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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第五章 救世主編

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第304話 答えぬ捕虜とジュネーブ条約

 俺達は陸に戻り、生存者を陸上自衛隊の日光演習場へと誘導する。既にこの周辺もセーフティーゾーンになっているのでゾンビの危険性はない。だが突然の兵隊の襲来に、生存者の不安は高まっていた。


 現状は自衛隊が護衛する事で一時的な安全を確保しているが、第二第三の襲撃が無いとは言い切れなかった。その為にも情報を聞き出す必要があり、捕らえた兵士の尋問をしなければならない。そこで俺とクキが、すぐに捕らえた敵国の兵士の元に行く。部屋に入ると敵兵はいまだに口を割っておらず、ハルノ達も扱いに困っていた。


「どうだ?」


「何を語り掛けても答えません」


 ハルノ達は捕虜に手を下すことなく、言葉で事情聴取を繰り返しているようだった。その様子を見てクキが俺を部屋の外に連れ出し、小さい声でぼそりと言った。


「ダメだ。甘すぎる」


「仲間が殺されたのだろう? なぜこんなやり方なんだ」


「春乃三尉達は国際法にのっとってやってるのさ。こんな状況なんだから、そんなもんあってないようなもんだし、俺が傭兵だった頃は手段なんか選ばなかったんだがな。俺がやった方が手っ取り良いが、流石に自衛隊員達が納得しないだろう」


 なるほど。クキは世界の法律や自衛隊の決まりを知っているだけに、強行するわけにもいかないらしい。ならば俺が悪役になればいいだけの話だ。再び部屋に入ってハルノに言う。


「俺に任せてもらおう」


「なんです?」


「こいつらに現地にいって案内してもらう事にする。海上のどちらから向かって来たのか、他に増援がいないのかを現地に言って聞く」


「連れて行くのですか?」


「そうだ。悪いが俺に任せてくれ」


「それは構いません。ですが念のためヒカルさんに伝えておきます。捕虜の扱いはジュネーブ条約によって決められているんです。衣食住の供給も認められていますし、人権は守らねばなりません」


 そこで俺はハルノに言う。


「ハルノの言っている事は難しくて俺には分からん」


「ですから我々自衛官に任せていただきたいという事です」


「すまんが急を要する。まだ他の地域が脅威に晒されているかもしれんのだ」


「戦地に連れて行くのはダメです。国際法上の問題に発展します」


 なるほど。クキの言うように堅い返事が返ってきた。だがハルノが国際法と言うも、既に日本は国家として機能していない。ハルノが言うそれは自衛官としての矜持なのか、人として超えてはならないものがあると考えているのか、いずれにせよ今は悠長に構えていられない。


 仕方がない。


 俺は魔気を体にため込み、軽く殺気を部屋に解き放った。ガラスにひびが入りハルノ達は思わず自分の拳銃を構えていた。恐らくは訓練による賜物で無意識の行動だろう。


「ハルノ、それをどうする?」


 俺がハルノに聞くと、無意識に銃に手をかけていた事に気が付いたらしい。


「あ、いえ。これは…」


「他の奴らもだ」


「失礼いたしました!」


 自衛隊員達は直立で俺に頭を下げる。もちろん俺は暴力を振るった訳でもなく、強制的に連れて行くと言ったわけでもない。


 するとそこでクキが自衛隊員達に助け船を出す。


「おいおい。何もしてない一般市民に銃を向けちゃいけねえなあ。とにかくここは穏便に済ませた方が良いんじゃないか? 何も取って食おうって訳じゃない」


「何をするのです?」


「大丈夫。じきに返すからちょっと貸してくれ。もちろん生かして連れて来る」


「…」


「他の奴らも、銃を向けたことは不問にするから」


「分かりました…ではどのくらいの時間でしょう?」


「一時間か二時間くらいだ」


「分かりました」


 俺とクキは顔を見合わせ、捕虜に外国の言葉で言う。するとようやく外国人から反応があった。クキを睨み何かを言いたげだ。


 すると一人が立ち上がる。


「じゃあ、コイツを借りていく」


「わかりました」


「他の四人は独房にでも放り込んでおけ」


 そして俺がそいつを立たせてクキと二人で部屋を出た。建物の外に出て並んでいる車から一つ選び、捕虜を後部座席にのせ俺が隣に乗る。クキが運転をして陸自の演習場を後にするのだった。


 まず俺達が最初に向かったのは、敵軍を全滅させたあの町だった。捕虜は自分が何をされるか分かっていないようで、ぶるぶると震えている。


 そして俺とクキはあらかじめ決めていた事をやる。縛られた捕虜を車から降ろして、地割れの起きた街の縁へと座らせる。


「じゃあヒカル。いいぞ」


「分かった」


 俺は割れた地面の底に飛び降りた。崩れたビルに進入し瓦礫の中から、なんとか形をとどめている死んだ兵士の頭を拾う。ほとんどぐちゃぐちゃに潰れてしまっており、まともな頭部がほとんどない。あちこち巡って五体分の頭部を拾い上げ、クキが待つ場所へと戻る。そして捕虜の前にその首を転がした。


「こうなりたくなければ吐けと伝えてくれ」


「了解だ」


 クキが言う。


「+*#+&%=!!」


 だが言葉にならない悲鳴を上げて兵士が嘔吐する。そしてクキが捕虜に何かを言うと、ガチガチに震えながらも何かを話し始めた。だがクキが何度も聞き返す。


「だめだ。捕虜の扱いやら人権やらがどーのこーのと主張するだけだ」


「あとは?」


「味方が助けに来たら俺達は終わりらしい」


「増援の可能性があるという事か?」


「はっきりそうは言っていない」


 俺は少し考えて、上陸用舟艇がずらりと並んだ浜辺に行く事にした。捕虜を車に乗せてその場所に到着し、上陸用舟艇の前で斬り落とした兵士の死体を見せる。するとどうやら精神が崩壊してきたらしく、ギャーギャーと大きな声でわめき始めた。


「なんて言ってる?」


「殺さないでくれと。国に家族がいるんだと」


「じゃあ沖の船はもう沈んだことを伝えて、二度と帰れないと伝えてくれ」


 俺の言葉を聞いたクキが双眼鏡を取り出し、男の目に当てて沖を見せる。捕虜は何処にも仲間の船が無い事を確認し、驚愕の表情を浮かべていた。じきにがっくりと肩を落として捕虜は俺達に言う。


「頼むから国に帰してくれだって。ずいぶん都合のいい話だな」


「まったくだ。帰りたいのなら質問に答えてもらおう」


「だな」


 しかしそれでも言葉を濁す捕虜。仕方がないので俺は日本刀を抜いて、そいつの首元を少し斬った。それが男の限界だった。それからはクキが尋ねるとおり答え始める。全てを聞き出したクキが言った。


「増援は今のところ予定されていないらしい。どうやらヘリコプターが飛び始めたのを確認した国の上層部が、他の国が日本の領土を取りに来たんじゃないかと思って慌てて取りにきたんだと。今なら労せず自分達の領土に出来ると踏んだらしい。国際法上の問題もあるので、国旗はあげずに来て既成事実を作ろうと思ったらしい。実効支配さえしてしまえば国を取れると思ったらしいぞ」


「火事場泥棒ってやつか」


「そう言うこったな。ゾンビがいると想定して大部隊で来たらしいが、ゾンビがほとんど見当たらないので驚いたらしい。これなら自分らが日本の大部分を占領出来ると踏んだみたいだ」


「増援は来ると考えた方が良いんじゃないか?」


「まあそうだな。今回は現地調査の為に来たらしく、母船に戻ったら自国へ報告するつもりだそうだ」


「なるほど。母艦が沈んだのを見て観念したと言う訳か」


「そう言う事だな」


「あとは何かあったか?」


「それがよ。腹立たしい事に、隠岐の島と対馬は既に制圧したらしい」


「なに? 日本人がいたんじゃないのか?」


「コイツは直接は知らないらしいんだ。隠岐の島と対馬の作戦には参加していないんだと」


「嘘ではないのか?」


「さあてね。こっからは拷問でもして聞き出すしかない」


「…まあいい。それは直に見に行けばいい事だろう?」


「まあ、そんなところだ」


 聞きたいことは聞けたので捕虜を立たせようとした。だが腰が抜けてしまったようで立ち上がる事も出来ないでいる。仕方がないので、俺は縛ったロープを掴んで砂浜を引きずる。


「これで自衛隊と揉める事はないか?」


「拷問もしてねえし、首の薄皮一枚やったぐらいだ。春乃三尉も見逃すだろ」


「そうか」


 そして俺達は車に乗り込み、陸自の演習場に向けて走るのだった。

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