第300話 エマージェンシーコードヒカル発動
終末世界である日本中の改革をしながら、俺達は各地の生存者達と関係性を高めてきた。俺達がギルドを設立したところ多くの人が参加し、ルールにも皆が賛同してくれている。誰もが究極の状況を生き延びてきた結果、平和な時代の日本では無いと体が理解しているようだ。
命がけと言うものは人間を変えるものだ。皆は必死に生き残りをかけてゾンビと戦ってきたが、それが皆の意識を変えたらしい。それは生存者全てが口を揃えて言う事で、今となっては飼いならされた日本人など居ないだろうという意見がほとんどだ。
ツバサが言う。
「平和ボケした日本人なんて、滅びたのかもしれないわね」
それにユリナが答えた。
「そうね。子供に至るまで、甘ったれた事をいう人はいなくなった感はあるわね」
「そう。うちの葵ちゃんだって、もういっぱしの大人のよう」
するとそれを聞いていたクキが言う。
「結局はそう言う事なんだ。大人達が必死になれば、子供達はそれに影響される。紛争地帯の子供らが率先してロケットランチャーを担ぐのは、地域の全員がそうしているからだ。ゾンビの世界で平和ボケしていたら死んじまうのさ」
それを聞いたミオが悲しそうな眼をした。
「私は平和ボケした子供達の世界が好きよ。大人だって平和ボケしている人がいっぱいいた方が良い。日本は比較的そういう国だったように思うけど、今となってはそれが見せかけだったとわかった」
「そうね美桜。日本人はその平和ボケにつけこまれて、国土をゾンビ実験場にされてしまった。そう考えれば自業自得とも言えるけど、自立して考えない国民を生み出した政府のせいだわ」
「政府も諸外国の言いなりだったし、お金だけばら撒いていればいいと思ったのかもしれないわね」
「お金を取られるだけ取られて、結局、滅ぼされてしまった」
「悔しい。日本人はまるで家畜、飼いならされていつか食べられるのを待つ家畜だわ」
皆の悔しさが俺にも伝わってきた。つい数年前までは、皆がその状態におかれていたのだ。それが一気に覆されて、本当の世界の真実に気が付いてしまったのである。
するとタケルが言う。
「そこに一匹の獅子が現れて、皆を目覚めさせてくれた」
皆が俺を見る。
「そうね。ヒカルが真実を皆に見せてくれたわ」
「本当だな。ゾンビ世界の前は、俺たちゃずっと眠ってたみてえだよ」
「本当に真実を知っていたのは、この中では九鬼さんって事ね。あとはミシェルが真実に近いところにいた」
するとミシェルが言う。ミシェルは本来、仙台本部で薬品開発に携わっていたのだが、オオモリが開発したゾンビコントロール薬の実際の効果を見に、長野県までやって来たのだ。
「悔しいわ。ファーマ―社に居ながら、ファーマ―社の深部を知らなかった。私がそれを止められたかもしれなかったと、いまだに悔やみ続けている」
「ミシェルさんよ。そいつは無理だ。いくらファーマ―社の暗部を知ったからと言って、結局消されるのがおちだぜ。傭兵だった俺ですら、ファーマ―社や他国を全て相手するなんて無理だったからな。まあ傭兵の俺達が騒いだところで、これを止める事は出来なかったが」
皆が後悔の念をもって生きているようだ。そしてユリナが言った。
「皆がファーマ―社の内部告発などを、デマだと思わずに本当に受け止めておけばよかっただけ。だけど誰もそんなことを信じる事が出来なかった。それもファーマ―社の恩恵にあやかる奴らのせいよ」
ピーピーピーピー!
その時、突然通信機の音が鳴り響く。そして通信機の先の声はこう告げた。
「エマージェンシーコードヒカルを発動」
それを聞いた全員が何も言わずにざっと動き出す。皆が耳にイヤホンを入れて、武器を手に走り出すのだった。
「こちら春乃三尉。場所は鳥取県米子市に潜伏、海岸沿いの隊からは現在数百名の上陸者を確認」
俺がヘリコプターの座席に乗り込むと、クキが俺にマイクを渡して来た。俺がマイクに向けて言う。
「現在地は長野県南部、到着推定時間は…」
クキが俺に言った。
「一時間二十分後」
「一時間二十分後。市民の避難は進んでいるか?」
「上陸直前に察知し避難開始、既に大半の市民は山岳部に逃げ込んでいる。現在、当該市街地を三個小隊で警戒中」
「なるべく交戦はするな。お前達の命が惜しい」
「ふっ、ありがたいこと言ってくれますね。一時間二十分きっちり守らせてもらいますよ。無線が傍受される危険性を配慮して切ります」
ガッ!
と無線が切れた。俺は隣のクキに言う。
「急げ」
「急いでる」
チヌークヘリは低空を飛び、一路鳥取に向かうのだった。
自衛隊も生存者達も自分がやるべき事を分かって、早急に避難を終わらせている。作戦通りに自衛隊員が待ち伏せをし、エマージェンシーコードの通りに俺が駆けつける。全ては俺達が想定した通りに動いていた。
「クキ、俺は現地の手前で降りる。海上からの攻撃を避けるため、チヌークヘリは山岳部に隠れるようにして降下場所を探せ」
「分かってる。あそこにゃ、陸自の日光演習場があるからな。春乃達はそこから出たんだろ。ヒカルを降ろしたら、俺達はあそこに着陸して陸から行くさ」
「よろしくたのむ」
それから一時間二十分ほど飛ぶと、前方に煙が上がっているのが見えてきた。
「俺はここでいい。いったんチヌークヘリを置いて来てくれ」
「了解だ」
俺は背中に三本の日本刀、腰に二本の刀を差してヘリコプターを飛び降りるのだった。




