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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第五章 救世主編

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第296話 新しい常識とエマージェンシーコードヒカル

 集結して自衛隊員達と情報共有をした結果、ゾンビを止めたセーフティーゾーンにおいて、鹿やツキノワグマなどの野生動物が出没する事案が増えて来たらしい。俺達も北海道の人里近くでヒグマを見ており、ゾンビがいなくなるとあれらが街に出てくるだろう。


 更にもう一つの懸念される事案が、各地の湾岸沿いで外国の監視船を見る事が増えたらしい。救出された生存者は、生活する環境を整えるだけで精いっぱいだと言うのに、新たな脅威が確認されたのである。


 カブラギが言う。


「日本各地で我々のヘリコプターが飛び出したからでしょうね。生存者の確保を急ぎ、あちこちで飛んでいるのを各国の軍が察知したのでしょう。恐らくは自国に渡ってこないように、監視を進めているのだと思われますが」


 するとクキが言う。


「明らかな領海侵犯だな。日本が正常だったなら、自衛隊が追い払っていたんだがな」


「悔しいです。みすみす自国の領海内を自由に航行させるなどあってはならない」


「まあ今は我慢だ。とにかく生存者の救出を最優先にするしかない」


「了解してます。こちらは無視して活動を行っています」


「問題は、軍が上陸してこないかってところだな」


 それを聞いていて俺が言う。


「自国に軍が上陸した場合、そいつらを排除する事は問題ないのか?」


 カブラギは腕を組んで言う。


「どうでしょう? 自衛隊が設立して、他国の軍隊が島などを占拠した事例はありますが。本土に上陸した場合は、例がないように思います」


「で、自衛隊としてはどうするつもりだ」


「日本国民の命を脅かすのであれば、速やかにこれを排除するべきかと」


「ならそうしよう。通信機というものが使えるのだろう? 軍隊が上陸を確認した場合は俺を呼んでくれ」


「ヒカルさんを呼んでなにを?」


「自衛隊に被害が出ないうちに排除する」


「いや。市民を守るのは我々の使命でありますが?」


 するとタケルが言った。


「あー、なんだ。ヒカルに任せておいた方が良いと思うぜ。空母やイージス艦とかも単独で沈めたし、核弾頭も無力化したからな」


「そんな事が?」


「この目で見たしな」


「そうですか。では隊の全員に通達しましょう。さしずめエマージェンシーコードヒカルと言ったところでしょうか?」


「いいねえ。ヒカル! なんかめっちゃカッコイイじゃねえか!」


「わかった。ならばエマージェンシーコードヒカルを覚えておく。他国軍が攻め入ってきた場合の合図だな」


「そうです。各隊がヒカルさん直通でよろしいですか?」


「かまわん」


 俺達も自衛隊員達も、新たに出てきた脅威に頭を悩ませる。それを聞いていたヤマザキがぽつりと言った。


「国を再興させるために、新政府が必要となるんじゃないだろうか?」


「その為にも、一刻も早く日本全土を救わねばならない」


 今度はクキが言った。


「俺が思うに、それより先に国民に銃の携帯を許すべきだと思うね。法律がどーのこーの言ってる場合じゃない。ある程度自分らでも守れるように、教育も施して行くべきだと思うがね」


「確かに…でも、我々のように訓練していない者が持つのは危険ではありませんか?」


「懸念してるのは内部抗争が起きたり、武力を持った奴が持たざる者を支配するんじゃないか? ってことだよな?」


「そうですね」


「それこそ、エマージェンシーコードヒカルだな。敵国が自国を狙っているって中で、仲間割れなんかしようもんなら制裁を加えるしかないだろう」


「制裁? 我々自衛隊にそのような権利はありません」


「だが、今生き延びるためにやるべき事と、現行の法律を両立させる事なんて出来ない。既にこんな国になっちまったんだ。武力で分からせることだって出てくるさ。我々日本人はなんとしても生き延びねばならない。その目的の為には、厳しい事を言うが多少の犠牲はやむを得ない」


 それを聞いてヤマザキが言う。


「その正義を誰が判断するんだろう? 九鬼さんがいうような事を、我々がしていいものだろうか?」


 ユリナも言った。


「そうよね。武力を持った私達や自衛隊が、それをやって国民が黙っているかしら」


そしてミオもそれに続いた。


「そもそも私達が勝手に決めてやっていいものなの?」


 それを聞いてクキは黙る。皆も判断がつかないらしく次の言葉がない。そこでタケルが口を開いた。


「わりいけどよ。俺は九鬼さんの意見に賛成だな。自衛隊が不在の時に他国が上陸して来たら、他国の軍隊から殺される可能性がある。武力は持っておいた方が良いと思うぜ、いまのところはな」


 ミナミが頷く。


「私も武と同意見かな。むしろ自警団が居るなら、その人らは武装すべきじゃないかしら」


 だがツバサがミナミに言う。


「そうだけど、暴走した場合は誰が裁くのかって事よ」


「それはそうだけど」


 それぞれがそれぞれの意見をぶつけ合い討論は長く続いた。だがいつまでたっても結論は出ずに、最終的に俺に意見が求められた。


「俺のいた世界の話をしてもいいか?」


「もちろんだ」


「騎士や衛兵以外に、ギルドと言う機関があった。そこは国には属しておらず、自由に活動する冒険者と言う者が所属していて武力を持っていた。だがギルドには厳しい規律が設けてあり、冒険者が一般市民に手をかければ盗賊となり処刑される。殺されても仕方がない事をしたのだから、問答無用で殺されるんだ。またギルドのルールを破ればギルドを辞めなければならず、そうなるとその地域から出なくてはならなくなる。日本で言えば、海に流してやるという事になるのだろう。まずは、そう言う決まり事を作って周知徹底させてからやった方が良いだろう。という意味ではクキに賛成だ」


 ヤマザキが頷いた。


「新しい法という事か?」


「国とは関係のない、その組織独自のルールだ。そして目下そのギルドを設立するにふさわしい組織は、カブラギの率いる自衛隊だろう」


「我々が?」


「俺はカブラギは信用できる人間だと思っている。そしてその仲間の第一空挺団は特に信用できる。また俺達も信用してもらっていい、万が一自衛隊でも手に余る事があれば、その時は俺を呼んでくれればいい。出来るだけ死傷者を出さずに制圧できる」


 するとカブラギが言う。


「あなた方がこれまで生き延びて生存者をこれだけ救えたのは、ひとえにヒカルさんの意見によるものでしょう。こう言う状況下では、我々日本人の常識よりヒカルさんの言葉の方が重い。壊滅的危機の日本を生まれ変わらせる為には、それに従った方が良さそうですね」


 それを聞いたユリナが言った。


「そのとおりなのかしらね…。日本人の常識じゃ救えなかったけど、こうしてたくさんの日本人を救えている。ヒカルの言う事をやってみるしかなさそうね」


 皆がある程度、俺の意見に納得してくれた。クキが言う。


「善は急げだな。その組織を作りルールを作るのが先決だ。正直な所、国民にそんな事はさせたくないが、南米や中東では市民の子供が銃を握るんだ。今の日本で甘ったるい事はやってはいられないんだよ」


「分かりました! 自衛隊と法律に詳しい人間とでルールを制定するようにしましょう」


 そこで俺が釘をさす。


「ルールは十項目程度にしておけ。そうじゃないとほとんどの人間が覚えられない」


「それも加味してやります」


 そこで俺達の会議は終わった。新たな国家の復興に向けて、最初の一歩は自分達で守る力を持つ事。エマージェンシーコードヒカルというのが、今の俺にはよく分からない。とにかく市民が、自分達の力で切り抜ける術を持つことは最重要項目だと思う。


 ヤマザキが言った。


「なら全員で『ギルド』に参加する人員を募ろう」


「それがいい。生存者救出にその説明を付加していくべきだろうな」


 新しい課題が生まれ、俺達はそれに向けて動き出すのだった。

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