第305話 決起
ようやくカブラギ二佐とヨシズミ二尉が駆けつけてきた。俺達から状況の説明を聞いて、現在の日本が置かれている状況を知る。二人とも軽くため息をついており、今後の防衛という点において話をし始める。
「まったく…一難去ってまた一難ですな」
「ああ」
するとヨシズミ二尉が言った。
「ゾンビが駆逐されつつある事を知られれば、第二次世界大戦直後のような事が起きるのでしょうね」
「だろうな」
そこで俺が聞いた。
「セーフティーゾーンの割合は、どのくらい進んでいる?」
「主要都市は終わりましたね。あとは各県内で五カ所ほどのセーフティーゾーンは確立されています。市民もかなりの数を助けており、正確な集計は取れておりませんが数百万単位にはなるかと」
「ならば、全国民の協力を得るしかない」
「全国民の?」
「そうだ。今後の生存者救出とセーフティーゾーンの拡大は、救出した市民に全て任せよう」
「しかし」
だが俺はカブラギの言葉を遮る。
「いや俺はクキに聞いたんだが、紛争地域では子供でも戦うんだそうだ。俺達の班にも一人子供はいるが、大人と同じ仕事をしているぞ。体が動く者は総動員するんだ」
それは前世の辺境都市の事を思い出しての事だった。ある魔獣の森でスタンピードが起きた時、冒険者や騎士だけでは到底守り切れない。そこで市民がとった行動は、都市の人間総動員で事にあたるという事。女子供も老人も関係なく、動く者は全て使った。恐らく現状日本の脅威は、魔獣のスタンピードなどよりも深刻で重い。国家総動員でなければ、この難局を突破する事は出来ないだろう。
そしてクキも言う。
「ヒカルの言うとおりだな。自衛隊は全員国土防衛に回った方が良いし、生存者の中からも兵士を募った方が良い。国家総動員で防衛にあたるべきだと思うね。なんとか動けるものだけで、セーフティーゾーンの確保と生存者救出をやるべきだ」
俺達に言われ、カブラギもようやく頷いた。
「まあ…そうだとは薄々思っていました。ですが市民を守るのが我々の仕事、自衛隊としては市民に戦わせるのは抵抗があったのです」
「カブラギ。今は市民も自衛隊も無いと思う。国の威信をかけて全員でやらねば国を取られてしまう」
するとヤマザキも言う。
「ヒカルの言うとおりでしょうな。大戦の時と違いアメリカの後ろ盾も無い、日本は孤軍奮闘せねばならないのですから、それこそ総玉砕の覚悟で当たらねばならないのでしょう。自衛隊のあり方や、その意味と意義を考えたら選べない事だとは思います。ですが今は憲法などと言っている場合ではない。やらねば明日は無いのです。徹底抗戦すべきです」
「わかりました。ですがエネルギーや銃弾には限りがある。輸入なども出来ないし、現存する武器で防衛せねばなりません」
だがそこで俺が言った。
「防戦一方ではない」
「と言いますと」
「仮想敵国の武力を無力化する為に、俺達は極秘裏に攻撃を仕掛ける」
「俺達?」
「そうだ。俺達の班、十四名でだ」
「えっ! 十四名で? 世界に?」
俺達十四名とは、俺、タケル、ヤマザキ、ミオ、マナ、ユミ、ユリナ、ツバサ、ミナミ、アオイ、ユン、リコ、オオモリ、そしてクキだ。
「ちょっと待って下さい! たった十四人で何ができるのです?」
「出来るさ」
自衛隊員達が慌てた顔でそれを否定しようとする。だがクキが言った。
「海に出て、ヒカルと戦って分かったよ。自衛隊が派手に動けば、返り討ちにあうだろう。日本が攻撃を仕掛けて来たと知ったら、恐らくは全面的に日本に攻めてくるに違いない」
「でも! 先ほど総玉砕と!」
「まあまて鏑木二佐。俺達は死にに行くんじゃない。勝てる算段があるから行くんだ」
「か、勝てるんですか?」
「そうだ。『勝つ』んだよ。日本が攻撃をしたという痕跡を一つも残さずにな」
「いや、打撃を与えたとしても勝つなどという事は」
そこでオオモリが出てきた。
「鏑木さん。別に全て僕達だけやろうってんじゃないんです」
「まさか…」
「鏑木さんが想像しているのが何か分かりませんが、僕らは既に覚悟を決めているんです」
「覚悟…」
「ええ。日本を取り返すための覚悟です。その為だったらなんでもやると決めたんです」
それを聞いたカブラギと自衛官達は、静かになって考え込んだ。少し時を置き鏑木が言った。
「目には目を…ですかな?」
「そうです。もちろん憲法も国際法も全く関係なくやるんです」
「……」
「中東や南米にはそう言う組織がありますよね? 小さい組織で大国と戦う。僕ら日本人にだって生きる権利があるんだ。誰にも根絶やしにする権利なんてないですし、生き延びるためにやるんです」
「わかりました。もちろん我々自衛隊にそれを止める権利はない」
「分かっていただけて嬉しいです」
オオモリは少し狂気に満ちている。もちろん狂っているわけではないが、今回の出来事も重なってかなり頭に来ているのだ。冷静に話していながらも、はらわたが煮えくり返っているのが伝わって来る。そして…それはオオモリだけに限らず、俺の仲間はみんな似たり寄ったりだった。
だが…皆の決心に火をつけたのは、実は俺であると俺自身が自覚していた。俺は昨晩、十四人を集めてこっそり話をした。俺が出来る事、今までつかってきた剣技とは比べ物にならない力の事をだ。
それを聞いた仲間達は、その力を行使すべきか否かの論争になった。だが最終的に日本を守るためならば、やれることはすべてやろうという事になる。それに輪をかけたのが、俺も少し懸念しているオオモリの考えだった。オオモリはこの世界のネクロマンサーにならんとしているのだ。仲間達やこれまでの日本人の死、そして今回の他国軍の襲来に対し腹に据えかねたらしい。
話し合いの結果、皆が自分達の能力を全て解放して戦うと覚悟を決めてしまった。
俺はふと前世のパーティーの事を思い出す。レインにエルヴィンにエリスと共に、世界を股にかけてダンジョン攻略に明け暮れた日々を。あの青春の事が瞼に浮かんで来る。
そしてクキが言う。
「だが鏑木二佐、それはすぐって訳じゃない。これから入念な準備もするつもりで、しばらくは俺と自衛隊とで彼らの訓練をしてもらいたいと思っている」
「いくらでも協力します! 日本の為に戦うのであれば、我々自衛隊はそれを惜しみません!」
「頼むよ」
俺達の覚悟の眼差しに、自衛隊員達も火がついて来たようだ。そして仲間を失ったハルノが言った。
「二佐! もし可能であれば、私を彼らの訓練の任に!」
「…わかった春乃三尉。自衛隊の編成も含め全権を委譲する」
「は!」
ハルノもゾンビだけではなく、ファーマ―社や隣国の軍隊に仲間を殺されてきた。むしろここにいる自衛官は全員がそれを経験している。彼らもようやく、自分らが何をすべきなのかを再認識して来たらしい。
日本国国民は立たねばならない時が来たのである。




