二人は休憩も挟まずにぶっ続けで訓練している。少しでも俺に近づきたいという意思の表れだと知った。それならば俺もそれに答えなくてはならない。
「ならばクキの狙撃訓練に足して、俺の刺突閃の応用も取り入れてみると良い。これには想像力が大きく影響してくるんだ」
「おお。そいつは試してみないとな」
「そうね!」
そして俺達十四人は、狙撃訓練場へと足を向けるのだった。




